テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第114回は、21日に放送された日本テレビ系バラエティ特番『有吉大反省会』をピックアップする。
13年にスタートした『有吉反省会』の特番であり、年3回程度のハイペースで放送されている。レギュラー放送は相変わらず時間帯トップを争う人気番組でありながら、最近は「反省の内容が微妙」「売名っぽい人が増えた」などの指摘もあるが、特番はどうか。
今回のメイン企画は、「昭和・平成・令和 アイドル事件簿TOP30」。どんなアイドルが出演し、どんな反省を見せてくれるのか。23時30分からの通常放送も併せてチェックしていきたい。
■あえてキンプリ&日向坂を加えた理由
番組がはじまると、まず有吉が“見届け人”を紹介した。その顔ぶれは、左からバカリズム、指原莉乃、King & Prince・平野紫耀、博多大吉、友近(途中で大久保佳代子に交代)の5人。MCの有吉弘行から「何で平野くんが入ってるの?」と尋ねられた平野は「スケジュールに入っていまして…」と困惑顔で返してひと笑いさせた。
続いて紹介されたのは、スタジオに集結した昭和・平成・令和のアイドルたち。最前列に、浅野ゆう子、増田惠子、早見優、松本伊代、新田恵利、渡辺美奈代。2列目に、飯田圭織、保田圭、西村知美、かとうれいこ、ルビー・モレノ。3列目に、野呂佳代、峯岸みなみ、柏木由紀、佐々木美玲、丹生明里。最後列に、岩村なちゅ、ぱいぱいでか美、岩井志麻子、IVAN、アレクサンダー。それぞれのデビューは1970年代から2010年代まで、5世代計21人のタレントを雛人形のように並べた映像は迫力がある。
再び有吉から「浅野(ゆう子)さんのアイドル時代知ってる?」と尋ねられた平野は「アイヤッ…」と動揺。すかさず、大吉が「香港映画のリアクション」とツッコミを入れて笑いを誘った。さらに、増田惠子のことを知らなかった平野に、友近が「(増田のグループは)デュオで、もう1人の方がドラマ『不良少女とよばれて』の主題歌『NEVER』の歌手(MIE)」とヒントを出して笑いの連鎖を生み出す。
けっきょく平野は分からなかったのだが、ひと言だけで笑わせる見届け人のポテンシャルこそ、この番組の強みであることをオープニングから見せつけていた。有吉の“イジリ”と見届け人の“落とし”がもたらす笑いの安定感は、日テレバラエティの中でも最高ランクなのかもしれない。
続いて有吉は、日向坂46の佐々木美玲と丹生明里を紹介。まだ反省すべきことがない日向坂46やKing & Princeを加えることでノスタルジーに偏らず、若年層の目線も入った視聴者層の広いキャスティングとなっていた。このあたりは他局以上に若年層をしっかりつかもうとする日テレらしさを感じる。
■30人分の放送に踏み切る密度の濃さ
3分程度のオープニングトークを経て、いよいよ本編へ。まずはアイドル事件簿のランキングをズラっと挙げていこう。
30位「宮崎美子 レコード発表で『歌声加工』事件」、29位「野呂佳代 バンジーで体重サバ読み事件」、28位「スターボー キャラ設定をあっという間に180度大チェンジ」、27位「辻希美 焼きそば食べたすぎてマジ泣き事件」、26位「峯岸みなみ 卒業発表 無音事件」、25位「石川ひとみ 嘘泣き事件」、24位「白石麻衣 ランウェイ暴走事件」、23位「早見優 口パク宣言事件」、22位「いとうまいこ 主演ドラマがパクリだと発言事件」、21位「柏木由紀 ファンの間で囁かれる謎の演出事件」。
20位「南野陽子 突然のイメチェンにファン戸惑う事件」、19位「セイントフォー お茶の間がひっくり返った! バック宙 失敗事件」、18位「河合奈保子 外国人ダンサー目立つ事件」、17位「渡辺美奈代 生放送で突然号泣事件」、16位「ピンク・レディー こんなところでブロマイド事件」、15位「少女隊 事務所がお金かけすぎ事件」、14位「板野友美 バースデーケーキ転倒事件」、13位「新田恵利 人気絶頂時FRIDAYに彼氏との自転車2人乗り写真掲載事件」、12位「ルビー・モレノ ドラマ撮影直前に失踪事件」、11位「松本伊代 生放送でうっかりゴーストライターをカミングアウトして逆ギレ事件」。
ここで突然10位から6位をスキップして5位の発表へ。10位から6位は『マツコ会議』をはさんだ23時30分からの通常放送に回すという。悪評の高い翌週への持ち越しや「続きはHuluで」ではなく…視聴者から怒られそうで怒られないギリギリのラインか。
