テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第69回は、5日に放送されたTBS系バラエティ特番『明石家さんまの熱中少年グランプリ2019』をピックアップする。
平成の日曜夜を彩った『さんまのスーパーからくりTV』の名物コーナー「熱中少年物語」が14年ぶりに復活。思い出されるのは、なにわのギター少年・山岸竜之介くん、「平成の寅さん」こと吉田昌平くん、男を虜にする5歳のセクシーガール・近藤美颯ちゃん…彼らは今何をしているのか?
さらに、番組スタッフが全国各地の子どもたちに「今、熱中していること」を一斉調査。今回は3時間の大型特番だが、反響次第では「令和のこどもの日は『熱中少年GP』」という定番企画になるかもしれない。
画面に映るのは、ほぼ子どもだけ
オープニングは、イチローが引退会見で発した「自分が熱中できるもの、夢中になれるものを見つけられれば、それに向かってエネルギーを注げるので、そういうものを早く見つけてほしい」という子どもたちに向けたメッセージ。これを「はたして今の子どもたちには何か熱中できるものがあるのか? 全国各地で一斉調査」というナレーションにつなげる形で番組がはじまった。子どもが主役の番組だけに、これくらいキャッチーかつシンプルな演出がいいのだろう。
今回、全国で見つけた子どもたちが熱中していたものは、国や地域の名前、秘密を持つオトナ、ダンボール、おとぎ話、ヤンキー、昆虫、アフリカの怖い鳥、タガメ、ゴルフ、空手、プールとサッカー、コマ、ビートボックス、兄弟で百人一首、コスプレ、関ジャニ∞、ポールダンス、プログラミング、ビジネス。
さらに、少女の「なぜうさぎは月に住んでいるの?」という質問に、元JAXA宇宙飛行士の山崎直子氏が答えたり、ヤンキーに憧れる少年たちが尊敬している長原成樹と対面したり、タガメの好きな少年が専門家と探しに行ったり、百人一首の兄妹に密着してライバルとの再戦を実現させるなど、「これは」と思うキッズをピックアップし、後追い取材を行っていた。
どれも取材者はタレントではなくスタッフであり、画面に映るのは、ほぼ子どもだけ。それで引きつけられるのは、子どもたちの表情が豊かで、動きが大きくて、意外性にあふれているからだろう。作家の考えた構成にはない、予測不可能がゆえの期待感があり、しかも高確率で笑わせてくれる。
成長した竜之介くんがどこか誇らしい
ただ、この番組の目玉であり、企画上の保険となっていたのは、かつて『さんまのスーパーからくりTV』で放送された名シーン。爆笑をさらったキッズたちの過去映像を「もう一度見たい!」、さらに「どんな大人になったのだろう…」と興味を視聴者は少なくないからだ。
紹介されたのは、「おばさんを黙らせたい」「風船に熱中」「カバに熱中」「クラゲに熱中」「スキージャンプ少年」「ボクシング少年」「寺尾に熱中」「男になりたい」「車掌になりたい」「なにわのギター少年」「美少女ギタリスト」「女優さんを癒やしてあげたい」「恋する少年」「農業に熱中」の14人。久々に見て感じたのは懐かしさではなく、笑いの量がまったく減らない普遍性。これこそが“子ども”というコンテンツの強さではないか。
今回は夢を実現させた男女2人が、現在の子どもたちにメッセージを送るシーンもあった。19歳のアーティストになった元ギター少年の山岸竜之介は、「『今、僕はこれをしたい』という気持ちを一番大切にしてほしい。自分のやりたいことを誰に何を言われても頑張る精神を持ってほしい」。21歳のアーティストになった元ギター少女の並木瑠璃は、「いずれたぶん嫌になるんですよ。1回嫌いになって『行きたくない』みたいな。ただちょっと我慢して親の言う通りにしてみたほうが一段上がってまた続けられるんで、好きな習い事の嫌いな時期を乗り越えるのが大事」と熱いメッセージを送った。
成長した2人の姿は何とも頼もしく、他人であるにも関わらず、どこか誇らしい。古くからテレビ番組には「子役の成長を見守る」という楽しみ方があるが、それは一般家庭の子どもでも変わらない。SNSの普及で多くの親子が顔出しで発信しているだけに、テレビマンには「類いまれな魅力を持つ全国の子どもをいかにキャッチアップしていくか」が求められている。
懐古主義ではなく温故知新のスタイル
さんまのトークは、いい意味でふだんより短く、切れ味も鈍かった。もちろんこれは本人も演出サイドも、「子どもを主役に据える」という意図によるものだろう。それは泉谷しげる、田村淳という毒気のあるゲストも同様だった。大物たちがフリ役に回れるのは、「コンテンツの魅力が大きいから」という何よりの説得力と言える。
子どもをフィーチャーした当番組は、現在民放各局でトレンドとなっているドキュメントバラエティの中でも、最もウソのないものであり、同時にこれほど穏やかな気持ちになれるものはない。ファミリー視聴をベースにした『ザ!鉄腕!DASH!!』『世界の果てまでイッテQ!』の成功を踏まえると、子どもの日に照準を合わせた年1回の放送もいいが、日曜夜のレギュラー放送化もありではないか。
最後に、コンテンツの再活用についてもふれておきたい。ネット上に「昔のバラエティは面白かった」という声が飛び交い、クレームやコンプライアンスなどの観点から、自らそう感じているテレビマンもいるだろう。
それならば、今回のような過去のコンテンツに新撮の映像を絡めた企画がもっとあっていいのかもしれない。『学校へ行こう!』(TBS系)が『V6の愛なんだ』に名前を変えながら、新旧の映像を織り交ぜて不定期放送されているように、懐古主義ではなく温故知新のスタンスで制作できれば、幅広い世代の視聴者を喜ばせられるはずだ。
中高年層を狙って、過去の映像を全面に出した懐かしさ一辺倒の番組を作ってばかりいては、テレビ業界の未来は暗い。
次の“贔屓”は…竹内まりやがまさかの本人回答!『関ジャム 完全燃SHOW』
今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、12日に放送されるテレビ朝日系バラエティ番組『関ジャム 完全燃SHOW』(23:25~)。2015年5月10日のスタートからちょうど4年になるが、マニアックな視点から音楽を掘り下げるオリジナリティで、熱心なファン層を獲得している。
今回の特集テーマは、竹内まりや。1980~2010年代のすべてでアルバムチャート1位を獲得する一方、メディア出演がほとんどなく、楽曲も人柄もヴェールに包まれている。名曲分析のコーナーでは「まさかの本人回答」もあるというから、ファンならずとも必見だ。
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者。毎月20~25本のコラムを寄稿するほか、解説者の立場で『週刊フジテレビ批評』などにメディア出演。取材歴2,000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日の視聴は20時間(2番組同時を含む)を超え、全国放送の連ドラは全作を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの聴き技84』『話しかけなくていい!会話術』など。