テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第72回は、25日に放送されたテレビ東京系バラエティ番組『ひねくれ3』(毎週土曜22:30~)をピックアップする。
さまざまな業界で活躍している若き挑戦者・成功者をゲストに招いて、彼らの成し得たものや将来の野望を“ひねくれ目線”を持つ山里亮太(南海キャンディーズ)、岩井勇気(ハライチ)、小宮浩信(三四郎)が検証。ひねくれ者の人選としては、これ以上ない顔ぶれであり、組み合わせの鮮度も高い。
今回の若き挑戦者・成功者ゲストは、弁護士の福永活也氏。「フリーターから敏腕弁護士になり、さらにエベレスト登頂や漫才にも挑戦する」というド派手なプロフィールの人物だけに、3人のジェラシーが爆発するのではないか。
■オープニングトーク2本を入れる意味
オープニング曲は、1960年代に放送されたアニメ『スーパースリー』のテーマソング。ひなびたセットも、「未来を変える挑戦者の野望をひねくれ検証 明日を生き抜くヒントを学びます」と語るマキタスポーツのナレーションも、ひねくれ感いっぱいだ。
トーク用セットの外で行われた“まくら”のテーマは令和婚。岩井が「令和になったから結婚ってどうなんですか? 好きだから結婚するものじゃないですか」と切り出すと、小宮が「カッコイイ! でもこれはひねくれか?」と合いの手を入れる。山里がトークを結婚式に広げると、小宮は「結婚式ってあまりいいとは思わないな。面倒くさくないですか? 感動させようさせようとしてるじゃないですか。VTRとか」とひねくれた。
これを受けた山里も「俺たち『結婚おめでとうコメント』とか撮らされるじゃないですか。知っている人ならまだしも、まったく知らない人とか」とボヤくと、岩井は「一銭も、もらえないんですよ。ふざけんな」と毒づき、小宮も「ウケるはずがない」とたたみかける。祝い事の苦手な、ひねくれ芸人の結束、恐るべし。
3人がトーク用の部屋に入ると、進行役の秋元真夏(乃木坂46)が「私、料理が好きなんですよ。和食は何でも作ります。何を作ったら男性はキュンとするんですか?」と尋ねる。はっきり答えようとしない3人に業を煮やした秋元が、「何か一つ決めてくれたら作ってブログにアップします」と言うと、すかさず山里が「作って持ってくるんじゃないのかよ!」とキレて笑わせた。
場所を変えてオープニングトークを2本入れたところに、「開始数分で“ひねくれ”の印象をしっかり植えつけよう」「3人のトークをしっかりと見せよう」という狙いがにじむ。番組の狙いというより、3人への思い入れ、すなわちスタッフの愛情に近いのかもしれない。
■すでにトークのコンビネーションは完成間近
ようやく今回の本題に入ると、山里は「(弁護士は)キャラクターをいろいろ乗せて来る人が多い気がするんですよ。そういう方とは仲よくなれる自信がない」「キャラ重視の弁護士は大事な裁判で負けちゃえ」と拒絶モードに突入。当然ながらこれは、山里らしい気の利いた前振りとなる。
実際、今回のゲストである福永氏のプロフィールは、「大学卒業後はゲームレンタル店のアルバイトなど2年間フリーター生活だったが、わずか10年でトップ弁護士に」「漫画『カバチタレ』を原作としたドラマに感動して、ゼロから法律の勉強をスタート」「名古屋工業大学工学部卒の理数系だったが、3年で司法試験に合格」「弁護士になると、地方の紛争案件を450件以上解決」「しかもエベレスト登頂」と、キャラがてんこ盛りのえげつないものだった。
山里は、福永氏がスタジオに登場するやいなや、Vネックのトップスと白いパンツ姿を見て、「『シティーハンター』しか見たことがない」と服装イジリ。細部をほじくってひねくれる山里らしいコメントであり、これはそのまま番組のコンセプトに直結している。
しかし、福永氏はそんな山里を歯牙にもかけずに、「勉強は好きではない」「遊び感覚で法律の勉強をしていた」「勉強は1日6時間。10時間は集中できないから無理」とマイペースにしゃべり続けた。
福永氏は秋元から「じゃあ私たちが今から勉強したら弁護士になれますか?」と尋ねられても、「絶対になれますね。たとえば『M-1で優勝する』とかなら、他の相手もいるし、流行り廃りもありますが、司法試験はすごく平等なので」と即答。これには、すかさず岩井が「成功したから言えるだけ!」、小宮も「受かったから振り返っているだけ!」とツッコミを入れ、山里は「きみたちがいてよかった…」と感心して笑わせた。放送2カ月で、すでにトークのコンビネーションは完成間近なのではないか。
