テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第78回は、5日に放送されたフジテレビ系バラエティ特番『クイズ!ドレミファドン!SP~話題のドラマ出演者がイントロに挑戦!!~』をピックアップする。

『ドレミファドン!』はイントロクイズを生み出したレジェンド番組であり、1976~88年のレギュラー版終了後も、特番として年1~2回のペースで放送。

今回の解答者は、夏ドラマの俳優陣であり、月9『監察医 朝顔』チーム(上野樹里、志田未来、中尾明慶、森本慎太郎)、火9『TWO WEEKS』チーム(三浦春馬、芳根京子、原沙知絵、高嶋政伸)、木10『ルパンの娘』チーム(深田恭子、瀬戸康史、加藤諒、大貫勇輔)、土ドラ『仮面同窓会』チーム(溝端淳平、瀧本美織、佐野岳、雛形あきこ、廣瀬智紀)、さらに芸人チーム(千秋、澤部佑、中岡創一、土田晃之、平野ノラ)を加えた5チームの対抗戦という。

偉大な初代司会者・高島忠夫さんが亡くなったこのタイミングで、クイズ番組としてはもちろん、ドラマ番宣を含めた改編期特番という観点から掘り下げていきたい。

■上野樹里「これ夫だ!」の大盛り上がり

『クイズ!ドレミファドン!』司会の中山秀征

番組開始早々、中山秀征の「いきなりですが、まいりましょう。令和最初のイントロ・ドン!」をきっかけにイントロクイズがはじまった。下記に序盤の正解(発売年)を挙げていこう。

「波乗りジョニー」(01年)、「HOT LIMIT」(98年)、「Lemon」(18年)、「ダンシング・ヒーロー」(85年)、「ハッピーサマーウェディング」(00年)、「島唄」(93年)、「Dragon Night」(14年)、「Venus」(06年)、「First Love」(99年)、「家族になろうよ」(11年)、「勝手にしやがれ」(77年)、「いい日旅立ち」(78年)、「とんぼ」(88年)、「自転車」(95年)、「HAPPY BIRTHDAY」(19年)、「三日月」(06年)、「PIECES OF A DREAM」(01年)、「スリラー」(82年)、「紅」(89年)、「さくら」(05年)、「世界はあなたに笑いかけている」(18年)、「海の声」(15年)、「トリセツ」(15年)、「『ジョーズ』のテーマ」(75年)、「Raspberry」(97年)、「純恋歌」(06年)、「マリーゴールド」(18年)、「黒い羊」(19年)、「つけまつける」(12年)、「PPAP」(16年)、「366日」(08年)、「365日の紙飛行機」(15年)、「三百六十五歩のマーチ」(68年)、「Hero」(16年)。

のっけから34曲が一気に出題され、出演者たちはヒートアップ。目を輝かせてイントロクイズに挑み、正解に立ち上がって大喜びし、押し負けると頭を抱えて悔しがるなど、興奮している様子がダイレクトに伝わってきた。ふだん番宣でバラエティに出演しているときとは明らかに異なる姿だ。

序盤では、「深田恭子が米津玄師の『Lemon』をカラオケで歌っている」「志田未来が初めて買ったCDはモーニング娘。の『ハッピーサマーウェディング』」「中尾明慶は子役時代、長渕剛から手紙をもらって励まされた」「上野樹里が『これ夫だ!』とTRICERATOPSの曲を当てる」など、俳優たちのプライベートに関連した問題が続出。「緊張感をほぐして盛り上がってもらおう」という制作サイドの意図が感じられた。

その後のイントロクイズは、「ドラマ(19曲)」「映画(11曲)」「アニメ(20曲)」「サビトロ(14曲)」「朝ドラ(12曲)」というテーマごとに出題。たとえば、『14歳の母』(日本テレビ系)の主題歌「しるし」が流されたあと、出演していた志田未来と三浦春馬に話を振り、他局にもかかわらず当時の映像を流した。

さらに、志田は自分の出演作をほとんど答えられなかったが、アニメ問題だけは正解を連発。その他にも、会話調で解答してしまう上野樹里、誤答の言い直しを押し切る深田恭子、やたらイントロに強い溝端淳平、他人の出演作を答えてしまう加藤諒など、それぞれキャラクターが立っていた。彼らが俳優である以上、単純に「メンバーに恵まれた」というより、構成・演出がよかったのだろう。

■「この人のドラマなら見てみよう」の好感度

これまで『ドレミファドン!』の解答者はバラエティ慣れしたタレントが大半を占めていたが、失礼ながら視聴者を引きつけるほどのバリューはなく、「純粋に早押しクイズを楽しむ」という限定的な魅力に留まっていた。

