テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第41回は、14日に放送された『ポツンと一軒家』(ABCテレビ・テレビ朝日系、毎週日曜19:58~)をピックアップする。
衛星写真で発見した「人里離れた場所にポツンと建つ一軒家」を捜索するドキュメントバラエティ。「どんな人が、どんな理由で暮らしているのか」という好奇心に加え、道中で出会う地元住民との交流などのハートフルな人間模様が魅力となっている。
特番として初めて放送されたのは、昨年10月22日。それからわずか1年の間に計8回も放送し、今秋からレギュラー化された勢いは本物なのか? ただ、「特番に留めておいたほうがよかった」という声もあるだけに、その是非についても考えていきたい。
冒険のテンションを生み出すスタッフの努力
この日はレギュラー化を記念した初回2時間半SPの翌週で、第2回の放送。つまり、初めての通常1時間版であり、まずは番組のフォーマットが気になったが、紹介されたポツンと一軒家は2軒だった。
一軒目は、静岡県浜松市北部にあるポツンと一軒家。周囲の木々が伐採された一軒家の衛星写真を見たMCの所ジョージと林修、ゲストの内藤剛志と馬場ふみかは、「きれい(に伐採されている)だから芸術家かな」「神経質なタイプかも」と住人を予想して、視聴者の想像力をあおった。
最寄りの集落から捜索開始。情報を得るべく地元住人に聞き込みをすると、何と空き家であることが判明してしまい、ロケ終了のピンチに…。しかし、3km離れた場所にある別のポツンと一軒家を紹介してもらうことができた。「2年前に移住してきた有名な竹細工職人が住んでいる」という。
編集で「空き家だった」というくだりはカットできたはずだが、あえて見せることでドキュメント要素を担保。この流れは『家、ついて行ってイイですか?』(テレビ東京系)や『世界の村で発見!こんなところに日本人』(ABC・テレ朝系)などのドキュメントバラエティと同じであり、現在の視聴者が好む演出と言える。
ただ、辺境地とは言え「ポツンと一軒家」というテーマは、視聴者にとっておおよその予想がつく身近なものだけに、演出面での盛り上げが必要だ。「道幅が狭く、急な坂道」「木々が鬱蒼(うっそう)と生い茂る林道」「車幅ギリギリ間際に崖が迫る」「再び薄暗い森の中へ」のテロップと、「グッと坂が上がりますね」「急に暗くなった」「すごい山の中だ」「あるの? 本当に」の声。どちらもスタッフによるやや過剰気味な演出だが、“冒険”のテンションを生み出す努力に違いない。
一軒家らしきものを見つけたところでCMに入り、番組に戻ると再びポツンと一軒家の衛星写真が映される。さらに、「ついに静岡県のポツンと一軒家にたどり着いた。それは深い深い森の奥。高い杉の木の中に埋もれるようにして建つ家」のナレーションに合わせて、ドローンで撮影したであろう衛星写真と同じアングルの映像が流れた。
「いるかな? 竹の職人さん」「(家が)大きい。車もある」と興奮気味のスタッフが「ごめんください」と声をかけると、鈴木げんさん(43歳)が現れた。すかさず林が「過去最年少じゃないですか?」とフォローを入れる。毎回山奥の住人を扱うだけに、「また似たような人」と思われない気配りが必要なのだろう。
「上から目線と揶揄」は許されない
一軒家は築130年の古民家で、二間続きの和室は25畳もの広さ。移住のきっかけは、竹を採り、火を使う仕事のため、近所迷惑にならないような場所を探していた」から。鈴木さんは29歳から師匠のもとで6年間修業して8年前に独立したという。
住人へのインタビューも、部屋の移動もカメラワークはすべて視聴者目線。「視聴者が山奥を冒険して住人に出会い、謎めいた一軒家を案内してもらっている」という演出が徹底されている。
「電気は通っているのでキッチンコンロはIHヒーター」「システムキッチンから出るのは山の水」「料理はあまり得意ではないため、周囲の人々におかずをもらうなど助けてもらっている」「竹鞄は1個作るのに60時間かかり、8万5000円で4年待ちの人気」「竹の採取から油抜き、天日干し、編み込みまでの工程」が次々に紹介された。
締めくくりは、「夢だった竹職人になり、理想的な環境で仕事に励む充実した日々。今日も1人もくもくと竹を編む鈴木さん。移住してきた自分を受け入れ、助けてくれる地元の人たちにいつか恩返ししたい。山深いポツンと一軒家には、竹細工のように人と人の絆がしっかりと編み込まれていた」のナレーション。
スタジオで所が「かっこいい人でしたね」、林が「今までとはまったく違ったパターンで違った種類の感動がありましたね」、内藤が「愛されてますよね」、馬場が「私も2022年以降の予約をしたいです」と受けて終了した。
