テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第169回は、18日に放送されたTBS系バラエティ番組『週刊さんまとマツコ』(毎週日曜18:30~)をピックアップする。
今春スタートの新番組だが、明石家さんまとマツコ・デラックスは『ホンマでっか!?TV』(フジテレビ系)で相性の良さは実証済み。番組内容は謎に包まれていたが、おしゃべりモンスターの2人だけに、発言が次々にネットニュース化する強烈なトーク番組になりそうだ。
注目度の高さもあり、放送第1回から早速チェックしてみた。
■18時30分スタートの30分番組という絶妙の編成
新番組のスタートは、何とマツコが楽屋で生え際の白髪を隠しているシーン。新番組のオープニングとしてはシュールだが、マツコは「白髪染めに行く」というエピソードできっちり視聴者を笑わせる。するとカメラが切り替わり、さんまの楽屋へ。「緊張感が勝手にあって昨日眠れなくて」「すごいみんなテンパってる。もう汗だく」と不安げなスタッフに、さんまは弁当を食べながら「遊びの枠で別に緊張せんでもええやん」と返すリラックスした姿を見せた。
ここで「週刊さんまとマツコ。初回の今夜は“2人の楽屋 普段のおしゃべりの記録”をご覧ください」というテロップが表示された。初回というより“エピソード0”のような内容に肩透かしを食らった気分だが、そんな固定概念にとらわれない形がこの番組の魅力なのかもしれない。そしてこの自由度を実現させているのは、制約を受けにくい「18時30分スタートの30分番組」という絶妙の編成ではないか。
まずは、スタッフがマツコにさんまとの出会いを質問。マツコは「11~12年前の『ホンマでっか(TV)』だと思う」とマジメに答えつつも、「つまらない合コンの挨拶みたいなこと聞くんじゃなくて、あんたたちの力量もあると思うよ。『私に全部任せて普通通りにやってください』って言ったら、そんな話しか出ないわよ。私の楽屋なんてハレンチ学園みたいなもんだから」と毒気たっぷりに“らしさ”を見せた。
カメラはさんまの楽屋に替わり、スタッフが「『ホンマでっか』以降はマツコと会ってない?」と尋ねる。さんまは「会ってない。マツコは5年前から辞めると言ってたんだけど、残ってくれてて」「辞めることになったときに、『でも(一緒に)何かやりたい』って言われて。『どっかで何かやる?』っていう会話から(はじまった)」「でも俺とマツコで勝負したくないのよ。『ヒットさせます』とかいう感じはもういいでしょ?』『オレもええわ』『夕方か深夜やな。でも金ないしな。放送局な』とか話してて」などと次々に裏話を披露していく。
さらに、「『ディレクターは誰がええねん』っていう話になって、日テレのメンバー言うてくると思ってウーロン茶飲んでて。そしたら『江藤さん』っていうたから『パーッ』って(口からウーロン茶を吹いて)。机を拭きながら『今なんて言った?』って」と江藤俊久チーフプロデューサー本人に話して笑いを誘った。その後も、「頑張ってるけど何か光が差さないのよね」と江藤CPをイジり、「吉本も何も介さず」に話を進めたことなども明かすなどのリップサービスは圧巻だ。
■「引退説」のマツコに毒気が戻ってきた
「失うものしかない人たちよ。得たものなんてないわよ、あんたたちに」「今こんな斜陽産業で、ああだこうだやってる人間はみんなね、敗北者よ」と毒が止まらないマツコに、スタッフは以前痛めていたヒジの様子を尋ねる。
これで、マツコのトークスイッチが入った。「生きてるだけで負担がかかってるんだから」「お医者さんに『ゴルフが趣味ですか?』って聞かれたわよ。寝て圧迫してるだけでゴルフ肘みたいになってるんだから」などとまくしたてるマツコ。
これだけでは終わらず、「お前の振りからのトークつまんねえな……今、『お前』って言うと叩かれるの。大炎上。私なんてもうあれよ……言葉が出てこない。『今言う言葉は果たして時代に沿っているのか』って考えなければいけなくなったから言葉に詰まるようになってきた。いろいろもう無理だわ。時代に合ってないよ、私はもう」とグチが止まらない。
そんなマツコを見かねたスタッフが「そんなことないですよ」となだめても、「そういうので喜ぶタイプだと思う私?」と逆ギレ。スタッフが「すいません」と謝っても、「じゃあ言わなくていいわよ……こういうことをしてるのも今、パワハラだから」とオチをつけた。このところマツコは「以前の毒が消えた」「芸能界引退を考えているのでは?」などとウワサされがちだが、このキレ味を見れば心配無用だろう。
