テレビ解説者の木村隆志が、今週注目した"贔屓"のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第13回は、3月28日に放送された『笑ってコラえて! 桜満開SP』(日本テレビ系)をピックアップする。

同番組は、放送22年の歴史を持ち、「日本列島ダーツの旅」「朝までハシゴの旅」などの名物コーナーで知られる日本テレビの看板バラエティ。日本全国から世界各国まで、そのカバーエリアはテレビ番組の中でトップクラスだ。

今回の目玉は、「世界一周! 1年間ロケしっぱなしの旅」をしていた小松原ディレクター(コマツバーラ)がスタジオ出演。総移動距離6万5000km、14カ国をめぐる旅を完結させるという。さらに、「朝までハシゴの旅」は、戸田恵梨香と小峠英二が鶯谷を飲み歩くほか、新コーナー「笑ってコラえて砲 スクープ探しの旅!」を含むスペシャル版だった。

  • 001のalt要素

    『笑ってコラえて!』MCの佐藤栞里(左)と所ジョージ=4月11日放送の2時間スペシャルより (C)NTV

一般人に大胆な行動を取らせる目線の低さ

ただ、放送がはじまってみると、内容は平常運転そのもので、いつも通り力みのない仕上がり。実際、コマツバーラの完結編は、まさかの時間切れで、「続きは次回へ持ち越し」となった。他の番組なら、2時間ぶっ通しでコマツバーラの大特集をしていたのではないか。

そんな力みのないスタンスこそ、所ジョージの番組たるゆえん。「日本の田舎町から世界の僻地まで気ままに足を伸ばす」というコンセプトも、「ちょっと面白いかも」「やっちゃえばいいじゃん」というムードも、所ジョージの姿と重なって見えるのだ。もっと言えば、この番組は、所ジョージが何気ない人々や地域の「す・ご・い・で・す・ネッ」(第1回新語・流行語大賞で流行語部門大衆賞)を集めたものなのかもしれない。

大ざっぱに言えば、当番組がやっているのは、いわゆる"素人イジリ"だ。しかし、所ジョージイズムなのか、現地へ飛ぶディレクターやタレントは「一般人よりも低い目線から取材させてもらっている」という姿勢を徹底している。

今回「朝までハシゴの旅」に挑んだ戸田と小峠も、世界各国をめぐったコマツバーラも、業界人やタレント然とした佇まいを一切感じさせなかった。そんな目線の低さが親近感を生み、今回の放送でも社内恋愛をカミングアウトしたり、公開プロポーズをしたり……一般人たちに大胆な行動を取らせるのではないか。

苦しさの先にある普遍的な笑い

各シーンや演出を注意深く見ていくと、さらに番組の本質がうかがえる。J:COMチャンネルのようなコミュニティ放送を思わせる距離の近さがありながら、一方で、笑いの手数は実に多い。「近所で行われているロケを見ている」ような感覚なのに「やたら面白い人ばかり登場する」のだ。

これは「作り手の意図で誘導するような笑いではなく、素材である一般人の面白さをそのまま見せよう」という方針の表れではないか。また、それを実現させるには「膨大なロケの時間がかかる」ということになる。画面中に脱力感を漂わせておきながら、その裏では「地道にロケを重ねつつ、編集で思い切りよくバッサリカットする」スタッフの姿が浮かんでしまう。

「朝までハシゴの旅」しかり、「世界一周! 1年間ロケしっぱなしの旅」しかり。ロケを行うタレントやディレクターは、「どこを使うのか」「どれくらい使ってもらえるのか」、撮れ高の手応えにとらわれず大量の撮影をこなしていく。そんなカロリー負担の高さを感じさせる。

『世界の果てまでイッテQ!』『ザ!鉄腕!DASH!!』『月曜から夜ふかし』などを見れば分かるように、当番組こそ"足で稼ぐ日テレ"の真骨頂なのかもしれない。他局のテレビマンたちは、そんな「苦しさの先にある普遍的な笑い」を分かっていて歯がゆい思いをしているのではないか。

その他にも、感動を誘う「結婚式の旅」、ほほえましい「幼稚園の旅」、美男美女を愛でる「待ち合わせの旅」、一般人に長尺を任せるためハプニングの多い「マイクを握っちゃったらリポートしなきゃいけないの旅」など企画は多種多彩。喜怒哀楽の"喜"と"楽"をこれでもかというほど詰め込んだ圧倒的なポジティブさを武器に、所ジョージが引退しない限り、変わることなく続いていくだろう。

来週の贔屓は…中居正広の登場で波乱必至!?『火曜サプライズ』

002のalt要素

『火曜サプライズ』MCの山瀬まみ(左)とウエンツ瑛士 (C)NTV

来週放送の番組からピックアップする"贔屓"は、3日に放送される『火曜サプライズ』 (日本テレビ系、毎週火曜19:00~)。同番組は、「仕込みナシ」が売りのグルメ&旅ロケバラエティ。2009年のスタート当初、『サプライズ』は曜日替わりの企画を放送する月~金曜の帯番組だったが、唯一生き残り、『ぴったんこカン・カン』(TBS系)と並ぶロケ番組の筆頭格になった。

今回の目玉は、何と言っても中居正広の出演。番組10周年イヤーの幕開けにふさわしい大物の登場は何を意味するのか。「アポなしの街ブラ」に挑む中居の姿を通して、番組の現在地点を探っていきたい。

■木村隆志
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『新・週刊フジテレビ批評』『TBSレビュー』などに出演。取材歴2,000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。