テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第174回は、21日に放送されたTBS系バラエティ特番『中居大輔と本田翼と夜な夜なラブ子さん』(20:00~21:57)をピックアップする。

木曜深夜に放送されている恋愛バラエティのゴールデン特番第2弾。「彼氏大好きな“ラブ子さん”の恋愛話を掘り下げる」というコンセプトの番組だが、今回はゴールデン特番らしい華やかな企画が期待できるはずだ。

このところ民放各局が視聴ターゲット層の若返りを図り、その流れを受けて恋愛バラエティの注目度が急上昇。実際この番組も昨年11月、今年5月と立て続けにゴールデン特番が放送されている。一方で昨年、不幸な事態を招いた『テラスハウス』(フジテレビ)は、今なお騒動が収束していないだけに、どんな構成・演出で放送されているのか気になるところだ。

  • 宮川大輔(左)と本田翼

■冒頭から芸能人の彼氏を顔出し紹介

番組冒頭、女優・松本まりかによる「紅白出場アーティストと、ものまねメイクのカリスマの彼氏が顔出しで登場!」「みちょぱ、ニューヨーク・屋敷の現在進行形の同棲事情が明らかに」「ある芸能人が突然の結婚発表」「密着9か月のカップルがついにゴールイン。プロポーズをMC3人が全力サポート」というナレーションが流された。

「ゴールデン特番らしいスペシャル企画が満載」というムードを漂わせる演出だが、現在の視聴者が「芸能人の恋愛事情にどれだけの興味があるのか」は疑わしい。むしろ、「一般人のリアリティショーのほうが人気では?」という見方もできるからだ。

最初のコーナーは、「芸能人の彼氏の顔が見たーい!!」で、計4人の芸能人と彼氏が登場するという。1人目は、「紅白出場アーティスト」の元E-girls・須田アンナ(23歳)。「交際3か月」「出会いは飲み会」「告白は解散ライブの夜」という大手通販会社の配達員・ののちゃん(25歳)の顔が公開されたほか、キス写真もオープンする派手なスタートだった。

2人目は、「モノマネメイクのカリスマ」のざわちん(28歳)。「交際1年」「出会いはオンラインゲーム」の内装職人・しゅんちゃん(29歳)の顔が公開され、さらに入籍も発表された。

芸能人の人選はさておき、一般人男性たちが顔出し出演することに驚かされてしまう。視聴者が彼らに「カッコイイ」「微妙」「もったいない」「何で?」などと自由な言葉を浴びせて楽しむタイプの番組なだけに、作り手にはセンシティブな仕事が要求される。

ここでいったん「芸能人の彼氏の顔が見たーい!!」を中断して、芸人のニューヨーク・屋敷裕政(35歳)と交際18年、同棲4年の恋人・まみちゃん(35歳)をピックアップ。2人が同棲中の自宅が公開されたほか、屋敷は“今でも彼女にキュンとする瞬間”として「幸せのハードルが低い」「体を気遣いみそ汁が薄い」を挙げた。

さらに、中居正広がスタジオゲストのみちょぱに話を振り、話題は恋人との同棲事情に。みちょぱが芸能人の多くが住むマンションで、広めの間取りに住んでいることが明らかになった。これは「通常放送よりバリューの高い芸能人の恋愛事情が欠かせない」という判断でのトークだろう。ただ裏を返せば、「これを入れなければゴールデン帯の放送は難しい」と自ら判断していることになる。

■メイン企画で無人撮影の好判断

次のコーナーは、「番組が9か月間見守ってきた」という奈良県在住の一般人カップル・侑衣菜さん(24歳)と洸成くん(25歳)のプロポーズ企画。侑衣菜さんがスタジオですでに受けたプロポーズについて話し出すが、「実は番組が彼女に気づかれないように、彼氏のプロポーズを全面サポートしていた」という構成が新鮮さを感じさせた。

まず、中居と宮川大輔がリモートで洸成くんの相談に乗り、次に宮川が侑衣菜さんの好きな魚を釣りに行き、さらに本田が侑衣菜さんのコーディネートを選び、中居がプロポーズ直前に食べるホールケーキを手作り。また、IMALUをはじめとするラブ子さんたちも、会場の装飾でプロポーズを盛り上げた。

その結果、本田が「侑衣菜ちゃんは(ラブ子さんの中でタレントではない)唯一普通の人じゃないですか。だからよかった……」と涙ぐむなど、メイン企画にふさわしいものになった。とりわけ素晴らしかったのは、番組スタッフがプロポーズの舞台となったレストランに入らず、無人カメラを設置して撮影したこと。本人、店、その他の客などにとって配慮ある方針であり、コロナ感染対策としても称えられるところだろう。

続くコーナーは、中川大志に「輪郭、目、眉毛、眉と眉の間隔は?」などと理想の女性に関する質問を重ねてビジュアル化していく「人気イケメン俳優の理想の女性の顔が見たーい!!」。内閣総理大臣賞に輝いた肖像画家・山田恵美里と、YOASOBIの「夜に駆ける」MVを手がけた藍にいなのイラストが披露された。