一方、さんまは「やっぱオレとマツコがやると人目にふれてまうな」「フジテレビさんは『フジでやれないのが悔しいです』って言った」と言いながらヒゲを剃っていた。スタッフが「新人が書きそうな企画だもんね。さんまさんとマツコさんなんて。『それができたら苦労せんわ』って」と話を広げると、さんまはすぐに呼応。
「昔ホントにそんなのがあって。『さんまのまんま』をやってる作家が勝手にテレ朝に井上陽水さんとタモリさんの旅行の企画出したの。仲いいからって。そしたら『旅行の番組? 毎日いいともやってるよね? 行けないよな?』と言われて、『はい』で終わった」というキャリアを生かしたエピソードトークで笑わせた。
まだ開始10分の段階であるにもかかわらず、もはやどちらの楽屋を映しても爆笑状態。「この2人がスタジオに入ってトークで絡んだら、どれくらい笑わせてくれるだろう」という期待感がどんどん高まっていった。
■CMなしで次番組につなげる意味
全員立って話していることに気づいたスタッフから、「何なんですかこの立ちトーク。楽屋で立ちます?」と指摘されたマツコは「違う違う……」と否定しつつも、「だってふだんの楽屋……じゃないね。だからもう無理があるんだって!“おしゃれコメディエンヌ”じゃん私。だからこういうことをしちゃうんだって」と返すなど、まだまだ笑いを詰め込んでくる。相手がさんまだけに、「自分のやれることはすべてやっておこう」という姿勢なのか。
一方のさんまの楽屋には『炎の体育会TV』の今田耕司、蛍原徹、宮川大輔があいさつに訪れる。「そんなたいそうな番組ちゃうからなあ」「最初は誰も気づかない感じでいきたかってん」と笑うなど余裕たっぷり。さらに今田には「『(MCを務めるオールスター)感謝祭』も行くよ。女優さんの前で一発ギャグやる」と予告して笑いを誘った。
その後もマツコは、あえてつまらないタケノコ掘りの話を続けて「6時半にタケノコの話しちゃいけないのか? 『相葉マナブ』でタケノコ堀りに行ってたよ。同じ時間帯だろ? ヘタクソ! 編集ベタ!」とキレたり、「あたし出前館ランキング、ゴッドよ」と食生活を明かしたり、最後まで全力投球。終了直前スタッフに「ちょっとあんた。さんまさんのほうすごい面白かったらしいわよ」とこぼしたシーンは、マツコなりにプレッシャーを受け、それを楽しんでいるように見えた。
番組終了間際2人は着替えをはじめ、さんまは上半身裸のパンツ姿になり、マツコは更衣室へ。出てきた姿は、さんまが磯野波平、マツコがフグ田サザエのコスプレだった。2人が出会ったフジテレビで放送される裏番組に対するリスペクトか、それともケンカを売っているのか。
その姿が映った瞬間、映像は次番組の『坂上&指原のつぶれない店』に切り替わった。日本テレビ、テレビ朝日、NHKなど19時~21時台の裏番組が強いだけに、「CMをはさまず直結して、そのまま視聴者を誘導する」という『週刊さんまとマツコ』に課せられた使命は大きい。
あらためて初回放送を振り返ると、トーク巧者の2人だけに30分があっと言う間であり、ネットニュースになりそうなトークがてんこ盛り。それは今後スタジオでもロケでも変わらないだろうし、期待感しか抱けないような初回放送だった。
「さんまと誰かのサシトーク」というコンセプトで思い出したのは、『笑っていいとも!』(フジテレビ系)の「タモリ・さんまの日本一の最低男」。あのような生放送での、さんま・マツコのトークもいつか見せてもらいたい。
■次の“贔屓”は…16年越しゴールデン放送の意味は? 『オオカミ少年』
今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、23日に放送されるTBS系バラエティ番組『オオカミ少年』(毎週金曜19:00~)。
ランダムなジャンルのVTRが「ウソかホントか」を当てるクイズバラエティとして今春スタート。深夜枠での放送から実に16年越しでのゴールデン帯レギュラー放送であり、「なぜ今この番組が選ばれたのか?」が興味深い。
16日放送の初回3時間SPに続く第2回は、「世界一マジシャンのマジックを初めて見るリアクションをしているのは?」「高級料理を食べたフリをしているのは!?」「地上10m&長さ10m!恐怖の鉄骨渡りでCGのウソは誰?」などを放送。阿部寛、及川光博ら新ドラマ『ドラゴン桜』の出演者ら豪華メンバーの出演が予定されるなど注目度は高い。