テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第129回は、4日に放送されたNHKスペシャル『タモリ×山中伸弥「人体VSウイルス」~驚異の免疫ネットワーク~』(19:45~21:00)をピックアップする。

17年から不定期放送されてきたタモリ×山中伸弥“人体シリーズ”の新型コロナウイルス版。いまだウイルスの脅威が消えない中、「免疫力の真実に最先端科学で迫る」というNHKスペシャルらしい骨太な構成に興味をそそられる。

8K顕微鏡やCGを駆使した映像、タモリ&山中教授コンビならではの視点などは、民放の報道・情報番組ではまず見られないものだけに、それらとの比較も含め見ていきたい。


■穏やかなトーンと鮮やかなCGで圧倒

タモリ(左)と山中伸弥教授

番組はタモリと山中教授のトークからスタート。山中教授は「いったん落ち着いたように見えたんですが、またかなり心配になってきましたね」と冷静に切り出し、「今どうすれば命を守れるか、どうすれば社会を守れるか、科学が一生懸命努力しています。今日はぜひこの番組で科学の最前線をご紹介できたらと思っています」と番組主旨を語った。

「もし民放の番組なら、恐怖をあおる強烈な映像や音声をたたみかけるだろうな…」と思いながら見ていたところ、おどろおどろしいウイルスの巨大写真に「死者50万人超」の文字が表示された。一瞬たじろいでチャンネルを変えたくなってしまったが、これ以降はさすがNHKスペシャル。「なぜ日本では感染者が少ないのか? 重症化する人としない人の違いは何か? 決定的な治療薬はできるのか?」と人々のベーシックな疑問を提示しつつ、「ウイルスと果敢に闘うミクロの戦士・免疫細胞がその鍵を握っている」と穏やかなトーンでつなげた。

さらに、鮮やかなCG映像をバックに、「新型コロナウイルスと免疫の戦い。誰も見たことのないミクロの攻防を貴重な最新顕微鏡による撮影と精緻なコンピューターグラフィックスで完全映像化。私たちの体の中に広がる知られざる世界に迫ります」というナレーションが流される。このCGだけでも「見てみようかな」と思わせる説得力は、さすがと言っていいし、自信があるからこそ過剰なあおりは無用なのだろう。

続いて「語り 仲野太賀」「音楽 川井憲次」「ボーカル 坂本美雨」の文字が表示され、リモート出演で石原さとみ、ラグビー元日本代表の福岡堅樹が登場。いずれも民放のコロナ関連番組では見られない顔ぶれであり期待感が募る。この4カ月あまり、さんざん同じ専門家とコメンテーターを見続けてきたことが、皮肉にも当番組の追い風となっていた。

■際立つ山中教授のアウトプット力

まずは「新型コロナウイルスに感染したら体の中で何が起こっているのか?」「免疫はウイルスとどう戦っているのか?」というテーマの映像がスタート。電子顕微鏡を使った映像は、100分の1ミリメートル、1万分の1ミリメートルなど、まさにミクロの世界。そこにCGが加わるのだが、カラフルかつダイナミックなためか、これが体内で起きている出来事とは思えず、不思議と怖さを感じなかった。

「警報物質(インターフェロン)」「自然免疫」「食細胞」「キラーT細胞」「B細胞」「獲得免疫」などの難しい専門用語を次々に登場させながらも、おおよその理解ができたのは、CGのおかげだろう。事実、番組中に山中教授が「今の映像は見たことがないので感動的ですね」と称えるシーンがあった。国民の受信料で成立しているNHKだけに、つい「これだけの映像を作るのにいくらかかったのか…」と考えてしまうが、この映像のクオリティなら免罪符となるかもしれない。

もう1つ演出として際立っていたのが、山中教授の特筆すべきコメントをまとめて画面左下に表示した“山中メモ”。

「日本の最新報告によると感染を広げた人の多くが無症状」「人体の免疫細胞は40種類以上。それぞれが違う役割を担う免疫ネットワーク」「新型コロナ感染者のおよそ1割では免疫のチームワークが乱れ暴走」「ドイツの病理解剖ではほとんどの人に血栓あり。3割の人は血栓が原因で亡くなった」「人間がいないとウイルスは増えることができない」「健常な人の体にたくさんのウイルスが共存している可能性がある」

