テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第150回は、11月29日に放送されたTBS系バラエティ番組『バナナマンのせっかくグルメ!!』をピックアップする。

「バナナマン・日村勇紀が日本全国の名物料理を紹介する」という単純明快なコンセプトとは裏腹に放送時間帯は波乱万丈。2014年に単発特番放送としてスタートから、15年4月~7月まで月曜深夜でレギュラー放送、再び単発特番になったあと、16年10月~19年3月までは日曜18時台にレギュラー放送、またも単発特番になったあと、今年4月から日曜20時台にレギュラー化され、現在に至っている。

裏番組に『世界の果てまでイッテQ!』(日本テレビ系)、『ポツンと一軒家』(ABCテレビ・テレビ朝日系)、大河ドラマ(NHK)の3強がそろう中、ここまでの視聴率と評判は上々。このところ業界人や視聴者から、「普通のロケ番組に見えるけど、何で人気があるの?」と聞かれる機会が増えたこのタイミングで、掘り下げていきたい。

  • バナナマンの設楽統(左)と日村勇紀

■サザエさん症候群を忘れさせる明るさ

番組は、日村勇紀の顔面アップからスタート。「どうも~日村です~! さあ今回、私はこちら高知県高知市にやってまいりました~イエイイエイイエイイエイイエイ!」と全力で盛り上げる。

さらに、景色を見渡しながら、「(ここは)高知を代表する観光スポット・桂浜ですよね。本当にキレイだね、桂浜って」と楽しげにコメント。こんな一点の曇りもない日村の明るさと元気がこの番組の揺るぎない核となっている。たとえば、翌日の仕事や学校が憂鬱な“サザエさん症候群”の人も、この番組を見ている間はネガティブな気持ちになりにくいのではないか。

そんな日村を「高知市を代表する景勝地・桂浜から望む雄大な太平洋を見つめているのは……かの偉人、坂本龍馬。そんな龍馬を生んだ街、高知県高知市で代表的なグルメと言えば……そう、カツオ。豊富なエサを食べて育った戻り鰹は脂がのって今が旬」というナレーションがフォロー。すかさずスタジオで設楽統が「(サザエさんのマネで)カツオ!」、日村が「(カツオのマネで)姉さん!」とかけ合いを見せて笑いを取った。

今回、地元住民にリモート聞き込みをするための“日村ロボ”は、高知駅前の広場と地元住民が集まる公園に設置。日村はさっそく男女2人組を見つけて、「素敵なカップル。(女性は)絶対に美人。何かおしゃれな2人だな」とつぶやいたあとに声をかける。名前をきちんと聞き、女性が妊婦であることを知るとすかさず「美由紀さん頑張って!」といたわるなど、やはり優しい。

カップルから「絶対コレ!」と、しらす丼をすすめられた日村は「しらす丼いいね~。エッヘッヘ。大好き!」と両手を叩いて大喜び。店名とメニュー名をボードに書き、2人で読んでもらうと、「いや~きた~! ありがと~!」とカップルに両手を振った。その後、女性が立ち去ろうとすると、「(妊婦だから)ゆっくり歩いて。ゆっくり歩いて」と声をかけていたが、何と「このロケの翌日に子どもが生まれた」という。アットホームなこの番組にぴったりなエピソードだった。

日村は、店に電話をかけて撮影交渉開始。「もしもし。恐れ入ります。すいません私、東京でバナナマンというお笑いやってます日村というものなんですけど、『バナナマンのせっかくグルメ!!』というTBSの番組のロケを高知でやってるんですよ。それで今ね、『安芸 しらす食堂』さんの生しらす丼がおいしいって教えてもらったんですけど……」と丁寧に話し、交渉成立すると「やった~ありがとうございます」と、またも喜びを爆発させた。こんなに楽しそうな姿を見せ続けられると、見ているほうも楽しさがシンクロしてくるから不思議だ。

近年、芸能人が取材店へのアポイントを取る番組が増えたが、日村は誰よりも笑顔であり、それでいて礼儀正しく丁寧。「ぜひ食べたいんです」という熱意と「お邪魔させていただく」という配慮の両方があるから、視聴者を「ただおいしいものを食べてばかりで芸能人はズルい」という気持ちにさせない。

