テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第183回は、23日に放送されたテレビ東京系バラエティ特番『最強大食い女王決定戦2021』(19:55~21:48)をピックアップする。

東京オリンピック開会式がNHK総合で放送された23日夜は、民放各局がお笑い、警察、爆買いの特番やアニメ映画などで対抗したが、テレ東が選んだのは大食い。しかも現女王のアンジェラ佐藤から、レジェンドの菅原初代とロシアン佐藤、さらに、はらぺこツインズ(小野かこ&あこ姉妹)ら新世代までトップクラスのメンバーをそろえて勝負した。

このところ、『有吉ゼミ』(日本テレビ系)や『ウワサのお客さま』(フジテレビ系)などのコーナーが好調のほか、YouTubeでも人気コンテンツとして定着するなど、“大食い”が幅広い世代に浸透。テレビ番組として大食いはどんな魅力があり、この特番はどんなポジションにいるのか。

  • 『最強大食い女王決定戦2021』MCの高橋みなみ(左)とパンサー・向井慧

■飲食チェーンとのギブアンドテイク

番組冒頭、今大会に出場する菅原初代、アンジェラ佐藤に加えて、ギャル曽根、もえのあずきら歴代女王たちの映像が流れ、「大食いの歴史がはじまって32年。新時代へ突入しようとしていた」というナレーションが聞こえてきた。こんな真剣勝負のムードと、どこか漂うB級感の共存が、『TVチャンピオン』時代から変わらないこの番組の魅力だ。

今大会のテーマはレジェンドVS新世代。まずは3つに分かれたグループリーグが行われる東京サマーランドに、大食い自慢の15人が集結した。戦いがはじまる前、「健康診断で体調をチェック」というシーンがあったが、57歳という菅原の年齢を考えると当然かもしれない。その後も大食いシーンのたびに「医師立会いのもと安全に配慮し競技を行っています」の文字が表示されていたが、これらはクレームの予防策だろう。

今回は3つのグループに5人ずつ出場し、「1位のみが決勝進出する」というシビアなルール。1つ目の「グループリーグ:肉」には、デビュー戦記録保持者(カレー7.5kg)の池田有加、無冠の女王・ロシアン佐藤、現女王のアンジェラ佐藤、新人戦準優勝で元歯科衛生士の加納芹香、新人戦3位でミス東大準グランプリの中澤莉佳子が参加した。

5人は、ブロンコビリーのビーフハンバーグ1皿300gを制限時間45分でどれだけ食べられるのか。アンジェラが「この肉、飲める~」と言いながら1皿目を59秒、2皿目を3分で食べ終え、このハイペースにほかの4人が引っ張られていく。

……と思いきや、開始早々からアンジェラとロシアンの一騎打ちなり、他の3人はほとんど画面にすら映らず。今回を「最後の大会」と決めていたロシアンが必死に食らいつくが、わずかに及ばず、アンジェラ22皿、ロシアン20皿で終了。6.6kgのハンバーグを食べたアンジェラは「引退を撤回してほしいな」と涙を流し、ロシアンは「私の気持ちも決勝へ持って行ってこれからも一番で輝いていてほしい」とエールを送った。こんな青春ドラマのような絆を感じさせるシーンもお約束であり、番組としてもロシアンの引退は残念だろう。

またバトル中、皿に書かれた「ブロンコビリー」の文字が何度も映され、背後にもブロンコビリーの旗が何本も立てられていた。さらに、池田の娘が登場して隣に座り、母娘で仲よくハンバーグを食べるシーンもあった。ファミリー層もターゲットのブロンコビリーにとってうれしい演出であり、このあたりは制作サイドと飲食チェーンのギブアンドテイクがきっちり成立している。

■親子丼16分16杯の衝撃的ペース

次は「グループリーグ:米」で、お笑い芸人・ちなてい、1児のママ・三浦みゅら、3連覇女王・菅原初代、大食い最強界の双子妹・小野あこ、飲食店プロデューサー・大塚桃子が参加。なか卵の親子丼・1杯400gを制限時間45分で何杯食べられるのか。「菅原vs新世代」という図式が鮮明な顔合わせとなった。

スタート早々から菅原が1杯目を40秒で食べ終えたほか、あこ、大塚も秒殺で続く。5分で5杯を超える超ハイペースだけに、なか卯のスタッフが「追いつかない」と必死に調理するいつもながらのシーンが見られた。

16分で16杯という衝撃的なペースを見せていた菅原が「ちょっと休みます」と休憩宣言。3杯差で2位だったあこが猛追して1杯差まで詰め寄るが、最終的には菅原が19杯、あこが18杯で終了した。7.6kgを食べた菅原はこの戦いを「なんか面白かった」と強気で評するなど、不敵な振る舞いでヒール役に徹する彼女の存在がエンタメ度を高めている。

3つ目は「グループリーグ:魚」で、初出場の秘書・竹谷陽、2016年新人戦準優勝・高橋ちなり、2016年女王戦準優勝で新潟のグルメリポーター・おごせ綾、2020年新人王・海老原まよい、大食い界最強の双子姉・小野かこが参加。がってん寿司の「マグロ、サーモン、甘エビ、穴子(各1皿60g)から好きなものを選んで食べる」という戦いが始まった。