2軒目は群馬県南部のポツンと一軒家。「定年になってからずっとここにいる」という瀧本文夫さん(74歳)で、中学校卒業後に集団就職で群馬から上京し、自動車メーカーやバス会社での勤務を経て、9年前まで都営地下鉄で職員をしていたという。
転機は44歳のときにした北海道一周旅行。自然の素晴らしさを実感し、群馬で土地を買って週末農業をはじめた。「千葉にも自宅はあるが、妻の許しを得て年中ここで過ごしている」というから、自由気ままな老後を送る男性像といったところか。
今回は2軒ともポジティブなイメージ一辺倒で、「寂しい」「不便」「他に生きる術がない」などのネガティブ要素はなかった。当番組が最もやってはいけないのは、「辺境地の暮らしを上から目線で見て揶揄する」ことであり、視聴者にそう感じられた瞬間、猛烈なバッシングにさらされるだろう。辺境地だからこそ、住人や家を見世物小屋のように扱うことだけは許されないのだ。
かと言って、美化しすぎてもしらじらしくて小バカにしているような印象を与えかねない。いかにフラットな姿勢を貫けるか。プロデューサー、現場ディレクターともに、公平さや冷静さなどの理性が求められる番組ではないか。
期待される「ポツンと」のスライド企画
日本でロケを行うドキュメントバラエティは、“都会で忙しく働く人”の目線で作られるものが多い。制作サイドが都会で忙しく働いている以上、ある程度は仕方がないが、それが視聴者を選ぶことになりがちなのも事実だ。
その点、当番組は都会も地方の人も平等なコンテンツに見える。ポツンと一軒家の住人は、都会の人にも地方の人にも珍しさを感じさせてくれるし、わざわざ「日本全国大捜索!!」と掲げていることからも、すべての人が楽しむための平等さがうかがえる。
さらに見逃せないのは、両者に共通する「わずかながらの優越感」というメリット。「こんなところに住んでいるんだ」「私には絶対無理」「すごいね。よく住めるな」と言いながら見ている視聴者は多いだろう。前述したように制作サイドは、「辺境地の暮らしを上から目線で見て揶揄してはいけない」のだが、視聴者にはそう感じるよう促しているのだ。
自然災害や事件・事故、各種ハラスメント、監視社会の息苦しさ……ストレスフルな日々を送る人々にとって、これくらいの優越感をさりげなく与えるのもテレビ番組の役割なのかもしれない。
最後にレギュラー化の是非について。コンテンツのジャンルとしては、「いつか飽きられるタイプ」の番組であり、そのことは制作サイドも視聴者も感じているだろう。だからこそ特番を連発するより、「毎週1時間で2人ずつ紹介していく=1年間で約100人」という安定したペースのほうがいいのではないか。今後は住人のいる「ポツンと一軒家」だけでなく、「ポツンと集落」「ポツンと廃墟」など、衛星写真というアイデアを生かしたスライド企画が見られるかもしれない。
今秋に復活した『ナニコレ珍百景』(テレ朝系、日曜18:30~)と視聴ターゲットが近く、番組のつなぎが自然なこと。スタッフが行う国内ロケのみで、スタジオのタレントも4人だけの低予算であること。特番時代から12~15%台の2ケタ視聴率を記録し続けていること(ビデオリサーチ調べ・関東地区)を踏まえると、しばらくは安泰だろう。
次の“贔屓”は…ひたすら街を紹介し続けて23年半!『出没!アド街ック天国』
今週後半放送の番組からピックアップする"贔屓"は、20日に放送される『出没!アド街ック天国』(テレビ東京系、毎週土曜21:00~)。
1995年4月のスタートから放送23年半を超える、『開運!なんでも鑑定団』と並ぶテレビ東京の看板番組。2015年3月に放送1,000回を超え、MCが井ノ原快彦になってからも、毎週ひたすら「街」を紹介し続けているが、現状はどうなのか。
その点、次回の「高円寺」は、番組の定点観測という意味で打ってつけの街。都内屈指のサブカルタウンだけに、番組が個性的な店と人をどうフィーチャーしているのか、明らかになるだろう。
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者。毎月20~25本のコラムを寄稿するほか、解説者の立場で『週刊フジテレビ批評』などにメディア出演。取材歴2,000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日の視聴は20時間(2番組同時を含む)を超え、全国放送の連ドラは全作を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの聴き技84』『話しかけなくていい!会話術』など。