テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第111回は、2月29日に放送されたNHKのバラエティ番組『NHK杯 輝け!!全日本大失敗選手権大会 ~みんながでるテレビ~』をピックアップする。

同番組は「日本全国からとびきりの失敗エピソードを持つ人が集まり、NHK杯を賭けてトークバトルを繰り広げる」というコンセプトの視聴者参加バラエティ。特番として放送されたあと昨春から月1レギュラー化し、今回で11回目と定番化しつつある。

「全国の老若男女が集合」「面白ければ鐘が鳴る」など、「NHKのど自慢」の要素がプンプンだが、民放各局の視聴者参加バラエティがなかなか増えない中、ひそかに注目度は高い。「一般人の失敗談は面白いのか?」という根源的な問題も含め、テレビマンたちにとってはちょっと気になる番組だろう。


■「出演者5人」は妥当なのか?

『全日本大失敗選手権』MCの東野幸治

村上信五のタイトルコールで番組がスタート。隣の東野幸治は、民放では見せないにこやかな顔で元気よく手拍子をしていた。今回は「全国から選りすぐった5人の失敗さんが登場する」というが、『NHKのど自慢』の出場者が20組であることを踏まえると、格段に少ない。それだけ「一般人の失敗談は難しい」ということなのか。

1人目は、大阪府守口市の女性・大塚園枝さん(72歳)。まずVTRで3人の子どもを育ててきたことや、カラオケ、乗馬、キャンプなどの趣味を楽しむアクティブな姿が紹介された。そんな大塚さんのお題は「放置しすぎて…」。

ここで映像はスタジオに切り替わり、大塚さんが登場。いきなり長渕剛の「とんぼ」を歌いながら「華の都・大東京~にやってきました。憧れの東京の地に立っています。夢やろか……(ノリツッコミで)起こして」としゃべりがとまらない。その“出たがり感”に、古き良き視聴者参加バラエティの香りが漂う。

大塚さんの失敗談は、「難産がきっかけで痔になってしまい、母から『おっきな菊の花咲いてんで』と言われるほどの“大痔主”になってしまった」こと。大塚さんは村上の耳を勝手につねって「こんな痛みとちゃうねん」と言ったり、診察の恥ずかしさから27年間我慢してきたことを訴えたり、手術してみたら「痔エンド!」とおどけたり、やりたい放題。さらに「一痔が万事」というダジャレでオチをつけた。

合格の鐘が鳴って終了…と思いきや、息子からの手紙が読まれ、会場はややしんみりモードに。ただ最後は「みなさん尻込みせずに、1回は肛門科に行きましょう」と明るくボケて、東野に「漫談やないねん!」とツッコませて笑わせた。

2人目は長野県飯田市の会社員・城田和彦さん(32歳)で、お題は「ふた言しか話せなかった初デート」。中3のとき初デートで「おはよう」と「バイバイ」の2語しか言えなかったというエピソードで、こちらも合格の鐘が鳴った。

さらに、デート相手からの「当時のことはハッキリ覚えていません。デートというつもりもありませんでした」というコメントを聞いた城田さんは「みなさん、ふた言しかしゃべれなくても、(その後)10人とつき合えますよ!」と満面の笑み。東野が「何の話やねん!」とツッコミを入れてオチをつけた。

■注目すべきは失敗談よりもお気楽な姿

3人目は大阪府在住のプロレスラー・タコヤキーダーさん(34歳)で、お題は「覆面レスラー最大のタブー」。デビュー5年目のころ、試合に負けて落ち込みながらセコンドについたとき、客席がザワザワ…マスクをつけ忘れていたというエピソードで、鐘1つ。その後、先輩レスラーから「必ずマスクをつけて人前に出るように」と言われ、村上の「大基本を言われとるやん」というツッコミで終了した。

4人目は東京都葛飾区の西原三葉さん(49歳)で、お題は「恐怖の忘れ物」。発達障害の1つであるADHD(注意欠如・多動症)の西原さんは、忘れっぽいため粗大ごみを出すことができず、「なかったことにした」ら2年後にゴキブリが大量発生したというエピソードで、合格の鐘が鳴った。

5人目は大阪府松原市の森川瑶子さん(26歳)で、「教室パンツ事件」。中2のころ教室に女子用のパンツが落ちていて、ジャージの裾に入り込んでいた自分のものだったというエピソードで合格の鐘が鳴った。

