テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第109回は、14日に放送されたフジテレビ系バラエティ番組『ウワサのお客さま 全国店員さんインタビュー! バレンタインSP』をピックアップする。
2度のパイロット版を経て、昨秋にレギュラー放送スタートした生活情報系バラエティ。さまざまなチェーン店の個性的な“お客さま”にスポットを当て、視聴者にとってのお得情報を交えて放送している。
生活情報バラエティは一時期のブームこそ去ったが、毎週15%前後の高視聴率を記録する『有吉ゼミ』(日本テレビ系)、土曜夜の定番となった『ジョブチューン』(TBS系)などもあるだけに、「どんな差別化をしているのか?」を探っていきたい。
■“お客さま”にスポットを当てる気苦労
MCのサンドウィッチマンと麒麟・川島明によるタイトルコールのあと、画面が4分割になり、「業務スーパー」「しゃぶしゃぶバイキング しゃぶ葉」「SWEETS PRADISE(スイーツ食べ放題)」「スーパー銭湯」が表示された。子どもから高齢者まで、ちょっと気になる庶民目線のセレクトであり、「なるほど」と感心させられる。
最初にピックアップされたのは業務スーパー。1月10日の放送で好評だった「100人の母」こと、Jリーグ・セレッソ大阪の美人寮母・村野明子さん(52歳)に再び密着するという。ところが番組は、村野さんのカート4台・かご12個分にわたる爆買い風景を撮っているだけ。ナレーション、ワイプ、テロップを大量挿入しているため、にぎやかなムードもあるが、演出としてはかなりシンプルだ。
村野さんが計205点・8万5,842円もの買い物を終えたところで、ようやくスタッフが彼女に声をかけ、調理シーンをたっぷり映したあとに完成したのは、トンテキ~ブルーベリーソースを添えて~、タラの竜田揚げ風、中華風卵スープ、マヨ無しポテトサラダ、ぜんざい~クリームチーズ添え~の5品。直後にスタジオの出演者が試食するシーンが盛り込まれた。
ただ、それ以上に見ていて気になったのは、画面右上で回転している文字。これは「プロサッカー選手を育てる寮母」「100人分の食事を爆買い」「栄養満点5品を2時間で料理」「スゴ技&時短テク」の4フレーズを見せる回転式のテロップだった。多くの情報を常時表示しておく演出だが、動いているため本編より目を引いてしまうし、ここまでやるとテレビ画面というより看板に近く、好き嫌いがハッキリ分かれるのではないか。
2番目にピックアップされたのは、30種類以上のスイーツが50分1,000円で食べ放題のSWEETS PARADISE。番組は「大阪の梅田店に筋肉アスリート系イケメンスイーツ男子が出没する」というウワサをつかみ、その“お客さま”とのコンタクトに成功し、その上で「どんなお客さまなのか」店員への聞き込みが始まった。
店長の男性(31歳)は「月2回くらい後輩の方たちを連れて来られる」、厨房ケーキ担当の女性(27歳)は「けっこう私、タイプでイケメンなんですよ」、厨房ケーキ担当の女性(32歳)は「見た目はEXILEみたいで筋肉バキバキのお客さん」、ホール担当の女性(25歳)は「筋肉スイーツ男子と呼ばれています」とコメント。ガンガンあおってハードルを上げていたが、それ以上に「※お客さまの出演許可を頂いた上で店員さんにインタビューをしました」という文字が気になった。
面白そうなお客さんの情報を集め、本人の出演許可をもらい、店員にどんな人なのかを尋ねる。「この順番でなければ、店も客もプライバシーの問題があり、制作姿勢が批判されてしまう」ということなのだろう。続いて店の営業風景が映し出されたが、ここにも「※店舗の許可を得て撮影しています」の文字が表示され、ボカシの入った一般客だらけ。なかなかの気苦労がうかがえる。
■地道かつ丁寧に作り込まれた台本
その後、女性だらけの店内にタンクトップ姿の筋肉男子たちが現れ、ミルクレープを何度もおかわりしながら、合計100品を完食。ここでスタッフが彼らを突撃すると、第一線で活躍するボディビルダーでトレーナーとしても人気の榛木勘介さん(27歳)と仲間たちであることが明らかになった。どうやら糖質制限した上で過酷なトレーニングを続けていると、スイーツを食べたとき、血液と筋肉に水分と糖分が吸収されてパンパンに膨れ上がるらしい。
