テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第176回は、5日に放送されたフジテレビ系バラエティ特番『大冒険クラフトバラエティー ゼロイチできんのか!?第2弾』をピックアップする。
「ゼロからモノを作る」というコンセプトのバラエティで、昨年12月30日に続く2回目の放送となる。前回は貧乏芸人の新鮮なたまご・ハイジが「約1カ月かけて砂鉄を集めて釘を作り、綿から糸を紡いで布団を作ってこたつを完成させる」という過酷なミッションに挑んでいた。
今回は本田望結・紗来姉妹のリクエストで、小島よしおが「カニラーメン」、峯岸みなみが「イチゴパフェ」、SixTONES・高地優吾が「紙ナプキン」をゼロから作るという。
■スタジオ内に拍手が自然発生
番組は峯岸のイチゴパフェ作りからスタート。「イチゴパフェをゼロイチしたら……『総移動距離9,702キロ』『製作時間183時間』」という文字が画面いっぱいに映された。その瞬間、「時間と労力を前面に出すスケールの大きさを売りにした番組」ということに気づかされる。
峯岸は目の前をイチゴパフェ見て、「イチゴを収穫ってことですか?」「コーンフレークってどうやって作るんですか?」「甘いということは……砂糖?」などと次々に疑問が思い浮かぶ。イチゴパフェを作るためには、砂糖、イチゴ、コーンフレーク、アイスクリーム、イチゴジャム、パフェの器が必要で、これらをすべて峯岸が作らなければいけないらしい。
パフェの器作りから始めた峯岸は、ガラス会社や専門家の大学教授に電話をかけて、材料が砂、貝殻、海藻であることを知り、セスナに乗って新島へ。砂の元になるコーガ石や貝を採取して日帰りで東京に戻り、石や貝を細かく砕いた。直後、海藻を入手するために徳島へ行ってワカメを獲り、東京に戻って事務所の屋上で干したあと、灰にするために千葉県の館山へ移動。材料がそろったところで、自らガラス工房を探して器作りに挑むが大失敗に終わってしまう……。
言わば「最初からうまくいかないよね」という失敗パターンを見せたわけだが、時間と労力のかかるこの番組の場合ダメージが大きく、視聴者も「大変そうで見ていられない」とチャンネルを変えられないか気になってしまった。
だからなのか、いったん器作りからはなれて、峯岸は砂糖作りを開始。沖縄でさとうきびを収穫し、皮をはぎ、細かく切ってミキサーにかけ、手で絞り、煮詰め、またミキサーにかけて……ようやく砂糖が完成したとき、スタジオから拍手が巻き起こった。
次に牛乳を搾りに北海道へ。900ml・2,052円の最高級牛乳だが、なかなか必要な量を絞れない峯岸は涙を流してしまう。絞り切ったとき、スタジオに再び拍手が巻き起こったが、峯岸は放心状態。卵も沖縄で採ってきていたため、そのまま北海道でアイスクリームを作り上げた。
しかしまだ、イチゴ、イチゴジャム、コーンフレーク、器が準備できておらず、先は長い。新島、徳島、千葉、沖縄、北海道と日本中を縦断するダイナミックさがすごい反面、つらそうなシーンばかりで喜びを爆発させるようなポジティブなシーンがないのが気になってしまった。
■あっさり「小麦粉はもらう」
ここで峯岸のイチゴパフェ作りはいったん中断して、映像は小島よしおのカニラーメンへ。越前ガニ、ネギ、麺、塩、どんぶり、レンゲが必要であり、「製作期間73日」「総移動距離6,800キロ超え」を要したことが明かされた。
まず小島は、越前ガニを獲りに福井県へ。しかし、風が強く船が出せず、まさかの断念となり、2日後に後輩芸人の新鮮な卵・ハイジが代理を務めることになってしまう。「そこは妥協していいの?」と言いたくなるかもしれないが、むしろガチンコ感があるかもしれない。
ハイジは船で2時間進んだ沖合いで底引き網漁を行い、3匹の越前ガニをゲット。一方の小島は福井県の越前海岸で荒波にもまれながらも5リットルの海水を汲み、薪窯の鍋で煮詰めて、6時間後に完成させた。
続く麺作りには、小麦粉、かん水、食塩、卵が必要だが、かん水の手作りは困難なため、「沖縄そばで使う木灰汁を作る」という。小島はガジュマルの木に登り8時間かけて枝を切ったあと、12時間かけて燃やして灰にし、鍋にかけて木灰汁が完成した。
さらに卵も沖縄でゲットしたが、小麦は「収穫期が7月で刈り取れないので小麦粉をもらう」という妥協策で、麺作りは順調に完了。「ゼロイチ」という番組コンセプトをあっさり捨てるところに驚かされたが、正直に伝えるほうが今どきのバラエティらしいと言えるのかもしれない。
最後は、どんぶりとレンゲ作りで茨城県笠間市の陶芸場へ。小島は土を掘る場所を教えてもらい、ひたすら掘ったが、なかなか使える土が掘れず、翌日3度目にようやく成功した。ろくろを使ってどんぶりとレンゲの成形をしたが……スケジュールの関係で再びハイジにバトンタッチ。ハイジは割れないように削って形を整え、釉薬を塗り、焼いて完成させた。
