テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第180回は、4日に放送されたABCテレビ・テレビ朝日系バラエティ特番『DRAGON CHEF 2021』(19:00~20:56)をピックアップする。
「次世代スター料理人No.1決定戦」。さらに、同じABCが制作することもあって「料理人のM-1グランプリ」。いずれのキャッチコピーからも、大型のコンテスト特番であることがうかがえる。
優勝賞金1000万円を得るべく全国761人の料理人が、2月に都道府県予選、3月に全国6地区のエリア予選に挑み、続くサバイバルラウンドは4月24日から土曜深夜に関西ローカルほかで放送。さらに今回放送の決勝ラウンドは、全国ネットの日曜ゴールデンタイムという大勝負だった。
■約4分間にわたる濃厚なプロローグ
番組冒頭、「どうしても彼らのことを話しておきたかった。それはコロナによって、もみくちゃにされたあの年。しかし、この国には世界に誇る食材があった。それをこよなく愛する料理人がいた。ならば食を通じて日本を元気にすることはできないか。そこで生まれたのが……次世代シェフ発掘オーディション DRAGON CHEFだった。その頂点を決める戦いが今日、豪華クルーズ船の船上で行われる」というあおり映像が流れた。
次に、「このオーディションの参加資格は40歳未満。プロアマ問わず。それに応募してきた者、実に761名。厳しい審査と予選の末、ファイナリストに選ばれたのはわずかに16名。そこから1人ずつ脱落していくサバイバルラウンドが始まった。それは食うか食われるかの戦い」「結果この3名が生き残った。サバイバルラウンド1位通過、北海道代表、フレンチ、下國伸。2位通過、福岡代表、フレンチ、山下泰史。3位通過、大阪代表、中華、花田洋平。今夜、敗者復活を含めた4名が初代王者の栄冠と賞金1000万円を賭け、激突する」というここまでの流れを紹介。
さらに、準決勝と決勝の予告映像をたっぷり流してからタイトルコールが終わると、スタートからすでに約4分が経過していた。物語調の仰々しいナレーションや映像は、『M-1グランプリ』を思わせる演出で、「まだ認知度の低いこのイベントを盛り上げたい」という思いがにじんでいる。
MCの山里亮太が登場し、「日本が誇る世界最高峰の料理人」として総監督の須賀洋介を紹介。続けざまに3人の料理人を招き入れたが、ここではバトルムードを盛り上げるためか、総合格闘技のリング入場を彷彿させる演出が見られた。
直後、3人のプロフィール映像が流れたが、その中には下國の「映える料理なんて誰でも作れる」、山下の「僕にとって料理は生きていく術なので負けたくない」、花田の「近年で言うと(コンテストの)受賞率は90%以上」という自信みなぎるコメントが含まれ、ここでもバトルムードを演出。「一般的には無名の3人のキャラクターをしっかり立ててから料理バトルに入ろう」という構成だろう。
■調理と出前の放送時間がほぼ同じ
この3人に加えて、敗者復活枠の京都代表・日本料理・中川寛大が発表され、計4人が準決勝の「デリバリー料理バトル」を行うという。つまり、敗者復活で日本料理を選んだことで、フレンチ2人、中華1人、日本料理1人と、料理番組としてバランスのいい戦いになったということか。事実、スポンサークレジット画面の左側には、「仏vs中華vs和 準決勝デリバリー対決!」と表示されていた。
料理バトルがスタートすると、やはりと言うべきか、スタジオのセットや、アナウンサーによるレポートなどは『料理の鉄人』(フジテレビ系)と似ているな……と思っていたら、わずか1分程度で早くもハンバーグを焼く段階に入っていた。
けっきょく調理工程はほぼ2~3カット程度で盛り付けに入り、料理はアッという間に完成。わずか3分程度の映像で完成し、出前館のスタッフがバイクに積み、道路を走り、審査員を務める芸能人のもとに届ける様子が放送された。出前館はスポンサーであり、番組内に登場するのは当然だが、「調理とデリバリーの放送時間がほとんど同じ」というのは、さすがにやりすぎたかもしれない。
ハンバーグ弁当というお題に、下國は「フレンチハンバーグタコス」、山下は「九州」、花田は「中国旅行気分なエナジー弁当」、中川は「夏薫る、ハンバーグ煮弁当」というコンセプトで勝負。梅沢富美男、IKKO、寺島しのぶ、須賀洋介の審査によって、1位の山下と2位の下國が決勝進出を果たした。
決勝戦は豪華クルーズ船「シンフォニー」の上でのコース料理対決だが、その前に「翌日に控えた決戦を前に山里が2人を激励」と称して3人が屋上デッキに集結。山里の「決勝進出、おめでとうございます」という言葉を合図にプレミアムモルツで乾杯した。出前館に続くスポンサーのプッシュはいいのだが、戦いの前にはさんだことで、真剣勝負のムードをそいでしまった感がある。
