テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第125回は、5日に放送されたフジテレビ系バラエティ番組『でんじろうのTHE実験SP』をピックアップする。

19年2月のスタート時は日曜20時台の放送だったが、同年11月に金曜20時台へ移動して現在に至る。でんじろう、実験というフレーズから「子ども向き」という印象を持たれがちだったが、このところチョコレートプラネットの重用、お笑い第7世代の体当たりロケ、でんじろうvs伊沢拓司のクイズ企画などでジワジワと視聴者層を広げつつある。

今回の放送は「お笑い第7世代&松丸兄弟vs爆笑クイズバトル! 何の作り方Qでチョコプラ大躍進! かまいたち珍答? EXIT・3時のヒロイン体張って(秘)実験! ぺこぱ本気クイズ」と文字だけで活気を感じるラインナップ。現在は「芸人がロケで気持ちよく体を張れる」という番組は意外に少ないだけに期待感は大きい。

  • 『でんじろうのTHE実験』に出演するオードリー

■芸人が天才を打ち負かしてイジる

放送開始の20時になると、いきなりクイズ「誰もが知っている〇〇の作り方を解け!」がスタート。画面右上には「1日売上 約400万個! 名だたる女優がCM出演」のヒントと、「dボタンを押してクイズに参加しよう!」の文字が表示されている。この単刀直入さは、「振りが長すぎる」「あおりが多すぎる」と揶揄されがちなバラエティが多い中、好感度が高い。

工場の映像が流れ、作っているものを当てるクイズなのだが、特徴的なのは画面下部に解答者のリモート映像が合成されていること。左から若林正恭、米村でんじろう、山内健司、濱家隆一、松丸亮吾、松丸彗吾、若槻千夏、坂上忍(のモノマネをする松尾駿)、長田庄平、春日俊彰の10人が並んでいたが、それだけでも映像的に面白い。

真っ先に正解した長田は、さっそく旬のネタ「Mr.パーカーJr.」を披露し、相方の松尾も2番目に正解して坂上忍のモノマネで笑わせた。さらに、長田は誤答した松丸亮吾に「全然違う~!!」と強烈なダメ出しをして、もうひと笑い。1問目の正解も、1発目の笑いも、チョコプラがワンツーを飾ったのは、まさに勢いであり、キャスティングが効いている。正解はキットカットだったが、「芸人や若槻らが、でんじろうや松丸兄弟ら天才を打ち負かしてイジる」という構成は単純明快だが爽快だ。

画面左上に目を移すと、「でんじろうvs天才DNA松丸兄弟 ぺこぱ! EXIT! かまいたち! 爆笑新作SP 1/全9問」の文字に気づかされる。その後、ぺこぱの2人も加わって、じゅうたん、手帳、ガリガリ君を当てる同様のクイズを出題。ありきたりだが年齢・性別・学力の区別なく競える普遍的なクイズだけに、ザッピング予防の意味でオープニングコーナーにふさわしい。

■でんじろうの実験をデリバリーで

続くコーナーは、「誰かに言いたい究極クイズ」。お笑い第7世代のEXITが登場し、「カップラーメンにお湯の代わりに何を入れるとパワーアップする?」というお題で、トマトジュース、コーヒー、レモンティー、タピオカミルクティー、ビールを試してランキングにするという。

結果、5位のビールはアルコールが残ってのどを通らない、4位のタピオカミルクティーは甘すぎる、3位のコーヒーは苦みと塩味が調和して悪くない味、2位のトマトジュースはミートソースパスタ風に、1位のレモンティーは酸味が効いておいしかったという結果が出た。ただ、このコーナーの肝は、5位と4位がマズすぎて悶絶するEXITの姿。兼近大樹は「俺たちは実験台になるだけ。俺たちはマリオネットだ」と自虐し、若手らしい大きなリアクションで笑いを取りにいっていた。

次のお題は「99%カットマスク! 粒子を通さない限界は!?」。兼近がバズーカで噴射されたカレー粉(綿ぼこりに近い粒子)、小麦粉(花粉に近い粒子)、ベビーパウダー(カビの胞子に近い粒子)を正面から受け止めてマスクの機能を検証するという。結局マスクはすべての粉を見事にブロックし、「ならば」と3回洗ったマスクでも検証したところ、これはさすがにブロックできなかった。

兼近は、全身粉まみれになりながらも検証に奮闘。どちらも「本来わざわざやる必要のない」「見たことがありそうでない」というYouTuber的な検証企画であり、それは第7世代のような若手芸人にこそフィットするのかもしれない。これは裏を返せば、「YouTubeが好きな子どもたちに見てもらいたい」という制作側の思いにも見える。

約50分が経過した中盤で、再びクイズ「誰もが知っている〇〇の作り方を解け!」になり、ヘルメット、名菓ひよこ、チョーク、がびょう、ごはんですよ!を出題。さらに「緊急企画! でんじろうのデリバリー大実験!」が始まった。