直後、ネギは東京都府中で穫ったことが明かされたが、VTRは約5秒のみ。また、小島の口から、「白神山地へ水を汲みに行き、箸も石川県の輪島などで作った」ことが明かされた。
これらはVTRすらほぼ放送されなかったが、小島だけでなく峯岸も含めて有料コンテンツのFODで未公開映像が公開されている。コロナ禍の広告収入減に苦しむ民放各局にとって、どこまで稼げるかは別として、このような本編の視聴にストレスを感じさせないレベルでの有料コンテンツ誘導は、どんどん試していくべきだろう。
ともあれカニラーメン作りは、総製作日数73日、1都5県をめぐって終了した。小島は「いろんな仕事をやらせてもらっている中で、すごく特別なものになりましたね」とコメントしたが、完成したラーメンの披露と実食シーンは、まさかのおあずけ。これはテレビが批判を受けがちな古き悪しき構成・演出であり、「視聴者の時間を奪う」という意識の薄さが残念だった。
■子供が見やすい19時台が最適か
映像は峯岸に戻り、AKB48卒業コンサートの練習に挑む姿からリスタート。「30曲すべてに出る」というハードなライブだけに、イチゴパフェ作りの負担が重くのしかかる。
峯岸は新潟県の長岡技術科学大学へ。専門家のアドバイスで海藻の灰作りが失敗の原因だったことに気づき、新島から石と貝をメールで送ってもらったが、「灰の量が足りないため、専門家からわけてもらった」という。これを見たチョコプラの2人が「分けてもらう?」とツッコミを入れると、すかさず峯岸が「隠さないのがこの番組のいいところですよね」と釈明。ここでも“ガチ&過酷+ダメならあきらめる”というダブルスタンダードを見せたが、この番組に限らず『クレイジージャーニー』(TBS系)なども、今後はこんな感じになっていくのだろうか。
峯岸はパフェの器を完成させ、沖縄県でゲットしたとうもろこしを使ってコーンフレークを作り、イチゴは栃木県でとちおとめを収穫してあっさり終了。イチゴパフェ作りと言いながらも、結局器作りが大半を占めたところが今後の課題なのかもしれない。
そして、高地の紙エプロン作りが始まったのは、番組残り約20分。高地は「こうぞ」という木の枝を切り、煮て柔らかくして皮をはぎ、表面を削り、川で洗って汚れを取り、叩いて水につけ、のりを加えて、紙すき道具を使ってすき、重しで脱水し、3日間かけて完成させた。
しかし、その映像は、わずか10分強。ファンから見たら明らかに「さんざん待たせたあげく少ない」のだが、番組としては「それまで積極的にワイプでしゃべってもらって映しました」ということなのだろう(ちなみに峯岸と小島のスタジオコメントは、ほとんど使われていなかった)。こちらも構成・演出が前時代的で、視聴者ファーストからは遠い感がある。
放送から2時間が過ぎて残り数分となったところで、ようやく試食タイム。カニラーメンを本田紗来、イチゴパフェを本田望結が実食した。ほかのスタジオメンバーも食べたようだが、それを映すシーンはほぼなし。さらに、苦労してゼロから作り上げた本人の食事シーンもなし。「実食シーンは本題ではない」のかもしれないが、それは作り手の感覚ではないか。
現在の視聴者は、「もう少しわかりやすいカタルシスをしっかり与えてもらいたい」「頑張ったメンバーが報われるシーンが見たい」という傾向があり、とりわけYouTube動画などを見ても食事シーンの重要性は高いだけにもったいないという印象が残った。
「ゼロイチ」という理科や社会の勉強的要素の濃い企画のためか、終始ポップなナレーションとテロップを多用。「子供たちに楽しんでほしい」というムード作りを感じさせた。この日は21時30分から2時間強の放送だったが、『ザ!鉄腕!DASH!!』(日本テレビ系)や『アイ・アム・冒険少年』(TBS系)のように19時台に放送して、子供たちに見てもらいたい番組だろう。
■次の“贔屓”は…チャレンジャーとして出演した立場からつづる『99人の壁』
今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、12日に放送されるフジテレビ系バラエティ番組『超逆境クイズバトル!! 99人の壁SP』(19:00~21:00)。
「自分の得意ジャンルのクイズに5問連続で正解すれば100万円獲得できる」というコンセプトのクイズ番組。放送開始直後から「ゴールデン・プライム帯ほぼ唯一の視聴者参加型番組」という希少性と熱気でコアな人気を集めていた。
しかし、収録当日に100人の出場者が集まらなかった際、エキストラを参加させていたことが発覚し、約3カ月にわたって放送休止。再開後はコロナ禍に対応したリモート収録システムを開発し、“99人の壁”というスケールを保ったまま放送を続けている。
次回放送のテーマは音楽。平成・令和、ドラマ、アニメなど幅広いジャンルの音楽クイズが出題される。実は「ドラマソング」というジャンルのチャレンジャーとして収録に参加させてもらった。撮影当時の裏側を交えながら、この番組の現在地点を忖度なしで掘り下げていきたい。