テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第144回は、16日に放送されたカンテレ・フジテレビ系バラエティ特番『さんまのまんま秋SP』をピックアップする。
もはや説明不要の長寿トーク番組だが、今回は明石家さんまのもとを小栗旬、東山紀之、吉高由里子、横浜流星、山口智充、フワちゃんが訪れるという。
ロケなしの“純・トーク番組”がゴールデン・プライムタイムからほぼ消滅した中、なぜ『さんまのまんま』だけはハイペースで特番放送を続けられるのか。単に「明石家さんまと大物ゲストだから」ではない魅力、さらにはトーク番組の未来も掘り下げていきたい。
■小栗旬から東山紀之へのレアなリレー
オープニングは、さんまとまんまの2ショットから。まんまに「くす玉を引け」と促されたさんまが開くと、「祝65歳 高齢者の仲間入り」の文字が映し出された。これにさんまは「全然うれしない。こないだインフルエンザ無料のやつ届いた。高齢者、高齢者、ぬかしやがってなあ、じゃあ労われって!」とボヤく。
さらに、書道をはじめたさんまは「きぬごし」と書いて、「あっ、抱負!? 豆腐じゃないの?」「こういう風に生きていきたい」とボケた。今どき、こんなベタなオープニングが見られるのは、さんまとビートたけしくらいだろうか。往年のテレビ好きにはたまらないが、若年層はここでチャンネルを変えるどころか、テレビを消してしまうかもしれない……。
1人目のゲストは小栗旬。さんまと親交が深い小栗はトップバッターとして最高の人選だが、新型コロナウイルスの感染予防で、恒例の出迎えができず、巨大なアクリル板が置かれ、距離感も遠い。
ただ、そんな心配を簡単に吹き飛ばしてしまうのが、さんまのすごさ。小栗が主演を務める2022年の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(NHK)の出演アピールをしはじめ、「(脚本が)三谷(幸喜)くんなの? じゃあこれ見てそういう(出演)シーン作ってくれるかも」と一方的にまくしたてた。のっけからこれほど“自分大好きトーク”で突っ走れる芸人はこの人だけだ。
さらに、さんまは「(小栗に)彼女がいてて、(俺に)『紹介したい』とか」と過去のエピソードをぶっ込んで、「何だかんだいろいろお世話になっちゃって……」と小栗を苦笑いにさせる。さんまが芸能リポーターばりに斬り込むのが、この番組の強みと言っていいだろう。
その後2人は「小出恵介」「小栗の父と兄」「映画出演の約束を反故」「ハリウッド進出」「キスシーンがうまい」「太宰治」「ニッカポッカをプレゼント」でトーク。30分弱が過ぎたところで2人目の東山紀之が登場し、小栗とのエピソードを軽く交わした。CMが明けると小栗が退室して東山のみになり、わずかな絡みがあるだけだったが、接点の少なさそうな芸能人によるリレー形式の構成はやはり楽しい。
■さんまが吉高由里子の結婚に斬り込む
さんまと東山のトークテーマは、「磯野波平と同い年」「ボクシングをやっている」「9歳、7歳の子ども」「しょうゆ顔の代表」「嵐が50歳になったら五十嵐に」「若手ジャニーズとマッチ」「真っ赤なシューズをプレゼント」だった。
開始から50分あまりが過ぎたころ、3人目のゲスト・吉高由里子が登場。11年ぶりの出演にもかかわらず、いきなりさんまに「おしゃべりバケモノ」と毒を吐いて笑わせたあと、「ドリンクホルダーと鍋セットをプレゼント」「ハイボール」「料理」「一緒に住めるか」「二日酔いの経験がない」「結婚」「初めて会った芸能人はさんま」というトークテーマで盛り上がった。
2人は何度かアクリル板を超えてソーシャル・ディスタンス度外視でふれ合ったほか、さんまの強いプレッシャーに吉高が「何? ここ罵倒部屋?」「人のことイジり倒してたら今日の帰り道、気をつけてください」と不満丸出しで返すなどヒートアップ。こんな身体的・心理的な距離感の近さこそが、さんまの魅力であり、吉高の魅力が引き出されたとも言える。
さらに、さんまは結婚について尋ね、「あきらめちゃってる自分もいれば、1回くらいしてみたいなという自分もいれば……」と本音を引き出した。この番組がシンプルなトーク番組であるにもかかわらず長年続いているのは、誰が来ても単なる番宣出演にさせず、ゆるいムードの中でもしっかり本音に斬り込んでいるからではないか。
