テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第101回は、14日に放送されたテレビ朝日系バラエティ特番『松岡修造の「聞いてください!先生も悩んでます」』をピックアップする。
同番組のコンセプトは、「ふだん立場上、弱い顔を見せることのできない先生の悩みを徹底調査し、再現ドラマで紹介。悩みの問題点を掘り下げることで先生たちを全力で応援していく」というもの。今年だけでも、体罰、給食、部活動、スマホ、SNS、教師間いじめが取りざたされるなど、「学校の先生」は社会的関心の高いテーマと言っていいだろう。
先生がテーマの番組も珍しいが、同等以上に惹かれるのが松岡修造。「『少しでも先生の悩みを自分事として感じたい』という思いから再現VTRにも出演した」というから、いつも以上の熱血ぶりが見られるのではないか。
■テレ朝得意の毒舌トークバラエティ!?
番組冒頭、松岡が「子どもにどう思われようが本気でダメなものはダメ」、長嶋一茂が「子どもに聞いときゃわかる。無駄な時間だよ。やる必要全くない」、川淵三郎が「部活の時間がバカみたいに長すぎる。その話を聞いたとき、ぶん殴ってやりたくなった」と、ぶった斬るような強い口調のコメントが続いた。
その瞬間、「この番組はテレ朝の得意な中高年タレントの毒舌トークバラエティなのかな」と感じた人は多かったのではないか。とりわけ大みそか特番も発表された『ザワつく!金曜日』が好調なだけに、「鉄は熱いうちに打て」の感が強い。
次に映し出されたのは、子どもにまつわる実際のニュース映像。記憶に新しい「小6女児誘拐容疑事件」などをピックアップしたあと、「2018年にSNSで事件に巻き込まれた子どもは1811人」「2018年に小・中学生が被害者になった事件は825件」(警視庁生活安全局少年課のデータ)などを紹介して視聴者の危機感をあおった。
その上で、「日々繰り返される問題の解決にあたっている」として学校の先生をフィーチャー。松岡が登場し、「僕は先生が好きです。尊敬しています。そして僕自身を作り上げたのも先生だと思っている。でも、その先生が悩んでいます。今日はみなさんと先生を応援していきたいです!」と熱く語り、本編へ突入した。
番組は、先生たちの悩みを「スマホ」「運動会」「部活の顧問」「給食」の4つに分類。先生たちへのインタビュー映像と再現ドラマで、それぞれの悩みをリアリティたっぷりに紹介していった。
「スマホ」は、1.スマホ中毒で学校生活に支障 2.盗聴&盗撮 3.保護者との連絡先交換 4.親同士のSNSグループ 5.スマホいじめ
「運動会」は、1.我が子の出番確認への対応 2.ルール無視の写真撮影 3.徒競走にビデオ判定を導入 4.我が子の出番が終わったら帰る親 5.写真の枚数をめぐるクレーム
「部活の顧問」は、1.経験が無い部活の顧問につかされる 2.授業でもバカにされる 3.レギュラー決め 4.選ばれなかった親からのクレーム 5.部活の顧問はほぼボランティア
「給食」は、1.アレルギー対応 2.食事のマナー指導 3.完食指導 4.給食費未納問題
「授業中に隠れてゲームをしていた生徒のスマホを没収しても、録音機能を使って職員室の会話を盗聴されてしまう」「年間約26億円と言われる未納給食費は校長が立て替えている」などの驚かされるエピソードも多かった。
■日めくりカレンダーばりの名言も
全編を学校関係者の取材をもとに構成したほか、多くの先生を実名で登場させた制作姿勢は称賛されるべきだし、問題を討論するだけでなく、海外の例を出すなどの解決案も見られた。
しかし、それだけなら日中に放送しているワイドショーと変わらないだけに、バラエティらしい味つけもたっぷり。再現ドラマにバービー、平野ノラ、阿佐ヶ谷姉妹、くわばたりえ、トレンディエンジェル、カミナリが出演したほか、スタジオでは劇団ひとりが「松岡さんの気合の入りっぷりがすごい。自ら前説していましたから」とコメントするなど笑わせていた。松岡の熱さと芸人の笑いをかけ合わせた企画だったのは間違いないだろう。
