テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第146回は、11月1日に放送されたテレビ朝日系バラエティ番組『テレビ千鳥』(毎週日曜22:25~)をピックアップする。
2019年4月のスタート時は深夜2時台の放送だったが、1年後の今年4月に深夜0時台へ移動し、さらに10月には早くもプライム帯へ昇格。しかし、短期間での急激な昇格は、「テレビ朝日が千鳥の勢いに乗った」ことにほかならないだけに、「内容が変わってしまわないか」と不安視する声は少なくなかった。
プライム昇格後も、「丸い石を探したいんじゃ!!」「ノブに香水を歌わせたいんじゃ!!」というこの番組らしい脱力系企画を放送したが、変化はないのだろうか。
■「オープニングから下ネタ」の頼もしさ
番組は雨が降る中、テレ朝の外でスタート。シックな秋服のノブに対して、大悟は半袖の夏服姿で震えながら登場した。
大悟「さみいなってきたのお……」、ノブ「服の感覚とかわからんの?」、大悟「まちごおた。……ということで今回やる企画は、『ワシの私服、秋冬物を買いに行きたいんじゃ』」という寸劇を交えたタイトルコール。さらに、ノブ「(震えて縮こまる大悟に)こんな小さかった?」、大悟「寒いけん、どんどん縮まって……チンポと一緒じゃ、チンポと!」と笑いを誘った。
オープニングから放送内容のチラ出しで過剰にあおる番組ばかりの中、のっけから2人のトークだけで企画を明かし、笑わせてくれるところがうれしい。下ネタをきっちり入れた点も、「ワシらは深夜帯と変わらないんじゃ」という意思表示に見えて頼もしかった。
まずは、ノブの「過去作が全部失敗しているのよ」という指摘から、過去に大悟が買った春、夏、冬の服にクローズアップ。さらにそれぞれ「(FUJIWARA)原西孝幸」「(尼神インター)渚の彼氏」「メイウェザー」と例えて笑わせたのはさすがだ。
大悟は「ちょい菅田(将暉)。セットアップちゅうやつを着てみたいんじゃ」というテーマを設定して、いざ原宿へ。海外の最新トレンドアイテムがそろい、“原宿一ちょい菅田ファッションな店”「CANNABIS」で服を探しはじめる。ここからは、ひたすら“千鳥の言葉遊びショー”だった。
ノブがTシャツを手に取って「ラジオ(に出演時の)菅田」、店員の髪型に「若いときの大仁田厚」と、たとえツッコミを連発。一方の大悟は、菅田もよく着ているブランドのジャケットを着て、「『贈る言葉』なんよ。武田(鉄矢)のほうなんよ」と笑わせた。
その後も、赤系のセットアップに「純烈の辞めたヤツ」、茶系のセットアップに「トイストーリーのウッディ」、白のワントーンコーデに「ロシアフィギュア点数待ち」、さらに極細サングラスをつけて「Mr.インクレディブルの仲間(フロゾン)」、黒系のコーディネートにサングラスと帽子をつけて「松竹売れずピン芸人。R-1・3回戦落ち」と大悟はボケまくる。
大悟はけっきょく自ら選んだ黒のコートをキープしつつ、「今後の千鳥の(笑いの)ため」に極細サングラスを購入して次の店に向かった。
■どうでもいいテーマで魅力を引き出す
2店目は、レディー・ガガも来店した個性あふれる1点物がそろう「Dog」。千鳥は3回目の来店であり、店内には服というよりオブジェのようなものがあふれかえっている。
ここでも2人には、それぞれの服に「SMの最終形やで」「悪魔の『下、履いてくるの忘れました』やん」「変態集金お兄さん」「アンパンマンの友だち雑巾マン」「『鬼滅の刃』の何かしらの鬼」とたとえツッコミを連発。けっきょく強烈なインパクトの『鬼滅の刃』風マスクをキープした。
3店目は、1,000着もの幅広い品ぞろえを誇り、5度目の来店となる「ジャーナルスタンダード」。ただ、やはりここでも、黄色と黒のストライプ服を着て「『何だバカ野郎』やん。もう『たけしさ~ん!』って呼ばれる」、今年トレンドのつなぎに「密漁ダイバーや。島で育ったから海感が出るやん」、極細サングラスとニット帽を足して「(ドラマ)『RUN』の石倉三郎なんよ」、白のセットアップに「昭和の囚人」、巨大リュックを背負って「『3年帰ってきません』の意志表示」とたとえツッコミで笑わせた。
どんな場所でも、どんな人や物が相手でも、瞬発的なトークで笑いを取れる。そんな芸能人トップクラスのロケ力は、この日も健在だった。ロケに限らず、この番組は「どうでもいい」「わざわざ見るほどではない」という小さなテーマを扱うことで千鳥の魅力をわかりやすく引き出している。現在、これほどシンプルなコンセプトで番組を回していける芸人が彼ら以外にいるだろうか。
すべてのロケが終わり、最終的に大悟が選んだのは1軒目の黒コートだった。しかし、ノブとスタッフが不満げなムードを醸し出すと、大悟は「何? 何? どしたん? あんなに楽しかったのに……。悪い、すまん。『テレビ千鳥』ってこと忘れてた。申し訳ない」と詫びて、『鬼滅の刃』風のマスクをかぶって登場。ノブは笑いながら「(そのマスクは)どっかで生きてくるから」とフォローを入れていたが、そのマスク姿は数か月後の忘れたころに別のコーナーで見せてくれるのではないか。
■22時台はもはやプライムと言えないか?
