テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第47回は、24日に放送されたフジテレビ系バラエティ特番『ザ・細かすぎて伝わらないモノマネ』(21:00~)をピックアップする。

今年3月に惜しまれながら長い歴史に幕を閉じた『とんねるずのみなさんのおかげでした』(以下、『みなさん』)。その中で最も存続希望の声が多かった「博士と助手~細かすぎて伝わらないモノマネ選手権~」が早くも特番として帰ってきた。

「約3カ月間に渡る全国オーディションを行った」というネタの質に期待できる一方、出演者に木梨憲武と関根勤の名前がないほか、「別の番組」とうたっているなど未知数のところも多い。気は早いが、第2回やレギュラー放送化の可能性も探っていきたい。

「50組120人以上」「106ネタ」の大放出

石橋貴明

番組冒頭で「常連から初出場まで50組120人以上」という出演芸人数が明かされた。『みなさん』時代とは異なり、「これ一本」での2時間超特番だけに当然かもしれないが、無名芸人のチャンスが広がったのは間違いない。

オープニングトークをサッと終えてネタがスタート。キャン×キャンの長浜之人が登場すると、画面右上に「ネタ数1/106」の文字が出ていた。この時点で「106本も見られるのか!」と歓喜したファンは多かっただろう。

その後、常連の梅小鉢・高田紗千子、初出場のホビー、常連の阿佐ヶ谷姉妹、バナナマンの後輩・オキシジェン、常連のこにわ、テレビ初出演のチューチューチューと、新旧メンバーがバランスよくラインナップされている。その中には、7年目のピン芸人・森本サイダーによる「雨の日のストーカー」、カニササレアヤコの「冬の訪れに気付く清少納言」などの強烈ネタもあった。

自ら語るやたら長いお題、その時点で漏れる笑い声、スベりやすいマニアック芸を助ける落下、出演者たちの笑い顔カット、設楽統によるネタの補足説明、テロップの一口メモ…スタジオに木梨と関根がいないことと、それによる「博士と助手」の設定がない以外は、ほとんど変わっていなかった。

いや、「変わっていなかった」というより、「変えなかった」というべきかもしれないし、「変えたら叩かれる」という批判を恐れたのかもしれない。

若手芸人にはチャンスとサポートだらけ

「変えなかった」という意味で、全体を通して感じられたのは温かいムード。

石橋は「トップバッターとしては最高の出来ですね」「よかったです」「確立したね。立派になられて」「頑張ってもらいたいですね。そのチャンスはありますから」「オンエアしてあげてください」。日村勇紀は「すごい!」「正面(の顔)がすっごい似てた」「わかるわかるわかる」「はぁ~面白い」「ド直球できましたね」。設楽は「もうオーラがすごい」「大胆な説!」「貫録たるやすごい」「今の相当いいですよ」「すごいとこやってるね」と、メインの3人はスベリ気味のネタでも笑みを欠かさないなど、温かいムードを作っていた。

そもそもブレイクへの登竜門である上に、「ウケるウケない」に関わらず自分らしいネタを披露できる場所であり、しかも落下という笑いのフォローが得られ、出演者とスタッフが視聴者の笑いを誘ってくれる。若手芸人にとっては、チャンスとサポートだらけの環境であり、それは「師匠を持たない」「下積み生活のない」とんねるずならではの純粋な温かさにも見えてしまう。

ただ、その温かさはこれまでよりも、ぬるかったようにも感じた。その理由は、誰よりも大笑いするマニアックモノマネのレジェンド・関根勤と、ネタ受けのコメントをディープな方向に展開する木梨憲武がいなかったからだ。

2人がいない事情はさておき、関根と木梨の不在でマニアックな視点と脱線トークが消えていたのは事実。明らかにドラマの番宣で呼ばれて浮いていた今田美桜を含め、「過去の放送より自分の言葉で生き生きと話す人材がいなかった」と感じた人は少なくなかったのではないか。当企画の主役はモノマネをする芸人たちだが、彼らを輝かせる助演の熱量が感じられなかったのは、やや気がかりだ。

