テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第95回は、11月2~3日に放送されたフジテレビ系大型バラエティ特番『FNS27時間テレビ にほんのスポーツは強いっ!』をピックアップする。
今年のテーマはスポーツ。自国開催のラグビーワールドカップが盛り上がり、2020年の東京オリンピックが間近に迫るなど、スポーツへの注目度が増している中、タイムリーなテーマと言える。
しかし、最大の注目点は「3年ぶりに原点の生放送に戻した」ことであり、何かとハプニングが期待できそうだ。また、かつては夏の風物詩であり、ここ2年間は9月だったが、今年はさらに2か月遅い11月の放送で、しかも連休中。どんな影響があるのか?
■生放送に戻っても「笑い」より「教養」
オープニングは、ビートたけしと村上信五が、まさかの将棋。これはボケではなく、「sport」には気晴らしや娯楽という意味も含まれ、将棋も該当するという。生放送に戻したものの、「ボケよりも知的」という志向は、この2年と同じだ。
続いて、3つの通し企画を紹介。しかし、「ダンスができない7ティーチャーズ」「10レーン連続ストライクに挑戦」「バカリズム スポーツの謎」の内容を見て、スケール、話題性、笑いの3点において「弱くないか? 大丈夫か?」と感じてしまった。
ともあれ、まずは各コーナーを放送順に挙げておきたい。
『グランドオープニング』『令和教育委員会』『さんまのお笑い向上委員会』『明石家さんまのラブメイト10』『スポーツ記者 記事にしなかったウラ特ダネ生テレビ』『国宝にんげん』『関ジャニ∞クロニクル』『めざましテレビ』『松岡修造のくいしん坊!万才FES』『FNS系列局対抗 もう二度と見られない!?全国スポーツ秘蔵映像は強いっ!GP』『池上彰&たけしの世界のスポーツとお金のはなし』『たけし・さんまの有名アスリートの集まる店』『サザエさん』『あの悔しかった日があるから強くなれた!』『ダンスができないセブンティーチャーズ』。
事実上の一番手コーナーとなった『令和教育委員会』は教養+クイズがベースであり、放送時間帯を考えると手堅い選択。勢い重視ではなく、「出だしは安定した視聴が見込める中高年層を抑えよう」という意図が見えた。
その点、「フジテレビらしさ」と「生放送の醍醐味」を感じさせたのは、次の『お笑い向上委員会』。爆笑問題・太田光は冒頭から「宮迫、一緒に日本に帰ろう!」「まだ世間は許してないですよ。この“反社興業”のことを」「テープ回ってないよね?」「(ミキ・昂生に)京都ツイートすると、いくらかもらえるらしいじゃねえか」とスキャンダル絡みのイジリを連発した。
さらに、FUJIWARA・藤本敏史が「(妻・木下優樹菜の騒動に)すいませんでした!」と謝罪したり、さんまを表彰するために登場した遠藤龍之介フジ社長が引き倒されたり、火薬田ドン(ビートたけし)が離婚体操をしたり、ザブングル・加藤歩が蛍原徹に「俺が雨上がり(決死隊)を復活させてやる!」と絶叫するなど、ハチャメチャなシーンが相次いだ。
■願わくばダンスの熱気を全編で
続く3年ぶりに復活した「ラブメイト10」も同様。さんまのパートナーが中居正広ではなく、今田耕司と岡村隆史に代わったことが物議を醸しつつも、27時間の中で生放送ならではの“飛び道具”として異彩を放っていた。
夜明けからはスポーツやアスリートの魅力を掘り下げるコーナーが続き、良く言えば「落ち着いて見られる」、悪く言えば「笑いが足りない」。つまり、生放送ならではのドキドキを加速するようなコーナーはほとんどなかった。
夕方になって『サザエさん』が終わり、グランドフィナーレに突入した『あの悔しかった日があるから強くなれた!』には、ラグビー日本代表のリーチマイケル、福岡堅樹、堀江翔太が登場。しかし、「いい話」ばかりの上に、VTRばかりの構成で、盛り上がりを欠いた。
