テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第171回は、4月30日に放送されたフジテレビ系バラエティ番組『人志松本の酒のツマミになる話』(毎週金曜21:58~)をピックアップする。
昨年からコロナ禍の影響で『ダウンタウンなう』の「本音でハシゴ酒」に代わってこの企画が放送されていたが、今春から昇格する形でレギュラー化。「お酒が進む話なら何をしゃべってもOK」「オチも特に必要なし」という緩いルールのもと、さまざまなジャンルのゲストがトークを交わしている。
コロナ禍によって誕生した番組だが、「トーク、お酒、松本人志」という3つの要素がどう噛み合い、どんな番組を作り出しているのか。
■『すべらない話』のスピンオフ番組
オープニングで山崎夕貴アナによる「今夜の『ツマミになる話』は、夫婦や恋人との関係性を見つめ直す話で大激論」というナレーションが流れ、「ウエンツ瑛士35歳 同棲&結婚の悩みをガチ相談」「紗栄子 男性はなぜ『1人になりたい』って言うの!?」「山崎まさよし発 芸能人の人には言えないトイレ事情」という見どころ紹介のテロップが表示された。
直後、松本人志とナレーター・若本規夫によるタイトルコール。このくだりは『人志松本のすべらない話』と同じであり、スタジオのセットもほぼ踏襲されている。レギュラー化しても、「『すべらない話』のスピンオフ」という位置づけは変わっていなかった。
トークがスタートすると、松本の映像に重ねて「松本人志ハイボール2杯目」という文字が表示された。つまり「収録前からすでに数杯飲んでいる」ことがポイントであり、この先も随所にお酒を感じさせる演出がありそうだ。だからこそ、ふだんの番組より一歩進んだホンネトークが期待できるだろう。
また、画面左上には「人志松本のツマミになる話 芸能人は困ってる事だらけ!の夜」、右上には「男の『1人になりたい』って何?」「コンビニのレジの正解は?」「結婚前に同棲したほうがいい?」「マスク慣れでこんな失敗談ある?」という文字も常に表示されていた。さすがにこれは文字数が多く、とりわけTVerでのネット視聴には不向きであり、そもそも、そこまで興味を引かれるトピックスでもなく疑問が残る。
続いて、さまぁ~ず・三村マサカズによるメンバー紹介。「山崎まさよし 白ワイン2杯目」「紗栄子 ビール・日本酒3杯目」などと、やはり酒量がセットで表示されていた。今回はこれ以外にも、さまぁ~ず・大竹一樹、ウエンツ瑛士、パンサー・尾形貴弘が参加している。
ここであらためて番組内容の紹介ナレーション。「この番組はお酒の席で盛り上がる話なら何をしゃべってもOK。芸能人ならではのふだん言えない悩みや疑問を語り明かしていただきます。自粛、自粛で気が滅入りますが、おうちで飲むなら大丈夫。一緒に飲み会に参加した気分でお楽しみください」という声のあと、松本による「乾杯!」が発声された。やはり「コロナ禍に合う番組」という強みが前面に押し出されている。
■最も盛り上がったのは男たちの下ネタ
トークは『すべらない話』のようなサイコロではなく、「酒ビンを使ったルーレットで話す人を決める」という形式。しかも「その人からしゃべりはじめる」というだけで、ほかのメンバーもトークに自由参加できる雑談スタイルは、いかにも飲み会っぽい。『すべらない話』にはない「空中戦のようなクロストークが売り」ということだろう。
最初のトークはウエンツの「同棲をしようか悩んでいる」。この問いかけに、松本は「やったほうがいい。やっぱ怖いよね。(僕は)1年くらい半同棲はしてたかな」、山崎も「今の奥さんは結婚が決まって籍を入れる前に『同棲させてくれ』って実家に言いに行った」と推奨派。一方、尾形は結婚するまで妻が『実は大食いで、大食いファイターを目指している』ことを隠されていたことから、「“同棲隠し”があるから意味ない」と否定派だった。
ここで突然、「チナミになる話」というトピックスが表示。「結婚前に同棲した人と同棲せずに結婚した人の離婚率 結婚前に同棲18%、結婚せずに同棲12%(番組調べ)」というデータが紹介された。トークのみで単調になりすぎないための演出としても、視聴者への話題提供としても気が利いている。
2つ目のトークテーマである三村の「コンビニでホットスナックを注文するタイミングが難しい」に続く3つ目のトークテーマは、紗栄子の「パートナーがいるのに1人の時間って必要?」。
