テレビ解説者の木村隆志が、今週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第26回は6月26日(24:09~)に放送された『ウチのガヤがすみません!』(日本テレビ系 通常は毎週火曜23:59~)をピックアップする。

同番組は、ヒロミ&後藤輝基のMCコンビと50名強のガヤ芸人が、週替わりのゲストをもてなすトークバラエティ。芸から食、歌まで、多彩なネタで、さまざまな角度から笑いを生み出している。

今回のゲストは、アイドルのトップシーンに君臨する乃木坂46。さらに、ガヤ側にもメンバーを送り込むなど、波乱含みの設定が用意された。放送1年を超えた現在でも、独特なスタジオのムードや内容に変化はあるのか? この番組でしか見られない無名芸人をキャスティングし続けているのか? などを掘り下げていく。

放送1年を超えて生まれた柔軟性

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    (左から)ヒロミ、浅野忠信、後藤輝基=7月3日(19:00~20:54)放送の『ウチのガヤがすみません! 芸人VS○○の超本気対決SP!』より (C)NTV

当番組のゲストは番宣絡みが多い……と書けばネガティブな印象を持たれるかもしれないが、だからこそ深夜番組にしては豪華なキャスティングが実現する。その中には、ときどきトーク力や瞬発力に長けた、明らかに“アタリ”のゲストも。今年の放送で言えば、木梨憲武、及川光博、田中圭の放送は、ゴールデンタイムで放送してほしいほどの盛り上がりを見せた。

そして今回の乃木坂46。『乃木坂って、どこ?』『乃木坂工事中』(テレビ東京系)でバナナマン、『NOGIBINGO』(日テレ系)でイジリ―岡田に鍛えられたトーク力と瞬発力は、番宣の俳優たちをはるかに上回る。清楚なイメージに引っ張られがちだが、主要メンバーはすでに冠バラエティを5年こなした中堅タレントなのだ。

今回は、秋元真夏、生田絵梨花、白石麻衣、松村沙友理の4人が、イメージ通りの清楚な白いドレスで登場。粗野なガヤ芸人との圧倒的なイメージ格差を見せつつ、ボケを連発していく。

生田が「ミュージカルのようなあくび」と「誰かの歌に勝手にハモる」ネタで笑いを取れば、白石はローラ、ボビー・オロゴン、仲間由紀恵のモノマネを披露し、「カードのお題にすべてキレる」アングリーゲームで沸かせた。松村は尻相撲で牧野ステテコと尼神インター・誠子に圧勝したが、メイプル超合金・安藤なつに吹っ飛ばされる衝撃映像。秋元は3万ボルトの“電流ビリビリイライラ棒”に挑戦し、成功すると見せかけて最後に失敗し、バラエティ対応の確かさを感じさせた。

今回のもてなしは、「芸人たちがネタで笑わせる」のではなく、「バラエティ対応力という別の魅力を引き出す」ことがメインテーマだったのだ。放送1年を経て、MCとガヤ芸人、番組そのものに、柔軟性が備わっている様子がうかがえる。

もちろん、すべてのメンバーがすごいのではなく、ガヤ芸人にまぎれこんだ最年長26歳・新内眞衣と、1期生の23歳・中田花奈は、発言の大半がスベっていた(本来それくらいがアイドルの標準とも言える)。このような「経験値の違いが実力差につながる」というシビアな差は、ガヤ芸人たちにも見られた。

タイムマシーン3号の関太は、秋元康のモノマネだけでなく、トークで随所に笑いを差し込み、ガリットチュウの福島善成は「町内会の持ち回りの役員を平気で断る家の人」「生田絵梨花」のモノマネでインパクトを放っていた。

「みずみずしくも痛々しい」ガヤ芸人に親近感

その他でもMCの後藤が、尼神インターの誠子や渚、カミナリの竹内まなぶ、牧野ステテコらにネタ振りや強めのツッコミを入れるなど、ガヤ芸人の中に格差があるのは明白。バラエティの経験値や知名度で劣る芸人たちは、番組のアクセントになるべく、「出落ち上等」の玉砕戦術で臨んでいた。

まちむすめのあゆ、ももみは、「カワイイ」だけの一点突破。3時のヒロイン・福田麻貴は、元(無名)アイドルの経歴を生かした自虐ネタ。ローズヒップファニーファニーは、「カッパの人形と戦う」という奇妙な一人芸。西村ヒロチョは得意のロマンティック漫談。一瞬のきらめきにかける彼らは、その一生懸命さがみずみずしくもあり、どこか痛々しくもある。そんな両面が、深夜番組の視聴者層に親近感を与えているのかもしれない。

まだ「ガヤ」しか見せられる芸のなさそうな芸人もいるし、素人と紙一重のスベリ方も多い。しかし、だからこそヒロミと後藤輝基のツッコミやフォローは、「ウチのガヤがすみません!」という思いが込められ……優しく包み込む父親と兄のように見える。

番組構成上、ネタを披露できるとしても、フラッシュのような超短尺になるため、当番組からブレイクに直結することは至難の業。しかし、そもそも知名度の低い芸人が漫才やコントを披露できる番組自体が少なく、一向に増えないため、「それでも出たい」というのが本音だろう。

もっと言えば、現在、日テレで放送されているバラエティは、その多くが高視聴率を記録していることもあって、「レギュラーどころか、ゲストとして食い込むことすら難しい」という現実がある。そんな現実を知っているヒロミと後藤は、子どもや弟を見るように愛情を持って彼らと接しているのか。

前述したように当番組のコンセプトは、スタジオを訪れたゲストをおもてなしすること。「父・ヒロミ、兄・後藤、弟と妹・ガヤ芸人のファミリーが、家に来たお客さんをもてなしている」ようであり、その意味でゲストは蚊帳の外なのかもしれない。

次週(7月3日)の放送は、19時スタートのゴールデン2時間SP。つまり、「ファミリー向けの時間帯である19~21時の番組として初めて認められた」のだ。今後は、深夜帯の視聴者向けにとがったネタを織り交ぜていくのか? それとも改編期でのゴールデン昇格を目指して、ファミリーを意識したネタを増やしていくのか? 今後の舵取りを興味深く見守っていきたい。

来週の“贔屓”は…近年のフジでは断トツの高評価か!?『全力!脱力タイムズ』

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『全力!脱力タイムズ』(左から)小澤陽子アナ、有田哲平、吉川美代子

来週の放送からピックアップする“贔屓”の番組は、6日に放送される『全力!脱力タイムズ』 (フジ系毎週金曜23:00~)。同番組は、報道・情報番組の形を借りたコントで笑いを誘うニュースバラエティ。2015年4月の番組スタートからジワジワとファンを増やし、評価を積み重ねてきたことから、「近年のフジテレビでは一番のバラエティ」との声もある。

純粋なコント番組が絶滅しつつある中、新たな切り口で道を切り開いているだけに、ここではシンプルに「どんな笑いを狙っているのか?」「どんな試行錯誤や苦労があるのか?」を探っていきたい。

■木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者。毎月20~25本のコラムを寄稿するほか、解説者の立場で『週刊フジテレビ批評』などにメディア出演。取材歴2,000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日の視聴は20時間(2番組同時を含む)を超え、全国放送の連ドラは全作を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの聴き技84』『話しかけなくていい!会話術』など。