テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第59回は、23日に放送されたフジテレビ系バラエティ番組『芸能人が本気で考えた!ドッキリGP』(19:00~21:00)をピックアップする。

昨秋のレギュラー放送スタートから4カ月弱が経過。フジのドッキリ番組と言えば、1970~80年代に人気を集めた『スターどっきり(秘)報告』を思い出す人が多いのではないか。その点、伝統の企画に加えて「秒でドッキリ」などの現代性も加えた同番組への期待値は高い。

今回の目玉は、「坂上忍がニセ催眠術にかかったふりをしたら、まわりのメンバーも忖度してかかったふりをするか?」。『坂上どうぶつ王国』『バイキング』の出演者が坂上の恐怖に打ち勝てるのか。ドッキリ番組のライバルである『ニンゲン観察バラエティ モニタリング』(TBS系)との違いなども含め、掘り下げていきたい。

  • 『芸能人が本気で考えた!ドッキリGP』MCの東野幸治(左)と小池栄子

16種類のドッキリに34組が引っかかった

まず、今回のドッキリをすべて挙げていこう。

池田美優が考えた「秒でスーツケース人間」、おかずクラブ・ゆいPが考えた「秒でタートルネックパンスト」、パンサー・菅良太郎が考えた「秒でクイズ! 人間イス」、シリーズ作の「秒で明かりがついたらアパゾンビ」、メイプル超合金・カズレーザーが考えた「秒リアル衝撃映像」、恵俊彰がまたやってほしかった「秒でクイズ! ゴキブリ風船爆弾」、インパルス・板倉俊之が考えた「秒で足つぼストリート」、Kis-My-Ft2・宮田俊哉が考えた「ゲゲゲの鬼太郎の妖怪でドッキリかけちゃうぞ! 妖怪まくら返し」「小豆はかり」。

坂上忍が仕掛け人の「催眠術で忖度」、1998年の名作ドッキリ「運転手がいない! 恐怖の無人暴走車」、東野幸治が考えた「森脇健児のあの寝顔をもう一度見たい! 睡眠不足寝起きドッキリ」、野性爆弾・くっきーが考えた「秒でダンベルが飛んでくる」、おかずクラブ・オカリナが考えた「秒でケロケロパニック」、恵俊彰がまたやってほしかった「ポットからドジョウ」、DA PUMP・ISSAが考えた「秒でタクシードライバーがのっぺらぼう」。

ドッキリのターゲットは、アップアップガールズ(仮)、牧野ステテコ、餅田コシヒカリ、カミナリ・まなぶ、カミナリ・石田たくみ、トレンディエンジェル・斎藤司、BOYS AND MEN、いかちゃん、ガンバレルーヤ、ダイヤモンド☆ユカイ、あびる優、久住小春、朝日奈央、重盛さと美、本間朋晃、U字工事・益子卓郎、ミキ・昂生、ぺえ、パンサー・尾形貴弘、ワタリ119、池田美優、サンドウィッチマン・伊達みきお、くっきー、King & Prince・高橋海人、榎並大二郎アナ、NMB48、JOY、高橋ユウ、森脇健児、野呂佳代、SKE48・大場美奈、ゆきぽよ、渡辺裕太。

今回の放送だけで「16種類のドッキリに34組が引っかかった」ことになる。基本的に当番組は『超逆境クイズバトル!! 99人の壁』と交互に“隔週2時間”で放送されているが、手数の多さとテンポの速さはドッキリ番組史上最多ではないか。どの番組と比べても密度が高く、とにかく手間がかかっているのだ。

これだけ多くのドッキリを仕掛ける以上、視聴者の知らないタレントがいるのは仕方ないし、若手タレントにとっては「ゴールデンタイムの番組に出られるチャンス」となっている。しかし、単に驚くだけではなく、とっさのリアクションでタレント性を見極められてしまうのも事実だ。たとえば、今回の放送でも「ネタはうまいけど、ドッキリはからきし…」という芸人が何人か見られた。

「ドッキリのプロ」というフジの伝統

番組の構成や演出は、「丁寧かつ適切」という印象が強い。各ドッキリは、イラストやナレーションで明快に説明され、「〇〇まで〇秒」のカウントダウン、ドッキリのリアクション、アフターコメントや仕掛け人からのオチまで、まるでベルトコンベアーのように次々と流れていく。

