テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第65回は、6日深夜に放送されたTBS系バラエティ特番『オールスター後夜祭’19春』をピックアップする。
改編期恒例の『オールスター感謝祭』派生番組であり、昨春、昨秋に続く第3弾の今回も、居残りタレントに追加メンバー122人を加えた計156人が参加。深夜の生放送である上に、『水曜日のダウンタウン』などで知られる藤井健太郎が総合演出を務めるだけに、最高クラスの爆笑とリスクが予想される。
事実、昨秋の放送では、MCの有吉弘行が『キングオブコント2018』王者のハナコを恫喝するシーンが物議を醸した(真相は過去に『感謝祭』で島田紳助が東京03にした場面のパロディ)だけに、今回もどんな笑いが飛び出すのか予測不能だ。
『クイズ☆タレント名鑑』の弟か!
生放送の上に、練りに練ったコンテンツがてんこ盛りだけに、放送直後にクイズがはじまった。
1問目は「もとやはどれ?」で、1がチョコレートプラネットの長田庄平、2が和泉節子、3が船場吉兆のささやき女将・湯木佐知子、4がアパホテル・元谷芙美子社長(正解は4)。和泉元彌と思わせておいて……の難問で正解は24名のみであり、芸人たちが立ち上がってブーイングを飛ばした。
2問目は「マットじゃないのは?」。1、3、4がMatt(桑田真澄の息子)で、正解の2はバービー人形のケン。「全部同じに見えるだろ!」というネタだった。
3問目は「のらじゃないのは?」。1が桑名乃羅、2が平野ノラ、3がノラ・ジョーンズ、4が首輪をした犬(正解は4)。偽物騒動が記憶に新しい桑名乃羅イジリで作問されたのは間違いない。
4問目は「父ちゃんはどれ?」。1が上地雄輔、2がスザンヌ、3が山田親太朗、4が『クイズ☆タレント名鑑』に出演した自称・ウド鈴木のそっくりさん(正解は1)。「素人を混ぜる。しかも似ていない」という悪ふざけだった。
5問目は「名前にBがつかないのは?」。1が佐藤B作、2が矢沢B吉、3が稲川淳二、4がBコース(正解は3)。「マイナーだが顔が似ている」モノマネ芸人・矢沢B吉を混ぜて混乱を誘った。
6問目は「(メガネ着用タレントのうち)ドンはどれ?」。1が布川敏和、2が古坂大魔王、3が哀川翔、4がドン・キング(正解は4)。「ドン小西と思わせてドン・キングかよ」のオチだった。
チャンピオンとなり5万円を獲得したのは、「お前、誰やねん」とツッコミたくなる東京ホテイソンのショーゴ。さらに賞金10万円が追加されるボーナスクイズとして、「美奈子の子どもの名前を50音順に並べろ」が出題された。その選択肢は星音(しおん)、乃愛流(のえる)、姫麗(きらら)、來夢(らいむ)……「ぜんぶキラキラネームじゃねえか!」のイジリか。
最初のピリオドから、スタッフたちがイジリと言う名の悪意を全力投球。「こういう番組なんです」という所信表明のようであり、これによって番組ファンの熱狂は加速していく。その後も、「旧満州出身じゃないのは誰?」「鈴木その子さんの戒名は?」など、お叱り必至のクイズが続いた。
その内容は、7年前にわずか1年半で終了した「『クイズ☆タレント名鑑』の弟か!」とツッコミを入れたくなるものであり、藤井健太郎の笑みがうっすら見えてくるようだ。THE虎舞竜の「ロード」や布袋寅泰などのお約束問題も含めて、芸能ネタ好き、テレビ好きの視聴者にとってはたまらない。これこそ視聴者にとっての感謝祭ではないか。
藤井健太郎を認め、生かすTBS
その他にも、ディテールにこだわる当番組の持ち味がさく裂していた。
デスメタルバンドによる曲当てクイズ、走力×脱衣力! 2代目井出らっきょ選手権、ザ・グレート・カブキの毒霧で顔にみそ汁を吹きかけられる「嫁の味を当てろ! 利き味噌汁選手権」、実家の母親に連絡して喪服に着替えてもらう「深夜でも有事に備えろ! 母さん早喪服チャレンジ」など、生放送のスリリング感を生かしたおバカ企画が満載。
さらに、『オールスター後夜祭』からの追加タレントはヘタクソな手書きのネームプレート、往年の『24時間テレビ』を揶揄するような10台のFAXを並べた「応援FAX募集」の告知、流れ星・瀧上伸一郎の嫁が水着姿でアシスタントに忍び込んだ上に「〇ん〇ん見せて」などの下ネタ連呼、最下位のお仕置き人として獣神サンダーライガーの顔を出しておきながら実際は前田日明など、細部まで一切の妥協が見られなかった。
『オールスター感謝祭』のセットやBGMなどをそのまま活用し、ギャラがほとんどかからないタレントをごっそり集め、「深夜ならイケるだろう」というギリギリまで攻めた構成で勝負する。これぞ企画力であり、テレビマンならこの番組を認めないわけにはいかないだろう。
忘れてはいけないのは、「『水曜日のダウンタウン』などで何度も問題を発生させながらもブレない藤井健太郎を認め、生かそう」というTBSのスタンス。他局なら、「もう少しマイルドにしろ」「あぶなっかしくて特番や生放送は任せられない」となっていてもおかしくないからだ。
深夜ですら「安全・安心」をベースにした番組が増える中、攻めの姿勢しか感じない『オールスター後夜祭』が放送され続ける限り、TBSのバラエティは他局の数歩先を行けるのではないか。
スピンオフの立ち位置ではあるが、個人的には「感謝祭の10倍面白い」と言いたくなってしまう。こうして書きながらニヤニヤできる番組はそうそうないものだ。
次の“贔屓”は…ゴールデン唯一の視聴者参加クイズ番組『99人の壁』
今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、13日に放送されるフジテレビ系バラエティ番組『超逆境クイズバトル!!99人の壁』(19:00~21:00)。
「99人を相手に自分の得意なジャンルのクイズに挑み、5問正解すれば100万円獲得できる」というクイズ番組であり、出場者たちの熱気と俳優・佐藤二朗のユニークなMCで、ジワジワと人気を高めつつある。
実は100人の中に私も参加していた(仕事ではなくプライベートで)。つまり、結果はすでに分かっているのだが、だからこそ「どんな編集が施され、どんな盛り上がりを生んでいるのか」などもチェックしていきたい。
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者。毎月20~25本のコラムを寄稿するほか、解説者の立場で『週刊フジテレビ批評』などにメディア出演。取材歴2,000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日の視聴は20時間(2番組同時を含む)を超え、全国放送の連ドラは全作を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの聴き技84』『話しかけなくていい!会話術』など。