決勝戦の舞台は、船上の特設ステージ。審査員は、今田耕司、林修、冨永愛、YOU、新川優愛の食通芸能人5名に、服部幸應、神田裕行、小薇、中井松太郎、鎧塚俊彦の料理界重鎮5名、さらに総監督の須賀を加えた11人という顔ぶれであり、バランスや人数には賛否があるだろう。船上の慣れない厨房で、11人分のコース料理(トマトの前菜、豚肉のメイン、マンゴーのデザート)を制限時間2時間で作らなければいけないからだ。
しかし、ファイナリスト2人にはもう1つの試練が用意されていた。何とレジェンドシェフの片岡護と脇屋友詞が登場し、「助手として使わなければいけない」という(アドバイスは禁止)。これは純粋な料理勝負というより、ゴールデンタイム放送に合わせたエンタメ色アップの構成だが、レジェンドシェフに気をつかうあまり「パフォーマンスが低下してしまったのではないか」と感じた視聴者は少なくなかっただろう。
■「オーブンの不調」という危機が発生
決勝も調理シーンは超短時間。「調理開始」の合図からわずか数十秒で「1時間15分経過」のナレーションが入り、リポーターの「残り時間45分が過ぎていて、2人はラストスパートに入っています」という声が聞こえてきた。
さらにその数十秒後、「残り30分」……となったところで厨房に異変が。「オーブンの温度設定不良で調理に支障をきたしている」という。すかさず須賀総監督が「でもキッチンではよくありますからね」とフォローしたが、これ以降の映像は「ピンチをどうリカバーするか? 時間内で完成できるのか?」という焦点に終始。決勝だからこそ制限時間やツールが万全の状態で最高の料理を作ってもらったほうが、最高峰の戦いにふさわしかったのではないか。
審査形式はシンプルに「どちらが優れていたか」を選ぶだけで、下國が8票、山下が3票で下國が初代王者に輝いた。全般を通して何度となく気になってしまったのは、『料理の鉄人』との類似点。前述したスタジオのセット、アナウンサーによるレポートだけでなく、料理テーマ、制限時間内に少人数で作る調理形式、芸能人コメント中心の実食シーンなど、随所に似ているところがあった。
また、須賀洋介と脇屋友詞は『料理の鉄人』の復活版として放送された『アイアンシェフ』の出演者であり、もう1人の黒木純もサバイバルラウンドの審査員として登場していた。どれだけ『料理の鉄人』から離れた構成・演出を用意できるか。やはり約18年も前に考えられた構成・演出ではなく、「新しいものを作っていかなければいけない」ということなのかもしれない。
最後にふれておきたいのは、コンテスト番組の可能性。音楽、芝居などのオーディション番組が人気コンテンツになりつつある今、料理人が対象のコンテスト番組にも十分可能性はあるはずだ。しかし、今回のように多くの視聴者が、「知らない人ばかりの戦いを見せられる」という形の放送では苦しいだろう。
オーディション番組のようにもっともっとネットを有効活用して、「対決図式を盛り上げ、応援する人々を増やしながらファイナルに向かう」という形にすれば未来は見えてくるのではないか。
『DRAGON CHEF 2021』という番組名と、山里の「また来年お会いしましょう。さようなら!」という締めのコメントから、続けていく意志はハッキリしているが、視聴率は個人全体3.0%、世帯5.2%(ビデオリサーチ調べ・関東地区)。テレビ東京やNHK総合も含めて、ダントツの最下位に終わってしまった。
しかし、視聴率と同等以上に重要なのは、スポンサーの売上などを含めた広告効果であり、これを高めていくことで放送を続け、徐々に権威を上げていきたいところだろう。
■次の“贔屓”は…五輪直前3時間特番は盛り上がるか『ジャンクSPORTS SP』
今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、11日に放送されるフジテレビ系バラエティ番組『ジャンクSPORTS 東京五輪開幕まであと12日浜田が激励の東奔西走3時間SP』(19:00~21:48)。
同番組は2000年から2010年まで10年間放送されたあと、特番での放送をはさんで2018年に復活。東京オリンピックを見据えての編成だが、視聴率が低迷していた上に、コロナ禍で現役アスリートが出演しづらくなるなど、厳しい状況が続いている。
しかし、いよいよ東京オリンピック開幕まで残り2週間弱に迫ったところで、満を持して大型特番を放送。いまだ開催そのものに反対の声があがる中、どんな放送内容で盛り上げようとしているのか。視聴者の反応とともに興味深い。