テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第64回は、3月29日に放送されたフジテレビ系特番『フジテレビ開局60周年特別企画 めざましテレビ×明石家さんま 平成エンタメニュースの主役100人“ムチャ”なお願いしちゃいましたSP』をピックアップする。

4月で25周年を迎えた『めざましテレビ』の特番として6,000回超に渡る放送のデータベースから「平成の主役だった100人を選び、ムチャなお願いをしていく」という。さらに、オーランド・ブルームとパリス・ヒルトンが登場する「きょうのわんこ」特別版、よしもと芸人が走りながら笑わせる「お笑いタスキリレー」などのスペシャル企画が満載。

約4時間の生放送は、平成を振り返る番組の中でも特大スケールであり、2月9日放送の『さんまのFNSアナウンサー全国一斉点検』がそうだったように、フジテレビのバラエティにかつての思い切りが戻ってきている中、期待値は高い。

  • (左から)三宅正治アナ、明石家さんま、永島優美アナ

生放送で都合のいいランキング企画

オープニングで、さんまとめざまし歴代キャスターに続いて、SMAPの映像が映し出された。制作サイドの意気込みが視聴者に伝わる、これ以上ない演出だったのではないか。

直後に「平成エンタメニュースの主役100人」を紹介するコーナーがスタート。女性部門、男性部門、お笑い部門、海外スター部門から、『めざましテレビ』への出演回数が多い各25人をあげていくようだ。

そのランキングは、「女性部門」25位ももいろクローバーZ 24位和田アキ子 23位DREAMS COME TRUE 22位中島美嘉 21位芦田愛菜 20位柴咲コウ 19位渡辺直美 18位綾瀬はるか 17位吉永小百合 16位竹内結子 15位JUJU 14位深田恭子 13位松たか子 12位長澤まさみ 11位倖田來未 10位藤原紀香 9位宮沢りえ 8位モーニング娘。 7位広末涼子 6位上戸彩 5位松田聖子 4位宇多田ヒカル 3位浜崎あゆみ 2位安室奈美恵 1位AKB48。

「男性部門」25位小室哲哉 24位西田敏行 23位小栗旬 22位ゆず 21位平井堅 20位Kinki Kids 19位渡辺謙 18位三谷幸喜 17位X JAPAN 16位妻夫木聡 15位織田裕二 14位市川海老蔵 13位氷川きよし 12位郷ひろみ 11位GLAY 10位役所広司 9位EXILE 8位草なぎ剛 7位福山雅治 6位香取慎吾 5位嵐 4位木村拓哉 3位サザンオールスターズ 2位SMAP 1位ビートたけし。

「お笑い部門」25位森三中 24位宮川大輔 23位ネプチューン 22位おかずクラブ 21位ピース 20位はなわ 19位塚地武雅 18位山口智充 17位ケンドーコバヤシ 15位浜田雅功 15位椿鬼奴 14位タモリ 13位ナインティナイン 12位トレンディエンジェル 11位爆笑問題 10位間寛平 9位木梨憲武 8位スギちゃん 7位ダチョウ倶楽部 6位ハリセンボン 5位松本人志 4位笑福亭鶴瓶 3位明石家さんま 2位渡辺直美 1位ビートたけし。

「海外スター部門」25位スティーブン・スピルバーグ 24位トム・ハンクス 20位ワン・ダイレクション 20位ジャッキー・チェン 20位デビッド・ベッカム 20位アヴリル・ラヴィーン 19位少女時代 18位ザ・ビートルズ 17位ブリトニー・スピアーズ 16位アンジェリーナ・ジョリー 15位ビヨンセ 14位ポール・マッカートニー 13位アーノルド・シュワルツェネッガー 12位イ・ビョンホン 11位KARA 10位レディー・ガガ 9位ジョニー・デップ 8位マライア・キャリー 7位東方神起 6位ペ・ヨンジュン 5位マドンナ 4位レオナルド・ディカプリオ 3位ブラッド・ピット 2位トム・クルーズ 1位マイケル・ジャクソン。

それぞれの過去映像を見せたのだが、名前の紹介だけであっさり終わる人も多かった。ランキングは「制作サイドの都合でサラッと流してしまえる」など、時間の管理が難しい生放送にうってつけの企画なのだろう。

『めざましテレビ』は、さすが25年間も放送しているだけあって大御所が上位にランクインしていたが、「ビートたけしのバイク事故による顔面マヒ」など、映像のセレクトに妥協なし。この日の主役でもある、さんまの過去映像も、『オレたちひょうきん族』での過酷なシーンから、『さんタク』でのスカイダイビング、『あっぱれさんま大先生』での涙、『オールスター紅白大運動会』で田原俊彦に勝ってしまったリレーなど、膨大な映像資料の中から「年代を問わず誰もが笑える」ものがきっちり選ばれていた。