しかし、これだけで終わらないのがこの番組。収録が終わり、着替えて楽屋から出ようとする大悟をカメラが直撃すると、選ばなかったはずの黒コートを着ている。大悟は悪びれず、「ガラッと変わったっしょ」「シンプルすぎることもないし、かといって奇抜すぎもせんし、いいんじゃない?」と、いつになく普通のコメントを続けた。
ただ最後は「失敗したときほどいっぱいしゃべる(笑)」とオチをつけ、スタッフ側も「今年の秋冬はこのコートでいくそうです」というナレーションをつけて番組は終了。最後まで欲張って大笑いを取ろうとせず、脱力系のまま締めるところが、いかにも千鳥らしく、プロデュース・演出を務める加地倫三らしくもあった。
今のところ、かつて放送された「ノブの欲求不満を解消するために“エッチな大根”を探しに行く」「松茸の新しい食べ方として“パンティ蒸し”を作る」ほど攻めた企画はないが、バカバカしさとくだらなさは、ほとんど変わっていないと言っていいだろう。
この手の脱力系番組は週替わりのテーマによって「アタリハズレが大きい」と言われがちだが、その傾向は『テレビ千鳥』には該当しない。互いにボケ、ツッコミ、フォローができ、イジリ合うこともできる千鳥のトーク力があれば「ハズレはない」に等しいのではないか。
この日の放送は、個人視聴率2.1%、世帯視聴率4.1%と、民放主要4局で断トツの最下位に終わったように結果は厳しいものがある。ただ、このところ22時台のPUT(総個人視聴率)そのものがグッと下がっていて、この日も26.5%しかなかった(ビデオリサーチ調べ・関東地区)。
つまり、「22時台はテレビを見ていないか、見ていたとしても録画機器かTVer」ということになる。だからこそ『テレビ千鳥』は視聴率だけではなく、ネット関連の指標を踏まえた評価をしてほしいし、テレビ朝日はプライム帯の若年層向け番組が少ないだけに長い目で見てほしいと思ってしまう。
前述したようにPUTの低い22時台は、もはやプライムというより深夜帯に近いのかもしれない。よって22時台への移動については「深夜帯からプライム昇格」という意味はさほどなく、とりわけ視聴率の目標に関しては下方修正が必要だろう。
■次の“贔屓”は…「ポスト嵐」たちの可能性に迫る 『なにわ男子と一流姉さん』
今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、7日に放送されるテレビ朝日系バラエティ番組『なにわ男子と一流姉さん』(毎週土曜23:30~)。
今秋にスタートしたジャニーズJr.・なにわ男子による全国ネット初の冠番組。なにわ男子は、まだメジャーデビュー前であるにもかかわらず、ティーンからの圧倒的な人気を誇り、「ポスト嵐」の声もあるなど、テレビマンたちにとって目を離せない存在となっている。
この番組は「一流の大人になることを目指すなにわ男子が、さまざまな業界の“一流のお姉様方"に密着取材! 一流の流儀を学び尽くす!」というコンセプト。初回のゲストは大物の黒柳徹子だったが、今回は渡辺直美に密着するという。
1クール限定の放送予定だが、現在の人気を踏まえると継続の可能性も十分ありえるだけに、彼らと番組の可能性をチェックしていきたい。