テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第55回は、26日に放送された『吉村崇、無人島を買う!』(長崎国際テレビ制作・日本テレビ系、10:30~)をピックアップする。
破天荒キャラの平成ノブシコブシ・吉村崇が「超本気」で無人島購入する…というツッコミどころの多そうな特番であり、放送前からゆるいムードを感じてしまう。この手の企画は、「買いま……せん」で終わるのが定番だが、当番組の主役は体を張って破天荒なエピソードを作る吉村崇。
「分不相応」と言われるほどの高級マンションに住み、高級車に乗るなど、“芸人としてのあり方”に貪欲な男だけに、期待感を抱かずにはいられない。
吉村が無人島を買いたい破天荒な理由
オープニングのナレーションは、「無人島って買うことができるんです!」。日本には6,852もの島があり、その94%が無人島でそれぞれ所有者がいて、値段はピンからキリまであるという。
吉村が無人島を買いたい理由は、「売れない後輩芸人たちが活躍できる“エンターテインメント島”を作りたい」から。「いや、それならアクセスやインフラの悪そうな無人島じゃないほうがいいでしょ」とツッコミたくなったが、そこは破天荒だから発想が突き抜けているのだとスルーしよう。
吉村の無人島探しは、2018年10月20日にスタート。まず東京から約2,000㎞の沖縄・ウ離島へ向かうと、「西表島からわずか200mの距離で、東京ドーム1個分の広さ」という便利で美しい島だった。珊瑚礁の中をカヌーで上陸し、鮮やかなブルーの熱帯魚を見て「何ていい島なんだろう」とつぶやく吉村。
「最低でも300人収容のCLUBを作りたい」と野望を語ったが、ウ離島の値段は何と5億円。無人島の購入ではローンが組めないため、「会社からお金を借りたりとか、あるものを売ったりとか、何とかお金は作ります」と意気込んでいた吉村も、泣く泣く断念した。
その反省を生かして、国内の無人島を販売している専門家に話を聞くと、多くの無人島がある中、「セキュリティがいい」「携帯が届く範囲」「船をつけるために桟橋が作れる」ところがおすすめという。
それらを踏まえた上で、忙しい吉村に代わってスタッフが三重県・丸島へ。ただ、吉村はロケ映像を見ながら「自然の牡蠣が食べ放題」とすすめられても「唯一、牡蠣食えないんですよ」とこぼし、値段は2200万円だったが、サイズの小ささを理由に「買いません」であっさり終了。最後に、「井戸を掘るには130万円から」「ソーラーパネル設置は120万円から」という追加情報が添えられた。
画面右下に表示された「無人島トリビア」も含め、知的好奇心をくすぐる情報は、『ポツンと一軒家』(ABCテレビ・テレビ朝日系)らのドキュメンタリーバラエティで見られるトレンド。「簡単なネット検索では得られない情報をどれだけ組み込めるか?」がマストとなっている。
渡辺直美が合流し、本気モードの吉村
3つ目の島があるのは、無人島の宝庫・長崎県。吉村に加えて大親友の渡辺直美が登場したことからも、「この島が本命なのだな」というムードが伝わってくる。
2人が降り立った橘島は、現オーナーが整備を進めた無人島だった。1,330坪の中に家があるほか、駐車場、フィッシングボート(イカ釣り用LEDライト、魚群探知機、ソナー)もついているという。
陸から島までわずか100mのため携帯電話の電波が入るほか、電気が引かれ、井戸水もある。海を一望できる20畳のリビングダイニング、ゴージャスな家具、寿司バーも魅力的だ。
吉村が「3億は無理だな。3億以下なら頑張る」と話す中、発表された値段は想定内の2億円だった。「ローンが組めたら一撃で行きたいです」と本気度を見せてオーナーから10%の値引きを勝ち取った吉村は、「買い……買います! もう決めた! もうここだ。引かねえ! もう!」と即決。ただ、「まだ資金力がないです。頑張ってお金を貯めてきますから」と懇願したことで、オーナーから3年間の支払い猶予をもらった。
番組は、「与えられた期限は3年、夢の実現に向け、吉村崇の無人島計画はまだはじまったばかりだ」という含みのあるナレーションで終了。吉村は同郷の先輩・加藤浩次から言われていた「身の丈以上の家賃に住め。高級車に乗れ」という教えに続いて、見事に“芸人としてのあり方”を見せた。
一歩引いた目線から番組を見ると、吉村が3年かけてお金を準備する以上、続編を放送するなら3年後以降になってしまう。だからこそ、吉村の企画はゆるやかに続行させつつ、「別のタレントの無人島購入」、あるいは「別のものを購入」などの継続・発展に期待したい。今回は長崎国際テレビの制作だったが、各地のネット局で競作しても面白そうだ。
吉村崇と千鳥・ノブが見せた男気
『吉村崇、無人島を買う!』という番組名を聞いて、何を思い浮かべるだろうか?
