テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第36回は、9日に放送された『新婚さんいらっしゃい!』(ABCテレビ・テレビ朝日系、毎週日曜12:55~)をピックアップする。

1971年のスタートから今年で48年目を迎え、「同一司会者(桂文枝)によるトーク番組の最長放送」としてギネス世界記録を持つ業界有数の長寿番組。一昨年、昨年と2年連続で襲われた桂文枝の不倫騒動も乗り越えるなど、再び盤石なムードが漂っている。

この日の放送は、「美女アスリート&金銀銅婚さん追跡調査スペシャル」で、前半にアスリート夫妻が登場し、後半に金・銀・銅婚式を迎えた過去の出演者を追跡調査する、1時間の拡大版。より長寿番組らしい歴史とノウハウを感じるものになりそうだ。

「日本一の素人イジリ」が冴えわたる

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桂文枝

まず前半部分の「美女アスリート」として登場したのは、社会人野球・茨城ゴールデンゴールズの選手兼監督である片岡安祐美。結婚相手は、プロ野球・横浜DeNAベイスターズに所属していた小林公太さんで、現在はラーメン店を営んでいるという。

2人は六本木のバーで開かれた友人の誕生会で出会い、小林さんがクリーニングのタグを取り忘れていたのを片岡が教えてあげたことがきっかけで交流がスタート。しかし、小林さんは海外語学留学中のため、「あさってオーストラリアに帰るので責任は取れないんですけど、結婚を前提につき合ってください」という微妙な告白だった。

交際スタート後、片岡の師匠にあたる萩本欽一から「45歳で億万長者になる」と言われた小林さんは、「その言葉を裏切るわけにはいかないなと思って、45歳で億万長者になる」ことを決意。すかさず文枝が、「今どんなことをやっているの?」と尋ねると、小林さんは「何もしていないですね」と即答し、文枝は伝統芸の“イス落ち”を披露した。

客席は拍手で沸き、片岡も「(転んでくれて)ありがとうございます」と笑顔。キャッチーなネタを選び、丁寧な振りの質問を入れ、きっちりイス落ちしたこと、1度しかイス落ちしないことを踏まえれば、文枝が計算の上に行っているのは間違いない。ゲストの夫婦も視聴者もこれほど待っているのだから、計算して行うのは当然であり、森光子さんの“でんぐり返し”(舞台『放浪記』)のように、体力的に可能な限り、続けてくれるのではないか。

その後、話題は「片岡が監督としての怒りを家に持ち込む」という話題へ。そんなとき小林さんは、行司になって片岡と相撲を取る流れに持ち込むらしい。それを聞いた文枝は、「私が行司やりましょう。あなた何て言うしこ名? ひが~し~小林丸、に~し~片岡丸」と行司を全力で演じる。さらに、片岡が小林さんを投げ倒す様子を見て、「これが何で面白いの?」「負けてあげるわけか。やさしいね~」とツッコミを入れた。

話を振り、目をむいて驚き、腹を抱えて笑い、イスから転げ落ち、再現ドラマに加わり……文枝の何でもやってしまう生来のサービスマンぶりが夫婦をリラックスさせ、番組を盛り上げている。そのMC術は、『ヤングおー!おー!』(MBS・TBS系)、『パンチDEデート』(関西テレビ・フジテレビ系)、『恋ピューター』(読売テレビ・日本テレビ系)、『三枝の愛ラブ!爆笑クリニック』(関テレ・フジ系)などの一般参加番組を仕切ってきたレジェンドならでは。1970年前後からいまだ第一線で素人イジリを続けているのは、この人くらいだ。

いつの時代も新婚夫婦が世相の写し鏡に

続いて番組は、金・銀・銅婚式を迎えた過去の出演者を追跡調査したVTRへ。

結婚7年目の銅婚式夫婦は、2012年に出演した秋田在住の澤口健悦さん(59歳)とタイ人のイヴさん(32歳)。年の差、聞き取り不可能な秋田弁、国際結婚でカタコトの日本語という『新婚さん』らしい爆笑ポイントを兼ね備えた夫婦だった。

追跡の結果としては、イヴさんは日本語が上達し、長男が生まれ、友人ができ、秋田料理を作れるようになり…といいこと尽くし。イヴさんが「食べ物もおいしい、(秋田竿灯)祭りも楽しい、ダンナも優しい、幸せです」と言えば、澤口さんは「たまげた。ありがとうございます」と返すハッピーエンドだった。

結婚25年目の銀婚式夫婦は、1995年に出演したアメリカ人のチャールズ・ダナヴァンさん(23歳)と佳代さん(27歳)。当時、国際結婚は珍しく番組は盛り上がったが、47歳と50歳となった現在は福島県南相馬で夫婦仲よくダイニングバーを経営しているという。

2011年の東日本大震災で町は変わり、友人を失い、ダナヴァンさんは沈んだ日々を過ごしたが、活気を取り戻すべくフィットネスジムを開設。最後はお世話になった人々を呼んで銀婚式パーティーを開き、佳代さんがダナヴァンさんに「あなたなしではここまで来られなかった。ずっとそばに居させてください」と感謝の手紙を読み上げ、2人は抱きしめ合った。

