テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第143回は、10日に放送されたテレビ朝日系バラエティ番組『あざとくて何が悪いの?』(毎週土曜21:55~)、『ノブナカなんなん?』(同22:25~)をピックアップする。
この日から土曜夜にレギュラー放送されることになった2つの番組。注目すべきは、両番組ともに弘中綾香アナウンサーが中軸を担うトーク番組であり、その期待にどう応えていくのか注目が集まるだろう。
また、プライムタイムの大半が1時間以上の番組が占める中、「同じ系統の30分番組を2本並べる」という戦略はどうなのか。まずは初回放送をチェックしてみたい。
■毒を吐く上で箔をつけておきたい
まず『あざとくて何が悪いの?』は、田中みな実、弘中綾香アナ、山里亮太の3ショットからスタート。すかさず「この番組は好きな女性アナウンサーランキング1位、2位を独占する田中みな実と弘中綾香、人気女優を妻に持ちレギュラー番組13本を抱える山里亮太の3人が世のあざとさについて語り尽くす番組」と自画自賛のナレーションが入る。レギュラー初回冒頭の強烈な自画自賛は、「笑いを誘う」というより、「毒を吐く上で箔をつけておきたい」という思惑を感じさせられた。
直後に、ゲストの有吉弘行が登場。いきなり田中・弘中のあざとい2トップに「ゲストが有吉と知った2人が頭を抱える写真をインスタグラムで見てすごく嫌だった」「今日ここで弘中さんを観察したことをマツコさんに持って帰る」と先制パンチを浴びせた。しかし、これはあくまで有吉からの的確な“フリ”であり、「このあと徐々にメインの2人が反撃していく」という構図が浮かび上がってくる。
本編に入ると、20~40代男女2,800人のアンケート調査をもとにしたミニドラマがスタート。「4人の手元には“あざといボタン”が用意され、VTRに合わせて押していく」などの演出は単発特番時代からほとんど変わっていない。
最初のVTRは「遊び心とメリハリで掴むあざとい女」で、乃木坂46の山下美月がゲスト女優として登場。VTR中、弘中アナの「全部両手で持ちますねこの子」、田中の「(『ドロンします』のポーズに)私もやるやる!」などのツッコミがマシンガンのように入るが、有吉は終始ローテンションでしっかり温度差を表現していた。
特筆すべきは、田中の「(有吉さんは)少数派だから」という振りに、山里が「どこがドストライクなのかわからない」と応じた流れではじまった「有吉弘行がグッとくる女」というコーナー。スタッフが有吉に事前取材した結果、“グッとくる女”として、ウルフギャング・ステーキハウス青山店の受付女性と菜々緒がピックアップされたが、弘中アナから「結局スレンダー美女が好きって話ですよね」、田中から「脚が長いチャンネーじゃないか!」と反撃を受けてしまった。
この“グッとくる女”は、有吉だから特別に放送したコーナーというより、大物ゲストの時には再び見られるのではないか。同レベルの大物ゲストを読んだ上で、山里を含めた3人がもっと鋭く切り込んでいけたら、プライムタイムにふさわしい内容となり、番組の注目度も上がっていくだろう。
■母娘ともにけっこうな有名人だった
田中の「このあとは『ノブナカなんなん?』。ノブさんの“あざといポーズ”でスタートです」というフリと投げキッスを受けて、千鳥・ノブが登場。田中みな実バリのあざといキャラで、「なんなん?」とポーズを取ったあと「さすなっ! 二度と振るなよ!」というノリツッコミで幕を開けた。
続けざまに弘中アナから、「世の中にはなんなんコレ? なんなんこの人? と思うことはありませんか? この番組はそんな、なんなん? な人々の人生をのぞき見するドキュメント番組です」という紹介が入る。あらかじめドキュメント番組と言い切ることで、「『あざとくて何が悪いの?』との明確な差別化を図ろう」ということなのか。
初回のテーマは、「ゴミ部屋に住む女ってなんなん?」。約2,200万円のベンツに乗った清楚系の美女・はるか(31歳)が登場したが、それ以上に運転していたファンキーな母親に目を奪われてしまう。しかし、そんな視聴者の動揺を無視するようにVTRは進み、「母も心配する意外過ぎる職業とは?」という問いかけが入った。
さらに、職業の正解を聞いたノブの「ウソ~!? 『帰れま10』やったら3日帰れてないよ」というリアクションを見せた上で、「みなさんも予想しながらご覧ください」というナレーションが入った。『深イイ話』『今夜くらべてみました』(日本テレビ)を筆頭にクイズを絡めた人物ドキュメント企画は多いだけに、もう1つくらい仕掛けがほしいかもしれない。