ここで再び「芸能人の彼氏の顔が見たーい!!」に戻り、吉本新喜劇の看板女優・島田珠代(51歳)が登場。「交際4年」「出会いはBAR」「彼は島田が初めての恋人」「婚約指輪アリ」「嫉妬が原因で25回くらい『別れよう』と言われた」という内科医・ひろしさん(53歳)の顔が公開された。

最後の1人は元AKB48の小林香菜(30歳)で、株式投資会社オーナー・ベンちゃん(33歳)の顔が公開されたところで番組は終了……「詳しくはレギュラー放送で」という終わり方だった。このようなチラ見せ程度で番組冒頭から「元AKB48が彼氏公開」とあおり続けてしまうのはテレビマンの悪癖だろう。

■MC3人の絶妙なコンビネーション

番組スタートからまだ10か月余りであるにもかかわらず、MC3人のトークバランスが抜群だった。いかにも恋愛に興味がなさそうな中居は、どの番組よりも声を張り上げて話を掘り下げ、「みちょぱ、俺のこと好きだと思ってた」などとボケていたし、宮川も中年男性らしいパワフルなトークで絡み、本田の進行やツッコミも板についている。

これは「知名度の低いタレントや一般人ばかりのラブ子さんを盛り上げよう」と培ってきたチームワークの賜物ではないか。少なくとも、「もしこの番組が終了したとしても、この3人で別番組をやってみては?」と思わせるものがあった(あるいはナレーションの松本まりかを含めた4人で)。

反面、ゴールデン特番ではラブ子さんたちの出番がほとんどなく、まだ「力不足」という判断なのだろう。その分、ゲストのマヂカルラブリーや3時のヒロインがトークで貢献していたが、できれば「番組発のスターを作りたい」ところだ。

ただ、この番組を見ていて何より心配になったのは、「彼氏大好きな“ラブ子さん”の恋愛話を掘り下げる」というコンセプトがテレビの視聴者感情にフィットしづらいこと。『テラスハウス』が修羅場のシーンほど盛り上がったことで悲劇を招いてしまったように、「テレビの視聴者が幸せなカップルを見たいのか」は疑わしい。

その傾向は『パンチDEデート』(関西テレビ・フジテレビ系)、『ねるとん紅鯨団』(同)、『あいのり』(フジ系)、『ねる様の踏み絵』(TBS系)、『ナイナイのお見合い大作戦!』(同)、『恋んトス』(同)など、過去の恋愛バラエティを振り返ってみても明らかだ。いずれも、「こっぴどくフラれる不幸なシーンがあってこそ恋愛バラエティは盛り上がる」ことを証明している。

ドラマの登場人物に悪人が減り、バラエティでも牧歌的なムードの番組が増えるなど、テレビからネガティブなシーンが減っているが、「恋愛バラエティに限ってはそうではない」ということなのかもしれない。

それを裏付けるようにゴールデン特番の視聴率は、個人2.3%・世帯4.6%(ビデオリサーチ調べ・関東地区)に留まった。裏番組に『田村正和さん追悼特別番組 古畑任三郎ファイナル ラスト・ダンス』(フジ系、個人7.5%・世帯13.4%)、『金曜ロードSHOW! アラジン』(日本テレビ系、個人7.9%・世帯12.7%)という強力コンテンツがあったものの、この2倍は取りたかったのではないか。

そもそも、今回のゴールデン特番は4月9日の予定だったが、「急きょ『ぴったんこカン・カン 追悼企画 ありがとう橋田壽賀子先生』が放送されて延期」になっていた。さらに言えば、「昨年のレギュラー放送スタート時もコロナ禍で2か月遅れになる」という不運続きの番組なのだ。度重なる不運が気の毒な一方で、やはり深夜帯での放送か、Paraviでの配信放送が向いている気がしてならない。

■次の“贔屓”は…日曜午後にネタ番組はフィットする?『歌ネタゴングSHOW』

『歌ネタゴングSHOW 爆笑!ターンテーブル』MCの平成ノブシコブシ・吉村崇

今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、30日に放送されるTBSのバラエティ番組『歌ネタゴングSHOW 爆笑!ターンテーブル』(毎週日曜13:30~)。

2020年4月から4度にわたるパイロット版の放送を経て、今年4月にレギュラー放送がスタート。出演者と視聴者の高齢化が進む『噂の!東京マガジン』をBS-TBSに移し、両者の若返りを図りたいTBSの戦略が表れた番組と言っていいだろう。

パイロット版は、深夜、土曜午後、ゴールデンと、さまざまな時間帯で放送されていただけに、日曜13時30分という時間帯にハマっているのか、いないのか。音楽ネタ番組の可能性とともに、レギュラー化から約2か月が過ぎるこの段階でチェックしておきたい。