テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第44回は、2日に放送されたフジテレビ系バラエティ番組『坂上どうぶつ王国』(毎週金曜19:00~)をピックアップする。
坂上忍をMCに迎え、今秋にスタートしたばかりの動物バラエティだが、早くも「動物に癒やされる」「『志村どうぶつ園』(日本テレビ系)のパクリ」という賛否両論が飛び交っている。
「人間と動物の楽園をイチから作り上げる」という、かつての『ムツゴロウとゆかいな仲間たち』(フジ系)を彷彿(ほうふつ)させるスケールの大きな番組を目指しているだけに、どんなスタートを切ったのか? この段階で一度、掘り下げておきたい。
大型動物の飼育にたどり着けるのか
この日は4回目の放送。当番組の売りは、「よくあるバラエティ的なノリではなく、坂上が自腹を切ってどうぶつ王国を作る」ことであり、本気度の高さにある。
実際、坂上は初回の冒頭で、「動物のお世話をして人生を終えたい。僕の終活」「どんな労力でも払える。個人でもやろうと思っていたこと」「知り合いの不動産屋さんに『最低東京ドーム1個分入る土地はどこかにありませんか』とお願いして、すでに何か所か見て回っている」と力強く語っていた。
ただ、オープニングのイメージ画像には、イヌ、ウシ、ヒツジ、ブタの飼いやすそうな動物に加え、ペンギンやダチョウ、さらにキリン、ゾウ、パンダと「飼えるのか?」というものまで王国に組み込まれている。「随分、大風呂敷を広げたな」という印象だが、大型動物の飼育までたどり着けたのなら快挙である反面、テレビ番組としてのリスクは果てしなく大きい。
番組では、「土地探し、施設作り、動物の譲渡など、王国建設の様子をドキュメントで追っていく予定」だが、まずはその前に「王国に迎え入れる仲間探し」から放送していくという。この日は前々回のカワウソに続いて、アルパカとふれ合い、坂上は「飼います!」と宣言して盛り上げたが、この番組構成に視聴者から賛否が挙がっているのだ。
動物とふれ合って仲間探しするコーナーは、必然的に『天才!志村どうぶつ園』に近いものになっていく。坂上は同番組に準レギュラーとして出演していたこともあり、現時点では「看過できない」という動物番組ファンの声は少なくない。一方で、「『志村どうぶつ園』より1日早く放送する『坂上どうぶつ王国』のほうが有利」というビジネス上の戦略では抜け目なさを感じてしまう。
今回のコーナーは3つ。まず「生き物と暮らす自然を取り戻す! 自然再生プロジェクト」として、片平なぎさと高橋海人が神社境内の池作りに挑戦。続いて坂上が『那須アルパカ牧場』でアルパカの生態を学んだ。最後にゲスト・平野紫耀が生後2カ月の赤ちゃんライオンにミルクやり体験して終了。確かに「似ている」と言われても仕方がない内容だった。
王国建設を進めれば、『志村どうぶつ園』ではなく『ムツゴロウとゆかいな仲間たち』に近づき、批判の声を抑えられるだけに、相手は生き物とは言え、少しでも急ぐべきだろう。次回の放送で、「どうぶつ王国建設に向けたある発表」があるようなので、好意的に待ちたいところだ。
クレーム対策とタレント重視は要調整
スタジオで坂上はヒザの上に愛犬・森田パグゾウを抱っこしてデレデレ。赤ちゃんライオンが登場したときも目尻を下げていたほか終始笑顔で、エンディングには12匹の愛犬とふれ合う「今日の坂上家」というコーナーもある。
今後も、動物たちの出産や成長などの幸福から、病気や死などの不幸まで、さまざまなドラマが映され、笑い泣きする坂上の姿を見せていくのだろう。当然ながら『バイキング』(フジ系)との落差は激しく、この番組が本格化したころ坂上を見る視聴者の目は変わっているのかもしれない。
ただ、動物番組にはクレームがつきもの。たとえば、前々回の放送でX JAPAN・Toshlが子犬たちの前でギターを弾きながら声を張り上げて「犬のおまわりさん」を歌い、キャスト全員で手拍子したシーンを見た視聴者から、「子犬を何だと思っているのか!」「怯えている子がいたぞ」という怒りの声があった。今秋で終了した『トコトン掘り下げ隊! 生き物にサンキュー!!』(TBS系)は何度もクレームに苦しめられていただけに、十分すぎるほどの対策が求められている。
