テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第88回は、13日に放送された日本テレビ系『第39回全国高等学校クイズ選手権(高校生クイズ)』をピックアップする。

1983年の番組開始から今年で37年、39回目となる9月の風物詩。その内容は、『アメリカ横断ウルトラクイズ』を踏襲したものから、知力重視路線を経て、現在は「知識がなくても解ける」というコンセプトの地頭力を競う形式で放送されている。

さらに今年は、「全国どこでもスマホ一斉予選」を実施するなどの新たな動きもあり、全国大会では令和のスタートをどう飾るのだろうか?


■3連覇を狙う桜丘高校がまさかの敗退

『高校生クイズ2019』総合司会の桝太一アナウンサー

今回の出場数は2,527組で、全国大会に出場するのは51校。しかし、「1回戦でいきなり16校に絞られてしまう」という。

まずは直観力が試される「プロジェクションマッピングクイズ」を出題。「伊勢神宮宇治橋の鳥居をミケランジェロのダビデ像や2階建てのロンドンバスがくぐれるか?」という問題だったが、フルCGの映像はオープニングに相応しいインパクトがあった。

その後、観察力が試される「フェイクピクチャークイズ」、観察力×記憶力が試される「ここなんて書いてある?」、ユーモア×発想力が試される「笑点謎かけクイズ」、推理力×発想力が試される「世界の地頭クイズ」、ボキャブラリー×ひらめき力が試される「暗号解読TTクイズ」「架空のニュース内にある間違いを見つけろ!」が立て続けに出題され、全29問が終了。順位一覧が発表されたのみで、視聴者が「地元の代表校や注目校が勝ち残るか? 脱落するか?」のドキドキを楽しめるような演出はなかった。

2回戦は、「2分間で高さ約5mの柱にどれだけ多くの輪を入れられるか?」を競う実技クイズ。番組が準備した道具を使って、さまざまな方法が試される中、16校中9校が勝ち抜いた。

続く3回戦は、宿泊先のホテルに着いたところで「ホテルに帰ってもクイズ」。醤油のシミを白くするものを大根おろし、米のとぎ汁、酢、卵白、塩こうじ、除光液の6種類から選ぶというもので、1校のみの脱落なのだが、何と3連覇を狙う桜丘高校が脱落してしまった。制作サイドとしてはキャラの立ったチームを早々に失ってしまう誤算だったのではないか。

2日目に行われた4回戦は、創造力×伝達能力×運が試される「漢字で導け!乃木坂BINGO」。高校生3人が誰かのことを表した漢字1文字ずつを書いて、それを乃木坂46の9人が当てるクイズであり、8校中2校が脱落した。

5回戦は、推理力×作戦力が試される「迫りくる二択ウォール」。往年の名クイズである“泥んこクイズ”と“モジモジくんの脳カベ”をかけ合わせたような企画で、6校中2校が敗退した。

準決勝は、知識×経験=目的の達成を試される「ドロップ・ザ・バルーン」。高さ3m70cmに浮かせた200個の風船を自作道具で2分以内により多く落とす実技クイズで、1校が脱落して残り3校となった。

そして決勝戦のクイズは、発想力×創造力×直感力×閃き力×体力=明日を生き抜く人間力が試される「ムーブ・ザ・モアイ」。300kg超の巨大モアイ像を10m先のゴールまで早く運ぶ実技クイズで、京都・洛北高校の優勝で番組は終了した。

■出場校の偏差値格差が生まれる理由

2回戦から決勝まではすべて一発勝負で、しかも6問中4問が理科の実験を思わせるクイズ。実際、勝負が決したあとに大学教授などの有識者が、お手本の成功例を紹介するシーンがあった。過去の『高校生クイズ』は文系に有利な問題が多かったが、今年は理系のほうが有利だったのかもしれない。

学校名の横に表示されていた偏差値がまた意味深。5回戦に勝ち残った6校の偏差値は、四日市高校72、富山中部高校69、洛北高校65、清真学園64、鳥取西高校63、AICJ高校51とバラバラで、ちなみに3連覇を目指した桜丘高校は45だった。かつて『高校生クイズ』を沸かせた開成高校やラ・サール高校の姿はなく、灘高校や東大寺学園が早々に敗退したことからも、いかに過去の大会と違うかがわかるだろう。

「知識だけでは解けない」というコンセプトにすることで、偏差値を問わず多くの高校生に可能性が生まれ、幅広い層の視聴者が楽しめる番組になったのは間違いない。その意味で、分母の大きな民放ゴールデンタイムらしい番組になったのだが、一方で“高校生日本一を決める大会”としてのステイタスや緊張感は激減。