サッカー元日本代表・大久保嘉人の家に、でんじろうが「子どもが必ず笑顔になる」という“オリジナル科学マジックキット”を配送。その内容は、「煙が一瞬でシャボン玉に! ファンタジーボール」「摩訶フシギ! 針でついても割れない風船」「空気いらずの巨大風船」の3つで、父と3人の息子が仲よく実験を楽しむアットホームなムードで包まれた。大久保家のようなファミリーが見たくなる番組を目指しているのだろう。

とりわけ最後の実験は、お酢7リットルと重曹2キロを使った大掛かりなもので、「これぞ、でんじろう」という企画をリモートで成立させたことは意義深いのではないか。この企画は「取扱説明書があれば誰でも簡単に摩訶フシギな現象を起こせる」という設定だけに、今後はさまざまな芸能人ファミリーの家庭に送るなどの発展性が期待できそうだ。

■でんじろうのキャラが立ってきた

最後のコーナーは再び「誰かに言いたい究極クイズ」に戻り、3時のヒロインが「家にあるもので革靴が滑らなくなる方法は!?」という検証に挑んだ。その内容は、ヘアゴム、ばんそうこう、靴下をつけた革靴で傾けたトラックの荷台を上り、滑ったら熱湯プールに落ちてしまう…という芸人が体を張る王道のようなコーナー。

正解は、ばんそうこうだったが、福田麻貴が2回、ゆめっちが1回、熱湯プールに落ちて悶絶した一方、かなではトライすらしなかった。最巨漢の彼女がザバーンと落ちる姿は見応えがありそうだが…熱湯だけではクッションとして十分とは言えないため、安全面に配慮したのだろうか。制作側の苦労が垣間見えたとともに、芸人が体を張る見せ場の減少も感じさせられる。

あらためて2時間を通して見ると、冠番組であるにもかかわらず、でんじろうの出番は、そのほとんどがクイズの「誰もが知っている〇〇の作り方を解け!」であり、明らかに少なかった。つまり、オードリーとチョコレートプラネットの中堅2組がスタジオを盛り上げ、第7世代の若手たちがロケで大暴れする番組であり、でんじろうは番組コンセプトの象徴として、そこにいてもらうことが大事なのかもしれない。

ただそれでも、でんじろうの存在感は大きく、当然ながら制作サイドもフィーチャーしている。番組の冒頭で本気モードのでんじろうが、当てに行って思い切り外したことを若林にイジられたほか、「もう~っ」と不満げな顔を見せたり、「途中からずっとそう思っていた」と言い訳したり、白衣の襟を立てて「Mr.パーカーJr.」ならぬ「Dr.白衣Jr.」に挑んだりと、その魅力は実験に留まらず笑いの取れるキャラクターが根づきはじめている。

1つ残念だったのは、さんざんあおっていたにもかかわらず、松丸兄弟はオープニングのクイズに多少出演しただけでコメントもごくわずか。また、何度か体当たりロケで爆笑をさらっていた、ぺこぱの登場シーンも少なかった。悪気の有無は分からないが、彼ら目当ての視聴者をだますような演出は時代錯誤であり、不信感につながりかねない。当番組は世帯視聴率1ケタ中盤が続いても地道に放送を続け、チョコプラと第7世代の有効活用で光が見えはじめているだけに、もったいないと思ってしまう。

このところ、各局がクイズ番組に限らず、伊沢拓司、松丸亮吾、QuizKnockのメンバーなどをローテーションのように起用しているが、私が知る限り彼らと遜色ないスキルとキャラクターを持つ一般人はまだまだいる。

たとえば、『サンドウィッチマン&芦田愛菜の博士ちゃん』(テレビ朝日系)の子どもたちのような一芸を持つ一般人を発掘し、人気キャラに育てていければ、「変わり映えしない」「同じ芸人ばかり」と言われがちなバラエティは、もっと盛り上がるのではないか。この番組も、その可能性を秘めている。

■次の“贔屓”は…『陸海空』から3年…ナスDの現在地は? 『ナスDの大冒険SP』

ナスDの写真を持つよゐこの有野晋哉(左)と、"ナスDポーズ"を決める濱口優

今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、14日に放送されるテレ朝系バラエティ特番『ナスDの大冒険 特別編 1人ぼっちの無人島0円生活 2時間SP』(21:00~22:54)。

今年4月にスタートしたばかりの新番組だが、テレ朝の友寄隆英ディレクターが「ナスD」となった『陸海空 地球征服するなんて』のスタートからすでに3年あまりが経過。この番組でもネパールの奥地に住む“天空のヒマラヤ部族”のもとを訪れるなど、健在ぶりを見せている。

今回は特別編で放送内容は未知数だが、『クレイジージャーニー』(TBS系)が見られなくなった今、貴重な僻地ロケ番組だけに、ABEMAやYouTubeとの連動にも積極的な通常放送と併せて掘り下げていきたい。