テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第61回は、10日に生放送されたカンテレ・フジテレビ系特番『R-1ぐらんぷり2019』をピックアップする。

「一人芸のチャンピオンを決める大会」としてスタートしたのは2002年10月。今年で17回目を迎えるが、近年は「優勝してもブレイクしない」という不名誉な声もある中、はたして今回はどうなのか。

決勝進出者は出場順に、チョコレートプラネット松尾、クロスバー直撃 前野悠介、こがけん、セルライトスパ 大須賀、おいでやす小田、霜降り明星 粗品、ルシファー吉岡、だーりんず 松本りんす、河邑ミク、三浦マイルドの10人に、復活ステージを勝ち上がった2人を加えた12人。

当コラムでは、ネタの質ではなく、生放送のコンテスト番組そのものや、『M-1グランプリ』(ABCテレビ・テレビ朝日系)で物議を醸した審査員の存在などにフィーチャーしていきたい。

なぜド定番のフリップ芸が優勝したのか

『R-1ぐらんぷり2019』優勝の霜降り明星 粗品

結果としては、霜降り明星 粗品が優勝し、『M-1グランプリ』との2冠を達成。史上最年少優勝(26歳)とともに、史上初の快挙を成し遂げた。例年以上の大接戦と若きチャンピオンの誕生に、盛り上がりを感じた人は多かったのではないか。

それにしても今回ほど、ネタがバラエティに富んでいたコンテストは記憶にない。

Aブロックが、IKKOのモノマネ(チョコレートプラネット 松尾)、創作小道具(クロスバー直撃 前野)、洋楽ロック風の歌声になるマイク(こがけん)、ヒソヒソあるある漫談(セルライトスパ 大須賀)。

Bブロックが、駄々をこねる勝ち組の男(おいでやす小田)、高速フリップ芸(霜降り明星 粗品)、女子高と合併する男子高教師(ルシファー吉岡)、犬の鳴き声でツッコミが入る漫談(マツモトクラブ)。

Cブロックが、ヅラを使った演芸(だーりんず 松本)、女子高生による大阪イジリ(河邑ミク)、広島弁の漢字ドリル(三浦マイルド)、鶏肉を空に飛ばす危険な男(岡野陽一)。

芸のスタイルとしては一人コントが多かったが、切り口の多彩さは、まさに異種格闘技戦。ここまでバラけると「ネタの質を審査しろ」というのは難しく、「単純な笑いの量か、個人の好みで審査するしかないのでは」と感じてしまう。ネタがバラけたから、ピン芸のド定番であり、長年磨いてきた粗品のフリップ芸が優勝したのかもしれない。

Bブロックでは、おいでやす小田と、ファイナルステージではセルライトスパ 大須賀と同点の粗品が「ポイントを入れた審査員の数が多かったため勝った」という異例の展開も、それを裏付けているように見えた。

お笑いシーンの現状が如実に表れる大会

『R-1ぐらんぷり』は、桂文枝が「みんなパターンが違うんでね、審査が難しい」と本音を漏らしたように、『M-1グランプリ』のような「100点満点での細かい採点」ではなく、「3票を3人に配分する」というゆるい採点方法が採られている。

事実として、今回も例年同様に「2票と1票」に分けて投票する審査員が多く、『M-1グランプリ』のように「審査員個人の是非が問われる」可能性は極めて低い。だからこそ、「1人に3票」という思い切った投票が目立った桂文枝はさすがであり、『M-1グランプリ』における上沼恵美子と同様の大御所らしい振る舞いだった。

忘れてはいけないのは、その上沼恵美子のモノマネをオープニングでぶち込んだ友近。この日の友近は、「初の審査員」という立場からか、無難なコメントと投票に終始していた。ある意味、この日一番の爆笑を生んだ上沼モノマネを見ても、「やっぱり友近は出演者側に回ってほしい」と感じた人は多かっただろう。

同じ審査員だった陣内智則も含め、彼らに続く“実力派ピン芸人”のスターが誕生していないところに『R-1ぐらんぷり』の難しさがある。今回、「史上初めてファイナルステージにピン芸人が進めなかったこと」「チョコレートプラネット松尾のIKKOがトップを飾ったこと」「霜降り明星の勢いがめざましいこと」なども含め、『R-1ぐらんぷり』は他のコンテストと比べても、「お笑いシーンの現状が如実に表れる番組」と言えるかもしれない。

