テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第43回は、10月27日(18:55~21:00)に放送された『ジョブチューン~アノ職業のヒミツぶっちゃけます!』(TBS系)をピックアップする。

2013年2月のスタートから早5年9カ月。ほぼ『炎の体育会TV』と交互の隔週放送ではあるものの、すっかり土曜夜の定番となった。今回の放送は「ホンモノの元警察官たちがぶっちゃけ! 警察への国民のギモンすべて解決スペシャル!」。交通違反、泥棒、オレオレ詐欺などから、「刑事になるには?」「お給料はいくら?」まで盛りだくさんの内容であり、通算9回目となる名物企画だけに番組の肝が見えるはずだ。

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    『ジョブチューン』MCのネプチューン

1テーマで2時間押し切るスタッフの力

スタジオには、捜査一課・二課・三課から、公安、SP、署長、駐在、白バイまで、9人の元警察官が登場。彼らが「警察の内情をぶっちゃける」「詐欺や空き巣の最新手口と対策を紹介する」という2段構えの構成は2時間特番にふさわしい。

序盤から、「窃盗は犯罪の7割を占め、個人宅を狙った侵入盗は年間3万7,000件あり、11月が最も多い」「空き巣に狙われやすい家、5つポイント」「今年警察官の発砲は7件」「一般企業の課長クラスにあたる40代前半警部の最高年収は1300万円だった」「平成29年のオレオレ詐欺による被害総額は208億円」など驚きの数字が次々に飛び出した。具体的な数字にこだわる姿勢が、番組への信頼につながり、人気のベースとなっている。

次に披露されたのは、「白バイを運転中、暴走族に囲まれた」「覚せい剤中毒者を逮捕するとき、寝ていると思ったら布団の中で拳銃を持っていた」「ほかの刑事から犯人の手と間違えて手錠をかけられ、合い鍵がなく10時間以上つけられたままだった」「SPはお風呂のときも拳銃を持っている」など、笑いを伴うディープなエピソード。

さらに、全員が「ホント」「ウソ」の札を上げる「刑事ドラマのウソ、ホント」、カラス(空き巣)、ヨイアキ(宵の時間を狙う空き巣)、志願兵(留置場に入りたがる人)などの専門用語を紹介、北川景子と千葉雄大へのクイズや「スタジオの誰が警察官に向いているのか」など、エンタメ度を高めるコーナーも充実している。

エピソードトーク、再現ドラマ、ロケ、インタビュー、最新情報と対処法…警察官という1テーマで押し切る上で、飽きられないための構成・演出が必要だが、スタッフの仕事はどこまでも丁寧かつ全力投球。今回で言えば、元警察官たちへのヒアリングに心を砕き、入念に構成・演出を練り上げる様子が伝わってきた。

エース・飛松の「女性警察官はブスばかり」

警察という切り口が9回も放送されているのにはワケがある。元捜査一課・刑事の飛松五男という、ぶっちゃけコメントのスーパーエースがいるからだ。

この日も代名詞となった「女性警察官はブスばっかり」が2度も炸裂したほか、「(逮捕や違反切符などの)警察の仕事はノルマあってのこと」「隠れたほうが捕まえやすい」「(交通違反切符は)僕も切られたことある」

「殉職したら人よっては5億円くらいもらえる、香典と弔慰金があるからね」「拳銃を持つのは半年に1回くらい。(刑事ドラマは嘘ですか?)はい」「出世する人はみんな腹黒い」「かわいい女性の家へ巡回で行っていた。まゆみちゃん、今でも覚えてます」などと大放言。どこまでもストイックな元公安捜査官・江藤史朗、女性初の元警察署長・小山雅子、離島の素朴な元駐在所員・前田正美など、しっかり色分けされたゲストの中でも、オチの大半を担うなど、ぶっちぎりの存在感を見せた。

お金話と自慢話を繰り返して土田晃之からツッコミを受け、「『あぶない刑事』は100%作り話、『西部警察』の大門刑事は銃刀法違反の現行犯」と言い切るなど、飛松に食い下がった元捜査一課・刑事の大澤良州も含め、元警察官たちのコメント力は総じて高い。文化人や専門家の枠を超えて、タレントと言っていいかもしれない。

土田が飛松に「そのへんのおじさんのエピソードと一緒」とツッコミを入れていたが、それもまた当番組の核となるところだろう。毎週さまざまな分野のプロフェッショナルが出演しているが、いずれも「偉い人」「すごすぎる人」というより「一般人」「ふつうのオッサン」というノリがある。つまり、どんなプロフェッショナルも人間であり、親近感があるからこそ、ゆるりとした休日夜の放送にフィットしているのだ。

一方ではなく両論を設ける周到さ

『相棒』(テレビ朝日系)をはじめとする刑事ドラマが連ドラの最大派閥になって久しいが、当番組は「刑事ドラマのウソ、ホント」というコーナーで、その時流を巧みに利用している。

今回も「犯人と乱闘になることはよくあるの?」「相棒ってホントにいるの?」「犯罪者から捜査のヒントをもらうことはあるの?」「情報屋ってホントにいるの?」など視聴者目線の疑問を元警察官たちにぶつけていた。

注目すべきは、イエス・ノーの一方ではなく必ず両論を放送していたこと。視聴者のミスリードを避けるとともに、現職警察官などからの苦情対策にもなるなど、やはりバランスの良さが光っていた。

唯一気がかりなのは、警察、病気、食品、スポーツなどのメジャーテーマに偏りがちであり、必然的に生活情報に頼ってしまっていること。視聴率獲得を狙ったテーマほどこの傾向は強くなるが、現状では前述したエンタメ度の高さで幅広い年齢層の視聴に対応できている。

振り返れば、当初から「さまざまな職業のプロフェッショナルが秘密をぶっちゃける」というコンセプトに目新しさはなかった。現在のような人気番組となり得たのは、MC・ネプチューン、レギュラーパネラー・バナナマンと土田晃之、進行・田中みな実、ナレーター・服部潤の力も大きいのではないか。

「ゲストを全面に出し、存分に話を引き出したそのあとに、自らもアクセントになる」など、番組を陰で支える8人もまた同様にプロフェッショナルであり、彼らあっての『ジョブチューン』と言える。

次の“贔屓”は…「『志村どうぶつ園』と似てる」は本当か?『坂上どうぶつ王国』

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『坂上どうぶつ王国』MCの坂上忍

今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、2日に放送される『坂上どうぶつ王国』(フジテレビ系、毎週金曜19:00~)。坂上忍をMCに迎え、今秋にスタートしたばかりの動物バラエティだが、早くも「動物に癒やされる」「『志村どうぶつ園』のパクリ」という賛否両論が飛び交っている。

「人間と動物の楽園をイチから作り上げる」という、かつての『ムツゴロウとゆかいな仲間たち』(フジ系)を彷彿(ほうふつ)とさせるスケールの大きな番組を目指しているだけに、どんなスタートを切ったのか? この段階で一度、掘り下げておきたい。

■木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者。毎月20~25本のコラムを寄稿するほか、解説者の立場で『週刊フジテレビ批評』などにメディア出演。取材歴2,000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日の視聴は20時間(2番組同時を含む)を超え、全国放送の連ドラは全作を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの聴き技84』『話しかけなくていい!会話術』など。