テレビ解説者の木村隆志が、今週注目した"贔屓"のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第6回は、7日に放送された『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日系、毎週水曜23:15~ ※一部地域除く)をピックアップする。
同番組は、『マツコ&有吉の怒り新党』の後継として昨年4月にスタート。「6年間怒り尽くした2人が、天使のような穏やかな気持ちでトークを繰り広げる」というコンセプトのもとに、さまざまなテーマで語り合っている。
番組の主な構成は、「マツコ&有吉に聞いてほしい話」の視聴者投稿パートと、「禁断の欲望を叶える」VTRパートの2つ。前者は久保田直子アナを含めた3人のトーク、後者はツッコミを入れながらのVTR鑑賞がメインとなっている。
この構成は『怒り新党』のベースを踏襲したものだけに、マツコ&有吉は持ち味を変わらず発揮。思うままに話を脱線させたり、突然毒を吐いたり……居酒屋で飲んでいるかのようなムードを醸し出している。
「とにかく細かい」スタッフの編集スタンス
今回も「トムヤンクンってどこまで食べるのが正解でしょうか?」という投稿に、有吉が「キノコって栽培がうまくいきすぎてて謎の食い物になってない?」、マツコも「シイタケが苦手なのよ。あいつの押しの強さすごくない?」と脱線。トークテーマを「ベストきのこ」に変えてしまったあげく、最後に「マツコ有吉的にトムヤンクンは基本スープだけ飲みます」という取ってつけたような結論を出して締めた。
同番組で特筆すべきは、「禁断の欲望を叶える」VTRパートの作り込み。今回は「No.1キャバ嬢の顔をガンガン見て飯尾No.1を決めたい」「福岡空港に売っている明太子25種類を辛い順にならべたい」「ゴルフ歴30年・えなり君が未体験のイーグルパットを沈めたい」の3本が放送されたが、スタッフの仕事がとにかく細かい。
真っ先に気づかされるのは、マツコ&有吉を映すワイプの変化。画面右上に2人の顔を上下にならべる形が基本だが、大きなリアクションを取ったときは5倍程度になり、さらに最大で画面の右半分にまで拡大される。ナレーションも前野朋哉と柏田ユウリの男女2人がかけ合うように声を発し、テロップやBGMが小刻みに入るほか、静止画、イラスト、グラフなどの挿入もめちゃめちゃ多い。
VTRの作り込みに関しては、『怒り新党』の名コーナー「新・三大◯◯」以上のものがあり、当番組はさらにタレントを絡めて盛り上げている。今回はずん・飯尾和樹、佐々木健介、えなりかずきが登場。この他にもスリムクラブ・内間政成やトレンディエンジェル・たかしなど、まるで天使のような脱力感を持つタレントにリポートさせた上で、マツコ&有吉がツッコミを入れていく。
VTRに対するこだわりは、深夜番組ではもちろんバラエティ番組のなかでもトップクラスだろう。しかし、それを分かっているのに、あえてやる気のない態度と突き放したコメントをぶつけられるのが、マツコ&有吉のすごさ。これは「どんなにこだわったものを作り込もうが知ったこっちゃない」という視聴者と同じ目線であり、だから我々は「ゲラゲラ笑わないけどクスクスできる」という意味でのイージーウォッチングができるのだろう。
「皮肉や毒を自由に放てる」2人にとっての天国
私は『怒り新党』で「新・三大◯◯」の有識者になったことがあり、その後も5人のディレクターから要請されてテーマを提案していたが、どんなに角度を変えて企画案を挙げても採用されなかった。現在の『かりそめ天国』は、まだそこまで企画を厳選するという段階まで到達していない感もあるが、その分、足を使ってのローラー作戦を展開している。
キャバ嬢も、明太子も、イーグルパットも、すべて肉体的・精神的な労力を伴うローラー作戦的な企画だが、最たるものはキャバ嬢ではないか。今回は大雪の中、飯尾和樹が千葉県一の歓楽街・富士見で6店のキャバクラへ行ったのだが、深夜番組らしい美女たちの色気に加えて、「最後に誰が飯尾No.1に選ばれるか?」というクイズ要素、前回の名古屋編に続いて見事当ててしまうマツコ&有吉の審美眼など、企画の完成度は高い。労力を惜しまない覚悟あふれるスタッフたちだけに、しばらくは花形企画として続いていくだろう。
「いかにもゆるそうな番組ほど、実はものすごく労力をかけて作り込んでいる」は、知る人ぞ知る"テレビ業界あるある"。マツコ&有吉とお酒を飲んでいるような気分でダラダラ見られる番組なのは間違いないが、時にはVTRの作り込みとローラー作戦に注目してスタッフたちの奮闘に思いをはせてほしい。
最後に1つ。やっぱりというべきか、マツコも有吉も一度も"怒り心頭"になっての発言はなかった。皮肉や毒は相変わらずだったが、裏を返せば、これらを自由に放てる当番組こそ、2人にとってのかりそめ天国なのかもしれない。
来週の贔屓は…日本一無意味な教育バラエティ『すイエんサー』
来週放送の番組からピックアップする"贔屓"の番組は、13日に放送される『すイエんサー』(NHK Eテレ、毎週火曜19:25~)。同番組は、「日常生活の中で抱くちょっとした疑問や思いに、少女タレントたちで結成した"すイエんサーガールズ"が体当たりで挑む」教育バラエティだ。
次回の放送テーマは、「もえ技で勝つ!? 手押し相撲のスゴ技」。かよわい少女たちが相撲の元世界王者に挑むようだが、予告映像を見る限り、そのおバカさは特筆モノ。どんな法則と結末を見せてくれるのか、楽しみにしている。
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『新・週刊フジテレビ批評』『TBSレビュー』などに出演。取材歴2,000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。