海老原が序盤から「醤油をつけずに2貫食い」という離れ業を見せ、10皿1分44秒と独走。かこ、おごせの2人が追いかけるが、まず、おごせが止まり、かこが詰め寄ったものの、最後は海老原110皿、かこ94皿で終了。ジャイアント白田の全盛期100皿を大きく上回る快記録で6.6kgを食べ切った海老原が、レジェンド2人の待つ決勝にコマを進めた。

■過去最高級の三つ巴デッドヒート

日をあらためて設定された決勝戦の舞台は、千葉県木更津市のホテル三日月。スペシャルゲストとして登場した本仮屋ユイカが「ここにいる方々はトップアスリートなんだなと思って」と大食いファンであることを明かすと、パンサー・向井慧が「だからオリンピックの開会式の裏にぶつけてるんですよ。(大食いは)テレ東なりのスポーツ」と続けた。このコメントはボケではなくガチであり、テレ東のスポーツと言えば卓球であり、大食いなのかもしれない。

決勝戦の料理は、リンガーハットの長崎ちゃんぽん(1杯400g)で制限時間60分。菅原が1分30秒で1杯目を完食し、海老原が1分50秒、アンジェラが1分51秒で続く。10分が過ぎても3人が5杯で並ぶ大激戦だけに、リンガーハットも13名のスタッフを集めて料理提供していた。印象的だったのは、バトルの途中で味変できる「ちゃんぽんドレッシング(しょうが風味、ゆず胡椒風味の2種類)」が投入されたこと。当然ながらこの商品もいい宣伝になり、やはり最後までギブアンドテイクは抜かりがない。

菅原が頭から水をかぶり、海老原は足に水をかけ、アンジェラは大雨の中を走って胃腸を動かすなど、気迫をぶつけ合うような戦いは続き、残り20分で菅原16杯、海老原15杯、アンジェラ15杯の大接戦。残り5分でも菅原19杯、海老原18杯、アンジェラ18杯と過去最高レベルの死闘となった。

最終結果は菅原20杯、アンジェラ19杯、海老原18杯。8kgを食べ切って女王の座に輝いた菅原は「最後まで接戦で『こういう戦いがずっとしたかった』と思っていた」と充実感をあらわにした。さらに、菅原はアンジェラと海老原に自ら歩み寄って「おつかれ」と声をかけハイタッチ。この姿に、アンジェラは「悔しい。やっぱ強いな」と返し、海老原は涙で言葉にならず。そんな海老原に、菅原は「次は男女混合戦の決勝で」と声をかけて番組はエンディングへ。一連のやり取りを見ていた高橋は「何かすごい作品を見せていただいて……」と言いながらもらい泣きしていた。

■王道メニューで格好のセレクションに

最後のナレーションは、「大食い女子15名が食べた食材の合計は……100.4kg。同じ重さのお米を児童福祉施設等に寄付させていただきます!」だった。これは「もったいない」「危険」などの批判をかいくぐる免罪符のようなものだろう。しかし、テレ東が“大食い”というコンテンツを丁寧に扱っていることは疑いようがなく、その姿勢があるからこそ外食チェーンも安心して協力できるのではないか。

バトル中、高橋が「歴史が変わる瞬間かもしれない」と何度も口にしていたが、決勝に進んだ3人は菅原が57歳、アンジェラが46歳、海老原が26歳で、けっきょく年長者2人がワンツーを飾った。番組としては若い世代のスターがほしいだろうが、トップの2人が強すぎる上にキャラクターも強烈なため、なかなかマッチメイクが難しいのかもしれない。

前述したように現在テレビ業界で大食いというコンテンツは、「視聴率が稼げる人気コンテンツ」と言われているが、その中心にいるのはギャル曽根であり、その他の出演者も大半が女性。おいしそうなのはもちろんキレイに食べて、その上かわいらしさが番組そのものへのイメージアップにつながっている。

だからこそ、この特番から再び新たな大食いヒロインが登場することを注目しているテレビマンは多いだろう。その意味でハンバーグ、親子丼、回転寿司、ちゃんぽんと、大食いの王道メニューが並ぶ今大会は、格好のセレクションになったのではないか。

■次の“贔屓”は…五輪にお家芸で勝負! 『2021夏最強JAPANスイーツベスト40』

『世界が驚いたニッポン!スゴ~イデスネ!!視察団』MCの爆笑問題

今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、31日に放送されるテレビ朝日系バラエティ特番『世界が驚いたニッポン!スゴ~イデスネ!!視察団 2021年夏「最強ジャパンスイーツ」ベスト40! 高品質&低価格の秘密』(18:56~21:54)。

東京オリンピック真っただ中の土曜夜に、テレ朝が選んだのはスイーツ。しかも外国人516人が選んだ「最強ジャパンスイーツ!」ベスト40を決めるという。

日本人が選ぶランキングとどう違うのか。オリンピック関係者の外国人が来日する中、さまざまなランキング企画を連発するテレビ朝日がどんな構成・演出で挑むのか。どこまでオリンピック中継に対抗できるかも含めて気になるところだ。