レギュラー陣を見ると、「好きなお笑い芸人1位」のサンドウィッチマン、中高年層が親しみを抱く大女優・片平なぎさ、今年のブレイク芸人・くっきー、若手女優の堀田真由、アイドル・高橋海人と、幅広い視聴者層をカバーした構成となっている。特にブレイク前の堀田と高橋は、動物相手の奮闘が成長ドキュメントにもなっていくだろう。
しかし、現状では「動物よりもタレントにフィーチャーしすぎ」という声が目立つなど、動物好き視聴者からの評判は微妙なところ。まだスタートしたばかりの番組ではあるが、クレーム対策としての配慮も含め、演出面では調整の余地が散見される。
金曜19時は動物番組の激戦区に
最後にふれておきたいのは、金曜19時という放送時間。そもそも金曜夜は2年前から『超かわいい映像連発!どうぶつピース!!』(テレビ東京系)が放送され、動物が好きな人々にとってはテレビ視聴習慣のある時間帯だった。
フジテレビも、ただ後発として戦いを挑むのではなく、前番組『モノシリーのとっておき』で動物特集を連発。5月以降は約半分の放送回で動物絡みの映像を流し、『坂上どうぶつ王国』の布石を打っていた。つまり、動物好きの視聴者がいる時間帯で、周到な準備をした上で勝負を仕掛けたことになる。
強気なイメージのある坂上の番組である上に、「数少ない動物番組の放送時間をバッティングさせる」という強硬策を取ったことで、しばらくは批判的な声が避けられそうにない。裏を返せば、それでもやるべき番組だったということだろう。
また、「どう見ても忙しい坂上忍がどこまでロケに出られるのか」「王国ができたあと世話ができるのか」という問題も抱えている。「忙しく働いて稼ぐことで王国の建設資金を作る」「王国が本格始動したら仕事を減らして世話をする」のかもしれないが、現在の視聴者はせっかちなだけに、やはり急いだほうがいいのではないか。
ネット上には、アンチ坂上と思しき人々からの「パクリ」「恩知らず」などの声があり、動物学の大家であるムツゴロウとの比較も含め、いばらの道であることは間違いない。しかし、「終活」と言い切る坂上の覚悟と動物への愛は本物。「今は何を言われようが、いつかは坂上の姿勢が人々の共感を集めるのではないか」とも期待してしまう。
だからこそフジテレビには『バイキング』と同等以上のフォローが求められるし、視聴率うんぬんでの早期打ち切りなどあってはならない。その意味では、「フジテレビの姿勢が問われる番組」と言えるのではないか。
次の“贔屓”は…「MC・中居正広」の基盤を作った『金スマ』
今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、9日に放送される『中居正広の金曜日のスマイルたちへ』(TBS系、毎週金曜20:57~ ※9日は20:00~)。
公式ホームページに「金スマは、女性のリフレッシュをめざし、様々な悩み・ストレスを解消していく番組です」と書かれているように、同番組の特徴であり強みはノンセクションであること。
次回の放送は2時間スペシャルだが、内容は一切明かされていない。放送直前までテレビ誌やネット上にすら明かされないにもかかわらず、人気を集めている秘けつは何なのか。さらに、「今やトップMCとなった中居正広がこの番組でどのようにスキルを磨いたのか」という視点でも見ていきたい。
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者。毎月20~25本のコラムを寄稿するほか、解説者の立場で『週刊フジテレビ批評』などにメディア出演。取材歴2,000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日の視聴は20時間(2番組同時を含む)を超え、全国放送の連ドラは全作を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの聴き技84』『話しかけなくていい!会話術』など。