テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第153回は、19日に放送されたテレビ朝日系特番『笑顔の瞬間スペシャル2020~あなたから元気をもらった!~』をピックアップする。

「コロナ禍に見舞われて暗いムードの中、とびきりの“笑顔”で日本中を幸せな気分にしてくれたアスリート、アーティスト、歌手たちの1年を振り返る」というコンセプトの特番。『羽鳥慎一モーニングショー』の羽鳥慎一と『報道ステーション』の徳永有美が初タッグを組んで、スターたちの笑顔にフィーチャーするという。

■トップバッターは活動休止間際の嵐

  • 羽鳥慎一(左)と徳永有美

番組は、羽鳥慎一と西田敏行の座りトークからスタート。画面右上に「羽鳥&西田 笑顔で振り返る2020年」という文字が表示され、西田が「今年はもうコロナにやられたって感じですね。振り返ってもいい思い出が思い当たらないというかなあ。変な1年でしたね」と嘆くと、羽鳥は「そんな中でもこの1年を笑顔で振り返っていこうと。前向きな時間にしていきたいと思います」と返した。

その後、スターたちの映像を挟んで、「なぜあの笑顔が生まれたのか。笑顔の理由を知ったとき、心の中にあたたかい何かが残ります。来年への希望と願いをこめて、あなたから元気をもらった! 笑顔の瞬間スペシャル2020」とタイトルコール。各ジャンルのスターを集めたラインナップは豪華であるとともに、彼らの笑顔を見ていると改めて激動の1年だったことを感じさせられる。

1組目にピックアップされたのは嵐。画面右上に「嵐 笑顔の軌跡 羽鳥が聞いた秘話」という文字が表示され、ハワイでのデビューから、『ミュージックステーション』初出演、主なヒット曲やライブ演出の紹介、過去のインタビュー映像が10分弱にわたって放送された。年内で活動休止する嵐は、今多くの人々が「見たい」存在であり、トップバッターにふさわしい反面、この番組用に撮影した映像は一切なく、「人気に便乗した」という感もある。

次にフィーチャーされたのは、アスリートたちの笑顔。画面右上に「2020年も大活躍!アスリートたちの笑顔」という文字が表示され、ゴルフの渋野日向子、バドミントン日本代表の男女ダブルス、サッカーの内田篤人、卓球の伊藤美誠、野球の福岡ソフトバンクホークスとダルビッシュ有の活躍が紹介された。

中でも、アスリートのメインとしてピックアップされたのは、テニスの大坂なおみと競馬の藤田菜七子。まず大坂は「亡き“兄”に捧ぐ全米オープン優勝」と題して事故死したバスケ界のスーパースター、コービー・ブライアントさんのユニフォームを着てほほ笑む写真が紹介された。一方、藤田は「憧れの美人ジョッキーと再会」と題して、女性騎手初となるJRA100勝目前で大ケガを負ったときのエピソードをピックアップ。勇気づけてくれたフランス人女性騎手・ミカエル・ミシェルとリモートで会話を交わす様子が放送された。

国民的アイドル、テニスとバスケットボールの世界的スター、日仏の美女ジョッキーを紹介したところで約30分が経過。序盤から派手なメンバーで視聴者の心をグッとつかめたのではないか。

■LiSAの「炎」がエンディング曲に

アスリートに続いてピックアップされたのはエンターテイナーの笑顔。まず昨年の『M-1グランプリ2019』王者・ミルクボーイが劇場閉鎖や無観客公演、さらに、内海崇が新型コロナウイルスに感染し、駒場孝も濃厚接触者として隔離されるなど苦しむ中、ネタ作りに励む様子が紹介された。

目を引いたのは、コロナ陽性を知らせる文章などが生々しく書かれたグループLINE。言わば、ミルクボーイが番組構成上の「新型コロナウイルスの感染者になりながらも笑顔を取り戻す」というポジションを担ったのだろう。さらに、内海の角刈りを切る理容店の店主との絆を紹介しつつ、「お客さんの前で漫才ができるのは当たり前でなく、幸せなこと。初めて舞台に立ったときの気持ちを思い出した2人。だからこそ生まれたこの笑顔でした」というナレーションで締めくくられた。

続いて番組は、緊急事態宣言中に星野源が動画で呼びかけた「うちで踊ろうコラボ」、俳優たちの絵本朗読バトン、芸人たちのギャグつなぎ、休園中の動物園や水族館の映像公開などが多くの笑顔を集めたことを紹介。また、“動画つながり”でNiziUのショートインタビューにつなげて、各メンバーが笑顔になったことを挙げていった。

