注目を集めるテレビ番組のディレクター、プロデューサー、放送作家、脚本家たちを、プロフェッショナルとしての尊敬の念を込めて"テレビ屋"と呼び、作り手の素顔を通して、番組の面白さを探っていく連載インタビュー「テレビ屋の声」。
今回の"テレビ屋"は、読売テレビ・日本テレビ系バラエティ番組『ダウンタウンDX』(毎週木曜22:00~)で、演出・チーフプロデューサーを務めた西田二郎氏。現在は制作現場を離れているが、長年にわたって仕事をしてきたからこそ見えるダウンタウンの意外な一面や、今後のテレビのあり方、さらには自身の音楽活動まで、たっぷりと語ってくれた――。
西田二郎 |
――当連載に前回登場したフジテレビの竹内誠さんが、西田さんにまた制作の現場に戻って番組を作ってほしいと言っていました。
うれしいですね。自分は『DX』で21年、入社してから26年ずっと番組制作だけしかやってこなかったので、テレビ制作マンの末路みたいなテーマで言えば、いつまで番組を作れるのか、演出できるのか、アイデアが出るのかという自分自身の中身に関する"枯渇"という不安は、誰もが20年以上やってれば必ず思うじゃないですか。僕もどこかでそういう覚悟はせなあかんやろなと思いながら、自分なりのやり方をダウンタウンを含め、ずっと受け止めてもらってきたということではあるんですよ。でも、制作現場から離れて営業に行き、今は編成企画部というところにいるんですけど、うちの会社の人事というのは、単に「ここのネジが抜けたからそこに入れ」みたいな感じじゃないんです。
僕の場合だと、要は26年番組制作をやりきったという1つの独特なネジ。だから、誰かの開けた穴を埋めるんじゃなくて、「勝手に新しく穴開けて、そのネジで止めてくれるかー?」くらいの感じの起用だと思うんですね。そういった意味で言うと、番組制作という何とも言えないエキサイティングな現場のすごさがある一方で、勝手にネジを埋めていくっていう作業自体は、決して嫌いではないんですよ。自分でも、どっかで強がって、「現場なんて戻りたくないねん!」とか言うのかなとか、未練がましく制作現場のことを思い続けるのかなと思ってたら、意外とそうじゃなくて、制作現場をやりきったっていう経験があるから、テレビ局ができる新しいフィールドへ踏み出していけてるっていう感じです。
――そうなんですね。そんな思いを聞いたところで恐縮ながら、まずは以前の制作時代のお話から伺っていきたいのですが、『ダウンタウンDX』は当初、10組程度のゲストを迎える今のスタイルではなく、ゲストは1組で、その後クイズ形式に変わっていきましたよね。
一番最初は僕を含め、スタッフみんなが木曜10時という時間帯がよく分からなくて、とにかくダウンタウンが1組のゲストとトークをするという形で、毎回スペシャル番組を作っていこうという気持ちでやってました。企画もその都度その都度、良いものもあれば悪いものがあればで、オーダーメイドで毎回やっていくスタイル。だから、ご覧になられる皆さんが安心して見るというより、次回はどうかな?みたいなブレブレなところが、ある種初期の持ち味だったと思います。そのうち、僕も演出を任されるようになって、面白いことを考えるのは好きなんですけど、毎日毎日面白いものは生まれないんですよ。僕は弱虫テレビマンで、たまーにオリンピックみたいに4年に1回くらいええのが出るみたいな、それが1回出たら頑張ってしがみ倒すみたいな性格なんで(笑)
――えっ!? 意外です。
そうなですよ。で、当時のダウンタウンは『ごっつええ感じ』(フジテレビ)で、小松(純也)さんがディレクターで「何時に収録が終わるかなんて関係あるか!」みたいな感じで、毎回本気でおもろいもんを作りに行って、『ガキの使い』(日本テレビ)でも、飾らない素っ気ない映像の中できちんと面白さを出していって、この2つの番組で、ダウンタウンの持ってるアーティスト性というのが、見事に爆発してたんですよね。
そうした時に、我々はどうするかとしたら、ダウンタウンを一般化するしかない。当時のダウンタウンはまだ30歳くらいでしたから、ダウンタウンより上の世代の人にとって、存在は知っているけど、しっかり理解できるまでには至ってない感じだったんですよ。それで、『ごっつええ感じ』『ガキの使い』のクリエイティブは、絶対マネできへんなと思ったから、さっきのネジの話で言うと、みんなが開けようとする硬ーい木じゃなくて、木の中でも柔らかい場所を見つけて、打ち込んでいこうと思ったんです。でも、ダウンタウンに「柔らかいとこ行きましょう」って、意外と言いにくいんですよ。
――昔のダウンタウンさんの現場は、今よりも緊張感がすごかったと聞きます。
せっかくダウンタウンがいるんだから、普通はコンクリートにネジ打ち込もう!みたいな感じになるじゃないですか。そんな中で、僕が「もうバルサ材に打ちに行こう」という感じでやっていこうとして始めたのが、クイズのコーナーを展開していくっていうやり方だったんです。当時は「ダウンタウンにそんなんやらさんでええやん!」っていう風潮だったと思いますけどね。
――「国民投票」とかやってましたよね。そこから、だんだん現在のスタイルに変わってきました。
クイズもそれなりに成果は出てきましたけど、どこかで息切れしていくようなところもあって、それでいよいよという時に、何ができるのかなーって出てきたのが「視聴者は見た!」(※1)だったんです。大したことでなくてもいいから、誰もがどこかで芸能人を見たことあるやろって。それを立ち上げたときが、『DX』の感じが、少しずつ"タレントさんの日常"をテーマに持っていけるのかなと変わった瞬間だったんですよね。
(※1)…視聴者による芸能人の目撃談を紹介するコーナー。
――『ごっつ』『ガキ使』が"芸人"ダウンタウンであるとしたら、『DX』は"タレント"ダウンタウンが出ている感じなんですね。
そうだったと思いますね。『DX』でも、やり取りの中でチラリと見せる芸人、アーティストとしての輝きを感じてもらって、本当に濃いダウンタウンを感じたかったら、『ごっつ』や『ガキ使』を見てくださいってつなげていくためのゲートです、今振り返ると(笑)。だから僕は、硬いところにネジを打ち切るクリエイティビティを持ってるテレビマンはすごいなと思いますし、最初の竹内君の質問に返すと、「柔らかいとこまだあるんやったらやるけど、もう無いやろ! もう無理やわ!」っていう感じですね(笑)