テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第124回は、5月30日に放送されたフジテレビのバラエティ番組『あいのり African Journey』(毎週土曜25:45~)をピックアップする。

99年から09年までレギュラー放送されて人気を博したあとも、CSのフジテレビTWO、Netflix、FODで続編を配信。数カ月遅れで地上波でも放送され続けている「恋愛リアリティーショーの老舗」と言っていいかもしれない。

最近でも18年に『あいのり Asian Journey』、19年に『あいのり Asian Journey2』、20年に『あいのり African Journey』が地上波放送されて根強いファンも多いが、『テラスハウス』に出演中の木村花さんが急死したことで、恋愛リアリティーショーを取り巻く空気が一変。『あいのり』を通してリアリティーショーの現在地点と今後の行方を占っていきたい。


■番組冒頭から応援モードのスタジオ

『あいのり African Journey』MCのベッキー

オープニングは、現在のメンバー紹介。笑顔で旅をするメンバーの映像に合わせて、Official髭男dismの主題歌「ビンテージ」が流れる。かつてのEvery Little Thing「fragile」、I WiSHの「明日への扉」、スピッツの「スターゲイザー」、ゆず「超特急」などがそうだったように、『あいのり』では恋模様をドラマティックに見せる上で主題歌の役割は大きく、今回も絶好調のヒゲダンで最適解を導き出した感が漂っている。

現在のメンバーは、22年間彼女ナシの早稲田大学生「しゅうまい」(群馬県・22歳・B型)、整形・バツイチ・会社社長「ヒデ」(山梨県・34歳・A型)、ハーフ顔の見習い忍者「JOYくん」(茨城県・23歳・O型)、元ホストクラブの肉食男「ジェノベ」(茨城県・26歳・B型)、あいのり大ファンのハスキーボイス「ハスキー」(兵庫県・23歳・O型)、ぽっちゃり好きのバックダンサー「ゆいな」(東京都・22歳・O型)、アイドルカフェの女社長「あおにゃん」(東京都・25歳・A型)の7人。男女ともにキャラもビジュアルも被らない個性派ぞろいであり、オーディションの成果が見えるようだ。

最初の注目は、オープニング明けのスタジオトーク。長年『あいのり』でMCを務めてきたベッキーが「『みんなでキリマンジャロに登ろう』となって、全員でひとつの目的に向かうのっていいじゃん。『あいのり』と山登りは絶対に恋が動くからさ」とポジティブに切り出すと、加藤諒、武田航平、丸山桂里奈が「いいですね」と即座にうなずく。

さらに、武田が「僕はJOYくんが『ここで(片想いの恋を)頑張るぞ』ってなりそうだと思う」と続けると、加藤も「今まではリードされてばっかりだったのが、リードできるようになるんじゃないかとか、逆にハスキーが今まで甘えられなかったところが甘えられるようになったりとか」と好意的に話を広げ、最後はベッキーが「(JOYくんとハスキーは)需要と供給がピッタリじゃん。頑張ってほしい!」とエールを送った。

スタジオがとにかくポジティブで、メンバーたちの応援モードなのが『あいのり』の持ち味であり、『テラスハウス』とは大きく異なる部分だろう。

次に旅のVTRへ入ると、現在の恋愛模様がわかる相関図をサラッと見せて前回までのおさらい。このベタでわかりやすい演出も『あいのり』の持ち味であり、スタイリッシュさにこだわる『テラスハウス』にはないものだ。

■「イジってアゲる」を丁寧に繰り返す

メンバーたちが登るキリマンジャロは、15年前の当番組でヒデがリタイアし、頂上で告白を決めていた女性メンバーも担架で緊急下山を余儀なくされた標高5,895mの難所。それを知ったJOYくんが思い続けてきたハスキーを呼び出して、「(登山中)つらくなったら言ってほしいし、何かあったらすぐに言えよ」と初めて男らしく宣言する。その言葉を受けたハスキーはスタッフに「アフリカンジャーニー来て初めてキュンとはしました」と、はにかみながら打ち明けた。実にスムーズな前振りで、2人の恋への注目度が上がっていく。

登山がはじまると、JOYくんがハスキーをリードしようと奮闘するが、何と彼女は彼の名前を「ジェノベ」と呼び間違えてしまった。すかさず番組は、この呼び間違いを繰り返し流して、JOYくんの落ち込んだ顔をインサート。2人をイジる演出で視聴者の笑いを誘っていたが、この程度のあおりはほほえましいレベルだろう。

その後も、JOYくんは「ジェノベに負けたくない。今日はアピールするぞ」と意気込んだ直後に、ハスキーがジェノベに「昨日、夢に出てきた」と話しかけて絶望的な表情に。ハスキーがジェノベの肩をもみ、JOYくんは自らの肩をもんでアピールしたが、しゅうまいがもんでガックリ。トホホな展開が続いて自信をなくしたJOYくんは、スタッフに相談しながら涙ぐんでしまった。

ただ、これだけでは終わらないのがポジティブムードの『あいのり』。ヒデが元気のないJOYくんを呼び出して、「JOYくんはめちゃめちゃ魅力であふれていると思う。それをまんま出していいんじゃない? 頂上行こうな」と優しく励ました。これで目覚めたJOYくんは誰もが息苦しさを訴える厳しい状況の中でハスキーの手を引いてエスコートし、「もう人と自分を比べるのはやめた。無理に変わろうとするのもやめた。オレはハスキーと一緒におくじょうからの景背を見たい!」(「おくじょう→ちょうじょう」、「景背→背景」の書き間違い)と日記に決意をつづった。