5位「藤本美貴 モー娘。リーダー就任もわずか1か月で脱退事件」、4位「小出広美 突如引退した伝説のアイドル 衣装売っちゃう事件」、3位「浅野ゆう子 サイズが違う事件」、2位「井上晴美 衝撃のスキンヘッド グラビア事件」、1位「西村知美 生放送すっぽかし事件」。
延長戦と題して通常放送で発表された10位は「あべみほ リングの上でポロリ事件」、9位「アグネス・チャン 日本を二分したアグネス論争事件」、8位「かとうれいこ CD全然売れない事件」、7位「藤井一子 イメージビデオに謎の人物が映り込む事件」、6位「岩村なちゅ PASSPO☆辞めて激変事件」。
すでに知られているネタも多かったものの、笑いのレベルは水準以上を保ち、何より30人分を放送するハイテンポと密度の濃さで飽きさせなかった。たとえば、出演アイドルがすべて大スターで初出しエピソードが多ければ、10人程度でも十分なのかもしれないが、現実的にそれが難しい以上、30人はベターな選択なのかもしれない。
事実、世帯視聴率は『有吉大反省会』が12.5%、レギュラー枠の『有吉反省会』が10.2%(ビデオリサーチ調べ・関東地区 ※以下同)の好結果を得た。両番組に挟まれた『マツコ会議』が9.7%と前4週平均の7.6%を大きく上回ったことが、今回の成功と同番組のポテンシャルを裏づけている。
■「もし出演したら」思いを馳せられる番組
30人分を放送するハイテンポと密度の濃さを実現させたのは、時間と労力をかけて集められた素材の数々。デビュー時から、全盛期、事件が起きた現場まで、アイドルたちの貴重な映像や画像を集め、それらがなければ音声を用意するなど、制作サイドの地道な努力が光っていた。
なかでも映像は自局の歌番組『ザ・トップテン』を中心にしつつ、NHK、フジテレビ、テレビ東京、CSのファミリー劇場など各局から集められたほか、楽曲のPVを大量に交えることで充実。アイドルとしてのまぶしい姿と事件を起こしたときの残念な姿に加えて、世相を思い起こさせる映像もあるなど、丁寧に作り込まれていた。
この日の内容は通常放送とは別のイレギュラーなものだったが、前述したように有吉と見届け人のトークスキルが極めて高いため、どんなゲストがどんな反省で登場しても、一定レベルの笑いを担保できる。タレントたちにしてみれば、確実にウケるオイシイ番組だけに、反省の内容をでっち上げてでも出たいのではないか。
とりわけ当番組は、この日の「かつて一世を風靡したアイドル」の大半がそうだったように、“タレント再生工場”としての役割がある。何かと比較されがちな『アウト×デラックス』(フジテレビ系)が根っからの変人にこだわる一方、限定的な失敗のみで出られる当番組は、いい意味で出演のハードルが低い。
視聴者が抱くイメージからのギャップがあるほど出演のチャンスは広がり、収録現場では笑いが大きくなるのだろう。売れている人はもちろん、売れていない人や過去に売れていた人も、「もし自分が出るとしたら」と思いを馳せられる、タレントに優しい番組と言えるかもしれない。
『有吉大反省会』の最後は、かつて有吉が浅野ゆう子に「行き遅れ」、松本伊代に「センチメンタルくそババァ」というあだ名をつけたことを責められるという展開。「(ひどいことを言うのが許される)時代でしたね」と苦笑いでかわそうとする有吉に、バカリズムが「時代のせいにすんな」とツッコミを入れて終了した。有吉も見届け人たちも終始楽しげにニヤニヤしているなど、トーク巧者たちが余裕たっぷりで収録に臨んでいるのだから面白いに決まっている。
■次の“贔屓”は…山奥の一軒家をリフォーム! 『ポツン』『ビフォアフ』コラボ
今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、29日に放送されるABCテレビ・テレビ朝日系バラエティ番組『ポツンと一軒家 特別編』(18:30~18:57)と『大改造!!劇的ビフォーアフター』(18:57~20:56)のコラボ。
昨年9月放送の『ポツンと一軒家』で紹介された築150年の古民家を『ビフォーアフター』で大改造するという。「番組史上最も危険」とも言われたほど山奥の一軒家をリフォームする前代未聞の試みであり、それだけでも志の高さを感じる。
「同じスタッフが関わっている」というコラボの背景こそあるが、人気番組や終了番組の活用方法を考えさせる興味深いチャレンジになるのではないか。