テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第46回は、17日に放送された『嵐にしやがれ』(日本テレビ系、毎週土曜21:00~)をピックアップする。

何度かリニューアルこそしているが、「スタジオあり、ロケあり」「グルメあり、ゲームあり」のタレント総合バラエティとして、2010年4月のスタートから約8年半が経過。『SMAP×SMAP』(フジテレビ系)が終了してからは、“アイドルグループ唯一のゴールデンタイム総合バラエティ”として存在感を放っている。

今回の放送は、「嵐vs山田孝之のうどんデスマッチ」「相葉雅紀と風間俊介の軽井沢ツーリング」「二宮和也とアートパフォーマー」の3本立て。いまだ「ただのアイドルバラエティ」と揶揄(やゆ)する人もいるが、実際はどうなのか? タレント総合バラエティの肝である「タレントと企画のバランスは?」「マンネリはないのか?」も含め、3つのチェックポイントから検証していく。

  • 『嵐にしやがれ』(C)NTV

つかみの笑いは、ゆるい手押し相撲

現在の番組構成は、ゲストを招いて絶品グルメを賭けた「デスマッチ」、メンバーの個性を生かした週替わりのロケ企画、スタジオ収録の「隠れ家ARASHI」。この3部構成でテンポよく進んでいくため、「興味の薄い企画でもザッピングせずに“ながら見”できる」という視聴者は多いのではないか。

今回のオープニングコーナーは、「そば好きの山田孝之をうどんでビックリさせよう」という「うどんデスマッチ」。しかし、その前に山田から「体幹が異常に強くて10年以上転んでないので、転ばせてほしい」とリクエストがあり、山田vs嵐の手押し相撲がはじまった。

嵐のメンバーはあっさり負けていくが、最後にふらついた山田が松本潤にハグする形で負けて終了。「お互い負けても悔しそうな顔をしない」というゆるい勝負をつかみにするあたりは、いかにも嵐の冠番組らしい。

「うどんデスマッチ」は、嵐が次々に正解して「山田のみがうどんを食べられない」という展開に。山田は「どんな卑怯な手を使ってでも食べたい」「トンチンカンな答えをしている相葉さんには負けません!」と本気モードだったが惨敗を喫し、「そば好きがうどん食ってる嵐を見に来ただけで終わった…」というオチがついた。「演出かやらせか?!」紙一重の流れだが、もし台本通りだったとしても、その緻密さは称賛されるレベルではないか。

特筆すべきは、嵐の食レポ。二宮和也は「うめえ、(香川県出身の)要潤ありがとう」、大野智はごぼう天をポテトフライのように食べ、櫻井翔は「ルーがサラサラしていて麺に絡む。(収録)3本目でもガンガンいけます」、松本潤は「味噌煮込みうどんって食べた記憶がないけど、麺が負けない感じで、バランスを計算して作ってるのがわかる」、相葉雅紀が「これは何なんだろう? 小麦の甘さがすごく伝わる。新しいな」と5者5様のコメントとリアクションで盛り上げた。

同コーナーは「番宣絡みのゲストばかり」と言われることもあるが、山田が「早押しボタンを押せることにドキドキしています。記憶にない」と語っていたように、バラエティへの出演が少ない俳優のキャスティングが多い。来週出演の黒木華を見てもわかるように、嵐とのかけ合いはレアであり、期待感がある。

ボーイズラブ企画でファンサービス

続くコーナーは、相葉と「かつて週3で遊んでいた」大親友・風間俊介との軽井沢ツーリング。しかし、風間はバイクに乗れないため、「1台のバイクに相葉と2人乗りする」というボーイズラブ的な展開が肝となっていた。

相葉が「(ツーリング相手が風間と聞いて)うれしかったよ」と言うと、番組は「2人が21年前に出会い、総武線で一緒に通っていた」ことをナレーションでフォロー。さらに、相葉の「最近売れたね」に風間が「そんなことないよ。お互い忙しくなったね」と返すと、再びナレーションで「風間は今でも相葉のドラマや映画の現場に必ず差し入れを持って行く」という仲の良さを伝えた。

その後も、絶品フレンチトーストを食べながら“ZIP!ごっこ”したり、白糸の滝を見てなごんだり、おみくじを引いて相性抜群と出たり、イワナの塩焼きを食べたり。極めつけはバイクのタンデム中に、相葉が「いいんだよ、くっついても」と言い、風間が「あっためてあげようか?」と返したシーン。純然たるファンサービスのコーナーと化していた。

