テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第172回は、9日に放送されたフジテレビ系バラエティ特番『お笑いオムニバスGP』をピックアップする。

同局の新たな大型お笑い特番は『ENGEIグランドスラム』以来6年ぶりであり、「お笑いのあらゆるジャンルのNo.1を決める大会をオムニバス形式で見せる」というコンセプトで放送された。いずれも芸人の技量を引き出すストレートなお笑い企画だけに、爆笑の渦でコロナ禍の重苦しいムードを吹き飛ばしたいところだ。

  • (左から)千鳥、川島明、白石麻衣

■『レッドカーペット』を超えるスピード

オープニングで「この番組は、さまざまなお笑いのグランプリをオムニバス形式でお送りする“グランプリだらけのグランプリ”である」というナレーションが流れた。3つの企画が放送されるようだが、このコンセプトなら「各企画が“グランプリ”と呼ぶにふさわしい面白さがあるか」が成否のカギを握るだろう。どれか1つが面白くても、残りの2つが微妙なら番組としては成功とは言えず、視聴率・評判ともに得られないことが予想される。

1つ目の企画は、さまざまなショートネタを高速で見せていく「バク速-1 GP」。トップバッターは原西孝幸(FUJIWARA)で一発芸を披露し、ネタが終わると同時に“バク速ザウルス”に食べられてアッという間に退場した。

その後、チョコレートプラネット、3時のヒロイン、マヂカルラブリー、河邑ミク&森本サイダー、おいでやす小田、タイムマシーン3号、GAG、ジェラードン、ZAZY、パニーニ、空気階段、ランジャタイ、ダイアン・ユースケ、東京ホテイソン、カミナリ、佐久間一行、なだぎ武、アキラ100%、ネルソンズ、パーパー、アイクぬわら(超新塾)、チョコレートプラネット(※2回目)、怪奇!YesどんぐりRPG、アキナ、インディアンス、島田珠代、岩橋良昌(プラス・マイナス)、トータルテンボス、ヒコロヒー、原西孝幸(※2回目)、アルコ&ピース、ライス、ゆりやんレトリィバァ、お見送り芸人しんいち、大自然、錦鯉、ランジャタイ(※2回目)、レギュラー、ニッポンの社長、怪奇!YesどんぐりRPG(※2回目)、AMEMIYA、ハリウッドザコシショウ、チョコレートプラネット(※3回目)の順で47ネタを次々に放送。

“お笑い見届け人”という立ち位置の大悟(千鳥)が「もっと見たいな」とつぶやいたように、『爆笑レッドカーペット』を超えるスピード感は、まさに秒速の笑いだった。芸人のセレクトも、ベテランから、近年の賞レース決勝進出者、テレビ出演歴のほとんどない若手まで幅広く、ネタのジャンルもバラバラ。このコーナー自体が『お笑いオムニバスGP』と呼びたくなる「何でもアリ」だったが、そのスピード感とキレのよさはオープニングコーナーにふさわしかった。

■ドッキリの新たな楽しみ方と2段オチ

2番目の企画は、昴生(ミキ)、おいでやす小田、長谷川忍(シソンヌ)、カンニング竹山の4人がドッキリを仕掛けられて、いかに面白いツッコミを繰り出せるかを競う「ツッコミ芸人が本気でツッコんだ!ドッキリツッコミGP」。『芸能人が本気で考えた!ドッキリGP』(フジ系)のセットやロゴを有効活用した派生企画であり、切り口、コスパ、PRなど、さまざまな点で理にかなった企画に感心させられる。

まずは「ステージ0」と題したドッキリで4人のツッコミ力をチェック。この段階で、昴生がマシンガンツッコミ、小田がシンプル絶叫ツッコミ、長谷川がスタイリッシュツッコミ、竹山が社会派ツッコミと、きれいにタイプ分けされ、それぞれの注目ポイントが分かる構成は何ともわかりやすい。

その1週間後に「ステージ1」が行われ、4人は「リアルなカッパの登場」「カッパ同士の放水戦争(熱&冷)」「熱々バスタオル」「おしぼり(熱&冷)」というドッキリに4者4様のツッコミを入れる。さらに1週間後の「最終ステージ」が行われたのは、バラエティの聖地・東京ドイツ村。「浅い落とし穴」「深い落とし穴」「ハシゴに登っている最中に強風」「イスから池に発射される」「安いカッパの登場」というドッキリが用意された。