そう感じながらネットの声を拾ってみると、喜びと同等程度の質量で、嘆き、怒り、あきらめなどの声が飛び交っていた。「なぜノリさんと関根さんがいないのか?」「“博士と助手”という設定が良かったのに」「このコーナーだけでなく『みなさん』を返せ!」。さらには、「年末年始で『2億4000万(のものまねメドレー選手権)』もやってほしい」「『全落(オープン)』とセットで放送のほうがいい」というものまであった。

『土曜プレミアム』の看板企画へ

週明けに発表された同番組の視聴率は10.4%(ビデオリサーチ調べ・関東地区)。成否の判断材料としては微妙な数字だが、Twitterを席巻するような破壊力のある新ネタがなかったにも関わらず、視聴者の反応は決して悪くない。これはすなわち、企画自体が面白いからであり、続けてさえいれば再びキンタロー。の初登場時にも負けない破壊力のある新ネタが見られるのではないか。

そんな期待感を持ちつつも忘れてはいけないのは、スタッフの地道かつ多大なる努力。膨大なネタをひたすら見続けてジャッジするなど、大規模なオーディションの労力は視聴者が思っている以上に大きい。つまり、「それなりに売れていて実力を把握している芸人を使えばする必要のない」苦労をいとわない姿勢は、もっと評価されてほしい感がある。

番組の最後に、石橋の「平成最後の『細かすぎて』。11月がこんなに盛り上がったので、次回は12月で!」というボケを設楽が「もうちょっとだけスパン明けてまたやりたいですけど」と受けるくだりがあった。

さらに日村が「『2億4000万』もやってもらいたいですけど」と話を広げると、石橋が「それはやらないです」と即答。ただ2人のムードを見る限り、これは逆の意味で「絶対にやろう」という意志表示に見えた。

少なくとも『ザ・細かすぎて伝わらないモノマネ』は“第1回”とうたっているだけに、第2回は確実視されている。松本人志の『すべらない話』『IPPONグランプリ』と同様に、とんねるずの『ザ・細かすぎて伝わらないモノマネ』『2億4000万のものまねメドレー選手権』『全落オープン』なども、今回の放送枠『土曜プレミアム』の定番ラインナップに加わっていくのが既定路線ではないか。

しかし、木梨の不在理由が一部報道にあるように「『とんねるずのみなさんのおかげでした』という番組ごと復活させなかった」ことなら、不安材料は解消されていない。今回の放送でも、そんな着地の乱れが影を落としていただけに、 定番化の際にはとんねるずそろっての出演が望まれる。「この約8カ月間、ドキュメントバラエティばかりが増えている」という背景もあって、「何も考えずにただ笑えるネタ番組はやっぱり楽しい」「とんねるずと『みなさん』は貴重だったんだな」と実感した人は多いだろう。

次の“贔屓”は…“さんま×女芸人”の化学反応は?『さんま&女芸人お泊り会』

明石家さんま

今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、12月1日に放送されるフジテレビ系バラエティ特番『さんま&女芸人お泊り会~人生向上の旅~』(21:00~)。

今年5月に放送された“明石家さんま×女芸人×旅”企画の第2弾。前回は春の箱根だったが、今回は秋の鬼怒川へ。さんまと17人の女芸人がTikTokに挑戦したり、インスタ映えスポットをめぐったり、サプライズコーナーもあるという。

前回は「あらためてさんまのすごさが分かった」「女芸人限定なのがいい」などの称賛と、「ただの飲み会」「過剰な接待が見苦しかった」などの酷評が真っ二つだっただけに、今回はどんな変化や進化が見られるのか。25日に放送された『誰も知らない明石家さんま3時間SP』(日本テレビ系)とも比較しながら、バラエティ特番のあり方についても掘り下げていきたい。

■木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者。毎月20~25本のコラムを寄稿するほか、解説者の立場で『週刊フジテレビ批評』などにメディア出演。取材歴2,000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日の視聴は20時間(2番組同時を含む)を超え、全国放送の連ドラは全作を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの聴き技84』『話しかけなくていい!会話術』など。