テレビ解説者の木村隆志が、今週注目した"贔屓"のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第14回は、3日に放送された『火曜サプライズ』(日本テレビ系、毎週火曜19:00~)をピックアップする。
同番組は、「仕込みナシ」が売りのグルメ&旅ロケバラエティ。2009年のスタート当初『サプライズ』は、曜日替わりの企画を放送する月~金曜の帯番組だったが、唯一生き残り、『ぴったんこカン・カン』(TBS系)と並ぶ街ブラ番組の筆頭格になった。
今回の目玉は、何と言っても中居正広の出演。10周年イヤーの幕開けにふさわしい大物の登場で、番組は大いに盛り上がった。
ソロになった中居の強みがハッキリ
そもそも多忙なある上に、「ダルイ」「面倒くさい」が口癖の中居が、本当にアポなしの街ブラをするのか? 番組がはじまるまで半信半疑だった。
しかし、フタを開けてみたら、いかにも中居らしさ全開。マスクをつけたまま登場して、やる気のなさを見せ、マスクを取ると鼻せんをしていた。さらに、「オレ、肉と炭水化物しか食べないから」「ブラブラするのダメ」「(街中で)"あーっ!"って言われるのがすごく嫌」とネガティブ発言のオンパレード。
ところが、すぐに通りがかりの中年女性と話しはじめ、取材交渉をやらせてしまい、早くも1軒目の店が決まる。2軒目もスタッフに声をかけられたパスタ店へ。3軒目も通りがかりの大学生に取材交渉をさせて定食屋へ。けっきょく中居は1回もアポなしの取材交渉をしなかった。
その他にも、席に着くなり、「ちっちゃいビールもらえます?」。おすすめメニューの黒ごま担々麺を無視して「Bセットで!」と注文するなど、すべての段取りを無視する中居。「段取りをあえて無視する=予定調和を避ける」のは、バラエティの師匠的存在であるタモリの影響なのか。マンネリを嫌い、視聴者に「何をするんだろう?」と思わせるセルフ演出が、本人いわく「ピン」になった中居の強みになっている。
アポなしの取材交渉と並ぶ、当番組もう1つの見どころは、あまり街ブラ番組に出演しないタレントの食レポ。うまい人から、ボソボソと話す人、個性的なフレーズを連発する人まで、「毎週はじまってみなければ分からない」のが売りだが、中居は「うめ~っ」「おいし」だけで食レポをスルーしたほか、唯一放った言葉は「雀荘屋に限りなく近いチャーハン」だった。
親近感が持てる上に、嫉妬心が芽生えない
当番組の強みは、MCのウエンツ瑛士だと思っている。年齢、性別、性格、活動ジャンル、トーク力……どんなタレントが来ても、自らのキャラや聞き方を微調整して対応し、笑いを盛り込みながらトークを進めるスキルは見事というほかない。
今回も、かわいがり、認めているウエンツだからこそ、中居はいつも以上のリップサービスを見せていた。たとえば、ウエンツ「これから歌います?」、中居「わかんねえって。恥かくの嫌なんだもん」、ウエンツ「歌う可能性があるってことですね?」、中居「可能性はゼロじゃない。でも(歌い)"たい"(という願望)はない」と言うやり取り。
さらに、ウエンツ「『この子かわいい』と思うこと、1年でどれくらいありますか?」、中居「仕事中とか、みんなかわいいと思うよ。女優さんとか」、ウエンツ「その女の子にいきたい気持ちはあるんですよね?」、中居「いきたい気持ちがないんじゃない? めんどくせえな~とか」、ウエンツ「告白する子は嫌じゃないですよね?」、中居「全然知らない人に『好きです』って言われても困るじゃん」と話すひと幕もあった。
「桜の"花"を見ながら"鼻"せんを落とす」という最後のオチまで、"ボケる中居vs受けるウエンツ"の図式で笑いを誘い、アッという間の1時間。今回は、振り回されたり、カウンターのようなツッコミを入れたり、スキをみて鋭い質問を投げかけたり、当番組の10年間で鍛え上げたウエンツのMCスキルが際立っていた。
飽きられることなく番組が続いているのは、ウエンツの功績によるところが大きいのではないか。そして、もう1つのポイントは、「視聴者目線の店や料理ばかり紹介している」こと。同番組で紹介される店やメニューは、どれも敷居が低く、ちょっと手足を伸ばせば食べられそうなものばかりだ。
街ブラ番組の雄『ぴったんこカン・カン』と比べても、豪華な食材や高級店が登場する割合は圧倒的に低く、親近感が持てる上に、嫉妬心も芽生えない。いわゆる「とびきりのごちそう」ではないから、19時台に家族で夕食を食べながら「あのラーメンいいね」「明日はうちもカレーにしようか」と言いながら見るのにちょうどいいのだ。
実際、私の住む町も何度か登場しているが、「よりによってここに入るの?」という微妙な店も多かった。家庭料理やスーパーの総菜より、ちょっとだけおいしそうな店と料理。そんな欲張らないスタンスが、"平日19時台"という各局が苦しむ時間帯にフィットしているのではないか。
来週の贔屓は…動物番組の可能性を広げられるか?『生き物にサンキュー!!』
来週放送の番組からピックアップする"贔屓"は、11日に放送される『トコトン掘り下げ隊! 生き物にサンキュー!!』(TBS系、毎週水曜19:00~)。同番組は、生き物の愛らしさだけでなく、特殊能力や驚くべき技なども紹介する知的エンターテインメント。
次回の目玉は、平昌五輪女子フィギュアスケート金メダリスト・ザギトワ選手の出演。このところ秋田犬の話題で持ち切りだが、ここでは愛猫たちとの生活が明かされるという。
『志村どうぶつ園』(日本テレビ系)の背中を追いかけるべく、放送スタートしてからまもなく4年になるが、変化・進化はあるのか。2週連続2時間特番と波に乗る、このタイミングでチェックしておきたい。
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『新・週刊フジテレビ批評』『TBSレビュー』などに出演。取材歴2,000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。