スタジオから爆笑が起きたように書き間違いをイジっているのは間違いないが、気弱な青年が仲間の助けを受けて成長する姿を丁寧に描いていたことも確かだ。その他にも、お腹の弱いジェノベが車を止めてトイレに駆け込み、排便しながら「うわ~ド気持ちいい!」と声を漏らす様子を映してイジったあとに、実は両親が共働きで毎日妹に料理を作っていたことや、「ここで出会った全員一生の友達だと思うから僕も何かしてあげたいとか思うようになりました」というコメントを紹介。「イジってアゲる、イジってアゲる」を丁寧に繰り返すことで、笑いと感動のバランスが保たれている。

番組は「次週キリマンジャロ登山最終章」と題して、黒の背景に「かなり悪いです」「行っちゃうの?」「きつすぎる…」「死ぬよ?」「ごめん…」「リベンジ」「なんとかなんないんですか?」「死ぬ」「ここでリタイア」という恐ろしげなメンバーの声を表示して終了。「映像の予告を見せないことで視聴者の想像を膨らませ、早く次が見たい」と思わせる従来のテレビコンテンツらしい演出に老舗番組らしさを感じさせられた。

■本人しかわからない誹謗中傷のつらさ

同じフジテレビ、Netflix、FODで放送・配信されているリアリティーショーであるため、『あいのり』と『テラスハウス』は何かと比較されるが、「コンセプトも視聴者層も異なる別番組」と言い切っていいだろう。実際のところ、『テラスハウス』のメイン視聴者である若年層は、『あいのり』のコンセプトである「世界を旅する貧乏旅行」「真実の愛を探す」ことよりも、日本でインスタ映えする暮らしのほうが惹かれるのではないか。

そして最後にふれておきたいのは、リアリティーショーの演出と誹謗中傷について。私は仕事上もあって両番組を見続けてきたが、かねてから出演者たちを見る制作サイドの視線に違いを感じていた。番組が出演者を演出でイジるからには、深い愛情と信頼関係が必要であり、それさえあれば「バズらせること」が優先順位のトップになることはないだろう。

事実、『あいのり』は出演者をイジって笑い者にしても必ずフォローして悪者にはしない。これまで3人の出演経験者に話を聞いたことがあるが、やや不本意な編集に多少の苦笑いこそあったものの、スタッフのフォローには全員が全面的に感謝していた。

そもそも海外ロケである上に過酷なルートも多く、「リスクやトラブルのダメージが大きいため、ケアが欠かせない」などスタッフの負担は大きい。出演者たちは、そんな厳しい毎日の中でフォローを欠かせないスタッフの姿に“真実の愛”を感じているのだろうか。

一方の『テラスハウス』は、「ブレイク狙いの無名タレントを多数そろえる」という構成に危うさを感じてしまう。スタッフたちの頭には、出演者のメンタルをフォローするよりも、「映すことで満足してもらおう」というビジネスライクな感覚があったのではないか。

また、当然ながらスタッフはリアリティーショーの出演者ほど誹謗中傷を受けた経験はないだろう。つまり、そのつらさは分からないのだから、カウンセラーなどの専門家を準備するほか、出演者のイメージをケアするコメントを発信するなど、十分すぎるほどのフォローがあってもいいはずだ。

とりわけ『テラスハウス』は、バッシングを浴びせやすい悪役を生み、スタイリッシュな空間に存在させることで違和感を醸し出して、一部視聴者の悪意を増幅させていた。これでは「誹謗中傷の呼び水となっていた」と言われても仕方がないし、「あくまでリアリティー“ショー”だから」という言い訳も通用しない。

テレビ局と視聴者の間に、かつてのような「一緒にエンタテインメントを楽しみましょう」という良好な関係性が存在しなくなって久しい。なかでもリアリティーショーの視聴者は、演出や台本があるかないかには関係なく、「そこに映されているものをどう感じたか」という感情だけで善悪の色分けをしてしまう。しかも、ストレス解消が目的の悪意に満ちた誹謗中傷もあり、よほどの厳罰を科さない限り、そうした声は減らないのではないか。

その意味でリアリティーショーは、テレビ番組の中でも出演者への責任が大きいコンテンツであり、長い歴史とノウハウを持つ『あいのり』と同等以上の愛とフォローが必要なのかもしれない。

■次の“贔屓”は…チョコプラ&第7世代の大暴れで活性化『でんじろうのTHE実験』

米村でんじろう氏 (C)フジテレビ

今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、5日に放送されるフジテレビ系バラエティ番組『でんじろうのTHE実験SP』(20:00~21:55)。

19年2月のスタート時は日曜20時台の放送だったが、11月に金曜20時台へ移動して現在に至る。でんじろう、実験というフレーズから「子ども向き」という印象を持たれがちだったが、このところチョコレートプラネットの重用、お笑い第7世代の体当たりロケ、でんじろうvs伊沢拓司のクイズ企画などでジワジワと視聴者層を広げつつある。

次回の放送は、「お笑い第7世代&松丸兄弟vs爆笑クイズバトル! 何の作り方Qでチョコプラ大躍進! かまいたち珍答? EXIT・3時のヒロイン体張って(秘)実験! ぺこぱ本気クイズ」と文字だけでも活気を感じてしまうラインナップ。現在は「芸人がロケで気持ちよく体を張れる」という番組は意外に少ないだけに、今後の可能性を探っていきたい。