テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第175回は、5月30日に放送されたTBSのバラエティ番組『歌ネタゴングSHOW 爆笑!ターンテーブル』(毎週日曜13:30~)をピックアップする。

2020年4月から4度にわたるパイロット版の放送を経て、今年4月にレギュラー放送がスタート。出演者と視聴者の高齢化が進む『噂の!東京マガジン』をBS-TBSに移し、両者の若返りを図りたいTBSの戦略が表れた番組と言っていいだろう。

パイロット版は、深夜、土曜午後、ゴールデンと、さまざまな時間帯で放送されていただけに、日曜13時30分という時間帯にハマっているのか、いないのか。音楽ネタ番組の可能性とともに、レギュラー化から2カ月が過ぎるこの段階でチェックしておきたい。

『歌ネタゴングSHOW 爆笑!ターンテーブル』MCの平成ノブシコブシ・吉村崇

■ネタがボケで出演者がツッコミの図式

番組説明や前振りなしで、いきなりネタからスタート。やっぱりネタ番組はこれくらい単刀直入のほうがいいし、放送時間の短い30分番組ならなおさらだ。

MCのジャニーズWEST・桐山照史による「しょうもない自慢話も、音楽に乗せれば聴けちゃうものです。どぶろっくさんで、言いたいことがある」という紹介に合わせて、どぶろっくがターンテーブルに乗って登場。

すると、画面右側に「(審査員の)判定まで○秒」というカウントダウンが表示され、その下に審査員の雨上がり決死隊・蛍原徹、山之内すず、みちょぱ、麒麟・川島明のワイプが縦1列に並んでいる。さらに画面上には、「『もっと聴きたい』全員押せば完奏」という1行の説明文が表記されていた。つまり、「この表示だけ見れば分かるシンプルなコンセプト」ということだろう。

どぶろっくのネタは、「『ハーフですか?』って聞かれたことがある」「洋服屋で店員さんに間違えられたことがある」「ドモホルンリンクル使ったことがある」「醤油をつけずに刺身が食べられる」という、しょうもない自慢話。このタイミングで審査員たちの「もっと聴きたい」ボタンが押され、「フルコーラス確定」の文字が映し出された。

さらに、どぶろっくは、「俺と別れた元カノがフランス人と結婚してた」「キンモクセイのにおいに誰よりも早く気づく」「考えごとしているふりして鼻くそ取ることできる」「目線を頭に持って行かずにハゲてる人と話ができる」というネタを披露。

この間、MCと審査員は、体を揺らしてノリノリで歌を聴きつつ、「しょうもない」「おしゃれってことね」「いっぱいいるわ!」「情けない」「たまにいるよね」「嫌だ」などと的確なツッコミやフォローを入れ続けていた。「歌ネタがボケで、MCと審査員がツッコミ」という図式なのだろう。

「見事クリアです」の言葉とともにターンテーブルが回って、どぶろっくは退場。画面が切り替わって桐山、平成ノブシコブシ・吉村崇、中村アンのMC3人が現れ、さらに「審査員が1人でもボタンを押さなければ歌の途中でも強制終了」というルールと、今回が「常連アーティストSP」であることが明かされた。

■ゆりやんだけが強制終了される必然

2組目は、わらふぢなるおの「Too High」。伝えられなかった恋心をラブソングにしたが、「どうしても高音が出ない」というネタで完奏した。3組目は、アイロンヘッドの「サビが待ちきれなくて!」。何度もサビが来ると見せかけて最後まで来ずに「結局インストゥルメントだった」というオチで完奏した。どちらもこの番組らしい斜め目線の歌ネタであり、「常連アーティストSP」ならではの出順にも見える。