■フレーズより大事な素のリアクション

番組はここでドライブ映像を挿入。日村はイエローの車で海岸沿いをドライブしながら、「いいの出たな~。生しらす丼」「(海を見て)ハイ最高! これはたまらん。おお気持ちいい」とハイテンションで佐野元春の名曲『約束の橋』を歌い、口笛を吹いていた。また、ドライブの様子を日村の車内、後方を走る車、ドローンの3台で撮影していたが、こんな何気ない映像を忘れないからこそ視聴者は旅行気分に浸れるのだろう。

店に着くと、番組は安芸産しらすの素晴らしさを伝えるべく、漁師たちの「(他とは)味が違う。こまくて身が締まっとる」などのコメントを紹介。日本トップクラスの品質であることを伝えた上で、生しらすと釜揚げしらすをたっぷり乗せた「釜揚げちりめん丼 プラス どろめ丼 950円(税込)」が登場した。

日村の食レポは、「超うまい。思っているより全然すげえうまい」「磯の香り、すごいおいしい」「ほのかな塩味ですね。お~い、うまいぞ!」などと細かい説明ではなく、自然なリアクション重視。さらに「この量。(生しらすと)目が合う合う」と笑いも忘れず、「トゥルトゥルだよね。何匹いるんでしょうね」と店主に話を振った。

それを受けた店主は、「つい最近、高知県の芸人さんに数えてもらったんですよ。3,554匹くらいでした」とまさかの返事。日村はすかさず「3,500匹ぜんぶ食べちゃいました!」「最高でございました。ごちそうさまでした~」と締めのコメントに反映させ、大拍手で1軒目のロケを締めくくった。

2軒目は、住民たちが集まる公園で9歳の少女から「ひろめ市場・やいろ亭のカツオのタタキ」を紹介してもらい、日村は「(食べたかったものを)子どもたちが出してくれました!」とガッツポーズ。店へ向かうと、まず番組が鯨串カツ650円、川エビ唐揚げ500円、青さのり天ぷら500円などの人気メニューを紹介した。

さらに、楽しそうに食べて飲むお客さんの声と、カツオの塩たたき1,300円の調理映像をはさんでから実食シーンへ。日村は「うわっはっはっは。(分厚くて)ステーキだね~」「こんなの食えねえよ、東京で……うまっ。焼き目のパリパリが最高。うんめっ」「……うめえ。うめえ。わさびもっといっても全然大丈夫。いいお肉とかってわさびいっぱい乗せてもわさびツーンとくるとかあんまりないじゃないですか。あれくらい脂の乗りが強烈なんだね」などと幸せそうに語った。

「食リポ」という言葉が世間に浸透して以来、作り手側は「どんなコメントを言わせるか」「どう表現させるか」を重視した演出が目立つようになり、かえっておいしさが伝わりづらくなった感がある。その点、この番組は「食リポのフレーズなんてどちらでもいい」というリアクション重視のスタンス。あらかじめコメントを用意せず、自然な言葉と表情を見せる日村の食事シーンは、他の誰よりもおいしそうに見える。

■日村のテンションを引き継ぐギャル曽根

CMを挟んで、ギャル曽根にバトンタッチ。「やっぱオイシイものは巨漢さんに聞いたほうがいい」というコンセプトのコーナー「ギャル曽根の全国せっかく巨漢グルメ!」がはじまった。

愛知県名古屋市の街頭に“ギャル曽根ロボ”を設置し、彼女自身は事前に聞き込みした店を訪問するのみで、日村のようなアポ取りはなし。ギャル曽根は事前撮影したインタビューの「せっかく名古屋に来たんだで 西龍恵土 本店の牛ホルモン 食べていきゃー」という声を聞いて、「ありがとうございます! めちゃくちゃ食べてきま~す!」と日村と同レベルのハイテンションで宣言した。

ギャル曽根は「各テーブルに設置された鉄板で焼く」というスタイルの牛ホルモン3人前1,740円(小腸・テッチャン・ハチノス・肺・ギアラの5種類)を食べて、「んん~。めっちゃオイシイ! あ~おいしい。おいしい」とここでも日村と同じく自然なリアクション重視のコメント。「いろんな部位が入ってるからいろんな食感が楽しめていいですよね」「お米とめちゃめちゃ合います。これが最高の組み合わせですよね。野菜にもこの牛の脂が染みてて野菜自体もすごいおいしい」と食レポ的なフレーズも言っていたが、あらかじめ用意したものではなく自然に出たものに聞こえた。