3番目のピックアップは、100分1,199円~の食べ放題で人気急上昇中のしゃぶ葉。番組は「国立富士見台店に100人前をペロリと食べてしまうとんでもない家族がいる」というウワサを聞きつけて、パパ(41歳)、ママ(42歳)、長女(18歳)、長男(15歳)、次女(10歳)、三女(8歳)の食事風景に密着した。結局、6人家族で肉102皿などを食べたのだが、「ふだんの食費は外食を含めて月4万円」という安さの秘けつを知るために自宅を訪れ、“超時短・特大唐揚げ”のレシピを紹介した。
4番目にピックアップされたのは、スーパー銭湯にどハマりしている芸能人。「MC、ドラマ、歌手、作曲をこなす“天才マルチタレント”で、「多いときはSPA&HOTEL舞浜ユーラシアに週8回行き、風呂場で帽子をかぶり、お湯に浸からず、口が半開きになる」という。
ほどなくヒャダイン(39歳)であることが明かされ、存分にサウナを楽しんだあとに握り寿司を食べて、音楽スタジオで2時間ほど曲を作り、2度目のサウナに向かう様子が映し出された。さらに番組は、スタッフがサウナで「ととのう」という感覚を体験するロケを行い、「温度刺激が快楽ホルモンを分泌して陶酔状態を作り出し、全身の血流がよくなって脳の活性化や疲労回復などの効果がある」という東京都市大教授のコメントを紹介。要所で専門家の声をきっちり入れるなど、地道かつ丁寧に台本が作り込まれている点は好感度が高い。
番組は、最後にスカイスパYOKOHAMAに集う通称“フロリーマン”を紹介。その正体は、コクヨ株式会社のサウナ部で、その他にも日本航空など約50社がサウナ部を設立し、企業の垣根を越えて集っている様子を映して終了した。
当番組は“お客さま”を前面に押し出しているが、事実上の主役は店であり商品。あくまで店と商品を視聴者に見てもらうための番組であって、“お客さま”はナビゲーターに過ぎないし、ナレーションを入れてもらう前提のリポートしないリポーターと言ってもいいのかもしれない。
■『有吉ゼミ』より遅さを感じる放送時間
この日は、全851店舗の業務スーパーや全268店舗のしゃぶ葉などをピックアップしていたが、チェーン店は多い上に最高級の宣伝になることもあり、ネタには困らないはずだ。しかし、「100人前を食べる家族」のようなトピックスを重視しすぎると、近い将来「これくらいはいいのでは」というやらせの誘惑に悩まされるだろう。
ネタ選びに関しては、『有吉ゼミ』の好調を支える大食いや激辛も採り入れるなど、視聴者トレンドをつかむ感度のよさもあり、加えて「大食い客の来店であわてる厨房の様子を撮る」というオリジナリティも見られた。
また、同じチェーン店にフィーチャーした『ジョブチューン』が「その道のトップがジャッジする」という上から目線の構成であるのに対して、当番組はどこまでも視聴者目線。しかもホワイトカラーよりもブルーカラーにメインターゲットにしているようないい意味での泥くささがある。
それだけに気がかりなのは、金曜夜21時という放送時間。今回のように2時間スペシャルで20時から放送されることもあるが、それでも『有吉ゼミ』『ジョブチューン』の19時に比べると「遅い」と感じてしまう。主婦、子ども、仕事帰りのブルーカラーにリアルタイムで見てもらいたいのなら、放送時間は一考の余地がありそうだ。
サンドウィッチマンと川島明は、VTRを見ながらしゃべりっ放しだが、ほとんどボケず「これいいね」「〇〇じゃない?」「へえ~知らなかった」「そんなにおいしいんか」などと視聴者目線でしゃべっているだけ。もちろんあえてのことだろうが、番組が継続するほど“お客さま”イジリの塩梅をつかんで、今以上に笑わせてくれるのではないか。
■次の“贔屓”は…満を持して1年ぶりの放送! 『有吉ダマせたら10万円』
今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、22日に放送されるフジテレビ系バラエティ特番『有吉ダマせたら10万円』(21:00~23:10)。
「芸能界一うたぐり深い男・有吉弘行を見事ダマせるか?」という一点突破型の企画だが、視聴者も予想して楽しめるほか、1対1の心理戦、有吉の毒など、何気にエンタメ性は高い。番組発信の放送内容詳細には、「満を持して1年ぶりの放送」という自信満々のコメントもあっただけに期待していいだろう。
今回、有吉に挑むのは、近藤真彦、EXIT、指原莉乃、純烈など、キャラクターの異なるクセ者ばかり。「年1回放送からの昇格はあるのか?」なども含め、その可能性を探っていきたい。