テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第165回は、21日に放送されたTBS系経済バラエティ番組『がっちりマンデー!!』(毎週日曜7:30~)をピックアップする。

2004年4月の『儲かりマンデー!!』時代から合わせて17年になる加藤浩次MCの長寿番組。テーマは「経済」だが、バラエティらしい出演者、構成、演出で硬いイメージはなく、幅広い年齢層からの支持を得て時間帯トップクラスの視聴率を獲得している。

今春は加藤浩次と吉本興業のエージェント契約が3月末で終了するほか、加藤が同じTBSでMCを務める『この差って何ですか?』『スーパーサッカー』が終了。結果的に生き残る形となったこの番組にも注目が集まっている。

加藤浩次

■いきなりビジネスから入らない配慮

番組はピックアップする企業の紹介からスタート。

「SCRAP(スクラップ)……おそらく聞いたことがない人も多いと思いますが、今、世の中は空前の謎解きブーム。テレビには謎解きやクイズ番組が増え、謎解き本や謎解きゲーム、謎解きイベントが急増中。そんな謎解き業界の中でトップを走り続けているのがSCRAP」

「そのSCRAPが生み出した儲かり謎解きイベント『リアル脱出ゲーム』。複数人で部屋に入って、謎を解いて、脱出する。SCRAPはこのリアル脱出ゲームで、創業からわずか12年で売上38億円の会社へと急成長。でも、部屋から出る謎解きだけで何でそんなに儲かるのか。今回は謎の会社・SCRAPの儲かる謎を解き明かしちゃいます」

約1分半に渡る丁寧かつ無駄のないナレーションと映像は、いかにも経済系の番組らしい。それが終わるとMCの加藤浩次と進藤晶子が登場。「一般家庭のリビング風セットにビジネスパーソンを招いてゆったりと話を聞く」というムード作りが堅苦しさを取り除くとともに、日曜朝の放送にフィットしている。

加藤浩次が「僕の家族も(リアル脱出ゲームに)行くんですよ。子どもたち3人と妻の香織で。『俺も行く』って言ったら『パパ来ると面倒くさいから来ないで』って。『意見が割れるから』って。(だから)1回行ってみたいんですよ」と微笑ましいエピソードで笑わせる。いきなりゲストの社長を登場させてビジネスの話に入るのではなく、「ひと笑い入れてリラックスした空気を作ろう」という配慮が心地よい。

SCRAPの加藤隆生社長が登場すると、本編のVTRに突入。同社は2008年に京都で創業し、全国15か所に専用施設があり、これまでに約740万人を動員。料金は1公演1人800~4,000円するにもかかわらず、体験者たちは「最高ですね」「めちゃいい公演でした」「やめられない。中毒ですね」と絶賛の声を挙げている。

「いったい何が楽しいのか?」という視聴者目線の疑問を解決すべく、まずはリアル脱出ゲーム初心者のAD・小林が挑戦。さらにスタジオのセットに「リアル脱出ゲーム がっちりマンデーからの脱出」を作って加藤浩次が体験し、残り1秒で見事成功した。加藤浩次は「めちゃめちゃ興奮した。楽しいわ、これ。何で人間って、ひらめいた瞬間こんなに気持ちいいんですかね?」と加藤社長に問いかける。

加藤社長が「ひらめいた瞬間の喜びがあるので、それを(人間は)歴史の中で続けてきて発展してきた。『わからなかったことがわかった』という喜びが、また次のわからないものを求めて扉を開けるモチベーションになっていく」と返すと、加藤浩次は「そうか! われわれのDNAに組み込まれているものだから(気持ちいいんですね)」と全面的に同意。画面には「加藤社長の仮説 『わかった!』が気持ちいいから人間は学んで発展することができたのかも」という文字が表示されていた。

ここが経済バラエティとして学びとなる部分なのだろう。さすが17年の歴史を持つ番組だけに、「なるほど」と納得させる構成にスキがない。

■数字にこだわりドキュメントで魅せる

次のVTRは、SCRAPが作るリアル脱出ゲームの制作現場。年間40本以上もの新作リアル脱出ゲームを開催する東京・千駄ヶ谷のSCRAP本社を訪れると、「今日は“面白いルーム型ゲーム”を作ろうぜ会議」が開かれていた。

その後、「作り方その1 どういう脱出ゲームにするか決める」「作り方その2 謎を作る」「作り方その3 デバッグ」というステップが紹介されたが、なかでも目を引いたのは社員たちの紹介。

No.1ヒットメーカーの山本渉さん(29歳)、東大卒入社5年目でトップ謎クリエイターの荒浪祐太さん(30歳)、人事総務マネージャーの獅子元孝生さん(年齢表示なし)ら、各部門の社員から現場の声をピックアップしつつ、さまざまな角度から儲かる仕組みが挙げられた。

