注目を集めるテレビ番組のディレクター、プロデューサー、放送作家、脚本家たちを、プロフェッショナルとしての尊敬の念を込めて"テレビ屋"と呼び、作り手の素顔を通して、番組の面白さを探っていく連載インタビュー「テレビ屋の声」。
今回の"テレビ屋"は、フジテレビで数多くのヒットドラマを監督してきた武内英樹氏。コメディの演出に定評のある同氏だが、杏と長谷川博己の共演で多くの熱狂的なファンを持つ月9ドラマ『デート~恋とはどんなものかしら~』の続編について、「スタッフもキャストも、みんなやりたがっている」と強い意欲を見せた――。
武内英樹 |
――当連載に前回登場した福田雄一さんが、武内さんの名前を挙げて「演出の方針が好きで、笑いを真面目にやられていると思います」とおっしゃっていました。
そうですね。コメディは「まじめにやればやるほど面白い」と考えて撮ってます。映画『テルマエ・ロマエ』では、阿部寛さんに「笑わせに行かなくていい。本気で古代ローマ人になりきって、本気で驚いてもらえれば、客観的に見たら面白いから」と伝えました。変に小技を使って、テクニックで回そうとすると、笑いを狙っていることがお客さん見えちゃうんですよね。それがバレると面白くない。それに、エキセントリックでも本人にとってはまじめという面白さの方がすべらないんです。ドラマとか映画で笑いをやるのは、すごく難しいんですよね。
――お客さんが「今日は笑いに来た」というコンディションで見ていませんからね。
そうですそうです。「こうなってこうなってこうなったら面白いでしょ?」っていう作り方は、昔はよくあったんですけど、そのお作法はもう出尽くしちゃってるんですよね。だから、あえて狙わず、笑おうとしてない時に突然、横からポーンってカウンターパンチが飛んで来るような「ここで来るのか!」という"ひざカックン"があると、そこだけが面白いっていう風に際立ってくるんです。
――武内さんが演出を手がけられた作品だと、杏さんと長谷川博己さんが共演した『デート~恋とはどんなものかしら~』(※1)が最高に面白くてファンなのですが、確かに泣けるシーンもあったりする中で、急におかしな展開が巻き起こるドラマでした。
国家公務員で計算式に則った生き方を信じている依子(杏)と、高等遊民という生き方を全うしている巧(長谷川)という完成されたキャラクターなので、それを思い切りまっすぐ走らせ、クロスさせていけば、勝手に笑いが起きてくるんです。古沢良太さんの脚本は本当にすごく計算されているので。
(※1)…2015年1~3月放送。恋愛力ゼロの女と男が繰り広げるラブストーリー。
――「東京ドラマアウォード2015」で『デート』が連続ドラマ部門の優秀賞を受賞した際、代表で登壇された武内さんは「10年に一度あるかないかの脚本」とまで言ってましたが、どんな部分にそれを感じましたか?
キャラクターたちが風変わりなんだけど、それぞれに矜持があって、それが最終的にとても美しいんですよね。最初はものすごく"へんてこりん"な人だと思っていたのが、ものすごくキラキラ輝いた美しいものに見えてくるっていうギャップ。それと、前半からネタをいろいろ振って、見事に最後は回収されて、それが腑に落ちて、その落ち方が感動できるっていうところかな。
――『デート』で言うと、クライマックスで互いに相手の性格を罵倒しながら、結局プロポーズしていたというシーンは、本当に伏線をワーッと回収したなぁという印象でした。
実はあのシーン、すごい大変だったんですよ(笑)。お互い違う人と付き合い始めちゃったのに、最後の1時間でどうやって回収するんだって(笑)。最終話1つ前の9話くらいまではわりと順調に脚本ができたんだけど、やっぱり風呂敷を広げすぎたんで、最後どうやってまとめようかというときに、プロデューサーと古沢さんと僕で、ああでもこうでもないと言って、パズルがうまくハマらなかったんですよ。それが、最後にうまくピースがはめ込まれ、全ての伏線が回収されて、相手のことを罵倒しながらほめるっていうアイデアが出たんです。あれは目からウロコでしたね。
――どんな形でアイデアが出てきたんですか?
水道橋のデニーズで打ち合わせしたんですけど、古沢さんは普段からあまりしゃべらない人で、急に立ち上がっては考え込みながら、満員のデニーズ中をウロウロし始めるんですよ。周りのお客さんから見ると、どう見ても不思議な人(笑)。壁に頭をカーンってぶつけたりして。そうしていると突然何かが降りてきたかのようにワーッと書き始めるんです。福山雅治さんが演じた『ガリレオ』みたいに、本当に天才ですよ。古沢さんをドラマで描いても面白いなと思うくらい、そういう"神がかった"瞬間を見ましたね。