その点、新作ドラマの出演者を集めた今回は、「人気俳優たちのめったに見られない姿」という魅力を追加。俳優たちは人気に加えて、過去の出演作などの伏線が多いなど、イントロクイズとの相性は抜群だった。

俳優チーム4つに対して、バラエティタレントのチームを1つに留めたことで、必然的に「俳優同士が戦う」という分かりやすい図式になり、思った以上に闘志メラメラ。「絶対に負けたくない」という熱が画面を通して伝わり、制作サイドも「ここまで本気でやってもらえると思っていなかった」のではないか。

これまでの新作ドラマを集めた番宣特番に欠けていたのは、こうしたリアルな熱気だろう。どの局のどの番宣特番も趣向を凝らした番組対抗戦を仕掛けているが、「宣伝できればいい」「勝敗にはこだわらない」という俳優たちの牧歌的なムードは視聴者に見透かされている。

その点、『ドレミファドン!』は、どの番宣特番よりもシンプルなコンテンツにもかかわらず、熱気では負けていない。“喜怒哀楽”の“怒”以外がにじみ出る俳優たちの好感度は上がり、引いては「この人のドラマなら1話を見てみようかな」と思った視聴者は少なくなかったはずだ。

イントロクイズ以外にも、「曲名早書きリレー」「売上枚数ハイアンドロー」「一部の歌詞のみで曲名当て」「ランキング空欄当て」があり、チームごとに解答していくため、「画面左下に番組名と開始日時を表示し続けられる」などPR効果は高かったと推察される。

■笑顔と「イエーイ!」で押し切る明るさを

最後に、超イントロクイズ(20曲)、超々イントロクイズ(10曲)が行われ、「ラスト問題で土ドラチームが芸人チームを逆転する」というドラマティックな展開で終了。しかし、エンディングはほとんど流されずに画面が切り替わり、「番組を長く支えていただいた高島忠夫さん、ご冥福をお祈りいたします」のメッセージが読み上げられた。

その後、関東エリアなどでは「高島忠夫さんの名司会&名場面集」を放送。菊池桃子、田原俊彦、堀ちえみ、早見優らの曲を紹介する往年の名調子が流された。続いて映されたのは、1984年4月15日に放送された「400回記念スターカップル大会」。“沢田研二&ビートたけしチーム”“アン・ルイス&小柳ルミ子チーム”というレアな組み合わせが爆笑をさらうなど、当時のすさまじいエネルギーを感じさせられた。

番組は高嶋政宏との父子トークで締めくくられたが、今思えば『ドレミファドン!』こそ“高島ファミリー”そのものだったのかもしれない。高島さんの包み込むような優しさと、底抜けの明るさがベースにあるからこそ真剣勝負が盛り上がったのであり、その健全なムードは各家庭にも浸透していた。

今回の進行役を務めた中山秀征、伊藤利尋アナ、永島優美アナには包み込むような優しさがあり、だからこそ俳優たちは安心して真剣勝負ができたのではないか。ただ一方で、高島さんのような底抜けの明るさが感じられなかったのも、また事実だ。

ここ1年あたり、フジテレビの特番は丁寧に作り込まれたものが多く、楽しませてもらっているが、「もっと明るくカラッとしたムードがあってもいいのでは」と感じてしまう。コメントに困ったときほど、笑顔と「イエーイ!」で押し切った高島さんの姿を思い出して、そう思ってしまった。

■次の“贔屓”は…「日テレ・プライム帯唯一のクイズ番組」の意味は?『超問クイズ!SP』

『超問クイズ!真実か?ウソか?』に出演する(左から)桝太一アナ、有吉弘行、尾崎里紗アナ、劇団ひとり

今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、12日に放送される日本テレビ系バラエティ番組『超問クイズ!真実か?ウソか?横浜流星参戦!日テレ系夏ドラマ出演俳優大集合SP』(19:00~20:54)。

16年5月のスタートから、何度かのリニューアルを経て3年が経過。有吉弘行と桝太一アナの人気コンビによる安心感もあり、すっかり金曜夜の定番となった。

かつて日テレは、『クイズ世界はSHOW by ショーバイ!!』『マジカル頭脳パワー!!』などの国民的クイズ番組を手掛けていたが、2000年代以降は激減。それだけに「プライムタイム唯一のクイズ番組」にどんな意味があるのか興味深い。

しかも、次回の放送は新作ドラマの番宣も兼ねているだけに、『ドレミファドン!』との比較も含めて掘り下げていく。

■木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者。毎月20~25本のコラムを寄稿するほか、解説者の立場で『週刊フジテレビ批評』などにメディア出演。取材歴2,000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日の視聴は20時間(2番組同時を含む)を超え、全国放送の連ドラは全作を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの聴き技84』『話しかけなくていい!会話術』など。