その他にも、3人のひねくれコメントがさく裂。「感謝の声をモチベーションに変える」という福永氏に、岩井が「光属性すぎるよ!」。「131カ国旅した」という福永氏に、山里が「俺、『海外旅行で人生観変わった』という人、基本信じない。『インド行って人生観変わった』って聞いたけど7泊だったりするから」。「5年後には離島や過疎地でお寿司屋さんをやりたい」という福永氏に、小宮が「これは何のドラマを見た?」。
番組終盤では、漫才師たちを前に「M-1で優勝したい」という福永に、山里は「やってくれたな」、岩井は「こんな人だと思わなかった」、小宮は「よく言い出したな」と言葉を浴びせる。さらに福永氏のコント映像が流れたあと、岩井は「俺らにこれを見てもらえるのはありがたく思ったほうがいい」と、一矢報いるようなひねくれ芸で畳みかけた。
■持ち味を理解し合った上で差別化する3人
あえて言うなら、ボキャブラリーとバリエーションの山里、瞬発力と毒性の強い岩井、自虐と脱力感の小宮。ひねくれという意味ではキャラがかぶっている3人だが、それぞれの持ち味を理解し合った上で差別化させているのはさすがだ。
SNSの浸透で人々の虚栄心や嫉妬心が増す中、素直な人より、ひねくれ者のほうが最大公約数になりつつある。つまり、3人のように笑いを交えられる、ひねくれ芸人は、人々の代弁者となり、数字を稼げるタレントと言っていいだろう。
4月6日の番組スタート以降、ゲストとして招かれたのは、「編集者 箕輪厚介」「完売画家 中島健太」「企画作家 氏田雄介」「覆面書家 憲真」「音楽プロデューサー カルロス・K」「東大医学部で司法試験合格 河野玄斗」「カリスマ漫画編集者 助宗佑美」「弁護士 福永活也」の8人。
かなりの個性であり成功者だが、それでも面白さと希少性の面では裏番組の『激レアさんを連れてきた。』(テレビ朝日系)には敵わない。しかし、この番組の主役はひねくれ3であり、ゲスト同士の比較はナンセンスだ。山里、岩井、小宮の3人が「激レアさん」たちに負けない激レアなひねくれ芸を見せられるか。
一見、深夜番組っぽい内容とキャスティングだが、土曜のプライムタイムに放送しているのは、期待の表れにほかならない。前述したように、ひねくれは時流に合うコンテンツだけに、「回を重ねるごとにトークをエスカレートさせる」くらいの勢いで続いてほしいと願っている。
■次の“贔屓”は…画面を4分割した実験的ドキュメンタリー『金曜日のソロたちへ』
今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、31日に放送されるNHK総合の単発バラエティ番組『金曜日のソロたちへ』(23:50~24:20)。
近年、『ドキュメント72時間』『ノーナレ』を手がけるNHKが、再び世相を踏まえた実験的なドキュメントバラエティを放送する。そのコンセプトは、「3世帯に1世帯がひとりで暮らす時代、ソロの若者たちはどんな生活をしているのか? 部屋に定点カメラを設置して、その様子を撮影する」。
撮影対象は、お笑い芸人(アンガールズ・田中卓志)、コスプレイヤー、自称「ゲーム廃人」の3人。さらにEテレの人気キャラ・ストレッチマンが「ひとり暮らしあるある」や「ひとり暮らしに役立つストレッチ」を紹介するという。
注目は、「30分間ずっと画面が4分割で、4人の様子を同時放送する」という演出。「誰か1人に注目して見るのも、4人を同時に見るのもOK」という斬新な試みで、今後のレギュラー化に向けた試金石であるとともに、民放テレビマンたちの注目も集めるだろう。
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者。毎月20~25本のコラムを寄稿するほか、解説者の立場で『週刊フジテレビ批評』などにメディア出演。取材歴2,000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日の視聴は20時間(2番組同時を含む)を超え、全国放送の連ドラは全作を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの聴き技84』『話しかけなくていい!会話術』など。