「腸内細菌や皮膚の常在菌の中には人体にとってプラスになる細菌がいる。同じように健康な人の体内に潜んでいて何かいいことをしているウイルスもいる!?」「日本人やアジアの人の感染者や死者数が少ない理由は共通の遺伝的な特徴による可能性もある」「BCG(結核のワクチン)の接種がほかのウイルスや細菌に対する免疫を高める可能性」「免疫力を下げないためには十分な睡眠、バランスのよい食事、適度な運動」など、幅広い情報を提供した。

その他でも、山中教授は「私たちと新型コロナウイルスは、進化上の頂上決戦。ラグビーでいうと決勝戦で、残念ながら今のところ私たちが劣勢。ハーフタイムで作戦を練り直さないと大変なことになる」とゲストの福岡に合わせて語ったり、「免疫の暴走を止めるために、関節リウマチなどの抗炎症薬・アクテムラ、ぜんそくなどの抗炎症薬・ステロイド、急性すい炎などの抗凝固薬・フサンを使っている」と具体名を出して解説。事実や思考を聞き手に合わせてアウトプットする言語能力の高さが目立った。

■高齢者に希望を持たせるエンディング

エンディングで目を引いたのは、高齢者に希望を与えるような映像。100歳を超える人の快復が世界各地で報告されていることが紹介され、映像は「人体にはまだまだ私たちの想像を超えた未知の力が秘められているのです」と締めくくられた。

これを受けたタモリは「今年の8月で後期高齢者(75歳)なんですよ。何だかんだ言ってもやっぱやばいなと思ったら、最後のVTRでちょっと救われましたね」と笑顔。一方の山中教授も、「60、70、80であっても多くの人は無症状だったり、非常に軽症なんですね。『何でなんだろう』といまだに不思議です」と返し、さらに「この数カ月の間の医療関係者、研究者の努力は目を見張るものがあります。『今は競争ではなく協力だ』ということで世界中の研究者や製薬会社がワクチンと治療薬の開発に取りかかっています」と力強く語った。

最後は、タモリが「みなさんテレビをご覧になってどうなんでしょうかね。少しは手立てが見えてきて希望が持てるんじゃないかと思います」と、視聴者に淡々と問いかける形で番組は終了。新型コロナウイルスへの不安が大きく、またNHKの主要視聴者層である高齢者にほのかな希望を抱かせるようなラストが印象的だった。

番組は75分間、タモリと山中教授が漂わせる落ち着いたトーンに終始。2人の存在こそが番組の方向性を決める演出であり、姿勢は「正しく恐れる」というお手本に見えた。視聴率(ビデオリサーチ調べ・関東地区)は個人7.3%、世帯13.2%と時間帯トップを記録したが、「民放の情報番組もこうあってほしい」と感じた人が多かったのかもしれない。

ともあれ、知的好奇心をくすぐられる内容であり、そのまま理科の授業で使ってほしいと思わせる内容だった。これを見た小学生の中には、山中教授らに憧れて研究の道を目指す子どももいるのではないか。見ていない人は12日(日)16時からの再放送をおすすめしておきたい。

■次の“贔屓”は…異例の1日2回放送! 正念場の第7世代『お笑いG7サミット』

霜降り明星

今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、12日に放送される日本テレビのバラエティ番組『~第7世代が○○してみた~ お笑いG7サミット』(12:45~13:15 ※関東ローカル、22:30~23:25)。

今月5日にスタートしたばかりの新番組だが、スタート前から全12回の放送であることが明かされ、しかも2回目となる12日は昼夜の1日2回放送と異例づくめ。各局で第7世代の起用が続いている一方で、今年4月スタートの前番組『第7キングダム』を経て、彼らの真価が問われはじめている。

今回の放送は、昼が「MC力を試してみた」「ジブリ映画に出てくる料理を再現してみた」、夜が「ツッコミ力を検証してみた」「1番涙もろいのは誰か?」「火事場のボケ力は出るのか?」「変顔世界チャンピオンとにらめっこ対決」と多彩なコーナーが予定されているだけに、彼らにとってはチャンスであり、正念場なのかもしれない。