ところが、最後の「ダンスができない7ティーチャーズ」に入るとムードが一変。たけしがタップダンスでオープニングアクトを務めたあと、高校生たちが昭和や平成のバラエティ・ドラマ・アニメを彩った曲に合わせてエネルギッシュに踊り、最後に7人の先生が全身全霊を込めたダンスで締めくくり、感動を呼び込んだ。
近年の『27時間テレビ』は必ずと言っていいほど「不要論」が飛び交うが、少なくとも最後に見せたダンスの熱気とクオリティは裏番組を凌駕していたのではないか。これは裏を返せば、「この熱気とクオリティを全編に渡って見せられない」という現実でもある。
一方で、高校生と先生の表情やパフォーマンスが突出していたのとは対照的に、目立ったタレントはいなかった。さらに今回のテーマは、「にほんのスポーツは強いっ!」であるにもかかわらず、現役アスリートと引退したレジェンドの出演が少なく、しかもそのほとんどがVTR出演だったことも物足りない。
「フジテレビの『27時間テレビ』と言えば、ビートたけしと明石家さんま」という印象は今年も変わらなかったのだ。村上信五はソツのない進行とツッコミで貢献したものの裏方のイメージで、同番組が再び勢いを取り戻す起爆剤は今回も現れなかった。
物は考えようであり、「タレントがハジけられないのなら、もっと一般人にフィーチャーすればいい」のかもしれない。ドキュメントバラエティを筆頭に一般人の出演する番組が増えている上に、SNSを絡めた生放送らしい演出も可能であり、系列局のモチベーションを高められるなど、企画次第で今年以上に盛り上げることはできるだろう。
■秋の3連休でもお祭りムードはなし
局を挙げた超長時間特番であるにもかかわらず、放送中から翌日にかけての報道やSNSへの書き込みは少ない。それは「破たんなく終わった」ことの証ではあるが、「超長時間放送ならではの特別感がなかった」ことの表れとも言える。
過去2年間は、「歴史」「食」がテーマの収録放送だったことで教養番組寄りのテイストだったが、生放送に戻したことで、わずかながら臨場感や躍動感が戻ってきた感がある。ただ、いかんせん夏に放送していたころと比べると、たとえ3連休でも11月では、お祭りムードは薄い。この点は、その大半が夏にこだわって開催し、成功を収めている音楽フェスとも似ているだけに、再考の余地がありそうだ。
奇しくも2日の夜は、裏番組で『ラグビーワールドカップ決勝 イングランド×南アフリカ』(日本テレビ系)の放送があった。もはや世界的なビッグイベントでなければテレビから、あれほどのお祭りムードを生み出せないのか。
ビートたけしも村上信五も、もし『27時間テレビ』がなくなったとしても大した影響はないだろう。一方で、系列局のアナウンサー、スタッフ、地元住民の張り切りようを見ていると、「どんな形でもいいから続けてほしい」と願わずにはいられない。
■次の“贔屓”は…一気にレギュラー化した理由は? 『サンド&愛菜の博士ちゃん』
今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、9日に放送されるテレビ朝日系バラエティ番組『サンドウィッチマン&芦田愛菜の博士ちゃん』(18:56~2154)。
番組の主役は、強烈な好奇心によって大人顔負けの知識を身につけた子どもたち。愛するテーマの授業をする姿が「かわいらしいだけでなく笑える」「子どもから教えてもらうことが多い」と評判を集め、今年2月と6月にパイロット版が放送されたあと、今秋に早くもレギュラー化された。
同じ土曜夜に放送され、同じように子どもたちの活躍が見られる『超逆境クイズバトル!!99人の壁』(フジ系)との比較も交えながら検証していきたい。