テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第51回は、22日に放送されたフジテレビ系バラエティ特番『出川と爆問田中と岡村のスモール3』をピックアップする。

テレビの全盛期に一世を風靡した「タモリ、ビートたけし、明石家さんまの“ビッグ3”」に対して、テレビの混迷期らしく!?「出川哲朗、田中裕二、岡村隆史の“スモール3”」というコンセプトに脱力感を誘われてしまう。

「身長160cm以下で芸風も性格も事務所もバラバラの3人がやりたいことを実現していく」という構成は、「楽しければOK」というフジの古き良きDNAが漂い、レギュラー特番化の可能性も含めて要注目の番組だ。

  • (左から)出川哲朗、田中裕二、岡村隆史

2番勝負は“ビッグ3”へのオマージュ

冒頭、「小さな3人が残りの人生を豊かにするためにやりたいことをやり尽くす」「身長は変えられないけど、人生はまだまだ変えられる」というナレーションが流れた。やはり、番組の企画そのものが面白い。

番組はイスに座っての3ショットトークからスタート。勢いやノリに頼らないところは、「体は小さいけど大物だぞ」という意志表示なのかもしれない。3人は“スモール3”の意味を丁寧に説明し、「本当に160㎝以下なのか」を立証すべく身長測定してから、本編に突入した。

個々のやりたいことを発表し合うフリートークを経て、ロケへ繰り出した“スモール3”。一発目は、岡村が希望した「3人で対決、No.1を決める」だった。100m走では、最も若く身体能力の高い岡村が勝つと思いきや、田中の完勝。岡村は「(田中はアソコの)玉が一個の分、軽いんか?」という負け惜しみで笑わせた。

続いてストラックアウトで対決したが、またも田中が完勝し、最も小さい田中の2連勝で終了。“BIG3”も、その大半はゴルフ対決だっただけに、「対決で1番を決める」という形は、先輩たちへのオマージュに見える。

次のロケも、「出川の実家の海苔を食べたい!」という岡村の希望を実現。試食してもなかなか「おいしい」と言わないボケをかまし、海苔より近所のチーズケーキ店に行きたいと言い出し、上島竜兵から電話がかかってきたがスベってしまうなどの笑いどころが詰め込まれていた。

そしてメイン企画となるZOZO前澤友作社長との共演へ。“スモール3”はZOZOスーツを着てZOZO本社を訪れたほか、着工から8~9年経過した現在も未完成のため“千葉のサグラダ・ファミリア”と言われる豪邸を訪問。さらにゴルフ対決を経て、社長行きつけの超高級レストランで食事を楽しんだ。

“小さな大物に会う”企画は継続か?

メイン企画と分かっているからか、“スモール3”はハシャいだり、ボケ倒したり、明らかにテンションアップ。出川が「ZOZO」を「ジョジョ」と言い間違えたり、田中がキャラにない暴言を吐いたり、岡村が大声でヨイショしたり。ボケとツッコミに分かれるのではなく「3人ともボケ」の立ち位置から前澤社長に絡んでいった。

100億円と言われる豪邸も、愛車のマイバッハプルマンも、30人限定の会員制レストランも、年末特番にふさわしいレア映像であり、いわゆる画力(エヂカラ)があった。だからこそ、約70分もの長時間を割いたのだろう。

しかし、そのことで「“スモール3”よりも前澤社長がクローズアップされ続ける」という結果になったのは、もったいなかったのでは……と思ったが、よくよく考えてみると、彼らは自分たちが目立つより、大物に会いに行って引き立てるほうがフィットするのかもしれない。

もし番組がシリーズ化されるのなら、前澤社長のような「“小さな大物”に会いに行く」という“スモール4”コーナーはアリだろう。事実、前澤社長は「ソフトバンクの孫(正義)さんも、ユニクロの柳井(正)さんも、僕より小さい。経営者は小さい人が多い」と言っていた。

番組は最後に「結婚相談所に行ってみたい」という岡村の希望をかなえるロケへ。岡村は「年齢は28歳から、血液型はこだわりなし、初婚で、子どもはほしい」という条件で会員検索。すると対象女性が559人と多すぎたため、「身長155㎝以上、体重55kg前後」という条件を加えて52人に絞り込んだ上で、プロフィールを見て15人にお見合いを申込み、3人と会えることになった。

お見合いは出川が、「(岡村は)大人になったなあと思って。ちゃんと会話できてるから……」と涙ぐむほどの真剣ムード。しかし、その結末は岡村が「これ以上、取材はお断りやわ。そっとしといてほしいわ。好印象だった女性はいるよ」と語る、リアリティ重視の尻切れトンボ。クレジットのスーパーが流れ、あわただしく終了してしまった。

『27時間テレビ』や大みそか特番で見たい

そのあっけないエンディングに「エッ!? これで終わり?」と思った人は多かっただろう。正直、「2時間番組に2日間ロケを行う」「カメラを回しっぱなしで大半は使われない」という、岡村いわく“ストロングスタイル”の制作スタンスだっただけに、もったいなさを感じさせた。

今秋、ドラマ『今日から俺は!!』(日テレ系)が未公開シーンを含む映像をHuluで配信してファンを喜ばせ、会員数を稼いでいたが、当番組も何らかの形で3人のトークをもっと見せられないものか。

ともあれ、人気絶頂でますます勢いに乗る出川と、『チコちゃんに叱られる!』(NHK) のヒットでノリノリの岡村、さらにレギュラー番組が最も多く、誰よりも楽しそうにボケる田中をキャスティングした制作サイドの功績は大きい。

終わってみれば、3人にとってはごほうびのようであり、視聴者にとっては「やっぱりフジテレビはこうあってほしい」という思いを呼び起こす企画だったのではないか。その意味では視聴率の高低に関わらず、成功と言えるのかもしれない。

小さな3人がはしゃぐ姿は、どこかかわいらしく、笑いも癒やしも生み出せる。今回は第1弾ゆえ「小さい」に固執したトークが多かったが、まだまだ試運転の感が強く、この3人ならやればやるほど笑いの質量は高められるだろう。

今振り返っても“ビッグ3”のオーラは強烈であり魅力に直結していたが、スモール3には真逆の親近感があり、それは現在の視聴者嗜好にフィットしている。第2弾、第3弾と順調なステップを踏めれば、『FNS27時間テレビ』や大みそか特番も……そんな期待を抱かせてくれる番組だった。

次の“贔屓”は…激動の2018年を経た新年1回目『世界の果てまでイッテQ!』

『世界の果てまでイッテQ!』出演者

来週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、来年1月6日に放送される日本テレビ系バラエティ番組『世界の果てまでイッテQ! 2時間SP』(19:00~)。

もはや説明不要の超人気番組だが、次回は2019年1回目の放送だけに、イモトアヤコ、出川哲朗らエース級を投入した2時間SPで勝負。人気絶頂の状態から、スキャンダルに見舞われた昨年を経て、どんな変化が見られるのか。裏番組のライバル『ポツンと一軒家』(ABCテレビ・テレビ朝日系)も2時間半特番を仕掛けるため、いきなりの真っ向勝負となる。

■木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者。毎月20~25本のコラムを寄稿するほか、解説者の立場で『週刊フジテレビ批評』などにメディア出演。取材歴2,000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日の視聴は20時間(2番組同時を含む)を超え、全国放送の連ドラは全作を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの聴き技84』『話しかけなくていい!会話術』など。