テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第93回は、18日に放送されたTBS系バラエティ番組『有吉ジャポン』(毎週金曜24:20~)をピックアップする。
日曜午前に生放送されている『サンデージャポン』(TBS系)の派生番組として2012年10月にスタートしてから、今秋で8年目に突入。深夜ならではのディープなテーマと、有吉弘行らしいシニカルな視点をミックスさせた番組としてすっかり定着した。
今回の放送は、「原宿の美容室 OCEAN TOKYO 採用試験FINAL」。超人気店に入ってカリスマ美容師を目指す若者たちを追う企画で、前回放送では当番組らしい個性的な若者たちが登場したが、最後にどんな人材が採用されるのか? このところMC番組の終了が続いた有吉の立ち位置も併せて掘り下げたい。
■ゆるいムードの中にドキュメンタリーの色
番組は本編のVTRからスタートし、有吉や田中みな実ら出演者の紹介は無し。深夜の30分番組だけにテンポのよさに視聴意欲をそそられる。
場所は原宿、朝7時。人気美容室「OCEAN TOKYO」の就職試験に挑む若者の大行列が映された。同美容室の代表は、「日本最大級のヘアコンテストで3連覇し、2カ月先の予約がわずか3分でソールドアウトする」という赤髪のカリスマ美容・高木琢也。そんな高木代表に憧れて毎年約200人が就職試験に応募するが、採用人数は約20人程度という狭き門だ。
ここで前回放送を振り返り、前日昼から最前列で並んでいた札幌出身の坂口くんと、マジックで体中にメッセージを書いた姫路出身のMAHOさんを紹介。しかし、2人は一次審査こそ合格したが、二次審査で不合格になってしまったという。
そこで番組は二次審査の通過者から新たに2人をピックアップして最終審査に密着。1人は唯一の女性ファイナリストで岐阜在住の藤村さんで、その顔を見た有吉は思わず「かわいい! そりゃ受かるわ」と声をあげる。
もう1人は兵庫在住の光好くん。「不安なんですけど、今日は楽しみます」という頼もしい声にサバンナ・高橋茂雄は「いいね」と呼応したが、美容専門学校の成績は150人中149位の負け組で、みな実は「エ~ッ!」と落胆の声をあげる。
最終審査の内容は、「実際に営業中の店内で働いてもらう」というサロンワーク。営業中で忙しくスタッフからの指示はもらえないため、合格のポイントは「自分で仕事を見つけてどう貢献するか」。これを見た有吉は、「バイト初日みたいなもんか」と難しさを理解しつつも、「これオレ得意だわ」と余裕の上から目線を見せた。
11時に店がオープンしても身動きが取れない光好くんに、有吉は「これ一番ダメだね」とダメ出し。一方、二次審査で筋肉アピールした千葉出身のマッチョ宮澤くんは、すぐにホウキを見つけ徹底的に掃除をしている。
続いて、お客さんへのお茶出しや鏡拭きなど機敏に動く藤村さんが映ると、有吉は「やっぱり気が利きそうだもん」、藤田ニコルは「すごい!」、みな実は「どっかで働いてたのかな」と絶賛。さらに藤村さんは、男性候補者たちに指示を出したり、昼休憩中にアドバイスしたり、高2のときに店へ行ったエピソードを明かしたり、どう見ても合格しそうな映像の構成だった。
その後、光好くんもようやくお茶出しへ動いたが、持ち場を離れたスキに大阪出身の武田くんにお茶出しの立場を奪われてしまう。光好くんは宮澤くんのホウキを奪い、掃除をはじめたが、どの仕事も他人のマネばかりで後手に回っていたため、映像からは不合格のムードが漂っていた。
しかし、このまま視聴者の予定通り、藤村さんが合格、光好くんが不合格になるとも思えず、その結末はまったく予想できなかった。その意味では、ゆるいムードの中にドキュメンタリーとしての色がしっかり出ている。
■メインコーナーが約半分であっさり終了
ここで映像は2週間後に飛び、「店から合格者だけに電話を入れる」という発表当日。光好くんは祖父からもらった合格祈願のお札に祈り、母親も心配の声を漏らすなど緊張感が漂う中、有吉は「家でもお茶出せよ」と笑わせる。すると光好くんの電話が鳴り、見事に内定を獲得。高橋が「『プロ野球戦力外(通告)』の番組と一緒」と笑いを誘うと、有吉も「あれ参考にしてます(笑)」と呼応して笑いを連鎖させた。
続いて映し出されたのは、専門学校で居残り自主練習をしている藤村さん。夕方6時を過ぎても連絡がなく、あまりの緊張感に先生が「自分なら耐えられん」とこぼす中、合格の連絡が届いた。大拍手で祝福を受ける藤村さんを見た高橋は「よかった~」と笑顔を見せ、有吉も「そりゃそうだよな」と納得したところでコーナーは終了。
半分程度の放送時間であっさり終了したのは、思っていたよりドラマティックな人間ドラマがなかったからなのか。正直この日の内容に関しては、肩すかしの感が強いが、このご時世では「撮れ高が足りない」とやらせに手を染めるよりこのほうがいいだろう。
ここでスタジオでのトークパートに入り、ようやく「お笑い芸人・タレント 有吉弘行(45)」「フリーアナウンサー 田中みな実(32)」と出演者たちを紹介。すぐさま「大注目の男女コンビ・納言が登場!」「テレビ出演は昨年0本から今年31本に急増」と後半コーナーをあおったが、肝心の納言は知名度も出演数も微妙で、ニコルから「初見です」と言われてしまう。実際、太田プロダクション所属の3年目…有吉の後輩というオチだった。