さんまのパーデンネンが「めざましじゃんけん」

その他のコーナーも、どちらかというと『めざましテレビ』より、『オレたちひょうきんぞく』『ウッチャンナンチャンのやるならやらねば!』『めちゃ×2イケてるッ!』ら土8バラエティのノリ。

たとえば、「きょうのわんこ」特別版は、セレブや犬より、時間制限にイラつくスタッフにフィーチャーして笑わせ、「お笑いタスキリレー」も、間寛平と坂田利夫の脱力系レジェンドを投入し、あえてグダグダムードを作った。

さらに、「平成で一番モノマネされた芸能人」のランキングは、男性5位河村隆一 4位コブクロ 3位桑田佳祐 2位松山千春 1位福山雅治、女性5位松任谷由実 4位和田アキ子 3位美空ひばり 2位浜崎あゆみ 1位倖田來未だったが、本題はこのあと。スタジオに女性1位の倖田と10人のモノマネ芸人を呼んで、本人に「ベスト・オブ・來未」を選ばせたのだ。「ビミョーなモノマネ芸人を生放送で10人そろえたら……」と、企画当初の段階から、この映像が頭に浮かんでいたのではないか。

終盤には、「登美丘高校がQUEEN名曲で新作ダンスに生挑戦」という笑いなしでクオリティ勝負のコーナーもあったが、4時間の大半は「楽しけりゃいいじゃん」の土8ノリ。終盤も、パーデンネンにふんした、さんまに「めざましじゃんけん」をさせ、「やっぱりパーを出す」というシーンもあった。

惜しむらくは、ラストをさんまのパーデンネンではなく、「永島優美アナがAKB48のセンターに立つ」という企画で締めたこと。収録モノだったため生放送のダイナミズムが失われた上に、笑いの量で尻つぼみだったのがもったいない。

『めざまし』とフジの明るさを強みに

そう感じたのは、さんまが約4時間にわたって生放送の面白さを感じさせたからにほかならない。スタート早々から「時間が押すからだまってほしい」と叱られ、逆にアナウンサーたちには「噛んだらすぐツッコミを入れるぞ」とプレッシャーをかけ、緊張感の向う側にある笑いにつなげていた。

その他にも、「あえて段取り無視でしゃべり、アナウンサーと声がかぶる」「過去の自宅売却騒動にふれて、当時の報道を訂正する」「女性のランキングを見て、『なぜ剛力彩芽、大竹しのぶ、IMALUがいないんだ』とボヤく」など、誰もがその力量に気づかされるアドリブを披露。

ランキングのトップこそ、テレビ番組だけでなく映画や事故など、出演の幅が広いビートたけしに譲ったが、のちに「平成エンタメといえば、明石家さんま」と言われるときが来るだろう。生放送の番組がほとんどない今、「令和」時代を担うであろう後輩芸人との差はなかなか埋まっていかない。

話を今回の特番に戻すと、4時間があっという間に過ぎていったのは、資料集めから、キャスティング、セット、ロケ、編集までのすべてが奇抜なものに頼らず、『めざましテレビ』、引いては、フジテレビらしい明るさで統一されていたからではないか。平成特番にありがちな中高年層向けのノスタルジーに走るきらいもなく、懐かし映像もフリとして使っているだけだった。

まさに、本来の強みを生かした真っ向勝負。過去の映像を見るほど、「なるほど」というクレバーさも、「ヤバイ」というパワーもあり、フジテレビの持つ蓄積の厚みを感じさせられた。その強みや蓄積を特番だけでなく、レギュラー番組にどうアジャストしていくのか。

タレントやテレビフリークがこぞって口にする「フジテレビの復活を願っている」という声にようやく応えられる時期が来たのかもしれない。

次の“贔屓”は…最高クラスの爆笑とリスク『オールスター後夜祭’19春』

『オールスター後夜祭』MCの有吉弘行(左)と乃木坂46・高山一実

今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、6日に放送されるTBS系バラエティ特番『オールスター後夜祭’19春』(24:58~26:58)。

改編期恒例の『オールスター感謝祭』派生番組であり、昨春、昨秋に続く第3弾の今回も、居残りタレントに追加メンバーを加えた計160人が参加。深夜の生放送である上に、『水曜日のダウンタウン』(TBS系)らで知られる藤井健太郎が総合演出を務めるだけに、最高クラスの爆笑とリスクが予想される。

事実、昨秋の放送では、MCの有吉弘行が『キングオブコント2018』王者のハナコを恫喝するシーンが物議を醸した(真相は過去に島田紳助が東京03を恫喝したパロディ)だけに、今回もどんな笑いが飛び出すのか要注目だ。

■木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者。毎月20~25本のコラムを寄稿するほか、解説者の立場で『週刊フジテレビ批評』などにメディア出演。取材歴2,000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日の視聴は20時間(2番組同時を含む)を超え、全国放送の連ドラは全作を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの聴き技84』『話しかけなくていい!会話術』など。