その後、はるかの住む超高級住宅街・港区麻布の2SLDKマンションに着いてみると、初回放送にふさわしい豪快なゴミ屋敷だった。汚い部屋を紹介したあとに「ゴミを売ってお金に変える」「2週間後にビフォーアフターを見せる」などのコーナーもあったが、これらはおまけにすぎない。
メインはクイズにした「ゴミ屋敷に住む美女の職業は何なのか?」なのだが、その答えは何と覆面レスラーだった。リングネーム・HARUKAZEはキャリア6年のプロレスラーで、戦績は400戦400敗。番組は、初勝利を賭けて懸命に戦う様子を映しつつ突然、母からもらった約700万円のロレックス、父からもらった約20億円のビルの写真をインサート……。すかさずノブがVTRを止めて、「(BGMで)平井堅さんがかかったということは、『頑張ってるから感動のVTRにしよう』ということですよね……(こんなインサート写真見せられて)応援できんよ」とボヤいてオチをつけた。
この間、何より驚かされたのは、VTRの合い間に紹介されたファンキーな母親の正体。歌手デビューしていることが明かされたが、清水節子という名前を聞いてハッとした中高年男性は多かっただろう。彼女は伝説の番組『11PM』(日本テレビ)のお色気レポーターであり、破天荒な突撃ぶりでけっこうな有名人だった。
……ということは、その娘はコウメ太夫との交際騒動で有名になったグラビアアイドルであり、アイドルレスラーの加藤悠にほかならない。かつてはゴミ屋敷の主としてもテレビ出演していたこちらもけっこうな有名人。つまり、母子ともにそこそこ露出のあった人物で鮮度がないだけに、むしろ過去も含めて掘り下げたほうが笑いにつながったのではないか。
■弘中アナの立ち位置に明らかな違い
番組全体に話を移すと、ノブは何度となく「ちょっと1回止めてくれ」とVTRをストップさせてツッコミやボヤキを挟むなど、コメントの大半を担当。一方の弘中アナは「ホントにヤダ」などの短いコメントをはさんでいるだけで、存在感はほとんどなかった。
弘中アナは『あざとくて何が悪いの?』では田中とともに歯切れのいいコメントで番組の中心を務め、進行やフォローを山里に任せているが、『ノブナカなんなん?』では一転してコメントをノブに任せて、自身は進行やフォローに回っていた。当然、構成・演出上の意図なのだろうが、これでは2つの出演番組を続けて放送する“弘中綾香アワー”にした意味が半減してしまい、もったいない。
たとえば、『ノブナカなんなん?』にも田中のような存在を1人加えたら、弘中アナの持ち味が引き出されて、本当の意味でノブとの化学反応が見られるのではないか。まだ始まったばかりだけに、弘中アナ本人の意見を採り入れながら、さまざまなトライを重ねていくのではないか。
ともあれ、民放のプライム帯では、まず見られない30分間×2本の構成は見やすかったし、ネット上の反応を見る限り若年層のウケは悪くなさそうだ。土曜は23時台の『マツコ会議』『有吉反省会』(日テレ)という同系番組の30分間×2本で成功を収めているだけに、テレ朝が手がける22時台での成功にも期待がかかる。
民放裏番組の世帯視聴率(ビデオリサーチ調べ・関東地区)を見ると、『土曜プレミアム 鬼滅の刃・第一夜』(フジテレビ)が16.7%、『新・情報7daysニュースキャスター』(TBS)が13.5%、『35歳の少女』(日テレ)が11.1%で、『あざとくて何が悪いの?』が7.2%、『ノブナカなんなん?』が6.8%だった。
一見すると両番組の完敗だが、各分野の強力コンテンツがそろう時間帯だけに世帯視聴率で劣るのは仕方がない。問題は若年層の個人視聴率、特に女性層でどれだけ獲れるか。テレビ朝日には世帯視聴率に気を取られることなく、両番組をそんな評価軸で査定してもらいたいし、もし打ち切る日が訪れたとしても、希少な30分×2本の枠だけは守り続けてほしい。
■次の“贔屓”は…孤軍奮闘を続ける“純・トーク番組”『さんまのまんま秋SP』
今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、16日に放送されるカンテレ・フジテレビ系バラエティ特番『さんまのまんま秋SP』(20:00~21:55)。
もはや説明不要のトーク番組であり、今回は明石家さんまのもとを小栗旬、東山紀之、フワちゃん、山口智充、横浜流星、吉高由里子が訪れる。
ロケなしの“純・トーク番組”がゴールデン・プライムタイムからほぼ消滅した中、なぜ『さんまのまんま』だけはハイペースで特番放送を続けられるのか。単に「明石家さんまと大物ゲストだから」ではない魅力、さらにはトーク番組の現在地点と未来も含めて掘り下げていきたい。