その意味で気になったのは、松岡に負けない熱さを持った長嶋一茂と川淵三郎が何度か見せ場を作っていた反面、滝川クリステル、菊池桃子、東尾理子、山口もえ、カジサックは、ほとんど存在感を発揮できなかったこと。キャラの濃い松岡をメインに据えるのなら、「特番だから」と多くのタレントをキャスティングしないほうがいいのかもしれない。
各コーナーの最後は、松岡がミニ黒板に“提案”を書き込んでいた。「スマホ」は「心にモラルを“携帯”していこう」、「運動会」は「マナーこそ全員1位を取ろう」、「部活の顧問」は「先生も生徒も“ポジティ部”にしていこう」、「給食」は「究極の食=究食で人を良くしていこう」。
明らかにバカ売れした日めくりカレンダーがベースの演出なのだが、これがなければ松岡の冠番組とは言えないのかもしれない。構成作家にしたら、「形だけ作って、あとは個性で勝負してもらおう」というラジオのような仕事ではないか。
■バラエティが犯しがちなアンフェアさ
最後に番組のムードが一変。スタジオの先生たちに「なぜこの仕事を続けられるのか?」と尋ね、「小さな成長や笑顔が喜びに」「卒業式の1日で報われる」「自分の思いが生徒に通じて成長したとき、生徒の愛情を感じられたときがうれしい」などとやりがいを語った。
さらに、それらを受けた川淵が「(番組内の)ネガティブな話は『先生を勇気づけよう』と思って、『今これだけ苦労しているんだよ』という意味で出したんだけど、先生には子どもたちとの教育の場を通じて得られるものが数倍、数十倍、何百倍もある…というのが今日の結論でよろしいでしょうか」と年長者らしい、まとめのコメントを披露。
ラストは松岡修造が「先生は教育を支えています。先生の頑張りは人を幸せに、喜びに変えてくれる。こんな素晴らしい仕事ってないと思う。先生が生き生きすれば子どもが変わる。先生が笑顔になれば子どもたちも笑顔になる。先生はみんなにとっての金メダル」という言葉で締めくくった。
放送中、何度かスタジオが重々しいムードになりかけたが、ダークサイドに振り切らせないのが松岡の持ち味。社会問題を討論する番組と言えば、真っ先に『バイキング』(フジテレビ系)が思い浮かぶが、「もしこの番組が坂上忍の冠番組だったらダークサイドすぎるかも…松岡修造でよかった」と感じてしまった。「スポーツに限らず、松岡に何を応援させるか?」「何をダークサイドから救い上げてもらうか?」はテレビマンにとっての課題とも言える。
ただ、全体を振り返ってみると、2時間番組の中でポジティブなパートは最後の4分弱だけ。まるで前々回書いたばかりの『プロ野球珍プレー好プレー大賞』と同じ図式(好プレーは3時間番組の最後4分弱だけ)であり、「さんざんイジっておいて最後にちょっとだけホメる」というバラエティの作り手が犯しがちなアンフェアさを感じさせた。
朝昼晩を問わず、さまざまなニュースをランダムに扱う横断的な番組ばかりの中、テーマを絞り込んだ当番組は新鮮さを感じさせる。今回は学校の先生にフィーチャーしたが、今後は医師、政治家、小説家、その他各界の専門家など、「先生」と言われる別の職業にフィーチャーしてもいいだろう。
珍しいコンセプトに加えて、「なぜ今?」と感じさせる唐突な放送でもあり、番組平均視聴率は5.7%(ビデオリサーチ調べ・関東地区)と厳しい結果に終わったが、引き続き試行錯誤していく価値はありそうだ。
■次の“贔屓”は…令和初の漫才チャンピオンは誰か?! 『M-1グランプリ2019』
今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、22日に放送されるABCテレビ・テレビ朝日系バラエティ特番『M-1グランプリ2019』(18:34~22:10)。
2001年の第1回から数えて今年が15回目の放送。史上最多5,040組がエントリーした中、「9組中7組が初の決勝進出」という令和時代の幕開けにふさわしいフレッシュな顔ぶれがそろった。
当コラムでは、今年3月に『R-1ぐらんぷり』(カンテレ・フジ系)、9月に『キングオブコント』(TBS系)を書いてきただけに、今年のお笑い賞レースを総括する意味でも深掘りしていきたい。