松本が「1人の時間は絶対に作ります。家族のリビングと俺の部屋はまったく別世界」、山崎も「僕らの仕事って何でも仕事じゃないですか。1人になって考える時間って絶対に必要なんですよ」と男性たちが熱弁をふるうたびに、紗栄子が「一緒にいちゃダメ?」と甘えるような声で誘導して笑いを誘った。
一方、尾形は「僕は家にいるときはずっと一緒にいたいタイプ」、ウエンツも照れながら「俺も女性とベタベタするの大好きなんですよね」と話すなど、どちらかに偏らずほどよくバランスを取って終わらせる配慮が、番組に安定感をもたらしている。
4つ目のトークテーマは、「トイレで立つか座るか」。松本が「オレくらいの年齢になると座ってできない。加齢でぼうこうの形が変わって、座ってしても尿が残ってしまう」、紗栄子が「自分の子どもにも『座ってしなさいね』って言っています。嫌だ。絶対散ってる」、ウエンツが「前向いて座りたいときがある。タンクを抱えていると安心して全部出るんですよ」、山崎が「行きつけの歯医者さんやったら座ったほうがいいし。でも公衆トイレとか新幹線とかでは思いっくそやったるんです」とトークはこの日一番の大盛り上がり。やはり男メンバーの多い酒席は下ネタがヒートアップするということか。
■意外性のあるキャスティングに期待
最後のトークテーマは、大竹の「マスク生活での失敗談」。大竹の「マスクをしたままつばを吐いてしまった」、ウエンツの「マスクの針金があたって鼻の皮膚が色素沈着してしまった」などのトークを経て、最後を締めくくったのは松本。「マスクがパンツみたいになってきて。『隠してるもんや』っていう意識が強いから、たまにマスクを外している人を見ると興奮する」と笑わせ、すかさず三村が「『あの子が(マスクを外して)ご飯を食べるまで待っていようかな』って」とつなげてオチをつけた。
この番組の構図は、「トーク巧者の松本と準レギュラーのさまぁ~ず、千鳥、アンタッチャブル、フットボールアワーが積極的にしゃべってゲストの話を引き出していく」という形。なかでも松本自らしっかりお酒を飲みつつ、プライベートの話や偏った価値観を吐露するなど、「ホンネトークのムードを醸し出そう」という前のめりなスタンスがうかがえる。さらに言えば、松本はネットニュースの見出しになるようなフレーズを多用しているようにも見えた。
これは裏を返せば、「無防備にプライベートや偏った価値観を話せる芸能人ほどゲスト出演のチャンスがある」ということではないか。今回は芸歴が長く、バラエティ経験のあるメンバーがそろっていたが、次回に国際政治学者の三浦瑠璃が出演するなど、キャスティングの意外性に期待がかかる。
出演者たちが大きなジョッキを飲むカットをはさんだり、「ワインをロックで飲む」という山崎の飲み方をピックアップしたり、「乾杯から○分経過」と表示したり、おつまみ紹介のコーナーを入れるなど、飲み会のムードを感じさせる演出はさりげなく、大人のムードを感じさせる。
本当はもう少し若い年齢層にも見てもらいたいのかもしれないが、現実的には「アラフォーやアラフィフが週末にのんびりお酒を飲みながら見る番組」というポジションで定着していくのではないか。それくらいの普遍性があり、松本のモチベーションが落ちにくい企画に見えた。
■次の“贔屓”は…「2億4千万のものまねメドレー」が復活!『お笑いオムニバスGP』
今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、9日に放送されるフジテレビ系バラエティ特番『お笑いオムニバスGP』(19:00~21:54)。
同局の新たな大型お笑い特番は『ENGEIグランドスラム』以来6年ぶりであり、「お笑いのあらゆるジャンルのNo.1を決める大会をオムニバス形式で見せる新たな総合バラエティ」というコンセプトで放送される。
その内容は、総勢46組の芸人が一堂に会し、コント、漫才、ギャグ、一発芸などジャンルを問わずさまざまなネタを続々と披露する「バク速-1GP」、カンニング竹山、シソンヌ・長谷川忍、ミキ・昴生、おいでやす小田の4人が数日間にわたってドッキリを仕掛けられ“いかに的確に、いかに面白いツッコミを繰り出せるか?”を競う「ドッキリツッコミGP」、『とんねるずのみなさんのおかげでした』で人気を博したものまね企画のアップデート版「2億4千万のものまねメドレーGP」の3本立て。
いずれも芸人の技量を引き出すストレートなお笑い企画だけに、爆笑の渦でコロナ禍の重苦しいムードを吹き飛ばしてほしい。