その後、医療従事者を笑顔にした航空自衛隊ブルーインパルス、大規模な無観客配信ライブを行ったサザンオールスターズ、営業時間の短縮要請が出た日に新店舗をオープンさせた「すしざんまい」の木村社長、夏に中止となりながらも11月に感染対策検証イベントを行った徳島の阿波踊り、急性リンパ性白血病から復帰して日大チームのために泳いだ池江璃花子のエピソードが次々に流された。

そしてトリを務めるのは、『鬼滅の刃』主題歌が大ヒット中のLiSA。今年一番笑顔になった瞬間として「中日ドラゴンズのマスコット・ドアラと一緒に写真を撮ってもらったこと」を挙げたあと、「これから歌わせていただく『炎』は前に進んでいく覚悟を決めた人の歌です。思いを込めて歌います」と語り、事実上『笑顔の瞬間スペシャル』のエンディングテーマとなった。

■『M-1』前夜に1年を振り返る番組?

VTR中心の構成だったが、羽鳥、西田、徳永に加えて、長嶋一茂、宮崎美子、吉村崇をそろえたスタジオトークもなかなかのものがあった。

笑いを担うはずの吉村が「(大変だったからこそ)のちのちには芸人の力がついた1年になるかもしれませんね。自分で考えるようになったりとか」と前向きなコメントを語り、長嶋も「今年一番笑顔になった瞬間」に早稲田大学野球部・小宮山悟監督の感動的なインタビューを挙げて番組に厚みをもたらしていた。

一方、ハートフルなコメントが求められそうな西田が「韓国ドラマ『愛の不時着』を徹夜で見た」「『Nizi Project』を見ていた」ことを明かし、宮崎も「ふだん漫画を読まないけど『鬼滅の刃』にハマった」としてお気に入りのセリフを熱演。さらに徳永は「(夫の内村光良は)ず~っと家にいていろんなネット動画見たりとか、連続ドラマとか連続シリーズを制覇していくみたいな感じでしたよ。舞台がどうなるかとかも心配していました」というレアなエピソードを披露した。

主役はあくまでVTRに登場する人々だが、スタジオのメンバーがその周辺をしっかり担っていたこと。しかも意外性のあるポジショントークでアクセントになっていたところに、プロデュース・演出の何気ないバランスとセンスを感じさせられた。

改めて番組全体を考えてみると、「国民的な人気者たちを集めた」と言っても、ここまでジャンルがバラバラだと、どうしても目当ての人だけ見てザッピングもされやすくなるのがつらいところ。だからこそ「1年の締めくくり」という見るための必然性を感じてもらうために、クリスマス以降の放送がよかったのかもしれない。もちろん編成意図はあるのだろうが、内容としては充実していただけに、もう少し人々が「1年を振り返る」というモードに入った段階で放送されていたら……と感じてしまったのだ。

事実、最後のコメントで西田が「コロナ禍でみなさん大変苦しい思いをされていると思いますけども、『笑顔が一番だ』ってことを教えていただきました。私も齢73になりましてぼちぼち先が見えはじめたので、心に“炎”を灯して前を向いて歩きたいと思います。笑顔で年末を送りましょう」、羽鳥も「来年2021年、みなさんが笑顔で過ごせる1年になるように祈ってお別れしたいと思います」と12月最終週のようなコメントで締めくくっていた。

また、翌日に『M-1グランプリ2020』が放送されていたが、コロナ禍の厳しさが増す中、異なるタイプの番組で視聴者に笑顔にさせようとする試みは素晴らしい。ただ当番組に関しては、「キレイごとのようにまとめすぎたのでは?」というツッコミ要素が生まれてしまったことも含めて、やはりまだ1年を振り返るのは早かったのではないか。ともあれ今年の年末は、この手のポジティブな番組が例年以上に求められ、支持されるだろう。

■次の“贔屓”は…「ご長寿早押しクイズ」はリモートで成立? 『ご長寿グランプリ』

『爆笑! 明石家さんまのご長寿グランプリ2020』MCの明石家さんま (C)TBS

今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、27日に放送されるTBS系バラエティ特番『爆笑! 明石家さんまのご長寿グランプリ2020』(18:00~21:00)。

『さんまのSUPERからくりTV』内の人気コーナーだった「ご長寿早押しクイズ」を軸に、2016年から年末特番として定番化。今年はコロナ禍に対応してリモートで行われるというだけに、さらなる珍解答が期待できそうだ。

「高齢者はコロナ感染で重症化しやすい」と言われるなど、何かと不安な日々を過ごす人の多い中、「陽気でパワフルな姿を見て年を越してもらおう」という制作姿勢に賛否両論が巻き起こるのではないか。