テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第90回は、9月27日に放送されたテレビ朝日系バラエティ特番『徹子の部屋SP TVエンタメ伝説の名場面史』をピックアップする。

「局内に眠るお宝映像の数々を大放出」というコンセプトの大型特番。「芸能界の語り部」「テレビ女優第一号」の黒柳徹子がゲストを迎えて、伝説の名場面を交えながら語り尽くすという。まさに局を挙げた3時間特番だけにドラマ、バラエティ、ワイドショーのどんな映像を見せてくれるのか期待は大きい。


■冒頭から米倉涼子を登場させた意味

黒柳徹子

冒頭、いきなりスペシャルゲストとして米倉涼子が登場。まもなくスタートするドラマ『ドクターX~外科医・大門未知子~』新シリーズの番宣であることは明らかだが、華やかなオープニングになったのも、また事実。スタジオにはMCの黒柳徹子と進行役の羽鳥慎一に加えて、長嶋一茂、関根勤、石原良純、岡田結実が座っていた。

最初のコーナーは「若かりし日の名女優たち お宝映像」。68年『お吟さま』の佐久間良子(当時29歳)、71年『鬼退治』の三田佳子(当時29歳)と共演した黒柳徹子、73年『じゃがいも』の森光子(当時53歳)、76年『絣の花』の大原麗子(当時29歳)、77年『竹の子すくすく』の片平なぎさ(当時18歳)、80年『虹子の冒険』の夏目雅子(当時22歳)が紹介された。

次に『黒革の手帖』をフィーチャー。82年版は山本陽子と萬田久子、96年版は浅野ゆう子と田中美奈子、04年版は米倉涼子と釈由美子のバトルシーンをピックアップしていたが、17年版の武井咲と仲里依紗を紹介しなかったのは米倉への配慮か。さらに、99年『科捜研の女』の沢口靖子(当時34歳)をはさんで、12年『ドクターX』の米倉涼子を紹介し、最高視聴率27.4%(ビデオリサーチ調べ・関東地区、以下同)を記録したことを自讃した。

今回の企画は女優に特化していたが、そもそもテレ朝には女優主演のヒットドラマが少なく、どちらかと言えば『西部警察』などの刑事ドラマか、『必殺仕事人』などの時代劇にヒット作が集中。それでもあえて女優にフィーチャーしたのは、テレ朝にとって「絶対に失敗できないドラマ」の『ドクターX』をPRするためだろう。

続いて、米倉が森光子、岸部一徳、西田敏行とのエピソードを披露。のっけからベテラン俳優絡みのトークを続けたのは、この番組がリアルタイム試聴の期待できる高齢層向けのコンテンツであることの証左に見えた。視聴率獲得にも、番宣にも抜け目のないテレ朝らしさを感じてしまう。

■気になるバラエティの懐古主義

「『西部警察』爆破&破壊伝説」をはさんでドラマパートは一旦終了し、「ワイドショーの歴史」へ。玉川徹がスタジオに登場し、羽鳥、石原、長嶋、玉川が並んで座る『モーニングショー』仕様になった。

「日本初のワイドショー」は、64年4月スタートのテレビ朝日系『木島則夫モーニングショー』。「局内に1本だけ残っていた」という68年の映像を流したが、地方からの中継を電話で行っていたことに驚かされる。続いて紹介されたのは、女性司会者が誕生した72年の『13時ショー』。この番組が終わり、入れ替わりで『徹子の部屋』がスタートしたという。

続くコーナーは、本編とも言える『徹子の部屋』。「芸能人たちは同番組に結婚報告をしに来るのが恒例」という切り口から、新婚ホヤホヤの滝川クリステルを登場させた。結婚後初のトーク番組出演となるクリステルは、夫・小泉進次郎議員とのなれそめと素顔、極秘交際、相性の良さ、プロポーズの様子、結婚指輪をなくしたエピソードなどを惜しげもなく語った。

「家族で出演 名場面史」と題して、森英恵ファミリー、寺島しのぶと眞秀親子、渡辺徹・郁恵夫妻、中井貴恵・中井貴一姉弟、歌舞伎の松本ファミリーの映像を紹介した後、2人目のトークゲストとして三浦祐太朗が登場。「偉大な両親の映像を前面に押し出しつつ、子どもの立場からエピソードを語ってもらう」という構成だったが、これも三浦友和・百恵夫妻に何度も話を聞いてきた徹子だから可能なものに違いない。