加えて、「仕掛け人目線のカメラ」「スタジオメンバーのリアクション予想」「ドッキリ現場と中継をつなぐ」「目玉おやじによるナレーション」「『スターどっきり(秘)報告』の過去映像」「dボタンで視聴者参加」「最後に優秀なドッキリのリピートと、未公開ドッキリを放送」などの小技も効いている。どれもシンプルながら、「ドッキリのプロフェッショナル」ならではの仕事ぶりだ。

なかでも「坂上忍の催眠術」「無人暴走車」「森脇健児の寝起き」の3作は、目玉ドッキリにふさわしい仕上がり。それぞれ「4人全員忖度」「『死ぬ! 死ぬ! 死ぬ!』の連呼」「衝撃の寝顔とオナラのオチ」という大きな笑いどころがあった。

その一方で印象的だったのは、「許可を得ています」「視界は良好です」「安全運転を心がけております」などの“おことわり”テロップ。無用なクレームを生み出さないためのものだが、これを頻繁に表示させてこそのおバカドッキリであり、悪ふざけが可能なのだろう。

それでも番組のムードは、「テレビはくだらないもの」「バカになるから見ちゃダメ」と言われていた80年代に近い。近年は「多くの情報を得られる」「役に立つ」バラエティが多いだけに希少価値は高く、この時代に「バカバカしい」に振り切れる勇気は、もっと称えられていいのではないか。

もしかしたら「フジテレビのバラエティ復活」の足掛かりになるのは、こういう番組なのかもしれない。

キレそうな坂上忍にも仕掛けられるか

当番組のベースとなっているのは、2500を超える名作ドッキリを生み出した『スターどっきり(秘)報告』であるのは間違いない。事実、今回の放送でも、寝起きドッキリのアレンジや、無人暴走車のリバイバルなどが見られた。

一方、『モニタリング』は「一般人へのドッキリを主流にしている」という意味で、90年代の『いたずらウォッチング!!』(フジ系)に近い。「ゴールデンタイムに一般人がメインの番組を放送する」ことが差別化となっている反面、リアクションのバリエーションとしては画一的になりがちだ。ドラマにたとえると、コメディのバカバカしさがある『ドッキリGP』に対して、『モニタリング』は微笑ましさや親近感のあるホームドラマといったところか。

ただ、『ドッキリGP』で気がかりなのは、ターゲットがJOYやワタリ119などの「“ドッキリ要員”ばかりで、大物タレントへの仕掛けが少ない」こと。今回の放送でも、「最も目を引いたのは、くっきーへのドッキリだった」という人が多いのではないか。だからこそ、「いかにもキレそうな坂上忍にもドッキリを仕掛ける」くらいの思い切りが見られるかが、今後の鍵を握っている。

1年前の『めちゃ×2イケてるッ!』終了から『世界!極タウンに住んでみる』をはさんで、たどり着いた番組だけに、“フジ伝統の土8バラエティ”復活なるか。その意味では、19~21時の2時間番組ではなく、20時からの1時間番組に戻してほしいところだが、『99人の壁』の特性から見ても難しそうだ。

次の“贔屓”は…ドキュメントバラエティ化の意味は?『林先生が驚く初耳学!』

『林先生が驚く初耳学!』大政絢(左)と林修 (C)MBS

今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、3月3日に放送されるMBS・TBS系バラエティ番組『林先生が驚く初耳学!』(毎週日曜22:00~)。

番組のコンセプトは、「全国1億3000万人から情報を募集し、賢人・林修先生に出題。林先生が知らなかったものを初耳学として認定する」というもの。4年前のスタートから雑学番組として認知されていたが、昨秋からドキュメント企画がスタートするなど大幅な変化を見せている。

次回の放送では、現在のメイン企画である「アンミカ先生が教えるパリコレ学」がクライマックスを迎えるだけに、変化の意味を検証していきたい。

■木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者。毎月20~25本のコラムを寄稿するほか、解説者の立場で『週刊フジテレビ批評』などにメディア出演。取材歴2,000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日の視聴は20時間(2番組同時を含む)を超え、全国放送の連ドラは全作を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの聴き技84』『話しかけなくていい!会話術』など。