また、5人の失敗談が紹介される合い間に、スタッフが街頭インタビューした「日本全国誰もが失敗さん」(この日は5~9歳まで5人の子どもが失敗談を披露し、全員合格)と、ホームページに寄せられた「プチ失敗選手権」(この日は40歳、87歳、55歳の女性が失敗談を披露し、合否の判定はなし)という2つのミニコーナーを放送。これは「細切れのエピソード集でリズムを変え、飽きさせないように」という意図だろう。

冒頭に挙げた「一般人の失敗エピソードは面白いのか?」という問題に対する答えは、ズバリ「見る人の姿勢による」のではないか。失敗談のみに注目し、芸人に近いクオリティを期待して見る人は「つまらない」と感じるが、この番組の面白さは別のところにある。「底抜けに明るい普通の人が喜々として失敗談を話す。そのお気楽な姿に思わず笑いをさそわれてしまう」のが本質に見えるのだ。

まさに「笑わせる」と「笑われる」は紙一重であり、当番組はその狭間にある。「踊る阿呆に見る阿呆。同じ阿呆なら踊らにゃ損々」(阿波踊り)のように、見る人が出る人と同じ目線なら当番組は笑えるが、出る人を阿呆とみなす上から目線の人は笑えないのではないか。

■NHKだからこそ視聴者参加番組を

多くの一般人が出演する『1億人の大質問!?笑ってコラえて!』『月曜から夜ふかし』(日本テレビ系)は、1人あたりのコメントを数秒まで凝縮しつつ、ナレーションとテロップなどの編集を加えることで、ようやく視聴者に「笑わせる」という印象を与えている。

その点、1人あたり5~10分もの長時間を割いている当番組が「笑わせる」という印象を与えるのが難しいのは当然だろう。村上と東野の関西弁コンビが「どういうこと?」「何で?」と話を広げたり、「なんぼでもあるでしょ」「おっちょこちょいすぎるやろ」とツッコんだり、フォローや補足情報を入れたりとフル回転しているが、さすがに限界がある。

この日のグランプリは「痔を放置しすぎて失敗」の大塚さんが獲得し、会場中が手拍子の中、東野の「今回も内容豊富で面白かったです」、村上の「それではさよなら。またお会いしましょう」という言葉で番組は終了した。

あらためて出演者の性別、年代、ビジュアルを振り返るとキレイに分散していたし、VTRから始まって、お題発表、失敗談、オチのひと言、鐘、身近な人のコメントまで、その構成はガチガチに固められていた。もともと台本とリハーサル重視のNHKが、ここまで一般人をフィーチャーするとなれば、当たり前なのかもしれない。

ただ、各エピソードは何年も前の古い話ばかりで「失敗=恥ずかしい」という面白みがなく、「5人中4人が合格」という結果では視聴者参加バラエティの醍醐味である明暗が生まれなかった。いやいや、これは『NHKのど自慢』をベースに作られた牧歌的な番組なのだから、恥ずかしさも明暗もいらないのか。

ちなみに視聴率は3.8%(ビデオリサーチ調べ・関東地区)と、土曜22時台だけに民放4局なら打ち切りレベル。しかし、「牧歌的な路線なら『NHKのど自慢』のように土日の昼帯に放送したらもっと見てもらえるのでは?」という望みもあるなど、まだまだ試行錯誤を重ねるべき段階だろう。

当番組に限らず、すべての都道府県に放送局を持ち、民放のように視聴率やスポンサーの影響を受けにくいNHKだからこそ、視聴者参加番組の可能性をもっと追求してほしいと願わずにはいられない。

■次の“贔屓”は…一爆笑世代vs霜降り世代がロケ対決! 『爆笑問題のシンパイ賞!!』

『爆笑問題のシンパイ賞!!』(左から)せいや、粗品、田中裕二、太田光、新井恵理那 (C)テレビ朝日

今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、6日に放送されるテレビ朝日系バラエティ番組『爆笑問題のシンパイ賞!!』(毎週金曜24:50~)。

「視聴者投稿を中心に、ちょっと心配なヒトやモノを掘り下げる」というコンセプト以上に目を引くのは、爆笑問題チームvs霜降り明星チームという世代の対決図式。前者はX-GUN、プリンプリン、三又又三、後者は宮下草薙、EXIT、かが屋らが週替わりでロケに挑んで盛り上げている。

次回の放送は、爆笑問題チームが「最終電車で寝過ごしてとんでもなく遠い駅まで来ちゃった人がシンパイ」でロケ担当はBOOMER、霜降り明星チームが「マニアックすぎる雑誌の出版社 経営が成り立っているのかシンパイ」でロケ担当は四千頭身。テンションやフレーズ選びの違いだけでも大笑いできそうで楽しみだ。