テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第68回は、4月27日に放送されたTBS系バラエティ番組『人生最高レストラン』(毎週土曜23:30~)をピックアップする。

「ゲストの人生で最高においしかったものの話を聞く」異色のグルメトークバラエティとしてスタートしてから、早くも約2年4カ月が経過。食を通してタレントの人生、素顔、魅力を引き出す人間ドキュメントとしての評判は高く、知名度や視聴率以上にファンの多い番組と言えるだろう。

しかも、今回のゲストは香取慎吾。SMAP解散からいまだ地上波バラエティの出演はほとんどないだけに、それだけでネット上は沸騰必至だ。

  • 香取慎吾(左)と徳井義実

開始早々「スマスマ」で盛り上げる香取慎吾

オープニングで、「どんなものを食べているか言ってみたまえ。君がどんな人であるかを言い当ててみせよう。 『美味礼賛』ブリア-サヴァラン」という文字が映し出される。この文字だけで、「香取はどんなものを、どんな顔で、人生最高にあげるんだろう…」というワクワク感が高まっていく。過剰なあおり演出に走らないのは、視聴者を大人扱いしているからだろう。

スタジオに香取が現れた。やはりひさびさの印象が強いが、その顔が生き生きとしているように見えるのは、現在の日々が充実しているからか。それとも、食いしん坊キャラに合う番組だからか。放送前の予想通り、Twitterは香取の登場だけで、大盛り上がりを見せた。

MCの徳井義実から「21年間(『SMAP×SMAP』の)BISTRO(SMAP)でつまみ食いをしていたのは本当ですか?」と問いかけられた香取は、「…ずっと食べてましたよね。あのレストランは世界一ですから。食べないワケにはいかない。世界中のおいしいところへ行ったけど、あそこには勝てないです」と穏やかに即答。番組スタート早々に、視聴者の期待に応えようとするスタッフとタレントの心意気を感じてしまう。

ここで、この日の「MENU」が発表される。そこには、「西麻布 我が愛しの洋食」「麻布十番 最強の出前」「山形 人生最高」と書かれていた。映像が上品である一方、各フレーズは「愛しの」「最強」「最高」と強気であり、バランスの良さを感じさせる。

1つ目は西麻布「キッチン・ヌノ」で、香取は「西麻布怖いんですよ、何か…でも、そこはすごく居心地がよくて。お客さんも僕に気づいても声もかけないような空気で、『自分の居場所を見つけたな』と思って」と幸せそうに語った。

しかし、それだけでは終わらないのがバラエティ巧者・香取。当時食べていたものに、「カニドリア、オムライス、ビフテキ丼」を挙げて徳井に「すべて飯物じゃないですか?」とツッコませ、「何か!?」と返してひと笑いさせた。

その後、銀座「レストランあづま」の豚のじゅうじゅう焼きとナポリタン。デビュー当時の秘話として、『時間ですよ 平成元年』(TBS系)に出演していたときに奮発して食べていた食堂の味噌バターコーンラーメンと、NHKの食堂で食べたお寿司。「最強の出前」と語る麻布十番「登龍」のあわびとなまこの醤油煮(34,500円)とタンメンを次々に紹介。

その都度、香取の話に合わせて料理のインサートカットが入るのだが、その1つ1つがおいしそうである上に美しい。いわゆる“箸上げ”も含めて食べている人の顔を映さず、視聴者自身が食べているようなカメラアングルが徹底されている。「タレントが食べない」という異色のグルメ番組は、単に奇をてらったものではなく、視聴者ファーストの意識からではないか。

人生が変わった日本一のご飯

最後は香取本人に、「僕の人生最高の一品は、山形で食べた日本一のご飯です」と言わせる形でナンバーワンが発表された。オーソドックスな演出だが、実感を込めて語るゲストの表情に興味をそそられる。

そもそも友人や同僚との会話でも「人生最高の味」の話をしたら盛り上がるだろうが、「さぞおいしいものを食べてきたであろう」タレントの話なら格別。スマホやパソコンの普及で、ながら視聴が定番化した現在における当番組は、単に「聞く」ではなく、身を入れるという意味の「聴く」。すなわち「けっきょく聴くだけでなく、画面を見たくなる」というレアな番組なのかもしれない。