納言はコント「配達のバイト」に続いて、ボケ・薄幸の得意ネタ「即興駅紹介(ディスり)」を披露する。
薄幸の「豪徳寺の女は納税大好き」に有吉は「税務署近いからね。(でも)納税大好きなわけねえだろ!」。その後も、「代官山の女は歩幅がちいせえ」に「坂多いしな。ヒールで歩くから」、「巣鴨のババアは全然死なねえ」に「元気だから。いいかげんにしろ!」と丁寧かつ愛情あふれるツッコミを入れた。
有吉はその後のトークでも、薄幸の「家でビールのロング缶を10本飲んだあとにビッグマン(アルコール20%の格安焼酎)を飲んでいる」という大酒エピソードに、「FUJIWARAの原西さんがノンアルコールビール5L飲むってのが一番すごいと思ったけど、お前もすごいな!」とツッコんで爆笑。最後もツッコミの阿部紀克を童貞イジリするなど、最後のひと言まで後輩を盛り立てて番組は終了した。
■MCの魅力が詰まった正真正銘の冠番組
ここまで書いてきたように、笑いを生むべくツッコミを入れたり、わかりやすく補足説明したり、視聴者と共感するようにただ笑ったりなど、当番組には有吉の技と優しさが詰まっている。一見、自由にしゃべっているだけのような何気ない有吉のコメントは他の出演者よりも圧倒的に聞き取りやすく、手数も多く、的確でもあるのが、その証拠だ。
有吉の技と優しさは、同じ冠番組の『有吉ゼミ』(日本テレビ系)らを大きく上回り、スタジオでのトークパートでは、ときどき台本に目を落として丁寧に進行している様子もうかがえる。その意味では、「有吉の魅力が詰まった正真正銘の冠番組」と言えるのではないか。
9月で『レディース有吉』(カンテレ・フジテレビ系)と『超問クイズ!真実か?ウソか?』(日テレ系)が終了したものの、それでも地上波で8本の冠番組を持ち、特番の『有吉の壁』(日テレ系)や『オールスター後夜祭』(TBS系)で、後輩芸人たちを仕切るMCとしての評価はうなぎのぼり。ダウンタウンやウッチャンナンチャンらと若手芸人の世代差が大きいこともあり、彼らを生かすという意味では他の追随を許さない存在となったことが、『ありジャポ』を見ていればわかる。
最後に話を番組に戻すと、「巷に出現した新ジャポネーゼを調査」というコンセプトは相変わらずで、今年は「女性ラッパー」「夜の生き物講座」「謎のメイド喫茶」「水商売専門不動産」「V字回復したグラビアアイドル」「新宿のカリスマオネエ」「女性たちが大行列する謎のハグ屋」「ヴィジュアル系バンドに大金をつぎ込む女性たち」「長州力の引退試合」「ギャルだらけのBLEA女子校」などを放送してきた。
ネタは奇抜でも、「一方的な見方を押し付けない」「良し悪しはジャッジしない」というフラットさを守っているのが『ありジャポ』の矜持。ところが有吉ら出演者のコメントは、どこまでも興味本位で、他人事で、ひやかしで…。有吉の脇を固めるサバンナ・高橋茂雄、平成ノブシコブシ・吉村崇、バイきんぐ・小峠英二ら芸人枠と、藤田ニコル、池田美憂、ゆきぽよらギャル枠の安定感も含め、そのコンセプトにブレはない。
もし生放送の本家『サンジャポ』にアクシデントがあってスタジオが使えなくなったとしても、『ありジャポ』は強引な手を使ってでも放送し続けるのではないか。そう思わせる生命力の強さこそ、『タモリ倶楽部』(テレビ朝日系)など長寿の深夜番組に必要なことなのかもしれない。
■次の“贔屓”は…ハシゴ酒ゲストはROLAND、どぶろっく『ダウンタウンなう』
今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、25日に放送されるフジテレビ系バラエティ番組『ダウンタウンなう』(毎週金曜21:55~)。
15年のスタート時は、そのタイトル通り「ほぼ生放送」を売りに、週替わりのテーマゲストから際どい話を引き出すスタイルだったが、わずか半年でリニューアル。ダウンタウンと坂上忍がゲストとお酒を飲みながらトークする「本音でハシゴ酒」に変わり、17年からは内容に合う金曜22時台に移動して現在に至る。
次回のゲストはROLAND(ローランド)と、どぶろっく。カリスマホストの笑いを誘う名言はダウンタウンに通じるのか? 『キングオブコント2019』王者の下ネタはお酒の力で加速するのか? 盛り上がりそうな人選で期待大。
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者。毎月20~25本のコラムを寄稿するほか、解説者の立場で『週刊フジテレビ批評』などにメディア出演。取材歴2,000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日の視聴は20時間(2番組同時を含む)を超え、全国放送の連ドラは全作を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの聴き技84』『話しかけなくていい!会話術』など。