テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第35回は、1日に放送された『天才!志村どうぶつ園』(日本テレビ系、毎週土曜19:00~)をピックアップする。
同番組は2004年4月の放送開始から14年を超えてなお、動物番組のトップに君臨。現在も「チンパンジーのプリンちゃん」「日本一客が来ない動物園」「絶滅ゼロ部」など、癒やしと感動、エンタメと教養のバランスに長けた企画がそろっている。
今秋から新番組の『坂上どうぶつ王国』(フジテレビ系、毎週金曜19:00~)がスタートするなど、動物番組の需要と競争に動きがありそうなだけに、このタイミングで“絶対王者”の現状をチェックしておきたい。
「いいワンちゃん」「いい相葉ちゃん」がシンクロ
この日は、「相葉雅紀が熊本地震で被災した犬をキレイにする」「ハリコミ隊 アカウミガメのふ化に密着」の2本立て。最近はかつて放送された「A-1グランプリ」のような短尺コーナーがなく、「大型企画で真っ向勝負」という方針や「しっかり取材するからじっくり見てほしい」というメッセージを感じる。
まずは、嵐の相葉が「2年前の地震で犬が飼えなくなった人から犬を預かっている」という「ドッグレスキュー熊本」へ。震災で1094匹が放浪犬となり、飼い主の下に戻れたのは半分以下の約400匹のみというから厳しい。
さらにカメラは、「飼い主の家が全壊して仮設住宅にいるから預かっている」というチワワを映したが、敵意むき出しで吠えている。もともと人慣れしていたはずだが、地震に遭って心に傷を負ってしまったらしい。
「ドッグレスキュー熊本」には、今も80匹以上の犬が飼い主を待っていることが明かされ、視聴者の心が「かわいそう」で満たされたあと、ゴールデンレトリバーの夢宇が登場。飼い主から「家が全壊したから3カ月くらい預かってほしい」と言われたが、結局現れず。連絡先もつながらないため、「譲ってほしい」という人への譲渡すらできないという。
同施設のスタッフ4人で80匹以上を世話しているため、1匹1匹へかけられる時間に限界がある…という前提のもとに相葉が登場。「今年、捨てられた犬たちのシャンプーやトリミングを学んできた」という紹介が添えられた。
これらのフォローは、「本当に犬のことを考えるのなら、プロを熊本に派遣したほうがいい」という愛犬家の声を抑える意味もあるだろう。年々、動物番組には「勉強不足」「虐待」と言われないための繊細な気配りが欠かせなくなっている。その点、スタッフの抜かりない仕事ぶりを随所に感じる『志村どうぶつ園』は、“絶対王者”と呼ぶにふさわしい。
夢宇をひたすらブラッシングする相葉。「毛玉は放っておくと皮膚炎になる可能性も」のナレーション。抱っこしてシャンプー台へ運ぼうとするがうまくいかない。「大丈夫、大丈夫、怖くない、怖くない」と優しい声をかける。「俺の技術も上がってるのかな」と自画自賛の笑顔。耳そうじに初めてトライする。シャンプーとドライヤーを終えて、ビフォーアフターの写真を横並びにすると、その成果は明らかだった。
続いて、スパニッシュ・マスティフのエルが登場。最も地震の被害が大きかった益城町で暮らしていたという。大型犬に苦労しながらもシャンプーを進める相葉。こちらのビフォーアフターは写真を並べても、ほとんど分からないためか、横に並べての比較ではなく順番に映す形が取られた。「そう言われると変わったかもしれない…」という人間のアバウトさを生かした演出の微調整だろう。
この間、犬と相葉のアップが繰り返し映されていた。「かわいい」と「感じがいい」。「いいワンちゃん」と「いい相葉ちゃん」。2つの印象がシンクロし、「タレントの好感度が必然的にアップする」という動物番組の強みが表れている。芸能界には動物好きのタレントが多い中、相葉は今秋にドラマ『僕とシッポと神楽坂』(テレビ朝日系)で主人公の獣医師を演じるなど、同番組への出演によって頭一つ抜けた存在となった。
まさに「好感度の高いタレントの起用で視聴率アップを狙う」番組側と、「動物とのふれあいでさらなる好感度アップを狙う」タレント側がウィンウィンの番組。現在出演中のDAIGOやハリセンボン、かつてのベッキーが持っていた好感度を見ても、いかに『志村どうぶつ園』のコンテンツ力が高いかがわかるだろう。
「番組側とタレント側がウィンウィンの関係」という意味では、視聴率王者・日テレにとって、同番組は『世界の果てまでイッテQ!』と双璧の存在なのかもしれない。
密着や長期企画が醸し出す「本格派」のムード
続いて番組は、「ハリコミ隊 アカウミガメのふ化に密着」へ。絶滅危惧種のアカウミガメが産卵したのは、静岡県下田市の多々戸浜海水浴場だった。しかし、海水浴客でにぎわうビーチのど真ん中であり、天敵のカラスやスナガニ、海にたどり着いてもシイラやウミネコなどに襲われ、大人になれるのは5,000分の1匹とも言われる。
実際、1年前に当番組が神奈川県葉山のビーチで密着取材したときは、「一部が何とかカメの姿になれたのみで、全滅してしまう」という悲しい映像となってしまった。「気候や自然環境の変化で、アカウミガメのふ化がいかに難しいものになっているか」がうかがえる。