「今日はドッキリだろう」という予想がついているからか、4人はハイレベルなツッコミフレーズを連発。そんな芸人たちの奮闘に制作サイドは、「それぞれが放った20本近いツッコミを一覧として画面いっぱいに並べる」という単純かつバカバカしい演出で応えた。これぞ芸人のすごみを伝える制作サイドのナイスサポートと言えるかもしれない。

スタジオに4人が集まり、優勝者発表……と思いきや、テーブルから再びカッパが登場。「ここで面白いツッコミを放った人が優勝」という「ステージ3」がはじまった。しかし、いずれのツッコミも微妙な笑いに留まり、「全員凡打のため、今回は優勝者なし」が告げられて今度こそ終了……と思いきや、千鳥・ノブの前にもカッパが登場。しかし、ノブはまったくツッコミを入れられず、「こんな難しいことしとったん……? 無理だ」とオチをつけた。

「ドッキリのファーストリアクションと、続くツッコミで2度笑わせる」というコンセプトも、オチのつけ方も、なかなかのクオリティ。『ドッキリGP』という母体の番組があること、この4人以外にもツッコミの名手が多いことを踏まえても、第2回、第3回と続いていく企画だろう。

■潔さを感じさせる番組タイトル

3つ目の企画は、『とんねるずのみなさんのおかげでした』で人気を博した「2億4千万のものまねメドレーGP」で、4年ぶりの復活。石橋貴明が登場したとたん、当時の空気感に戻って盛り上がったのは、さすが大物であり、企画フレームの強さか。

今回は、神無月、Mr.シャチホコ、エハラマサヒロ、ミラクルひかる、河合郁人(A.B.C-Z)、こにわ、山本高広、モリタク!&河口こうへい、ゆうぞう、原口あきまさの10組が登場。かつてよりモノマネの数と密度が増え、特番仕様にパワーアップした感があった。

優勝者にローラのものまねを披露したほか、「彼氏がいないのが決め手」で審査員の白石麻衣が選ばれたことは、いかにもこの企画らしく、石橋貴明らしかった。ただその一方で、「バナナマンの不在と日村勇紀のモノマネが見られなかった」という寂しさを感じた人は少なくないだろう。

そして、一部の地域では再び「バク速-1 GP」に戻って、ゾフィー、蛙亭、わらふぢなるお、丸山礼、岡野陽一、クロスバー直撃、トンツカタンがショートネタを披露して終了した。

あらためて番組全体を振り返ると、ネタ、ツッコミ、モノマネが矢継ぎ早に放たれる手数の多い構成は、現在の視聴者嗜好を踏まえてのものだろう。「短尺の笑いで飽きさせず、ザッピングさせない」「スマホ片手のながら見にも対応できる」という意味で効果的だった。

また、『お笑いオムニバスGP』というタイトルは、考えすぎず、カッコつけず、ただシンプルに「オムニバス」とうたってしまう潔さを感じさせられる。自由度の高いコンセプトだけに、次回はどんなGPが登場するのか楽しみであり、ここからのレギュラー化も期待できるのではないか。

ちなみに視聴率(ビデオリサーチ調べ・関東地区)は、個人6.0%、世帯8.7%を記録。さらにフジテレビの重点ターゲットであるキー特性(13~49歳)の個人視聴率はさらによかったと聞いた。最激戦区の日曜夜で初回ということを踏まえれば、まずまずの結果であり、今後に期待を抱かせるすべり出しと言っていいだろう。

■次の“贔屓”は…フジ伝統のコントバラエティ復活なるか!? 『新しいカギ』

『新しいカギ』より(左から 松尾駿、粗品、鷲見玲奈 (C)フジテレビ

今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、14日に放送されるフジテレビ系バラエティ番組『新しいカギ』(20:00~21:58)。

今年1月3日のパイロット版を経て、今春からレギュラー化されたコント中心のお笑いバラエティ。メインキャストを務めるチョコレートプラネット(長田庄平、松尾駿)、霜降り明星(せいや、粗品)、ハナコ(菊田竜大、秋山寛貴、岡部大)のフレッシュな顔合わせもあって、お笑いファンと業界内での注目度は高い。

休日の幕開けとなる金曜20時という重要な時間帯に編成されたところに期待の大きさが見て取れるが、どこにターゲットを置き、どんなコントを作り上げているのか。80年代からコントバラエティをけん引し続けてきたフジテレビの原点回帰と言える新番組だけに、どんなスタートを切ったのか確認しておきたい。