結婚50年目の金婚式夫婦は、1971年に出演した飾萬征一さん(30歳)と恵津子さん(25歳)。何と第1回放送であり、白黒映像が番組の偉大さを物語っている。しかも、恵津子さんが「(夫は)格好悪いしね。背は低いし、太った人、嫌いでしてん」、征一さんが「(妻は)ホンマに田舎くさい…」とかけ合いのような本音トークを見せ、笑い合っていた。47年前の第1回放送時から、“夫婦の爆笑本音トーク”という背骨はまったく変わっていないのだ。

2人はバイク用品店を営みながら3人の子どもを育て上げ、現在は77歳と72歳。出演当時の映像を見て、「夫婦は車輪のようなもの。ケンカをしない」と円満の秘けつを明かした。スタッフからラストカットとしてハグをリクエストされるが、肩を組むだけで「これでいいですか?」とやる気のない2人。何とも説得力のある夫婦のビフォーアフターを見せてもらった。

この3組に限らず出場夫婦たちは、「今どきの新婚夫婦はこういう感じ」という各時代における世相の写し鏡でありながら、溺愛ぶりは絶えず突き抜けている。裏を返せば、溺愛カップルを探せば、常に時代を象徴する新婚夫婦に出会えるのかもしれない。

「三世代に対応した番組」のヒントに

ところで、出演者に「結婚3年以内」という縛りがありながら、なぜこんなに面白い夫婦を毎週見つけてこられるのか? これまで疑問に思った人は少なくないだろう。その答えは、スタッフのマジメさにある。

あまり知られていないが、同番組は全国各地で毎週のように予選会を開催。同じABCで制作され、直後に放送されている『アタック25』以上に出演するのが難しいと言われている。事実、私の知人夫妻は3組すべてが予選会で敗れ、本番の収録にたどり着けなかった。出演するのは週2組のみだけに、予選会の数を半減させても放送できるはずだが、それをよしとせず、より溺愛ぶりの激しい夫婦を追い求める姿勢が素晴らしい。

また、本番で爆笑をさらえるのは、スタッフが夫婦のエピソードをもとにした想定問答を作り、MC2人にしっかり伝えているからだろう。一般人が芸能人や観覧客を前にスラスラと話すのは難しいが、桂文枝&山瀬まみとの会話形式にすることでハードルが下がっている。

マジメなのはスタッフだけではない。今回登場した4組の夫婦も「クソ」をつけたくなるほどのマジメさがあり、だから短所や共感できないところがあっても、視聴者は不快感を抱かずに見ていられる。「変わっているけど、根はいい人かも」「番組に出るほどラブラブなのは、うらやましいような、そうでもないような」という塩梅が心地よい。

当番組が長年続けてこられたのは、スタッフと出演夫婦がそんなマジメさに加えて、「『新婚さん』が好き」という番組への愛情でつながっているからではないか。だから、「そんなに話すと、その後の生活に影響が出てしまう…」と恐れるのではなく、「番組が好きだから、素直に話して盛り上げよう!」とする夫婦が多いのだろう。

「字幕を使わない」などの抑えた演出もあってか、視聴者層の幅広さは特筆すべきものがある。長寿番組の分、中高年層の視聴者が多いのは当然だが、私の身近なところでも70代前半の母親、30代後半の妻、10代前半の友人娘が毎週の放送を楽しみに待ち、ケラケラと笑いながら見ているのだ。各局がリアルタイム視聴率を確保するべく、三世代に対応したコンテンツを手がけようとしているが、そのヒントは今も昔も変わらない『新婚さん』の中にあるのかもしれない。

最後のゲームは、出場夫婦のトーク時間を長くするために「ペアマッチ」から「LOVEキャッチ」に変わって久しいが、個人的にはいまだ物足りなさを拭い去れないでいる。「先行が絶対的不利」という理不尽な神経衰弱ゲームで、「せっかく当たったのに『イエス/ノー枕』だった」という脱力感も、日曜のランチタイムにはふさわしい。

次の“贔屓”は…まさかのキムタク出演でスケールアップか!?『ニノさん』

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日本テレビ=東京・汐留

今週後半放送の番組からピックアップする"贔屓"は、16日に放送される『ニノさん』 (日テレ、毎週日曜12:45~)。2013年にスタートした嵐・二宮和也の冠番組で、「5人の若手ディレクターが隔週替わりでランダムな企画を手がける」というユニークな制作体制だけに、質のバラつきこそあるが、当たったときの爆発力は大きい。

最近の放送も、スマホのやり取りだけでゲストをプロファイリングする「スマファイリング」、人々の感情が最も揺さぶられる瞬間を切り取ったエンタメ「6秒芸」、新感覚の怖い話を披露する「平成アプデ怪談」など、安定を求めがちな日曜昼にしては思い切った企画が続いている。ここ2週は、ゲストに木村拓哉を招くなどパワーアップした感もあるだけに、次回の放送にも期待が持てそうだ。

■木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者。毎月20~25本のコラムを寄稿するほか、解説者の立場で『週刊フジテレビ批評』などにメディア出演。取材歴2,000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日の視聴は20時間(2番組同時を含む)を超え、全国放送の連ドラは全作を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの聴き技84』『話しかけなくていい!会話術』など。