加えて予想外の大型台風が訪れ、卵たちは高波や温度低下の危機に襲われてしまう。ハリコミ隊スタッフの機材も風で飛ばされ、一時撤収を余儀なくされてしまった。そんな厳戒態勢の中、ハリコミを続けるスタッフの「大丈夫かな…」という心配そうな声が視聴者の感情移入を加速する。台風が去ったあとも、なかなかふ化しない様子を見た専門家が、「タマゴに何かが起きている可能性がある」。さらには「もう生きていない可能性が高い」とまで言い切った。
絶望感がピークに達したとき、スタッフが「こんなのあったっけ?」「砂へこんでない?」と異変に気づく。その瞬間、「あっ、きた」「生きてた」「あ~よかった」「がんばれ、がんばれ」「すげえ…よかった」。スタッフの声と視聴者の心がキレイに重なった。
赤ちゃんカメたちは、海まで50mの砂浜を砂まみれのまま、いっせいに同じ方向へ…と思いきや、曇っていて月明かりがないため、迷ってしまう子もいる。人間の足跡にはまって、ひっくりかえってしまい苦しむ赤ちゃんカメ。「自然のままに」をモットーとしているハリコミ隊は安易な助け船を出さなかった。赤ちゃんカメたち、約30分かけてようやく波打ち際へ。
結局、この日ふ化した35匹すべてが海へたどり着けた。ハリコミ隊は翌日以降も密着を続け、最終的に39匹が海へ出られたという。ただ、産卵されたのが135個だから、「やはり厳しかった」という結果が実証されたことになる。
思えば6月に放送された「カモ親子の引っ越し」も、カラスや野良猫に赤ちゃんカモが襲われる映像を流して物議を醸したが、今回も決して視聴者に媚びず、「現実はシビア」というスタンスに終始。一部で「ひどい」「もう見ない」などの酷評も飛んでいたが、このようなブレないスタンスこそ絶対王者の風格ではないか。
そして、「現在もハリコミを続けている」というから、そのマンパワーたるやおそるべし。24時間体制で65日間もハリコミを続けてなお密着をやめないのだから、「『志村どうぶつ園』は正統派ドキュメンタリーの顔も持っている」と言い切ってもいいだろう。定点観測や密着だけでなく、毎年の成長や変化を追う長期シリーズ企画も含め、視聴者の脳裏に「本格派」の印象がしっかり刻み込まれている。
他局の動物番組は「かわいい」に特化
他局には、『トコトン掘り下げ隊!生き物にサンキュー!!』(TBS系)、『もふもふモフモフ』(NHK)、『超かわいい映像連発!どうぶつピース!!』(テレビ東京系)など、「動物ってかわいい」「犬猫にクローズアップ」というコンセプトの動物番組が主流の中、絶対王者は「ためになる>かわいい」「犬猫だけでなくすべての動物」に舵を切っているようにも見える。
次週放送予定の「森泉&DAIGO 女手ひとつ子ども4人と動物18匹育てるお母さん」「発見率80%以上! ペット探偵 行方不明の飼い猫を探せ」の2本立てを見ても、番組で取り上げた日本一客が来ない動物園「東筑波ユートピア」のクラウドファンディングが大成功したことを踏まえても、そう感じざるを得ない。
ちなみに『生き物にサンキュー!!』は、もともと「ためになる」という路線ですべての動物を扱っていたが、わずか半年でペットに絞り込み、最近はブームを受けて猫の企画が増えている。他局の動物番組が「かわいい」に偏っていく中、絶対王者『志村どうぶつ園』はどこまで「ためになる」を前面に押し出していくのだろうか。
ただ、どんな方向へ進んでいくとしても、相葉やスタッフが動物たちに「大丈夫」「がんばれ」と声をかけていたような優しさあふれる番組であることに変わりはない。親にとっては、この番組以上に「子どもに見せたい」と思う番組はないだろう。
次の“贔屓”は…放送48年目!ギネス記録の『新婚さんいらっしゃい!』
今週後半放送の番組からピックアップする"贔屓"は、9日に放送される『新婚さんいらっしゃい!』(ABCテレビ・テレビ朝日系、毎週日曜12:55~)。1971年のスタートから今年で48年目を迎え、「同一司会者によるトーク番組の最長放送」としてギネス世界記録を持つ業界きっての長寿番組。一昨年、昨年と2年連続で襲われた桂文枝の不倫騒動も乗り越えるなど、再び盤石なムードが漂っている。
出演者に「結婚3年以内」という縛りをつけておきながら、「なぜあんなに面白い夫婦を毎週見つけてこられるのか?」「あそこまで話して、その後の生活に影響はないのか?」「桂文枝の“イス落ち”は台本通りなのか?」などの疑問点が多いだけに、それらを1つずつひも解いていきたい。
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者。毎月20~25本のコラムを寄稿するほか、解説者の立場で『週刊フジテレビ批評』などにメディア出演。取材歴2,000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日の視聴は20時間(2番組同時を含む)を超え、全国放送の連ドラは全作を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの聴き技84』『話しかけなくていい!会話術』など。