ただ、最後のスポットに着いた瞬間、風間が「(次の仕事へ行く時間で)もうだめだ」と離脱。相葉は「あんなゲストいる?」と初めて不満げなリアクションを見せたが、すぐに「(僕も風間と)同じ新幹線じゃん! じゃあね」と笑顔で去っていった。さんざんボーイズラブを見せておきながら、こんな2段オチで締めくくるところは、日本テレビのバラエティならではか。

最後のコーナーは、スタジオに巷でウワサの人物を招くスタジオ企画「隠れ家ARASHI」。今回は「秋のアートパフォーマンスSP」と題して、ローラーアート、無重力ジャグリング、左官職人アート、高速タイピングの達人が登場した。

このコーナーは、「無理矢理にでも盛り上げる」というより、「前コーナーまでの心地よいムードを損ねずにソフトランディングさせる」というイメージ。最初から最後まで詰め込もうとしないゆるさが、前述したように嵐のタレントイメージにぴったり重なる。

バラエティに不慣れな俳優が出たい番組

最後に、冒頭に挙げた3つのポイントを検証していく。

「ただのアイドルバラエティ」と揶揄する声に対する答えはノー。嵐は約20年、十数本もの冠番組を経験してきた“テレビ業界における冠バラエティのベテラン”であり、その存在感は“ただのアイドル”を超えている。

実際、当番組もスタート当初こそ、「台本なしで収録に臨み、新鮮なリアクションがそのまま見どころとなる」という初級者仕様だったが、その後、彼らの力を踏まえた現在の構成にリニューアルした。

嵐のメンバーは、自らの強みである仲の良さ、ゆるさ、まじめさをベースにしながら、ツッコミ、ボケ、フォローなども各自きっちり。それぞれがアクションもリアクションもできるから、たとえば「デスマッチ」では5人全員がホスト役となってバラエティ慣れしていないゲストを盛り立てるなど、ゆるく、でも確実に、進化を遂げている。

また、「人気者になるほどロケ企画は減る」のがタレントの常であり、先輩アイドルたちにもその傾向があったが、嵐にはそれがない。「ロケができる=企画のバリエーションが広がる」だけに、それが「マンネリはないのか?」という問いの答えになる。企画の変更をいとわないスタッフの柔軟性もあって、こちらの答えもノーと言っていいだろう。

ところが、「タレントと企画のバランスは?」という声に関しては、微妙なところがある。そもそも「世の中の何でもないことを嵐がスペシャルにする」というコンセプトが、企画よりも嵐のイメージを優先したタレント重視。「嵐と土曜の夜にゆるりとした時間を過ごす」というムードもあって、エッジの効いた企画は番組に合わないのだ。

嵐が現在の人気を保つ限り、タレント重視の方針は変える必要がなく、安定した視聴率をキープしていくのではないか。ゲスト出演する芸能人の事務所としても、「嵐と絡めることで、好感度が上がりやすい」「“笑いの戦場”ではなく、ゆるいムードのためリスクが少ない」「出演作やリリース商品などを確実にPRできる」など、いいこと尽くめ。

アンチアイドル、アンチ嵐の人には、なじみがないだろうが、「日本テレビのバラエティは詰め込み型ばかり」と言われる中、ふっと息抜きさせてもらえるような…何気にいい番組だったりする。

次の“贔屓”は…早くも帰ってきた看板企画『ザ・細かすぎて伝わらないモノマネ』

『ザ・細かすぎて伝わらないモノマネ』に出演する(左から)設楽統、石橋貴明、今田美桜、日村勇紀 (C)フジテレビ

今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、24日に放送される『ザ・細かすぎて伝わらないモノマネ』(フジテレビ系、土曜21:00~)。

今年3月、惜しまれながら長い歴史に幕を閉じた『とんねるずのみなさんのおかげでした』。その中で最も存続希望の声が多かった「細かすぎて伝わらないモノマネ選手権」が、早くも特番として帰ってくる。

「約3カ月にわたる全国オーディションを行った」というからネタの質は大いに期待できるだろう。ただ、出演者に木梨憲武と関根勤の名前がないほか、「まったく新しい番組」とうたっているだけに未知数のところが多い。気は早いが、第2弾やレギュラー放送化の可能性なども探っていきたい。

■木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者。毎月20~25本のコラムを寄稿するほか、解説者の立場で『週刊フジテレビ批評』などにメディア出演。取材歴2,000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日の視聴は20時間(2番組同時を含む)を超え、全国放送の連ドラは全作を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの聴き技84』『話しかけなくていい!会話術』など。