2軒目の総本家 えびす屋 本店の海老カレーきしめん1,550円を食べたときも、「おいしい。きしめんいいですね。カレー絡みますね」「あ、おいしい、カレーもおいしいですね」「海老が思った以上に大きい」「ん~! 衣がサクサクだし、海老がプリプリですね。あっと言う間(に食べ終わっちゃった)」「ご主人、ごちそうさまでした。おいしかったです。いやあ幸せだな~」と自然なリアクション重視のコメント。他のロケ番組と比べても、出演者たちの食事シーンのトーンがそろっているから視聴者としては見やすい。

もう1つ見逃せないのは、食事シーンをじっくり見せるための努力。この番組は「ただ聞き込みして、アポ取って、店で食べるだけ」と思われがちだが、それ以外も食材や名物料理の詳細、他のメニュー紹介、生産者とお客さんの声、スタジオのかけ合い、ドライブシーンなど、さまざまな要素が散りばめられている。

しかも食事シーンをできるだけじっくり見せるために、それらの要素が細部までぎっしり。ゆったりとした食事シーンとは裏腹に、情報の面では1秒のスキも見せずにVTRが作られているのだ。

■他のロケ番組と決定的に異なる姿勢

最後に、この番組がジワジワと人気を集めはじめている理由をもう1つ挙げておきたい。

全国各地のグルメや文化を紹介する番組と言えば、真っ先に思い浮かぶのは『秘密のケンミンSHOW極』(読売テレビ・日本テレビ系)ではないか。しかし、『バナナマンのせっかくグルメ!!』とは、そもそもの制作姿勢が違う感がある。『秘密のケンミンSHOW極』は、どこか「番組がイジってオイシくします」「笑ってもらってナンボですよね」というムードがあり、昭和のころから続くテレビマンの悪癖のようなものを感じてしまう。

一方、『バナナマンのせっかくグルメ!!』は、どこをどう切り取っても「お邪魔させていただきます」「ぜひ教えてください」「地方っていいですよね」という謙虚さやリスペクトが見えるし、「紹介してあげましょう」という上から目線を一切感じさせない。それは日村たちが現地の人々に接するときの礼儀正しさや、全力で喜ぶ姿が象徴している。

また、「芸能人が聞き込みとアポ取りをする」という点では『火曜サプライズ』(日テレ系)も同様だが、こちらも『バナナマンのせっかくグルメ!!』とは視聴者の受ける印象が全然違う。『火曜サプライズ』はロケエリアのスケールが小さく、その土地ならでは名物グルメが少ない上に、出演者の宣伝臭が強いため、謙虚さやリスペクトは感じづらい。

この番組は、労を惜しまず笑顔で全国各地をめぐる日村への好印象や信頼感がベースになっているのは間違いないだろう。さらに、それは放送回数を重ねるにつれて、番組そのものへの好印象や信頼感につながっている。翌日の仕事や学校が気になる日曜夜の放送だからこそ、「日村の楽しそうな姿やこの番組を見て癒やされよう」という人は、今後もジワジワと増えていくかもしれない。

■次の“贔屓”は…28組が「負けたら終わり」の真剣勝負! 『ものまね王座決定戦』

『ものまね王座決定戦』司会の(左から)山崎夕貴アナ、東野幸治、今田耕司、西山喜久恵アナ (C)フジテレビ

今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、4日に放送されるフジテレビ系バラエティ特番『ものまね王座決定戦』(19:00~22:52)。

中断期間こそあるものの、47年の歴史を持つフジテレビきってのバラエティ特番であり、近年は年末の風物詩となっている年に一度の真剣勝負。今回も28組が「負けたら終わり」のガチンコトーナメントに挑むという。

その顔ぶれは「ものまね四天王」の栗田貫一から、昨年王者・ダブルネームをはじめ、ミラクルひかる、ビューティーこくぶ、布施辰徳、エハラマサヒロ、ノブ&フッキーら常連、さらにYouTuber、ボーカルグループ、現役サラリーマンまで、多彩なメンバーが集結。ライバル番組である日本テレビ『ものまねグランプリ』との比較も含め、掘り下げていきたい。