現在も放送中の『有吉ゼミ』(日テレ系)の「〇〇、家を買う。」か。それとも過去に放送されていた『スッキリ』(日テレ系)の「ダイノジ・大地(洋輔)のマイホーム探し」か、『とんねるずのみなさんのおかげでした』(フジ系)の「矢作兼がハワイに別荘を買う。」か。
いずれも「買いま……せん!」のくだりが繰り返され、芸能人の物件探しはその大半が「買わずに終了」となってきた。そもそも「芸能人が場所や値段が明かされた物件を買う」ことにリアリティはなく、物件紹介が目的のバラエティであることは明らかだ。
その点、視聴者の予想を上回る今回の吉村は痛快だった。そして、この番組を見ていて顔が浮かんだのは千鳥・ノブ。家ではないが、昨年12月27日に放送された『テレビ千鳥』(テレ朝系)で1142万円のメルセデスベンツ、しかもカブリオレを購入したシーンがよみがえってきた。「妻子が買い物に行くためのファミリーカー」を探しながら、真逆の車を買ったノブは、クセが強いというより、カッコよかったのだ。
ちなみに『テレビ千鳥』には吉村も出演し、ノブの買い物を見守っていた。どちらが先に撮影したのかは分からないが、同年代の中堅芸人が競い合うように「これが面白い芸人であり、これが面白いテレビ番組だ」という男気を見せたことが何とも頼もしい。
吉村に話を戻すと、昨年10月3日に放送された『水曜日のダウンタウン』(TBS)の「生中継先に現れたヤバめ素人のさばき方で芸人の力量丸わかり説」での見事な対応が象徴するように、ここにきて業界内の評価をグンと上げている。
この手のタレントドキュメンタリーは、ノリ、コメント力、トラブル時の対応など、「制作サイドの計算が立つ」という前提の企画なのだが、吉村はそこに特大のオチを加えて期待に応えてみせた。テレビマンたちはこういう「体を張って面白いと思うほうを選ぶ」タイプの芸人が大好きなだけに、活躍の場は広がるだろう。
「今まで誰も見たことがない本気の無人島購入ドキュメント『吉村崇、無人島を買う!』」というタイトルバックにかぶせたナレーションに嘘偽りなし。これが一番やれそうでやれないすごいことであり、テレビの楽しさが詰まっている。
次の“贔屓”は…活動休止発表の嵐は何を語る? 『ミュージックステーション』
今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、2月1日に放送される『テレビ朝日開局60周年記念 ミュージックステーション 3時間SP』(19:00~21:48)。
今回の放送では、活動休止を発表したばかりの嵐が出演するほか、ZARD・坂井泉水さんが最新の映像技術でよみがえり、倉木麻衣と夢の共演。さらに、「テレビ朝日に保管されている60年分の貴重な映像が見られる」という。今回の局を挙げた大型特番はもちろん、通常放送の内容についても、ふれていきたい。
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者。毎月20~25本のコラムを寄稿するほか、解説者の立場で『週刊フジテレビ批評』などにメディア出演。取材歴2,000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日の視聴は20時間(2番組同時を含む)を超え、全国放送の連ドラは全作を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの聴き技84』『話しかけなくていい!会話術』など。