約1時間10分が過ぎたころ、吉高と同じ映画の宣伝で横浜流星が登場。トークテーマは、「撮影現場」「嫉妬していた」「懸垂バーをプレゼント」「セリフの覚え方」「家での過ごし方」「野菜炒めを焦がした」「球技ができない」だった。
約1時間35分がすぎて残り20分となったとき、山口智充が登場。「新しい番組エンディング曲」「キスシーン」「プロデューサーが多い」というテーマで話したあと、7分後にフワちゃんが加わり、「Spotify」「まんまと写メ」「さんまのまんま3Dネイルセットをプレゼント」「マネマネルーレット」などのテーマで話した。
最後はフワちゃんプロデュースの番組特製2Dネイルチップを100名にプレゼントすることを明かして終了。かつてエンディングの定番だった、さんまとまんまのトークがないのは、ちょっと寂しい。
■生放送のトーク番組こそ時代に合う
今回の2時間特番は、1組あたり20~25分程度できっちり分けられていて、事実上「30分番組×4本だった」と言ってもいいだろう。その上で次々にトークテーマを変えていく、さんまの「掘り下げるより、盛り上げる」というスタイルは健在だった。
さらに、「必ず年齢の話をする」「イケメンへの嫉妬心をあらわにして張り合う」「番宣はしっかりさせた上でイジる」などのパターンもまったく変わっていない。数少ない変化は、前述したエンディングトークと、飲酒・喫煙をしなくなったことくらいではないか。自宅のリビングを思わせるセットや手土産も含めて、さんまとスタッフが変わらないことを大切にしてきた歴史と絆が伝わってくる。
それにしても、ロケなし、グルメなし、再現VTRなし、関係者インタビューなし。発言のテロップすらない。そんな“純・トーク番組”は、古き良き昭和の香りを漂わせていた。「トークで勝負している」と言えばカッコイイが、それは視聴者に“聞く”ではなく、“聴く”という姿勢を求めるものに他ならない。昭和生まれの中高年層はつかめても、テレビのバラエティ以上にテロップだらけのYouTubeに慣れた若年層の支持を得ることは難しいのではないか。
『さんまのまんま』は2010年代に何度か生放送特番を放送していた。この数カ月間、各局のバラエティはネットコンテンツに対抗するべく、生放送の番組を増やしているだけに、この番組も再び採り入れてみたらどうか。もしゴールデン・プライムタイムが難しいのなら、深夜帯でもいいだろう。
たとえば、『FNS27時間テレビ』(フジ系)の「さんま・中居の今夜も眠れない」“明石家さんまのラブメイト10”のような生放送での盛り上がりこそ、2020年代にフィットするトーク番組なのかもしれない。当番組のような“純・トーク番組”が生き残っていくためには、今後も「変えずに続けるところと、思い切って変えるところ」の判断が問われていくはずだ。
■次の“贔屓”は…女性芸能人版「ドキュメンタル」など攻めの特番『まっちゃんねる』
今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、24日に放送されるフジテレビ系バラエティ特番『まっちゃんねる』(21:00~23:10)。
現在予告されているコーナーは、ファッションに特化した新たな賞レース「コーデ寄席」、Amazon Prime『ドキュメンタル』の女性タレント版「女子メンタル」、芸人たちに抜き打ちで大喜利を仕掛ける「大喜利警察」の3つ。「松本人志がテレビのお笑いの可能性を提案する」というコンセプトだけあって、それぞれのコーナーから遊び心が感じられる。
松本の冠番組と言えば、9月5日にTBSで『審査員長・松本人志』という単発特番が放送されたばかりだが、こちらは「新しいコンテストを開催する」という限定的なコンセプトであり、放送時間帯も土曜午後と完全に実験段階。その点、『まっちゃんねる』は各コーナーの自由度が高く、いきなりプライムタイムで放送されるだけに期待値は高い。
同番組が放送される『土曜プレミアム』は、この1年間『ただ今、コント中。』『千鳥の超クセがスゴいネタGP』『有吉ダマせたら10万円』『出川・爆問田中・岡村のスモール3』『明石家笑業修学旅行』などの野心的なバラエティ特番を連発してきた。『まっちゃんねる』は、同枠で放送され続けている『IPPONグランプリ』『人志松本のすべらない話』に続く人気レギュラー特番となれるだろうか。