ともあれ、友近や陣内智則のような実力派ピン芸人に憧れていても、「売れるために個性を出せ! エッジを立てろ!」という事務所関係者や番組スタッフの叱咤や、「一発屋になってもいいから当てたい」という目の前の欲望に勝つのは容易ではない。

視聴者がライブコンテンツに求めるもの

松本人志が「R-1の客。。。」、運営批判で物議を醸したキートンが「やっぱり、賞レースでのテレビ観覧客の過剰な反応は邪魔ですな。おもしろい時に笑うだけでいい。全員おもしろいネタをやったんだからさ」とツイートしたように、誰が見ても観客の笑い声は過剰だった。

しかし、その過剰さは観客の笑い声に限ったことではない。セット、イラスト、ナレーションなどの演出は、必要以上にカラフルで動きがあり、良く言えば「ポップ」、悪く言えば「うるさい」と感じさせるものだった。

「漫才やコントのようにコンビやトリオでなく、ピンでは画面が寂しい」「そもそもピン芸人は知名度が低く、見た目も地味な人が多い」などの理由はあるだろう。敗者復活組に有名芸人をそろえて何度となくカメラを向け、チョコレートプラネット長田や、霜降り明星 せいやを映して“相方とのコンビ対決”をにおわせた演出も同様の理由ではないか。

それらを踏まえても、「もったいない」と思ってしまうのは、生放送のコンテスト番組らしい緊張感が損なわれていること。制作サイドは『M-1グランプリ』との差別化をしているのかもしれないが、視聴者が生放送のお笑いコンテストに求めているのは、まさに『M-1グランプリ』のようなヒリヒリとした緊張感だろう。

『R-1ぐらんぷり』の制作はカンテレ、『M-1グランプリ』の制作はABCテレビと同じ在阪局だけに、当然ライバル意識やプライドはあるはずだ。視聴者が求めるものを素直に送り出せるか? 業界や自局の事情を持ち込まず、視聴者ファーストの番組作りが望まれている。

日曜夜に放送されている『ポツンと一軒家』(ABC・テレ朝系)が高視聴率を連発し、『林先生が驚く初耳学』(MBS・TBS系)が「〇〇学院」に活路を見出しているように、台本ありきではなくドキュメント性のあるバラエティのニーズが高まっているのは間違いない。『R-1ぐらんぷり』の視聴率は関東9.3%、関西15.3%(ビデオリサーチ調べ)だったが、ドキュメントとしての緊張感を視聴者に届けられれば、まだまだ数字は伸ばせるだろう。

芸人たちは人生を賭けて挑んでいるからこそ、制作サイドの構成・演出にかかる責任は大きい。バラエティに限らず、今後テレビの切り札となる貴重なライブコンテンツだけに、勇気ある改編や進化を期待している。

次の“贔屓”は…またもテレ東がやってくれるか!?『あの天才の兄弟姉妹』

『あの天才の兄弟姉妹~光と影ものがたり~』の出演者たち (C)テレビ東京

今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、17日に放送されるテレビ東京系バラエティ特番『あの天才の兄弟姉妹~光と影ものがたり~』(19:54~21:54)。

同番組は、『池の水ぜんぶ抜く』などを生み出したテレ東が誇る特番枠『日曜ビッグバラエティ』の新企画。「もし兄弟姉妹が有名人だったら? あの天才の兄弟姉妹は、どんな人生を送っているのか?」というコンセプトは、有村架純を妹に持つ有村藍里の美容整形手術が話題を集める今、タイムリーだ。

しかも、その内容は、「矢口真里の妹は不倫騒動で1年半の謹慎期間中どこで何をしていたのか」「フィギュアスケートの天才・紀平梨花には姉が…何とカナダにいた」。さらに、元ジャイアンツ・桑田真澄の弟、体操金メダリスト・白井健三の兄、ボクシング亀田三兄弟の妹などをフィーチャーし、小栗旬の兄や石田純一の姉も登場するという。

『日曜ビッグバラエティ』はこれまで、『和風総本家』『空から日本を見てみよう』『THEカラオケ☆バトル』『日本行きたい人グランプリ』などレギュラー化された名番組を生み出してきただけに、今回もやってくれるのか期待したい。

■木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者。毎月20~25本のコラムを寄稿するほか、解説者の立場で『週刊フジテレビ批評』などにメディア出演。取材歴2,000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日の視聴は20時間(2番組同時を含む)を超え、全国放送の連ドラは全作を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの聴き技84』『話しかけなくていい!会話術』など。