テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第53回は、11日に放送されたTBS系トークバラエティ番組『A-Studio』をピックアップする。

笑福亭鶴瓶がMCを務める対談形式のトーク番組であり、今回が記念すべき500回目の放送。節目のゲストに選ばれたのは、鶴瓶とは45年ものつき合いがある明石家さんま。おのずとトークパートが長くなったり、あらぬ方向へ脱線したりなど、ふだんとは異なるところもあるだろう。

しかし、だからこそ番組の魅力が浮き彫りになりやすいとも言える。番組の構成と鶴瓶のMCを中心にじっくり見ていきたい。

  • 笑福亭鶴瓶(左)明石家さんま

冒頭から『さんまのまんま』状態に

スタジオに入っていきなりMCの座を奪うかのごとく話しはじめるさんま。

サブMCを娘のIMARUが務めることが決まって鶴瓶にあいさつしたとき、「『お前だけは絶対A-Studioに呼ばへんぞ』と。あれどういう意味でおっしゃったんですか? 俺はただあいさつしただけなのに何で『呼ばへん』って心に決めていたわけ?」「木村拓哉の回で出たときに1時間あまりしゃべって『さんま、これ使わへんで』って。そしたら何で1時間もしゃべらせたん?」とまくしたてた。

明らかにイレギュラーな展開なのだが、何の不安を感じさせず、むしろ期待感が加速していく。ただ、「身近な人へのインタビューや、終盤の“鶴瓶一人語り”は成立するのだろうか?」、いい意味での心配が脳裏をよぎった。

最初のトークテーマは、『さんまのお笑い向上委員会』(フジテレビ系)。鶴瓶が「あれ見てたらドキドキすんねん。もしかしてオレのところに電話かかってきて、『兄さん、何思いまんねん』と言われたら『何返そかな』って」と話すと、さんまが「(電話を)かけてほしいの?」とボケで返した。いまだMCとゲストの立ち位置は逆転したままだ。

さらに、鶴瓶が「『A-Studio』に出てくれてこんなこというのもおかしいけど、聞きたいことがいっぱいあんねん」と切り出すと、さんまが「いや、こっちも聞きたいこといっぱいある」と合いの手を入れる。これに鶴瓶は「ちょっと待て。お前の聞きたいことはあかん。これは『A-Studio』やねん。オレがお前に聞くんやから。オレが資料を持ってきたやつをお前にぶつけんのや! 言いたいことは楽屋で言え!」とキレツッコミを入れた。

しかし、さんまはどこ吹く風。続けざまに「“ワイン事件”を言うてほしいの?」と話し出し、「鶴瓶がアドレス帳の明石家さんまと江川卓を間違えた」という漫談を始めてしまう。鶴瓶は声がかすれるほどの大声で反論しながら、「のどの薬持ってこい! せやからお前呼ぶの嫌やったんや。バカか、こいつは!」とキレツッコミをかぶせた。

キレツッコミは鶴瓶の持つ芸風の1つであり、旧知のさんまが引き出したのだが、ここまでの内容は『さんまのまんま』(カンテレ・フジ系)とまったく変わらない。はたして鶴瓶は『A-Studio』らしさをどこまで出せるのだろうか。

大御所・鶴瓶が自ら取材する理由

『A-Studio』最大の特徴は、MCの鶴瓶が自らゲストの身近な人々にインタビュー取材すること。「ふだん見られない素顔を引き出す」ために、家族、旧友、仕事仲間、スタッフなどに事前取材するのだが、これが他のトーク番組とは一線を画す存在感や信頼感につながっている。

ただ、「ふだん見られない素顔を引き出す」ことを目指しているのは他のトーク番組も同じ。しかし、どんなにインタビュアーが優秀でも、1人の力では限界があり、「それほど差が出ない」というのが本当のところだ。

その点、鶴瓶は「長いことやってきた経験やスキルはあるけど、僕が引き出せるのはこれくらいかな」と分かっているからこそ、「身近な人々の力を借りてもう一歩掘り下げよう」としているのではないか。「大御所になっても人の力を借りられる」という鶴瓶の器が番組のベースとなっている。

ゲストの驚く顔が視聴者には新鮮であり、鶴瓶にとってはしてやったり。Wikipediaでは見られない。逆に言えば、放送後Wikipediaに追加されるようなトークが次々に引き出されていく。