香取が人生最高にあげたのは、ウド鈴木の父が作り、弟が跡を継いでいるお米で、2004年の「お米日本一コンテスト」で最高賞を獲得したJAS有機栽培米コシヒカリだった。番組のロケで訪れた香取は、ウド鈴木の父の「一粒一粒に愛情込めて作っている」というお米への深い愛情を知ったことで、「米を一粒も残さないようになった。“人生変わった瞬間”というくらいお米を愛すようになった」という。

感動的なエピソードだったが、ここで頭に浮かんだのは、香取が最初に挙げた「カニドリア、オムライス、ビフテキ丼」の飯物3つ。クライマックスから逆算して、きっちりフリを入れていたのだ。

CMをはさんだエンディングは、スポンサーのビールで乾杯。香取は「BISTRO SMAP」を思い起こさせる「生きてるッ~!」の絶叫で喜びを表した。さらに徳井が、「最後にもう1つこっそり教えてもらうわけにはいかないですかね」と切り出す。

これに香取は、「また山形ですね。庄内映画村にオープンセットがあって、その場所に生えてた山菜。天ぷらにして食べたら抜群においしくて」と即答。「生えていた」という脱力系の答えにもめげない徳井が、「香取さんの天ぷらをいただくなんてことは?」と続けると、「草なぎ(剛)の家だったら何とか。草なぎの揚げたてんぷら、すぐ大丈夫だと思います。『いいよ~!』って言いますから」と笑わせつつ、ピアノの音色できれいにフェードアウトして番組は終わった。

本物のスターならたった1人で十分

香取は冒頭から「人生ダイエットなんですよ。ダイエットの本も出したし、ライザップもやった」「お金がなくて白いご飯と納豆だけ食べていた」「ADから帰りのバスがないのにタクシー代をもらえなかった」「作品に使うために10年間切った髪の毛を取っておいた」「絵を描きたい気持ちは増えている」などのエピソードや本音を次々に披露。30分番組にしては随分なボリュームであり、やはりトークの力量は衰えていない。

もちろん、それを引き出す小松純也チーフプロデューサーらスタッフの技術によるところも大きいのだが、やはり当番組の成否を左右するのはゲストの存在感だろう。3月9日に木村拓哉が出演したときも感じたのだが、「ファンではなくても気になってしまう」のはゲストが「本物のスターだから」に他ならない。

平成は時代が進むにつれて、中堅以下の芸能人を大量出演させる番組が増えていった。だからこそ当番組は、「本物のスターを呼べば、たった1人で十分」「むしろ1人のほうが高い興味とクオリティをキープできる」ことを証明している。

「本物のスターが少なくなった」のか、それとも「テレビ業界が本物のスターを減らしている」のか。どちらもありそうだが、SMAPのメンバーがそうであるように、昭和、平成で生まれた本物のスターは、まだまだたくさん残っている。

バラエティ、ドラマ、音楽、スポーツなどのジャンルを問わず令和のテレビ番組は、香取やSMAPのような「本物のスターをどれだけ出演させていけるか?」が問われるのではないか。「経費削減などの理由で中堅以下のタレントを大量出演させる」「大手芸能事務所への忖度(そんたく)でオファーを出さない」などの方針は、すでに多くの視聴者から見透かされている以上、令和に持ち越さないほうがいいだろう。

次の“贔屓”は…令和最初の「こどもの日」に復活!『明石家さんまの熱中少年グランプリ2019』

ギター少年・山岸竜之介くん (C)TBS

今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、5日に放送されるTBS系バラエティ特番『明石家さんまの熱中少年グランプリ2019』(18:00~20:54)。

平成の日曜夜を彩った『さんまのスーパーからくりTV』の名物コーナー「熱中少年物語」が14年ぶりに復活するという。思い出されるのは、Charに憧れるなにわのギター少年・山岸竜之介くん、「平成の寅さん」こと吉田昌平くん、男を虜にする5歳のセクシーガール・近藤美颯ちゃん…彼らは今何をしているのか?

さらに、番組スタッフが全国各地の子どもたちに「今、熱中していること」を一斉調査。YouTuber、お金儲け、ポールダンス、ビートボックス、ゲームのプログラミング、百人一首、ヤンキーなど幅広いラインナップが予告されている。反響次第では、「令和のこどもの日は『熱中少年GP』」という定番企画になるかもしれない。

■木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者。毎月20~25本のコラムを寄稿するほか、解説者の立場で『週刊フジテレビ批評』などにメディア出演。取材歴2,000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日の視聴は20時間(2番組同時を含む)を超え、全国放送の連ドラは全作を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの聴き技84』『話しかけなくていい!会話術』など。