4組目は、アイデンティティ・田島直弥の「裸のカカロット」。声優・野沢雅子のモノマネで、あいみょん「裸の心」の替え歌に挑んで完奏した。

5組目は、虹色侍・ずまの「紅蓮華」。LiSAの「紅蓮華」の歌詞を変えずまったく別の曲にするという歌唱力を生かした歌ネタで完奏した。

6組目は、ヤンシー&マリコンヌの「女の子の大好きなもの」。きわどい下ネタで「危ない……」とヒヤヒヤさせておいて、「結局セーフ」というネタで完奏した。

7組目は、ゆりやんレトリィバァの「Bottle Cap」。浜崎あゆみのモノマネをしながら「ペットボトルのフタを落としたら」というネタで強制終了させられ、通算5連敗目を喫した。『女芸人No.1決定戦 THE W』に続いて『R-1グランプリ』も獲って勢いに乗っているのに、なぜかこの番組の完奏が獲れない。審査員全員が「もっと聴きたい」を押さない。でも、ゆりやんは、まったく落ち込まず、反省もせず、同じことを繰り返す……。

こんなミニシリーズこそ毎週放送されるレギュラーネタ番組の魅力であり、スタッフと芸人に求められる重要な仕事の1つだろう。

■歌ネタはTikTokでバズるか

8組目は、中山功太の「芸人やめてぇな」。演歌歌手にふんして、自己啓発本とキャンプ場経営を思い切りバカにする歌ネタで完奏した。こちらもミニシリーズである上に、番組のアクセントになり得る毒気たっぷりの不可欠なネタだ。

最後の9組目は、阿佐ヶ谷2姉妹の「焦燥」。阿佐ヶ谷姉妹にそっくりの姉妹を加えた4人でYOASOBI「群青」の替え歌を本格的な合唱で完奏した。

全9組の歌ネタが終わったとほぼ同時に番組終了。まさに30分間ギリギリまで歌ネタを詰め込んだ構成であり、内容も多種多様なだけに、視聴者にいい意味で「もう終わり?」「もう少し見たかった」と思わせられたのではないか。この番組が1時間なら明らかに長いし、30分でもこれくらい詰め込まなければ物足りなさを感じるだろう。パイロット版の放送を経て、そんな最適解を早くも見つけられたように見えた。

ただ、「日曜13時30分という時間帯に合っているか」と言えば、現状では首をひねらざるを得ない。他局を含めた前後左右の番組表を見れば、この番組だけ極端にお笑い色が濃く、明らかに浮いているからだ。個人的には、土日のゴールデン帯につなぐ18時台、あるいは、もう少し毒気と色気を増した上で深夜23時~24時台の放送が合うような気がしている。

番組全体を見渡すと、明るさと優しさを感じさせる演出が随所に効いていた。桐山の元気、吉村の盛り上げ、川島の何でも拾うコメント力、みちょぱと山之内の大笑い顔、花江夏樹の穏やかなナレーション……。牧歌的なムード作りは、歌ネタ番組特有のあわただしさをやわらげるだけでなく、時流にもフィットしている。

歌ネタは、TikTokを筆頭にSNSとの親和性が高いなど、発展性を感じさせる要素が濃いだけに、制作サイドと芸人次第で大きくハネるコンテンツだろう。TBSには視聴率の結果にかかわらず「貴重なレギュラーネタ番組の1つ」として、さまざまな可能性を追求しながら続けていってほしい。

■次の“贔屓”は…超過酷かつ斬新なクラフトバラエティ『ゼロイチできんのか!?』

『ゼロイチできんのか!?』MCのチョコレートプラネット

今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、5日に放送されるフジテレビ系バラエティ特番『大冒険クラフトバラエティー ゼロイチできんのか!?』(21:30~23:40)。

「ゼロからモノを作る」というコンセプトのバラエティで、昨年12月30日に続く2回目の放送となる。前回は貧乏芸人の新鮮なたまご・ハイジが「約1カ月かけて砂鉄を集めて釘を作り、綿から糸を紡いで布団を作ってこたつを完成させる」という過酷なミッションに挑んでいた。

今回は本田望結・紗来姉妹のリクエストで、小島よしおが「カニラーメン」、峯岸みなみが「イチゴパフェ」、SixTONES・高地優吾が「紙ナプキン」をゼロから作るという。塩は海水から、器も土掘りから……その結果、「制作期間2カ月、総移動距離1万キロ超の大冒険」となったスケールに期待が高まる。