今回も「抱き合って喜びを爆発させ、落ち込んでうなだれる」というシーンが見られたが、過去と比べると、効率重視のスマホ予選も含めて「随分あっさりしたな」という印象を受けた。敗退した高校生たちは、「1年間、全力で取り組んできたものが通用しなかった」というより、「この1問にたまたまひらめかなかった」のだから仕方がないだろう。

何より気がかりなのは、競技系クイズに青春を捧げるクイズ研究会の高校生たちが宙に浮いてしまっていること。『東大王』(TBS系)の伊沢拓司や水上颯らに憧れて競技系クイズをはじめる高校生が増えているにもかかわらず、かつてのようにテレビ番組での晴れ舞台がないことが不憫でならない。

長年、『高校生クイズ』を放送してきた日テレなら、春と夏などの季節に分けて、地頭クイズと競技系クイズの2大会を開催できるのではないか。もしできないのであれば、お笑い賞レースのように、他局が競技系の高校生クイズを放送してもいいだろう。

そして無理を承知で書かせてもらうと、野球の甲子園がそうであるように、生放送で見たいのが正直なところ。プロジェクションマッピングやモアイ像などの演出にどれだけ凝ったところで、イベントとしての明るさは感じさせても、「年に一度の真剣勝負」という緊張感を醸し出すことはできないからだ。

■若年層のテレビ視聴者を育てる重要性

ただそれでも、「清真学園のIQ158ドS女王・片山さん」「洛北高校のヘルメットが似合う“師匠”こと小田くん」「彼女への愛を語る富山中部高校の番匠くん」などの個性的なキャラクターが番組を盛り上げていたし、彼らをイジる千鳥のフォローも冴えていた。

さらにマスコット的な存在の乃木坂46は、こまめにメンバーを変えて絶え間なく映り込み、高校生たちだけでは厳しいビジュアル面をサポート。クイズにも参加して男子高校生たちのテンションを上げさせていたが、やはり真剣勝負というよりお祭りムードの印象を濃くする一因となっていた。

番組のカラーが、しびれるような真剣勝負から、明るいお祭りムードのイベントに変わった一方、なぜか変わらないのが桝太一アナウンサーの司会スタイル。「いくぞ」「解け」などを多用した上から目線の司会は先輩から受け継いできたものだが、これほど番組も時代も変わっているのに、頑として変えないのが不思議でならない。

視聴者参加のクイズ番組は、現在レギュラーでは『パネルクイズアタック25』(ABCテレビ・テレビ朝日系)と『超逆境クイズバトル!!99人の壁』(フジテレビ系)の2つのみだが、出場者たちには『高校生クイズ』の出場者も多いという。芸能人たちが解答者を務めるクイズ番組も含めて、若年層のテレビ視聴者を育てるためにも、『高校生クイズ』は打ち切ってはいけない番組のひとつと言える。

■次の“贔屓”は…無名芸人からスター誕生の期待大! 『キングオブコント2019』

『キングオブコント2019』準決勝進出34組

今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、21日に放送されるTBS系バラエティ特番『キングオブコント』(18:55~21:54)。

2008年にスタートしたおなじみのコント日本一決定戦。優勝賞金1000万円を目指した生放送の頂上決戦としてすっかり定着したが、昨年から「決勝進出の10組は当日発表」という試みを採り入れて、ネット上の盛り上がりが増した感がある。

準決勝進出の34組は、相席スタート、アイロンヘッド、いかすぜジョナサン、うるとらブギーズ、エンペラー、蛙亭、かが屋、カゲヤマ、空気階段、クロスバー直撃、コウテイ、コロコロチキチキペッパーズ、THE GREATEST HITS、ザ・マミィ、サンシャイン、さんだる、GAG、ジェラードン、ジャルジャル、そいつどいつ、ゾフィー、チョコレートプラネット、どぶろっく、ななまがり、ネルソンズ、パーパー、ビスケットブラザーズ、ファイヤーサンダー、藤崎マーケット、マヂカルラブリー、やさしいズ、や団、ロングコートダディ、わらふぢなるお。

飛ぶ鳥を落とす勢いのチョコレートプラネットや、2015年王者・コロコロチキチキペッパーズなどの有名芸人はごくわずかで、その大半は無名だけに新星誕生への期待値は高い。他のお笑い賞レースとも比較しながら、同イベントの魅力と課題を掘り下げていく。

■木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者。毎月20~25本のコラムを寄稿するほか、解説者の立場で『週刊フジテレビ批評』などにメディア出演。取材歴2,000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日の視聴は20時間(2番組同時を含む)を超え、全国放送の連ドラは全作を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの聴き技84』『話しかけなくていい!会話術』など。