その後、スペシャルゲストとして今田耕司が登場し、「伝説のバラエティ 名場面史」へ。テレ朝バラエティ歴代トップの42.0%を記録した『欽ちゃんのどこまでやるの!?』を皮切りに、『みごろ!たべごろ!笑いごろ!!』『ビートたけしのスポーツ大将』『さんまのナンでもダービー』『ウッチャンナンチャンの炎のチャレンジャー』をピックアップ。さらに、『朝までたけし軍団』『27時間チャレンジテレビ』『かざあなダウンタウン』などの過激な番組を次々に映し、現在とのコントラストを浮き彫りにした。

最後に現在のバラエティについて聞かれた今田が、さもウソをついているような表情で「これでいいと思います」とコメントしてスタジオは爆笑。しかし、「昔のバラエティはよかった」という懐古主義を自ら見せてしまうのは、あきらめたような感が強く、笑えない視聴者が多かったのではないか。

■「テレ朝の顔」徹子を持ち上げまくる

番組は、高橋英樹と浅野ゆう子を招いて「土曜ワイド劇場の名場面史」、松平健を招いて「土曜よる8時 伝説の戦い『暴れん坊将軍』」、最後に「『徹子の部屋』爆笑名場面集」を放送して終了。

羽鳥から「徹子さんにとってテレビとは?」と聞かれた徹子は、「NHKからデビューするときにアメリカのプロデューサーから、『テレビって言うのは、その国のご飯とか結婚式とか戦争までがぜんぶ見ることができる。でも一番大切なのは、永久平和がテレビによってもたらせることと自分は信じている』と聞いて。それで『テレビに出て平和を自分の力で少しでも守っていけることができたらいいな』と思ってこの仕事をはじめましたし、今でもその気持ちは変わらないです」という慎ましい言葉で締めくくった。

そのとき画面上部に表示されたのは、「徹子の部屋は10月に11,111回目の放送を迎えます!お楽しみに!」の文字。その数字こそ、「お宝映像特番をなぜ『徹子の部屋』にしたのか?」なのだろう。

この特番は黒柳徹子が「テレ朝の顔」だからこそ成立する企画であり、だからこそ、過去のドラマ出演シーンを探し、結婚間近だった男性とのエピソードを引き出し、「プレイバックPart2」を踊る姿を見せるなど、徹子を持ち上げるスタンスを徹底。同時に視聴者も、徹子の姿を愛でることでテレビ史を違和感なく振り返ることができた。

大物芸能人が次々に鬼籍に入る中、徹子や『徹子の部屋』を見るだけでありがたさを感じてしまうのは高齢層に留まらない。芸能界における生き仏のようでもあり、そんな存在を存分に生かせるのがテレ朝の強みだ。

新番組の紹介に終始する改編期特番が多く、連日放送されるラグビー、バレーボール、陸上などのスポーツイベントもある中、テレビの魅力を凝縮した番組だったのは間違いない。

■次の“贔屓”は…19時台移動でいきなり3時間SPの勝算は?『ザワつく!金曜日』

『ザワつく!金曜日』に出演する(左から)長嶋一茂、石原良純、高嶋ちさ子=テレビ朝日提供

今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、4日に放送されるテレビ朝日系バラエティ番組『ザワつく!金曜日 3時間SP』(19:00~21:48)。

同番組は、昨年10月に木曜深夜の30分番組としてスタート。今年4月から金曜21時台の1時間番組として放送されていたが、今秋から2時間前倒しとなる金曜19時台に移動する。それにしても、いきなりの「3時間SP」は自信の表れなのだろうか。

「石原良純、長嶋一茂、高嶋ちさ子の毒舌トリオが妙にザワつく巷の問題を斬る」というコンセプトは、これまで金曜19時台に放送されていたアニメ『ドラえもん』『クレヨンしんちゃん』とは真逆なだけに、どんな内容で勝負するのか? 注目を集めそうだ。

■木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者。毎月20~25本のコラムを寄稿するほか、解説者の立場で『週刊フジテレビ批評』などにメディア出演。取材歴2,000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日の視聴は20時間(2番組同時を含む)を超え、全国放送の連ドラは全作を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの聴き技84』『話しかけなくていい!会話術』など。