さらに番組は、ゼロから考える謎解きばかりではなく、進撃の巨人、東京メトロ、遊園地、ホテルなどとのコラボが儲かることに注目。たとえば、東京ドームホテルとのコラボはゲームチケット付き宿泊券がほぼ完売状態で、獅子元さんは「ウハウハですね。フフフ……。だいたい2万4,000円から3万5,000円くらいの価格帯でお互いがっちりです」とコメントした。お金などの具体的な数字にもこだわって伝えているからこそ、この番組には説得力があり、ファンが多いのだろう。

次のVTRは、ある謎解きのオープン前日、加藤社長が自らチェックするシーン。本番と同じ環境でテストプレイヤーを入れて試したところ、何とオープン前日に問題の難易度を修正し、エンディングの演出を変更していた。そんな努力もあってか、オープン初日は1枚3,300円のチケットが初回80枚完売する盛況ぶりで、加藤社長が「大事にしている」という客の一体感が生まれていた。登場するすべてがリアルなエピソードだけに、こんなドキュメント要素も番組の柱となっている。

加藤社長は「今度はどんなリアル脱出ゲームを考えてるんですか?」という最後の質問に、「コロナによって店舗型のビジネスだけじゃなくて、オンライン型の謎解きも随分発達させたので、『空間の中で作ってきたノウハウをデジタル化したときにどんな新しいものが生まれるんだろう』と期待しています」とコメント。業界と当該企業の最新と未来にしっかりふれるのも、この番組の特徴であり、最後にバラエティ寄りから経済番組寄りにきっちり戻して締めくくるところが信頼感につながっているのではないか。

■視聴者のための“お約束”で締める

「それは…CM2のあとで」という“お約束”の振りを経たエンディングは、恒例の視聴者プレゼントコーナー。

加藤社長が「オンラインリアル脱出ゲーム『封鎖された人狼村からの脱出』に100名を招待します」と話すと、すかさず加藤浩次が「100名でいいすか? オンラインでもっとみんなにやってもらったほうがいいと思うんですけど」と返し、その結果プレゼントは1,000人に大幅アップした。このくだりも毎週のことだが、局や出演者にメリットがある宣伝ではなく、視聴者にメリットがあるプレゼントで“お約束”を使う姿勢が素晴らしい。

ちなみに次週のテーマも、「あやしい? でもスゴい“水”ビジネス。空気から作る飲み水? 野菜も魚も育つ水?」とキャッチーかつエッジが効いている。テーマ選びから、構成、演出、さらに加藤浩次と進藤晶子の進行、そしてナレーションの木村匡也まで、抜群・盤石の安定感。また、「さまざまな社長とのコネクションが構築できる」という点では、『坂上&指原のつぶれない店』など他番組への好影響もあるだろう。

完全独立する加藤浩次は当然かもしれないが、まったく変わらない姿を見せていた。『がっちりマンデー!!』は一見地味だが、TBSにとっては貴重なポジションの番組であり、今のところ加藤浩次以外のMCは考えづらい。実際この日はゲストコメンテーターの芸人や経済評論家の森永卓郎がいなかったが、ビジネスにまつわる話から笑いを誘うエピソード、動きを伴うパートまで、すべて1人でこなせる芸能人は貴重だからだ。

さらに、前述した「さまざまな社長とのコネクションが構築できる」は、番組だけでなくそのまま加藤浩次にも当てはまる。これだけ多くの社長と面識があり、ビジネストークを交わし続けてきた芸能人はいないだけに、「加藤浩次が今後どんな芸能活動をするとしてもアドバンテージがある」と言っていいだろう。逆に言えば、この番組が終了するか、加藤浩次が外れるとしたら、それは本当の“粛清”なのかもしれない。

■次の“贔屓”は…コロナ禍の限界を攻められるか?『オールスター感謝祭・後夜祭』

『オールスター感謝祭’21』 (C)TBS

今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、27日に放送されるTBS系バラエティ特番『オールスター感謝祭’21春』(18:25~23:48)、『オールスター後夜祭』(24:58~26:58)。

1991年秋の第1回放送から放送30年目のアニバーサリーを迎えているが、コロナ禍の制限があるだけに構成・演出に注目が集まるだろう。さらに、同日深夜には『オールスター後夜祭』も2年ぶりに復活する。

計7時間半の生放送で視聴者を盛り上げるべく、どんな仕掛けを用意しているのか。感染予防対策が求められる状況の中、限界ギリギリを攻める姿勢に期待したい。