今回のさんまで言えば、小学生時代に「50歳過ぎてホストになった」大塚さんと漫才コンビを組んでいたこと。中学時代に「ボケマシーン」の川崎さん、服部さんと一緒に「あーあーズ」というトリオを組んでいたこと。高校時代に21個のクラブ紹介を買って出て「人生一番の大爆笑」をつかんだこと。20代のころ新幹線で鶴瓶と新幹線で会うたびに「借り物ゲーム」をやっていたことなどが引き出された。

そして番組はクライマックスの“鶴瓶一人語り”へ。まずは「芸人にもね、素人にもね、僕らみたいなもんにもね、すべての人間に好感度ナンバーワンなんですよ、あいつ」と称え、次に「さんまが(ビート)たけし兄さんに『オレら邪魔だから退きませんか』とか言うたこともあったんですよ」とエピソードを明かす鶴瓶。

さらに「もし『テレビの世界から辞める』と言うたら、“さんまロス”が起こりますよ。一般の人も芸人も。女芸人は誰か後追いすると思う」「80(歳)まで15年くらいしかないんですよ。『15年トップで走り続ける』という体力は絶対あります」とエールを送って締めくくった。

さんまにとっては、背筋がムズムズするようなヒューマン寄りのコメントだが、これぞ『A-Studio』であり、だからこそこのパートで茶々は入れず、大人しく聞いていたのだろう。ともあれ、番組の聖域は守られた。

対談形式のトーク番組を取り巻く苦境

2016年9月で『さんまのまんま』がレギュラー放送を終えて不定期特番となったように、対談形式のトーク番組を取り巻く環境は厳しい。

『徹子の部屋』(テレビ朝日系)、『サワコの朝』(MBS・TBS系)、『おしゃれイズム』(日本テレビ系)など各局に存在こそしているものの、かつてより視聴者から見たタレントのバリューが下がり、いわゆる「この人なら見たい」という存在が少なくなってしまった。また、「どうせ番宣でしょ」という冷めた視線もあるなど、内容以前に見てもらうためのハードルが上がっている。

しかし、複数のタレントが出演する討論形式のトーク番組は、どうしても笑いやインパクトが重視され、人物を掘り下げることはできない。たとえば、『今夜くらべてみました』(日テレ系)のように、編集でコメントやテロップをギュッと詰め込むトーク番組が増えていることが、『A-Studio』の価値を再認識させてくれる。

金曜23時台は、紀行ドキュメントにトークを絡めた『アナザースカイ』(日テレ系)、ナンセンスな笑いを追求する『全力!脱力タイムズ』(フジ系)、絶妙のテーマチョイスが光る『ドキュメント72時間』(NHK)など、熱狂的なファンを持つ番組がそろう激戦区。

その中で『A-Studio』が支持されているのは、シンプルかつ王道のトーク番組に挑む制作陣と、自ら労力を惜しまず楽しそうに振る舞うMCに対する評価ではないか。「あからさまな番宣ゲストでも、とことん掘り下げる」。この姿勢が変わらない限り視聴習慣は揺るがず、『鶴瓶の家族に乾杯』(NHK)と並んで、鶴瓶のライフワークとして続いていくのだろう。

次の“贔屓”は…東京五輪を目前に控え、変化はあるのか?『炎の体育会TV』

(左から)宮迫博之、今田耕司、蛍原徹

今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、19日に放送されるTBS系バラエティ番組『炎の体育会TV』(18:55~)。

同番組は、アスリートの単独チャレンジから、vs芸能人、vs一般人まで、真剣勝負にゲーム性を加えたスポーツバラエティ。2011年10月のスタート当初とは放送内容が大きく変わっているが、来年に迫った東京五輪を前に何らかの変化は見られるのか。

今回の放送には、大坂なおみ、平野美宇、伊藤美誠、山田哲人らのビッグネームに加えて、新体操の美女軍団も参戦する。他局のスポーツバラエティとも比較しながら、番組の強みと弱みを探っていきたい。

■木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者。毎月20~25本のコラムを寄稿するほか、解説者の立場で『週刊フジテレビ批評』などにメディア出演。取材歴2,000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日の視聴は20時間(2番組同時を含む)を超え、全国放送の連ドラは全作を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの聴き技84』『話しかけなくていい!会話術』など。