テレビ解説者の木村隆志が、今週注目した"贔屓"のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第9回は2月27日に放送された『ヒャッキン!~世界で100円グッズを使ってみると?~』(テレビ東京系、毎週火曜18:55~)をピックアップする。
同番組は、「日本が誇る"100円グッズ"を、それを見たことのない世界の国々に持って行き、現地の人々がどんな反応をするのかを調査する」ドキュメントバラエティ。「外国人に日本製品を使ってもらう」番組なら他局でも放送されているが、100円グッズに振り切れるのはテレビ東京ならでは。昨秋のスタートからわずか4カ月で看板番組となり、先日の社長会見でも名指しでホメられていた。
日本礼賛番組の中でも断トツの痛快さ
この日のテーマは、まだまだ寒いこの時期にピッタリなグッズ、まもなく訪れる新生活にピッタリなグッズ。本来は「毎週放送の1時間番組」なのだが、実際は「隔週放送の2時間番組」であり、この日も2時間たっぷり使ってイタリア、香港、ドイツをめぐる豪華版だった。
まずはイタリア人に、"みかん皮むき器"を見せる。丸い輪のグッズだけに、イタリア人カップルが指輪のようにはめてボケたが、正解を知ると「やっぱり日本人は常にいろんなことを考えてるよね」と絶賛。
次は、乾燥による肌トラブルやカゼ予防用の"ペーパー加湿器"を見せる。水に浸すだけで電気も使わないエコグッズに、「すごいわね! 環境のことも考えていて、節約もできてとってもいいわ。これ2,700円くらい? 安いわ! それなら買うわ」と大絶賛。
その後も香港で"イヤホンペアー・アダプタ"に「1,300円くらいじゃない? めちゃめちゃ安いわね」、"あたためフック"に「ウチの店で使いたい」、ドイツで高級店仕様を思わせる"うすぐらす"に「ドイツなら2,000円くらいね。日本のクオリティにはビックリするわ」、つけたまま中身が出せる"袋クリップ"に「こんな安くていいものがあるなら日本に行ってみたいわ」と絶賛が続いた。
民放各局で日本礼賛番組が放送されてひさしいが、間違いなく当番組の"礼賛度"は最高ランク。われわれ日本人ですら軽く見ている、たった100円のグッズが絶賛を集め、外国人たちの悩みを解決していくのだから、その痛快さは断トツだ。
他局のようなハイレベルな商品やサービスは登場しない上に、「ホメられっ放し」で終わるのではなく、現地の文化をきっちり礼賛し返しているのもバランスがいい。いかにも一般人の目線を重視するテレ東らしいと言える。
コンセプトに矛盾? ラストの感動シーン
この番組は、何気にハイブリッド。単に100円グッズを手に取った外国人の反応を楽しむだけでなく、視聴者に「この100円グッズは何に使うか分かる?」と問いかける演出でクイズとしても楽しめる。
さらに、各国の文化や習慣、生活事情、グルメなどを紹介するほか、「香港までの飛行機代は安いときで3,280円。東京から小田原とほぼ同じ運賃」「香港は平均寿命で日本を上回り世界一」なんて豆知識も得られる。
もう1つの見どころは、外国人たちの人生ドキュメント。この日も、香港の飲茶料理人・豪さん(33歳)と家族の狭小部屋暮らし、フィリピン人家政婦・サリーさん(48歳)が住み込み先のお坊ちゃんの野菜嫌いを克服、ドイツのアダムくん(11歳)とレナちゃん(9歳)が母親代わりの叔母・ハディさん(51歳)に感謝を伝える様子が描かれていた。
特に最後のエピソードは、スタジオのゲストも視聴者も、涙、涙……。亡き母親に代わって家事と子育てに奮闘するも、「私はけっきょく偽物の母親」と不安をもらすハディさんに、アダムくんとレナちゃんが100円グッズを使った手作りのスマホケースをプレゼント。ハディさんは、「プレゼントで子どもたちの真心にふれることができた。これも100円? でもこれはいくら払ったって買えない物だわ」という深い言葉で締めくくった。
100円グッズも高級品も、すべては使う人間の気持ち次第。「100円グッズの素晴らしさを伝える」という番組コンセプトに矛盾しかねないエンディングの演出に、テレ東ならではの自由な風を感じてしまう。
細部に目を向けても、使い方や効果がわかりやすいようにイラストをはさんだり、ビフォーアフターを映し出したり、テロップがカラフルだったり、日本語吹き替えがユーモアたっぷりだったりなど、VTRはかなりの繊細さ。
一方、スタジオはMC不在で、進行役に新人の角谷暁子アナを据えたのみ。毎回のゲストも菊池桃子、北斗晶、安めぐみ、藤本美貴ら子持ち主婦タレントを配するなど、いわゆる"番組の顔"を置かず、女性目線を注ぎ込んでいる。実際、ゲストたちのコメントは「スゴイ!」「便利便利」「コレほしいな」など通販番組に近い。テレ東の番組らしくセットも簡素で、肝心の外国ロケもスタッフのみ。
限りある制作費をどこに使うのか。どう使ったら視聴者を喜ばせられるのか。番組制作の常識にとらわれず、そこにフォーカスできるのがテレ東の強みなのだろう。あらためて、そう気づかされた、見れば見るほど味わい深い番組だ。
来週の贔屓は…トークバラエティの最先端か!?『今夜くらべてみました』
来週放送の番組からピックアップする"贔屓"は、7日に放送される『今夜くらべてみました』(日本テレビ系。毎週水曜21:00~)。同番組は、「ある共通点を持ったゲスト3名を、あらゆる角度から比較する」トークバラエティ。昨年4月のゴールデンタイム昇格後は、メジャー路線のキャスティングが目立ち、深夜時代の"先物買い感"こそ薄れたが、一方で笑いの量は確実に増えている。
次回放送は、「トリオ THE 姉御肌な女」で板谷由夏、大島美幸、土屋アンナが登場。さらに、板谷のお気に入り芸人として、くっきーがスタジオに乱入するという。想像のはるか斜め上をゆく化学反応に期待したい。
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『新・週刊フジテレビ批評』『TBSレビュー』などに出演。取材歴2,000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。